最初の印象は、「ぼんやりしているな」だった。
 平凡、凡庸、朴訥、ありふれて一般的な、凡そ英雄などと呼ばれるにはふさわしくない様相に見えた。
 近づいたのは利用する為。もののついでに、どれくらい統合が進んでいるのか確認する為。言い訳にも近いな、と自嘲気味にもなる。
 目の前のありふれた存在を見ながら唇の端をくっとあげた。
「…楽しそうですね…」
 両手いっぱいのおつかいを抱えて、その小さな体が行ったり来たりを繰り返している。
「振り回されてる様は愉快だぞ、英雄様」
 皮肉のように吐き出せば、非難のため息がその唇から漏れる。
 別たれて転生を繰り返したその身は古代人を遥か高みに見上げる小さきララフェル族の姿。似ても似つかぬ姿なのに、その瞳はあの頃と同じままきらきらと輝いてそれがやけにこちらに刺さる。
「何でもかんでも安請け合いしすぎなんだ」
 馬鹿者め、吐き捨てるように呟けば、でも困っていたし…と至極聖人めいた回答が返ってくる。
 あぁ、厭だ厭だ。そんなところはあの頃のままなのか。面影から目を背けるほど追いかけてくる。
「もうちょっとで終わるから待っててください」
 こちらにそう告げてばたばたと慌ただしく去っていくその背を見つめる。待ってて、と言われて素直に待てばどうせまた厄介を背負いこんでごめんもうちょっとなどとのたまうのだ。
 全く面倒臭い、そうため息をつきながら瞳を閉じた。

++

 太陽はてっぺんを通り過ぎて夕暮れに近い。お礼に持って行ってと渡された食材を抱えて歩く。
 どうせきっと、律儀なあの男はさっきと変わらぬ場所で瞳を閉じて待っている。
「…おまたせしました」
「待たせすぎだ」
 緩慢な、と言う言葉がこれほど合う人がいるだろうか、というほどゆったりした動きでエメトセルクは瞳を開いた。
「おまえはいつもー…」
 こちらを見て文句を言いかけたその手が止まる。注がれる視線は私の手元、抱えた荷物。
「?」
 首をひねる私の手元に無遠慮に手を差し込み何かを取り出す。
「…なんだ、これは」
 その手で黄色と茶色の縞模様の謎の物体を摘まみ上げる。キィ!と鳴きながらその物体が動く。
「あれ、水蛇様。出てきちゃってたの」
 抱えた荷物の上に放り出すように水蛇を置いたエメトセルクがそれと向き合う。
「ロンカの…守り神? らしい? ですよ??」
「なんだその疑問符まみれの返答は」
 問われて苦笑するしかない。私にもわからないのだから。こちらのことを気にせず、水蛇はキィキィと機嫌良さそうに鳴きながら跳ねる。
「食材ではないのか」
「ひぇっ!?」
 食材の上で水蛇も非難の声を上げる。
「冗談だ」
 体を起こしながらエメトセルクはもうこちらには興味ない様子で遠くを見ている。
「…帰りましょうか」
 私はその横顔を見上げる。こちらには視線を向けないまま、あぁと小さく彼は呟いた。

++

 行くあてもなかったが、ついてゆくつもりでもなかった。
 荷物を器用にカバンにしまい込んで差し出された手を思わず取ってしまったのが間違いだった。その小さな指に人差し指を握られ離せない。そのまま普段よりも幾分か腰を落として街まで歩く羽目になったのだ。体格差だけで見れば親子ほども違う敵対する2人が手を繋いで歩いてる姿は滑稽としか言いようがない。
 そのまま街に入ろうとするので流石にそれは止めねばならぬと声をかける。
「おい」
 不思議そうな顔でこちらを見上げてくるその間抜けな表情を見てため息をつく。なんだ、そのしまりのない顔は。
「どこまで連れて行くつもりだ」
 問われた小さな体がこちらに向き直る。
「晩御飯、シチューじゃ嫌でした?」
 絶妙に的を外した返答に、あからさまに顔をしかめてみせるが、どうしよう…グラタンにするかなぁ…とまだ答えの方向性を見失っている。
「そうじゃない…だいたいいつまで手を握っているんだ」
 振り払わなかったことは棚に上げてその顔の前に繋がれたままの手を見せれば、一瞬固まってその顔が真っ赤になる。その様子に今度はこちらの目が点になる。
「……へぁ?」
「間抜けなのは声もだったか…」
 未だ離されないその手を振り払おうかと持ち上げれば、その指に力が加わる。強く握り返されて中途半端な高さで手が止まる。
「……なんだ」
 こちらの声で我に返ったのか、ぱっと指が離される。
「…なんでもない、です」
 自分の手を見つめたまま小さく呟いた声が宵闇に染まりかける空に溶けていく。不安定で不器用。伝える言葉を探さねばならない不便さに振り回されている。
「アシエンに食事は不要だ。せいぜい私の分まで食べて肥えておけ」
 背中を向けて歩き出す。追いすがるように何かを叫ぼうとする気配を感じて次元の闇を開く。飲み込まれる感覚に耳をすます。おまえの声を聞かないように。

++

「…作りすぎた」
 鍋いっぱいに作ってしまったシチューを前に私はまたやってしまったと天を仰いだ。調理器具に気を使わないでいい料理は、冒険中と違って好きにやれる分ついつい作りすぎてしまう。味だけはよくできているのがさらに情けなくなる。
 とりあえず一杯、木の椀によそいことりと机に置く。さて残りは一晩寝かせてそのあとどうしようかと考えたところで背後に気配を感じる。
「……なんで、いるので」
 またアルバートか、そう思って振り向いた私の目線の先に椅子に腰掛けたエメトセルクがいた。
「また、やらかしてる気配を感じたのでな」
 ぶっきらぼうに答えるその声に、なんともいえない表情しかできない。たしかにまぁ、今まさにやらかしたシチューと向き合っているわけだが。
「…食べますか?」
