アム・アレーンの大罪喰い討伐に、普段ならなんだかんだと理由をつけて付いてくるエメトセルクが一度も姿を表さなかった。
 視界の届く範囲にいるとつい目で追ってしまう私としては目的に集中できて有り難かったが…それほどまでに彼の地の光がエメトセルクと相性が悪いという証左でもあり、その事実を認識した私は苦虫を噛みしめたような顔をするしかない。
 私の中で膨れ上がる光を、私は認識している。
 無の大地にほど近い場所にいた大罪喰いの光だ。他の地域の大罪喰いよりも強い光だ。それを今、私は抱いてる。
 そう、あの男と相性の悪い、光を。

+++

 それ、なのに。
「お勤めご苦労、きちんと討伐できたようだな」
 今では彼がそばに在るだけで私の肌はぴりぴりと痛むのに、そんなそぶり微塵とも見せない顔が迫ってくる。

 レイクランド、ジョッブ砦のほど近く。採掘場所を探して彷徨っていた私を岩陰に追いやるようにエメトセルクは立ち塞がっていた。
「お説教…?」
「ま・さ・か。労りに来たのだよ」
 じりじりと追い詰められた体はもうどこにも逃げ出せず、いつもこのパターンだと口をへの字に曲げるしかない。
 ぴりぴりと、痺れが全身を駆けていく。低い声と共に与えられるそれを勘違いしないように、きゅっと両手を胸の前で組んだ。
 すぅっと頭上から降りてくる腕が、私に触れる前にばちりと弾かれた。その衝撃にびくりと跳ねる。
「…なるほど」
 小さく呟いたエメトセルクは、その手を何度か開いたり閉じたりして感触を確かめている。
 そちらに気を取られている間に抜け出そうとした体は、反対の手で檻を作られ逃げ出せなくなった。
 触れたら、また、弾かれる。それはきっと、相手を傷つける。
 そう思うとそれ以上動くこともできず。ただ息を止めて固まるしかなかった。
「…こんなものか」
 今一度その手が降りてくる。あの衝撃に備えて目を瞑り体を一層縮こまらせる。
「……?」
 衝撃が来ない。それどころかどこか慣れ親しんでしまった手袋の肌触りが私の頬を撫でている。
 ゆっくりと目を開けると、思っていたよりも近くにエメトセルクの顔が迫っていた。
 黄金の瞳が蜂蜜のようにとろりと歪んでいく様を目を離せずにいると、ふっと鼻で笑われた。
「…息をしろ」
 言われて、首を捻って、ようやく息を止めていた事を思い出す。ひゅっと吸い込んだ肺に少し冷たい空気が潜り込む。まだ頬を撫で続ける手が比例するように暖かかった。
 私が息をするのを確認してその手がゆるりと顎の下へ。くいっと顎を持ち上げられてエメトセルクの顔が降りてくる。
 唇が、触れてしまう。
「ちょっと! 離れなさい!!」
 不意にエメトセルクの背の向こうから聞き馴染みのある鋭い声がする。
 エメトセルクは意に介せず軽く私の唇と唇を触れ合わせる。
「なんだ、小娘」
「離れなさいって、言ってるでしょ!」
 エメトセルクに抱き抱えられた、そう思った次の瞬間には視界がぐるりと回った。
 私とエメトセルクがいた場所に、アリゼーが細剣を構えて立っている。
「おまえ…私がこいつを放って逃げたらどうするつもりだったんだ?」
 串刺しだぞ、串刺し。エメトセルクはおお怖いと戯けて言いながら私を抱え直す。
「おあいにく、その人に危害を加えるほど加減ができないわけじゃないんでね!」
 細剣は的確に私を抱えるエメトセルクだけを指し示している。
「あなたも! 少しは抵抗しなさいよ!」
 きっ、と睨まれてはじめて、あぁと思い至る。距離を取ることは考えていたが、抵抗するという思考がすっぽりと抜け落ちていたからだ。
「なんだ、抵抗するのか?」
 アリゼーに聞こえるか聞こえないか、そのぐらい小さな声でエメトセルクが囁く。その声色が少し寂しそうに聞こえて。
「アリゼーが、怒ってる」
「そうだな」
「そうね!」
 私の言葉に声を合わせて肯定される。案外この2人仲が良くなれる気がするのだが。
「怒って、る、から、降りるね」
 ふむ、と頷いてエメトセルクは私をそっと地面の上に下ろしてくれた。アリゼーは不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
 半歩、エメトセルクが下がる。
「アリゼー、武器を、下ろして」
「嫌よ」
「アリゼー」
 私はアリゼーを見つめたまま首を振る。今、エメトセルクに武器を突きつけるのは得策ではない。
 油断なくエメトセルクを睨んだまま、アリゼーは渋々武器を下ろした。
「エメト、セルク」
「なんだ?」
「あとで、話、ある」
「…英雄様のお望みとあれば」
 戯けたように恭しく礼をして、エメトセルクは踵を返した。ひらりひらりと片手を振って、レイクランドの林の中へ消えていく。