 色々と問うても多分望んだ答えは得られない。おそらくいつもの気まぐれだろうと私はため息とともに新たにシチューをよそいながら問いかける。
「いただこうか」
 いささか上機嫌な声に、先ほどよりは機嫌がいいとホッとする。気を抜いているわけではないが、時折目の前の相手がアシエンであり未だ敵対関係にあるのだという事実を忘れてしまう。
 たっぷりのシチューに、かごに盛ったバゲットを添えて差し出す。木の匙を手渡しその正面に腰掛ける。
「いただきます」
 手を合わせてから椀を手に取る。倣う用に同じ動作をしたエメトセルクはこちらが先に食べるのを待っている。そちらを見ないように匙にひとすくい、まだ湯気の上がるシチューを掬い取り口へ運ぶ。ミルクの香りがふんわりと喉の奥に広がり、遅れて具材の香りがやってくる。ほろほろになった具材が舌の上で柔らかくほどけていく。
 一口、口に入れ込むのをじっと見てからエメトセルクもシチューに口をつける。おそらく、元皇帝陛下故の癖。毒など効きもしないだろうに警戒を緩めないのはそうする必要が今まであったから。わかるまでは難儀したが、わかってしまえば問題はない。自分で食べる食事に自分で毒を盛る馬鹿もいない。
 かごからバゲットを取り出して半分にむしる。さらに半分にしてそれを一口大にちぎり口に放り込む。小麦の香りがふわりと鼻腔をくすぐり、噛み締めた外皮がぱりりと音を立てる。
 話す話題があるわけでもない。黙々と食事を進めるだけだ。途中自身で一度、エメトセルクのために二度、席を立ちシチューをよそい直す以外には言葉もなくただ食事をする。
 私はこの時間が割と好きである。文句を言われない、ましてお代わりもされているということは口にあったということ。取り立てて喋ることがないというのは裏を返せば急を要する話もないということ。元々あまり喋るのは得意じゃないのだ。歓談しながらの食事も嫌いではないが、無言のまま味を楽しむ時間もたまには欲しくなる。特に、この場所では何かにつけて話を振られ続けることが多いから…。
「ごちそうさまでした」
 両手を合わせて感謝の言葉を述べる。食事の始まりと終わりをきちんと区切るのも大事なことだ。同じ動きをしたエメトセルクから空になった椀を受け取る。
 それを片付ける間に、窓横へ移動したエメトセルクは備え付けのスツールに腰掛け優雅に長い脚を組んで座っている。両の指を組んでゆるりと足の上に落とし目線は星の瞬く空に向けられている。
 配膳ワゴンに食後のアップルジュースを乗せてからからと押し運ぶ。座るエメトセルクの横でワゴンを止め、備え付けの折り畳みステップを開きその上に登るとグラスにジュースを注ぎエメトセルクに差し出す。それを視線をちらりとこちらに向けて受け取った彼はやはり口はつけずにそのまま手元に持ち続けた。自分の分のジュースをグラスに注いで彼の正面のスツールに座り口をつける。私の手元をじっと見てから同じように口をつける彼に、難儀だなと心の中でぼやく。本来ならする必要がないのは知っている。食事も、毒に対する警戒も、彼にとっては不要のものである。それでも彼は人の中にいるためだけにそれを行う。人を嫌いながらそれを続けるというのは、どれだけつらい行為なのだろうか。
「…何を考えている」
 こちらの考えを見透かすようにどこか冷めた声が投げかけられる。金の瞳が夜の星の瞬きにも似た静かな輝きでこちらを見ている。
「しいて言うなら、何も?」
「白々しい嘘をつくんじゃない」
 腕を伸ばして空になったグラスをワゴンの上に置いたエメトセルクは、眉間に皺を寄せながらこめかみを軽く指で押さえている。感傷も慰めも、こちらが口に出せばさらに顔をゆがませることになるのを分かっている私はそのまま押し黙る。察したのかただこちらを見つめるだけで何も言わなくなったエメトセルクとの間に居心地の悪い空気が流れる。無遠慮に見られ続けるのは、慣れているが落ち着くものではない。ジュースを喉奥に流し込んでスツールから立ち上がる。ワゴンの上にグラスを置いてワゴンを部屋の隅に押し込める。
 振り返ればまだ同じ体勢でこちらを見続けるエメトセルクがいた。視線を合わせないようにベッド横の机に向かう。紀行録を隅に寄せて自分の手帳を開く。今日の出来事を書きつけながら、まだ背中にじんわり刺さる視線を感じる。
 エメトセルクは私を見ていない。言葉を交わし、視線を交わらせても、その瞳は私の向こうを見ている。私ではない誰かを私に重ねている。
 ガリ、と少し乾いた音が手元からする。慌ててペン先を手帳から浮かせる。考え事をしながら書き物をするとインクを切らすことが多いのは昔からの癖だった。ペース配分が悪いのだ。意識を手帳に戻して書きつけを終わらせてしまう。
 ぱたりと手帳を閉じて大きく伸びをする。今日すべきことはこれでおしまい。あとは眠りにつくまでの自由時間である。紀行録を元の場所に戻して席を立つ。いつの間に移動したのか、ベッドの縁に腰掛けてエメトセルクがこちらを見ている。そう、まだこちらを見ているのである。
「…まだ、なにか、ありますか?」
 端的に言ってしまえば、居心地が悪い。沈黙に耐えかねて口を開くけど答えは帰ってこない。代わりにぽんぽんと横に座れとベッドの縁を示される。ため息をひとつ付いて、エメトセルクから少し離れてベッドの縁に腰掛ける。見ないように意識すればするほど、見られている事実が突き刺さる。…この場合私は見られていない事実も一緒に突き刺さるのだが。どちらも感じて、意識的に視線を避ける。
「ひゃっ!!」
 意識の外から頬を撫でられて変な声が上がる。心臓がばくばくと驚愕で飛び跳ねる。思わずそちらを見ればにやりと意地悪そうに弧を描く金の瞳に出会う。早鐘を打つ胸を両手で抑えながらじりじりと迫ってくるエメトセルクから逃げるように体を動かす。再度伸びてきた腕から逃れようと背を反らして、しまったと思った時にはベッドの上に背中が落ちていた。覗き込むエメトセルクの影が私の体を包み込む。
 見定められている。私を見ないままエメトセルクは私を見定めようとしている。私の中に面影を探そうとしている。私はため息をひとつ吐いて私を見ない視線から逃げるように目を閉じた。

++

 無防備に体を投げ出したまま目を閉じられて流石に混乱する。一応男の前だというのをわかっているのか、こいつは。…いやきっとそんなことすら考えていないな。
 その小さな体を今一度観察する。短い指は胸元をきゅうと握ったまま動かない。よほど驚いたのかまだ呼吸が荒れている。丸みを帯びたシルエットはララフェルらしさしか感じない。面影などこれっぽっちも感じない姿に魂の色だけが重なってぶれる。
 だが、それだけだ。たとえ内包すると魂が同じだとしても、分かたれたままである以上我々と同格ではないし、あの頃のおまえでもない。7度の統合の果てに、まだ完全には足りない。それでも時折垣間見える不可解な行動は、私がそばにいることで揺り動かされた魂の動き。このままそばに居続ければもしかしたら、という思いがないわけではない。だがたとえ今思い出したとしても、不完全なのだ。ならばいっそ今世の英雄に向き直るべきだと決意すればするほど、面影がちらついて決意を鈍らせる。どちらに対しても失礼な行いだな、と苦笑いが出る。
「なんだ、誘ってるのか」
 振り払うようにそう口に出す。真っ赤になって騒ぎ出すか、そう考えたこちらの思惑とは全く違う反応が返ってくる。
「…誘っても乗ってこないでしょう?」
 瞳は開かないままそう呟かれて視線を止める。紡ぎ出した小さな唇は真一文字に結ばれ次の言葉を紡ぐ気配はない。呼吸が落ち着いたのか胸をきゅうを抑えていた指は解かれ眠りにつく前のように行儀よく胸の上で組まれている。小さく上下する胸は生きてそこにいることを示していた。
「…はっ……そうして欲しいなら存分にかわいがってやろうか?」
 あぁ、売り言葉に買い言葉だ。重ねたところで議論は深まらず、お互いに平行線をたどるだけだ。しかも相手が悪い。この英雄様はこういう時必ず意固地になる。
「……どうぞ?」
 ほらきた。あからさまなまでの挑発。本当におまえはそういうところばっかり変わらない。そういえばこちらは手を引くとでも思っているのだろうか。
 その頬に触れる。ぴくりと一瞬小さな体が反応する。それでもまだ瞳は開かない。頬の輪郭をなぞる。唇に触れる。柔らかい唇を何度か指の先で押す。手袋越しにやんわりとした熱が伝わってくる。平静を保ってるように見せかけてお互いに余裕はない。
 その唇に自身の唇を重ねる。焚きつけてきたのはおまえの方だと心の中で悪態だけついておく。絶対に言ってやるものか。二度、軽く口づけて、三度目でその唇を覆いきる。びくりと大きく自分の下で体が揺れる。どうせ本当に襲われるとは思ってなかったんだろ、大馬鹿者め。
 結ばれた唇を舌でこじ開け歯列をなぞる。びくりと跳ねれども開かないその門を開けるために頬に添えていた指で首筋をなぞる。力が抜けかけたところで舌を入れ込み大きく口を開くようにこじ開ける。奥歯をゆっくりと舌でなぞれば動きに合わせて震える体を自身の下から感じる。それでも開かない瞳は、閉じているというより瞑っているという方が相応しいほどきゅっと力が入っている。その態度にブレーキをかけることを忘れていく。もう戻れんぞ、これ以上は。
 お互いの舌を絡めながら、首筋をなぞっていた手を胸元へ下ろしていく。組んでいた指をなぞってからその胸の突起に触れようと指を進める。気配を察知したのかその指が縋りついてくるがそれよりも早く突起を指の先で探し当てる。布の上からやんわりと押せば止めようとした指が跳ねこちらの腕に縋りつくようになる。本当に、こんな時ばっかり面影が重なるのは勘弁してほしい。こんな記憶はお互いになかっただろうが。
 絡めた舌を存分に吸い上げてからゆっくりと唇を離す。ぬらりと2人を繋いだ唾液が灯りで煌めく。呼吸を求めて開いた唇から覗く赤い舌が煽情的にこちらを煽ってくる。その体を追い込むように胸の突起を指で押しつぶす。乱暴に潰してから優しく撫で上げれば、喉の奥からくぐもった音が聞こえる。必死に喉の奥へ喘ぎ声を押しやる姿に加虐心が頭をもたげる。どこまでも落としつくしてしまえば、違うと断言できるようになるのではないかともう一人の自分が囁きかける。そんなことはないだろうと知りながら。
 その着物の襟口から指を入れ込む。さわりとなぞりながら奥へと歩みを進め、胸の突起をやんわりと指で撫でる。小さな両の手が声を塞ぐように口を覆ったのを見て片手で軽くまとめ上げ頭上に縫い付ける。いつでも振り払える力でしか留め置かないのは己の狡さだ。
 腰帯を緩めて些か乱暴に着物の肩口を乱れさせる。胸元をはだけさせ普段は隠したままのその肌を外気に触れさせる。赤く熟れた柘榴の実のようにぷくりと艶やかなふたつの突起がぴくりと震える。空気に触れて、その突起の赤がさらに増した気がした。
 その胸に唇を寄せる。突起をあえて避けて白い肌に唇を落とす。薄く紅をさした肌は陶磁器のように滑りそのくせしっとりと吸いついてくる。三度唇を落としてから、その突起に舌を這わす。触れた瞬間からびくりと跳ねる。その様に脳の奥がくらくらする。この態度が誘っていないのだとしたらなんなのだというのだ。舌を這わし、撫で上げ、捏ねる。繰り返せばその閉じた唇からじわりと艶めく息が上がり始める。最後の引き金を引くために唇全体で突起を包み吸い上げる。