 その姿を見送って向き直れば、アリゼーが上から私を抱きしめてきた。
「ねぇ、大丈夫なの!?」
「うん」
「なんか、あいつもあなたも様子おかしいし…」
「おかしかったかなぁ」
「えぇ…」
 膝をついて目線を合わせて、アリゼーはその綺麗な瞳で私を見つめてきた。
「アリゼーは…うーん、なにを、心配してるんだろ」
「なにを…って、相手はアシエンなのよ?」
「いやうん、それはそうなんだけど」
 アリゼーが首を捻るように、私も首を捻った。
「エメトセルクは、ここまで私たちの邪魔をした?」
 問いかけに、アリゼーがぐっと言葉に詰まる。
 そう、彼は最初に宣言した通り我々の邪魔はしていない。共に戦いこそしてくれないが、疑問には答え、助力を望めば最低限ながらも手を貸してくれている。
 明確に、今まで敵だと認識していた相手からの行為だからと抵抗を示すことが得策ではないことは、聡いこの子にもわかるはずだ。
 それでもままならないのが人の心では在るのだけれど。
「エメトセルクは…私、好きじゃないの」
「知ってる」
「だって、あなたを遠いどこかに連れてってしまいそうなんだもの…」
「??」
 聡いこの子に…私たちの関係を気づかれてはいけない。
「詩的な表現だね」
「茶化さない!」
 きっ、と睨まれて私は肩を竦める。
「仕方ないんだろうけどさ、あいつ、ずっとあなたのこと見てるじゃない」
「まぁ…私が裁定を受けているからね」
 エメトセルクは我々全員を裁定しているわけではない。物言いこそ全員に向けてだが、大罪喰いの光を受け止められるのは私だけだ。故に彼は私を見て私を裁定する。
「…あなたに、背負わせてるわね」
 私の言葉で再認識したのか、アリゼーの声が沈む。
「気にしてないよ」
「気にしてよ」
 立ち上がるように促せば、アリゼーは素直に立ち上がった。
「そういえば、なんでこんなところに?」
「旅立ちの宿に一度戻ろうと思ってアマロに乗ったら、あの背中が見えたのよ」
 その先に私が岩肌を調べてる姿が見えて慌てて飛び降りた、らしい。
「無謀なことするなぁ」
「あなたを守れるなら上等よ」
 あっけらかんとそう言ってのけるアリゼーに私は苦笑するしかない。私なんかのために、投げ出して良い命ではない。
「アリゼー」
「なによ」
「エメトセルクを、そう邪険にしないであげて」
「無理ね」
「無理かー」
 私は腕を組んで首を捻る。
「アリゼー、私はね」
 レイクランド、はじまりの湖を遠くに見ながら私はぼんやりと目を細める。
「もう誰も、私のために傷ついて欲しくないんだ」
 アリゼーが横で身動いだのがわかった。
「勝手なのはわかってる。命はその人のものだ。私如きがどうにかできるものではない」
 静かに私を見下ろす聡い未来の賢人を見やる。
「だからこそ、〝私なんか〟のために傷ついて欲しくないんだ」
 うまく笑えてるだろうか、私は。
「だから、そうだな。せめて、私がいるときは、エメトセルクを見守ってくれると、嬉しい」
 見守るとは心外だ、あの黒い影が厭そうにそう告げる声が聞こえた気がした。
「……しょうがない、わね」
 ふぅ、とアリゼーが大きなため息をついた。その腰に両手を当てて大きく揺れている。
「でも、変なちょっかいかけられてたら、その限りじゃないわよ!」
「大丈夫なんだけどなぁ」
 ぽりぽりと頬をかく私に、今度はアリゼーが苦笑した。
「まぁいいわ、ほかでもないあなたの頼みだもの。出来る限り譲歩してあげる」
「うん、ありがとうアリゼー」
 レイクランドの夜の気配が、2人に夜の訪れを告げていた。