「―――っ!!! あ、あっ…うっ…」
 瞳の端に涙を溜めたまま瞳が開かれる。喉が跳ね、声が漏れるのに、シーツに縫い止めた腕からは拒絶の色は見えない。受け入れるというのか、この行為ごと。吸いついて唇でやわやわと食めば跳ねる腰に合わせて膝が持ち上がる。なんだ、この期に及んでさらに誘ってくるのか。
 顔を持ち上げて視線を交わらせる。薄目でどこかこちらを睨んでいるようにもみえるが、それすらも刺激にしかならない。
「…誘ってきたのはそっちだぞ」
 言い訳がましく口に出す。ただの責任転嫁だ、どっちが先だったなど一番不毛な議論ではないか。なにかを言いかけた唇を塞ぐように唇を重ね空いた手で突起を撫でる。塞いだ唇の向こうでくぐもった嬌声が鼓膜を揺らす。甘い揺らぎに身を委ねてしまいたくなる。
 中途半端な体勢だった体をその小さな体の上に動かす。膝と膝の間に太ももを差し込んでみれば、びくりと腰を跳ねさせながらその膝が太ももを撫ぜる。擦りつけるようなさわりとした刺激に胸を撫でる指に熱がこもる。着物の裾ははだけ白い足が黒い服の上でびくりと跳ねる。
 絡めた舌から唾液を交わらせる。くちゅりと淫靡な音をさせれば恥ずかし気にきゅっとその瞳が閉じられる。その行動の一つ一つで男を誘っていると言われても文句を言えないだろ、と心の中で嘯く。つんと尖った突起を指で挟んで捏ねれば擦りついてくる膝が太ももに絡められる。
 頭上で縫いつけていた腕を離してその頬を輪郭に沿って撫でる。びくびくと跳ねる体はそのままに、自由になった腕はそのまま頭上のシーツをきゅっと掴んだ。
 熟れた突起を弄っていた手を下へ下へ降ろしていく。かろうじてという感じで残っていた裾を左右に払いその足を完全に外へ晒す。白い足はふるふると震えその膝頭はほんのりと朱に染まっていた。そのまま膝をくるりと撫で太ももに這わす。ゆっくりと体の中心に向かって動かせば、絡みつく足の力が強くなる。拒絶されたら離れよう、そう思っていた心はもうとうの昔に消え失せている。そちらがそう誘ってくるのなら、こちらとしても答えねばなるまい。
 控えめな…おおよそ色気とは無縁なデザインのショーツの上からゆるりと撫でる。ゆらゆらと決して芯を捉えない動きで煽っていく。くぐもった声が酸素が足りないと告げてくるので、それならばとゆっくりとなぞる指でまだ固くすぼまった花弁をつま弾く。びくびくと二度震えたのを確認してから唇を離し間髪入れずにぐりっと強く花弁を捏ねた。
「―――っ!!!」
 声にならない叫びに白い喉がしなる。閉じていた瞳は開かれぽろぽろと溜めていた涙が零れ落ちた。呼吸を求めた唇の奥で真っ赤な舌がぬらりと揺れる。
 呼吸が整ってしまう前にとショーツを足から引き抜く。着ていたコートを床の上に放るように脱ぎながら手袋もその上に投げ捨てる。シャツの襟口のボタンを外して緩めながら、まだびくりと震え跳ねる小さな体を上から眺める。身長差がある、という表現以上の体格差。まぁずいぶん小さくなったものだと苦笑いをしながらその震える腕を撫でる。動きに合わせて身をよじる様を眺めながらその膝の間に体をねじ込む。両腕を撫で回し下ろさせてから今一度己の指を小さな股の間に滑り込ませる。狭い入り口をゆるりと撫でれば、まだ割り開いてすら居ないそこからぬるりと愛液が漏れ出している。
 指先で割り開き柔らかな入り口の感触をなぞることで感じる。柔らかく、暖かなそこは湿り気を帯びて指先に熱を伝えてくる。撫でるたびに跳ねるその体を下から順繰り眺めて、潤んだ瞳と視線が交わる。組み敷かれ女の色香を振りまく様は記憶の底まで漁っても見たことのない顔だった。こんなことでしか今世の英雄様の本当の顔を暴けないというのもなんとも情けない話ではあるが。
 ふつふつと沸き上がりかける心を落ち着けるように、その額に口づけを落とす。まだ喉の奥で堪えている喘ぎ声を引き出すように指を動かす。わざとちゅぷちゅぷと淫らな水音を立てれば恥ずかしさで耳が赤く染まっていく。
 そっと、その両手が、小さな指がこちらのシャツに触れる。ここまで燃え上がっておいて、今更抵抗をしてくるのだろうか。そう思ったこちらの思惑を通り越して、その手がきゅっとシャツに縋り付く。顔を覗き込めば快感に震え瞳を閉じて、指の動きに合わせて小さな喘ぎ声が上がり始めている。なんだ、ちゃんと感じているじゃないか。わかりきったことを心の中で呟いてしまう程度にはこちらの余裕もない。あぁ、おまえの前ではいつもペースを崩される。
「快いのか」
 短く尋ねれば声だけで感じているかのように震える。シャツを掴む手に力が篭り、乾いた唇を満たすようにぺろりと赤い舌が舐め上げこちらを誘惑する。嘘だろ、おまえ、それは反則だ。
 ちりりと火が熾る音がする。一度着いてしまったらもう戻れない。指先にたっぷりと愛液を掬い取り解れ始めた花弁に塗りつけていく。びくびくと跳ねる腰がもっとと誘い込んでくる。控えめながらもはっきりと快楽に濡れた嬌声が上がる。耳をくすぐるその声にぞくりと腰の奥が熱くなる。
 解れた割れ目からゆっくりとその蜜壺の中へ指を入れ込む。途端に跳ねた体がそのまま硬直する。入り口の浅いところに触れているだけなのにきつく狭い。まさか、嘘だろ。
「…おま、え…その反応で生娘か!?」
 思わず飛び出した言葉に、びくりと縮こまる小さな体を呆然と見つめる。散々男の煽り方はわかってるみたいな態度でその反応は反則を通り越しているだろう?
 出した声の大きさに、さらにきゅうとしまる内壁に意識を揺り戻される。この指を感じていたのは事実だし縋りついてきたのも現実だ。怯え縮こまるその額に口づけを今一度落とす。
「…はじめて、でわるかっ、たです、ね」
 喋るたびに浅くだが埋め込まれた指を意識してしまうのか、途切れ途切れになりながらも憎まれ口を叩くさまは強がりとしか言いようがない。その口から告げられた事実を再確認し笑っている自分を感じた。顔を見やればどこか拗ねた表情でぷいと横を向く。そのくせ、その目だけはこちらを見つめたまま離れない。
「そうか、はじめてか」
 赤く染まる耳に唇を寄せて呟けばぴくりと跳ねる体。埋め込んだ指先を小さく蠢かせばにちゅりと音が響く。そう、感じているのは事実なのだ。
「ならば…何も分からなくなるぐらい、快くしてやろう」
 低く囁いて顔を上げる。期待と困惑と恐怖が少し混ざった表情でこちらを見ている。この顔も知らない顔だ。知らないを知るのは心地が良い。ましておまえのことであればなおのこと。
 くいくいと埋め込んだままの指を動かす。奥へ進もうとする動きではなくその場を解す動きでまず入り口から力を抜かせる。再開された動きに腰が跳ねその喉の奥でくぐもった音がなる。
「声を聞かせろ」
 空いた手で胸の突起を弄る。赤く熟れたその場所を捏ねれば少しずつ吐息に音が混ざり始める。指と指で突起をやんわりと挟み込んでやればびくりと跳ねた喉からはっきりと喘ぎ声が上がる。その声に己の腰の奥に熱がこもるのが判る。
「快い声だ」
 その額に唇を落としながら褒めてやれば、その頬の赤が強くなる。居心地が悪そうに体を捻ろうとする様から、褒められ慣れていないのがよくわかる。なるほど、とひとつ納得して耳を舐める。
 埋め込んだ指先の周囲はとろりと蜜を滴らせる。ゆっくりとその肉をかき分けながら指を埋め込んでいく。まだまだきついその感覚が心地良い。出来る限りゆっくりとその狭い胎内に指を埋め込む。異物感に強張る体をそっと撫でる。
「わかるか、中にあるのが」
 くいっと軽く指を曲げれば背中が反る。こくこくと頷くその髪を優しく梳く。締め付けてくる内壁が暖かい。拒絶してこないその様子に心がざわめいたままだ。
 ゆっくりと埋め込んだ指を前後に揺する。抽送と呼ぶには細かな動きでその胎内を擦り上げる。奥の奥からこんこんと蜜が湧いてくるのがわかる。感じているというその事実にほくそ笑む。
 わざとらしく緩慢にその胎内を揺らしていく。ぴちゃりぴちゃりと音が響く。掻き出された蜜がてらてらとその股を伝い双丘の蕾まで濡らしていく。入り口までゆっくりと指を引き抜き、今度はニ本、同じようにゆっくりと埋め込んでいく。密度を増した指の感覚に締め付けが強くなる。
「ゆっくり息を吐け」
 短い嬌声を上げ続けるその唇を数度啄む。潤んだ瞳が視線を彷徨わせている。声に従おうと必死に呼吸をする様がいじらしい。その呼吸に合わせて指を埋め込んでいく。
 あらかた指が埋まったところで、親指の腹で小さな花弁にそっと触れる。途端にびくりと体が強く跳ねる。きゅうと締まる内壁が心地良い。そのまま力を入れずにやわやわと花弁を撫でる。動きに合わせて内壁が締まり愛液を湧き上がらせていく。くいっと指を曲げ奥を擦ればその喉を嬌声が揺らす。先程よりはっきりと二本の指で内壁を擦る。揺れるような抽送に反応して腰が自然とゆらめいている。はじめてでこれほどとは、有望すぎる。
 わりかしすんなりと二本の指に慣れたその胎内に三本目を埋め込む。うぅ、と唸った気もしたが滴る愛液で滑るように潜り込んだそれに喘ぎ声が上書きされる。締め付けは変わらないが先程より増えた愛液と解れた肉が絡みつくように指を刺激する。にちゃにちゃと淫靡な音を立てて指を動かせば腰が反りもっとと指を飲み込んでいく。本当に、おまえというやつは、反則だ。
 埋め込んだ指を蠢かせながら、手早く自身のズボンを脱ぎさる。腹につきそうなほどそそり勃った己に、肉の欲には勝てない様に普段ならうんざりするところだった。今は違う。目の前の極上な肢体を前にもっとと煽ってくる自分さえ感じる。早くその中に埋め込んで味わい尽くしたい欲を必死に堪える。
 三本の指を咥えこんだその場所見るために、その尻に手を添えて腰を持ち上げる。不自然に持ち上がった腰に合わせてシャツを掴んでいた指は離れ、開かれた瞳が自身のポーズを見て固まる。小さいけれどしなやかなその体は腰を高く持ち上げられ重力に沿うようにその両膝がぱかりと開いている。その体の真ん中に蜜でてらてらと濡れた指を咥えこんでいる。はじめての言葉通りその場所はほんのりとピンクに染まる。指を動かしぐちゅりと音を立てれば視覚と聴覚両方で確認してしまい嬌声が上がる。
「……や、だっ…っあぁ…!」
 三本の指を広げるように蠢かせる。親指の腹で花弁に蜜を塗りつける。そのたびにびくびくと腰が跳ね短い嬌声も跳ねる。腰を支えていた手を尻に沿わせ指先で双丘の間の蕾をゆるゆるとなぞる。溢れた蜜を塗りつけるように蕾へ運びそのひだのひとつひとつに塗りつけていく。
「っや、あっ…そこ、ちが…っ!!」
「そうか、ここも快いのか」
 にちにちと音を立ててひだを擦ればぶるぶると明らかに違う震え方をする。合間にとんとんと蕾を叩けば吸い付くように収縮する。誘っている、そうとしか思えない。
 入れ込んだ三本の指を、くいくいと曲げ伸ばして内側を刺激する。溢れてくる蜜を擦り付けて指をてらりと濡らし蕾に押し当てる。にぷにぷとその感触を味わいながら埋め込んでいく。強い締め付けが奥へ入らせまいとしてくるが、滑りを帯びた指には意味がない。
「ーーーっ!! …やっ、あっ、抜い、て…っ!!」
 潤んだ瞳から堪えきれず涙がぽろぽろと落ちる。そのくせ咥え込んだ指はきゅうきゅうと締め付け離そうとしないし、愛液はこんこんと蜜壷から次々溢れてくる。心が体と乖離している。その様子にほくそ笑む。
「離さないのはおまえなんだが?」
 くいっと指を曲げれば腰が跳ねる。前も後ろもいっぱいにしたまま自分の下で喘ぐその体を見下ろす優越感よ。
「…っあ、ち、がっ…!!」
「違わないな」
 蕾の奥を数度撫でてからじわりじわりと指を抜き取る。抜き去るその瞬間まで離したくないと締め付けられていた。抜き去られた快感で体が震えている。
 腰を下ろして三本の指も引き抜く。そそり勃った己を上下する小さな腹にぴとりと押し当てる。びくりと跳ねたその手を掴んで触れさせる。
「これが入るぞ」
 告げられた言葉に、さっと顔色が変わる。あぁ、また面影が重なる。調子に乗った後叱られる直前に己を振り返ってしまった時と同じ顔じゃないか。
「…む、り…!」
「無理じゃない」
 ぶんぶんと首を横に振る様をばっさりと切り捨てる。こちらだってそろそろ我慢の限界なのだ。理性的でいられる間に埋め込んでしまいたい。
 触れた手がおそるおそる輪郭を撫でて跳ねる。己の先端が当たる場所をとんとんと叩いてここまで来るぞと告げれば、困惑で視線が泳ぐ。泳いだ視線が腹の上を見てしまいきゅっと瞳が閉じる。
「目を開けろ。こちらだけ見ておけ」
 ずるりと体を動かして小さな蜜壺の入り口にあてがう。後ずさろうとするその体を縫い止める。先端で花弁を突けばびくびくと跳ねる。そのまま何度か花弁を刺激すれば新たな蜜が湧いてくる。その蜜を、先端をぐりぐりと押し当てて塗していく。照明に照らされてぬらりと光るそれを今一度入り口にあてがう。
「……入れるぞ」
 なにかを告げようとしたその動きより前に先端で入り口を割り開き押し込む。ずちっと音が鳴って狭い狭い入り口が初めて男を受け入れていく。その割り開く感触を楽しむ。見開いた瞳から溢れる涙は止まらないのに、その視線はどこか快楽に浮かされているようにも見える。
「ーーーっ!! いっ、あっ、むり…抜い、て…」
 弱々しい抵抗の声はそのくせ艶を帯びて嬌声混じりだ。縫い付けた腕を離せば震える指がこちらに縋り付いてくる。雁首まで先端を埋め込んでその締め付けを楽しむ。きゅっきゅっと締めながらも奥へ奥へと飲み込もうとする感覚にくらくらする。
 それならばとその蠢きにあわせてゆっくりと自身を埋め込んでいく。みちりと肉を割り開く感触に征服感で心が満たされる。おまえのはじめてを奪い蹂躙するのは私なのだという事実に高揚する。
「やっ、ふっ……くる、し……」
「息を吐け」
 ともすれば止めがちな息を吐かせるように頬を撫でる。締め付けるその暖かな感覚にこちらだって追い込まれているのだ。まだ優しい態度が取れているのを感謝してほしい。指先に触れた涙を掬い取り口元に運び舐めれば、それを見ていた瞳が恥ずかしげに揺れる。これすらか、こんな動きですらその反応をするのか。
 半分も入っていないが一度挿入を止める。すでにその腹は飲み込んだ逸物の大きさで歪に形を変えている。まだもう少しは入りそうではあるが、全てを収め切るのは無理ではという気持ちが強くなる。
 そんなこちらを知ってか知らずか縋り付いてきた腕が持ち上がる。何かを求めて彷徨う指に握らせようかと体を落としシャツを触れさせる。そのシャツに縋り付いた腕にさらに力がこもる。手繰り寄せようとしているのを感じ、その動きに従う。吐息の交じる距離まで引き寄せられ、その指がシャツから離れこちらの頬を撫でる。ぞくり、腰の奥が一段と重く熱くなる。そのままその小さな舌先がこちらの唇をペロリと舐めて離れていく。なんだそれは。誘っているんだな?
 導かれるようにその小さな唇に唇を重ねる。啄ばんだのちその唇を覆い被さりながら塞ぐ。舌先で舐めあげればぱかりと扉は開かれる。一度離れ、その口内を舐るために重ねる。前歯から奥歯の奥まで舌を這わせる。唾液を落とし込めば喉を鳴らしてそれを腹の中に収めていく。男を知らないくせに、男を喜ばせる所作ばかりするのはなんなんだ。
 舌と舌を絡めて吸い上げれば、腰が跳ね締め付けが強くなる。暖かなその場所に埋め込まれた己がもっと奥へと欲望を伝えてくる。唇を重ねたまま、奥への侵入を再開する。快感で持ち上がった両の膝裏に手を添えてより奥まで入るように腰を浮かせる。ずるりと一歩進むごとに大きく震える体と喉の奥に消えていく嬌声を感じる。絡めた舌を名残惜しそうに離せば断続的に喘ぎ声が放たれる。普段の声色より少し高いその音が耳に心地良い。もっと聞かせろとまた一歩埋め込んでいく。
 熱に浮かされた瞳と視線が交じり合う。ぼんやりとこちらを見ながら、快楽の波が来れば凛とし、またぼんやりとした様子に戻る。その瞳に面影を重ね掛けて頭を振る。こいつはあいつではない。向き合え。
 こつりと狭い入り口に当たる。かなり埋め込んだと思っていた自身は先程よりもそこまで埋め込まれておらず困惑するのはこちらの方だった。狭いその場所の先は未知数だ。様子に気づいてぼんやりとしていた視線に意思が灯る。くいくいとその場所を軽く押せばいやいやと首を振る姿が見える。その様すら男を喜ばせるとも知らずに。
「…っふ、ぁ……」
 ぽろりと涙が落ちる。それを熱に浮かされながらもどこか冷静に見下ろす。
「わかるか」
 なにがとは問いかけずにぐいぐいとそこを押す。びくびくと跳ねる体と絡みつく内壁がこちらにも快楽を届けてくる。
「…ふ、ぅっ……っはい、るの……?」
 今更な疑問に、あぁと短く答える。ふるふると震える体は、だが先程のようにいやいやと首を振ることはなかった。彷徨った両の手が顔の近くのシーツを手繰り寄せきゅっと掴む。その指が震えている。息を整えるように伏せていた瞳がこちらを見ている。まだ瞳は潤んだままで。喉の奥がひりついた気がして生唾を一つ飲み込む。止まらないということを自覚してなのか、熱のこもった瞳が恥ずかし気にゆらゆらと輝きを灯している。
「……こ、わい」
 どこまでもシンプルにそぎ落とされた言葉は普段の口調からは考えられないほどゆったりとしていた。いつも、誰とでも一定の距離を保って、自分のテリトリーだから大丈夫と安心させながらそのくせ近づくことを拒んでいたあの飾り立てた丁寧な口調は、どこにも見受けられない。その頬から瞼にかけてを指でそっと撫でる。少し震える体はそれでも繋がったままの場所を感じるのか快楽にも揺れている。
「こわいか」
 問いかけに首が縦に振られる。怖いだろうな。体の真ん中を穿たれて今まさに最後の砦をも崩されようとしているのだから。だが、このままではお互いに生殺しだし、そもそもこちらは止まる気はもうないのだ。
「こわさごと飲み込め」
 これ以上の押し問答をしてもおそらくどちらも前を向けない。膝を掴み直してぐっと力を入れる。奥に入ってくるという事実と感覚に、シーツを掴む手に力がこもり白くなるのを見る。それを確認して一度腰を浅く引き抜き一気にその狭い入り口を押し開く。
「ひ、―――っ!!!」
 跳ねた体とみちみちとした押し入る感触が最後の砦を破ったのだと伝えてくる。勢いのまま押し込めるところまで押し込んでしまえば、圧に押されて小さな口から息が漏れ出す。強く強く締め付けてくる内壁がこちらに熱を伝えてくる。その熱に浮かされて己自身が一段と大きく怒張するのを感じる。
 ぐいっと奥の奥、その狭く小さな胎内へ己を埋め込む。押される感覚にその双眸から大粒の涙が零れる。痛みで瞳を閉じれないその涙を唇で拭って瞼に落とす。破裂の痛みがいかほどか、それはこちらにはわからない。ただその内側が今一度ゆるりとした快感を感じ取れるようになるまでそのまま埋め込んでおく。小刻みな呼吸に合わせて頬を撫でればびくりと震えながら擦り寄ってくる。痛みの逃し先が欲しいのだろう。そのまま撫で続けてやる。
「……っ……う……」
 ようやく声が出せる程度まで痛みを逃せたのかその喉から乾いた声が漏れる。開きっぱなしだった瞳を瞬けばまたぽろぽろと涙が流れる。ゆっくりと頬を撫でていた腕を首筋へ。首筋から胸の真ん中を通り歪に膨らんだ腹を撫でる。その感覚に驚いたように目線がそちらへ移動する。この小さく狭い場所によく入ったものだと感心するほど歪に膨らんだそこを見て、その頬が赤く染まった。
「……そ、こ」
 シーツをきつく握りしめていた指がゆっくりと離される。震える指がそっと自身の腹を撫でびくりと跳ねる。何度か跳ねながらもゆっくりと撫でるその優しい感触が皮膚の向こうの己も撫で上げる。その感覚が心地良い。
「まだ、こわいか」
 その耳に唇を寄せて低く囁く。びくりと跳ねる体が朱に染まる。穿たれたその場所がきゅうと締まり快楽が少しずつ戻ってきていることを伝えてくる。問われた言葉に、どう答えていいのか言葉を探している。
「す、こし」
 そのたどたどしさに安堵する。今更ないとわかっていながらも、この状態から拒否されたらそれなりにショックは大きい。ほっとついた息が聞こえたのか、潤む瞳が熱を帯びながらこちらを見る。強張っていた体から少しずつ緊張が解かれているのがわかる。
「エメ、ト、セルク」
 はじめて名を呼ばれた気がした。交わる視線が近づく。こつりと額を合わせれば安堵するようにため息が漏れる。第三の目でおまえの中まで見透かせたらいいのにと詮無いことを考えてしまう。小さな両手が私の頬をそっと包みこむ。まだ少し荒い息の向こうから声がする。
「こ、わい?」
 尋ねられた言葉に目を丸くする。いったい何を言っているんだ? 少しだけ顔を上げれば見透かすようなビー玉のように澄んだ瞳がこちらを見ている。この目は知っている。あいつも、おまえも、なにかを見透かそうとする時はいつもこの目をしていた。どこも見ていないようで、奥底まで暴かれそうな瞳を厭というほど見てきた。
 だが、それにしても。問われた言葉の真意を探る。こわい? 私が? いったい何を?
 頬を撫でていた両の手がぱたりとシーツの上に落ちる。私を見ているようで、どこも見ていない…あぁ、この目は私だ。おまえを見つめる私も、こんな風におまえを見ていなかったんだな。
「そうだな、すこし」
 怖くないと言ってしまうのは簡単だ。実際恐怖を感じているわけではない。それでもこの言いようのない不安に言葉をつけるなら「こわい」となるのだろう。返答に満足したのか、体の力が抜けていく。軽く目を瞑り喉の奥で声を漏らせば穿った内壁が蠢く。生唾を一つ飲み込んで一度腰を緩く動かせば、ぴくりと反応したその瞼が揺れる。
「……いい、よ」
 恥ずかしげに呟かれた言葉に、腰の奥が熱くなる。今しがた純潔を奪われたばかりの体がこちらを求めてきている事実に胸が熱くなる。肉体とはなんとも難儀なものだと普段なら苦々しくなるが、今はこの制約すら心地良い。小さな体の両脇に手をついて、ゆっくりと穿ったままの自身を揺する。ぴくりと反応する体を眺めながら少しずつ腰を前後させていく。押し出される愛液に赤が混ざり、それがひどく鮮烈に見えた。まだ少し痛むのか、強張る声を解すようにその胸の突起を指の腹でさする。柔らかく押しつぶせば漏れる吐息に艶が出てくる。何度も瞬く瞳から涙がこぼれる。
「……っう……ふ……っん……」
 ゆさりゆさりと前後に揺らしながら快感に変わるポイントを探っていく。浅くまで引き抜いた時と奥の奥を突いた時に声色が変わるのを耳聡く聞く。揺らしながらストロークを大きくしていく。吐息に少しずつ喘ぎ声が混ざっていく。順応の高さはさすが冒険者というべきか。柔らかい肉の締め付けがゆるゆるとこちらを追い込んでくる。その圧を甘んじて受け止め抽送を少しずつ早くしていく。
「っあ……っぁあぁ……」
 上がり始めた喘ぎ声はもう止められない。ストロークに合わせてあがる嬌声に気をよくしてさらに深くまで押しやる。奥の奥を突いてやればひときわ高い声が上がる。ここが快いのか。もっと聞きたいとさらに奥をこつこつと叩く。
「っあぁぁっ……や、あぁぁっ……」
 締め付けてくるその感触に早く奥に放出したいと脳が悲鳴を上げる。たんたんとリズミカルに腰を打ちつけながら己の快楽も引き出していく。すっかり濡れた繋がった場所から淫靡な水音が上がり続ける。奥の奥を何度も叩いてここに出すぞと体に伝える。小さな両の手が縋るように私のシャツの袖口を掴む。どうあがいても、男を喜ばせるのだな、おまえは。
「あっ、あぁっ……だ、め……なに……?」
 びくりびくりと跳ねる体についていかない心が喘ぎ声の合間に声を上げさせる。快感の行方の分からないままかぶりを振りこちらを見つめてくる。真っ直ぐなその瞳が今は少し、まぶしすぎる。
「快いのか」
 耳元で低く囁くだけで内壁が締まる。きゅうきゅうとこちらの腰のリズムに合わせるように動くそれは、もう誘っているとしか思えない。問われた言葉の意味を辿るその瞼に口づけを落とす。
「言ってみろ」
 わからないのなら今わかるところまで言語化させればいい。快感の狭間でやらせるのは酷なことかもしれないが…実際どこが快いのか私も知りたい。
「わか、らな……っあぁ……な、か…っこすれ……」
「そうだな」
 ぱちゅりぱちゅりと水音が響くたびに耳が震え赤くなる。ここはどうだと浅い場所で小刻みに揺らせばびくびくと跳ねながら目を見開く。
「じわじ、わっ…する…っ」
 拙い表現が、普段とのギャップを生む。言葉にすることでより感じてしまうのか締め付けが強くなる。あまり長くは持ちそうにないのを覚悟して、さらに奥を突いて追い込んでいく。
「ああぁぁっ…お、く……っだめ……」
「そうか、奥が好きか」
 口に出して確認すれば、真っ赤に染まった顔がこちらを困ったように見つめてくる。がつがつと音が聞こえそうなほど強く早い抽送でお互いを追い込んでいく。その唇から紡がれる嬌声が短く強くなる。限界はお互いに近い。
「……っ飲み、こめ!」
 奥の奥をずんと強く突いて己の欲望をその小さな体に叩きつける。膨れ上がったそれに内壁がきゅうと締まり、小さな体が大きく跳ねる。大きく身体を反らせながらびくびくと跳ねる様におまえも達したのだなと嬉しくなる。
 どうあがいても狭いその場所に入りきらなかった欲望が穿ったその場所から溢れ出るのを感じる。大半をこぼしながらも全部出し切って、ゆっくりと刺激を与えすぎないように注意しながらその胎内から己を抜き去る。こぽりと小さな音を立てながら2人の混ざりあった液が垂れる。熱を放出した影響かくらりと目の前が歪む。いつもならこんなに面倒な事はないと悪態のひとつもつきたくなるが、自分の下で荒い息をしている肢体を眺めたらどうでもよくなった。
 倒れ込むように小さな体の横に体を落とす。大きく息を吐いてから体を起こして覗き込みその頬を撫でてやる。汗でぺたりと貼り付いた前髪を避けてその髪に指を入れ込む。落ち着いてきたのか小さな体から徐々に力が抜けていく。甘い言葉を囁くには遠すぎて、胸の内に抱きとめるには近すぎる。この絶妙な距離感に名前はまだ、ない。
「……ね、むい……」
 端的に発せられた声の語尾は聞き取れず、まさかとその顔を見れば既に眠りの国の住人と化している。早すぎる。余韻もへったくれもあったもんじゃない。そこまで考えてそういえば処女だったなと思い至る。こちらの勝手につきあわせて散々胸の内でひとりごちても、はじめてだったという事実は覆らない。もう少し味わっておけばよかったか、などと先程までの余裕のなさを棚に上げて考える。
 そのまま眠らせておくわけにもいかないので、だるさの残る体を起こしのろのろと腕を持ち上げて指をスナップさせる。とりあえず見た目だけ綺麗になっていればいいかと見下ろして確認してから、もう一度体をベッドに横たえる。人の横で眠ることはあまり好きではないが、こちらも疲れているんだと誰に言うでもなく呟いて瞳を閉じた。

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2019.09.18.初出

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