+++

「来てやったぞ」
「うわっ」
 頃合いか、と夜もそこそこふけた頃、その部屋のエーテルが1人分しかない事をしっかり確認してから次元の狭間を開き部屋を訪れてみれば、素っ頓狂な声に出迎えられた。
 床の上に錬金道具を広げて何やらごそごそとしていた。
「びっくり、した」
 その胸に小さな手を当ててほっと息を吐いた。その姿を見やりながら手近にあった椅子に腰掛ける。
「ごめん、もう、少し」
「気にするな、続けろ」
 腕と足を組んでぼんやりとそちらを見ていれば、こくりと頷いて目の前の作業に集中し始めた。
 その小さな手が器用にくるくると動いて素材が作品へと変わっていく。
 手にした花を束ねて飾りをつけている。
 ひとつ、ふたつと作るその横顔を眺める。ガラス玉のように大きな瞳は細められ細い指が慈しむように花を撫でる。
 色とりどりの花の髪飾りを作って、小さく息を吐いたその顔は満ち足りた表情だった。
「花飾りか」
「うん…雨の、花の、飾り」
 雨の花、とはまた不思議な例えをするものだと私はお前を見やった。出来上がったその花飾りを満足げに見つめるその横顔は微笑んでいた。
「…自分用か?」
「ううん、頼まれ、たの」
 ぽつりぽつりと言葉を落とすように語られるその言葉が耳に心地良い。
 ひとつひとつ丁寧に小さな箱に仕舞い込んで、それを机の上に置いた。錬金道具もさっと片すとようやくお前は私に向き直った。
「おま、たせ」
 昼間のことがあったからか一定の距離から近寄ろうとしない。
 元々〝そういう行為〟に及んでないときから近かった距離感は、一度仮面を外させたことによりさらに近くなっている。はずなのに、これは、あまり、嬉しくない。
 椅子から立ち上がり、一歩前へ。合わせるようにお前は一歩後ろへ。表情に怯えはない。ただ一定距離を保とうとしているようだった。
 じりじりと下がるお前を窓際に追いやる。とん、と腰に当たった縁の感触でそれ以上下がれない事を悟ったお前は、その小さな腕を突っぱねるように前に出した。
「また、びりってするから、だめ」
 答えずにもう一歩。
「エメト、セルク、だめ…」
 さらにもう一歩。
 突き出した腕が震えている。瞳が潤んで、困ったように揺れる。
 手を伸ばせば届く距離まで歩を進めて、私はお前と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。お前の目がひたりと私の目を見て、固まる。
 すい、と片腕を上げる。視線がそれを追う。
 高く上げ、フィンガースナップをする形で、止める。視線は、指先を追ったまま完全にこちらから注意が逸れている。
 非常時や戦闘時には後ろ頭に目がついてるんじゃないかというほど周囲を把握するのに、平時にはそんなそぶりが微塵も出ない。むしろ考え事をすると他が見えなくなってしまうのは、〝あいつ〟と同じで。
 もう片方の手を突き出したままの腕に添える。そっと手首を掴んでもこちらに注意が向かない。
 そのままぐいっと強引に胸の内に抱きとめて初めて、状況を把握しようとしている様を眺める。
「え、えっ!?」
 困惑の声色がその唇から上がるのをくつくつと笑いながら受け止める。
 両の手でその小さな体を覆い隠すようにすっぽりと包み込めば、抱きとめられているという事実を悟ったのか腕の中でもがき始める。
「びりって!」
「しているか?」
 どこか見当違いな叫びをさらりと受け流せば、ぴたりとその体が止まる。
「……してない」
 ぽかんとした表情で見上げてくるその顔があまりにもおかしくて、私は笑いながらその唇に口付けを落とした。
 口付けをしたまま抱き上げ窓脇のスツールに腰掛ける。啄むような口付けを何度も落としてその頭を撫でる。
「っん……なん、で?」
 口付けの合間に震える声で疑問を投げかけられる。その頬に口付けを落としてから私はお前の瞳を見やる。
「相反する属性によって衝撃が起こるなら、出力を抑えればいい」
 それだけだろ? そう投げかければなるほど、と納得の声が返ってくる。
「…つらく、ない?」
 尋ねられた言葉に首を傾げる。
「つらく?」
「…抑えて、おくの」
「この程度」
 その唇をペロリと舐める。
「造作も無い」
 今一度口付けを降らす。啄んでから押しつけ、歯列を舌でなぞればすんなりとその門は開く。舌と舌を絡め口腔内を柔らかく舐め上げながら薄目でちらりと様子を伺う。
 きゅっと目を瞑り頬を少し赤くして口付けを受け入れるその姿にほくそ笑む。まだ少しぎこちない様は皆の前でつけていた〝英雄〟の仮面が外れていないだけ。最初の頃のような拒絶もなく腕の中に大人しく収まる様子は、しっかりと私を刻み込んでいる証左で。
 あと少し、あと少しで、お前はきっとこちら側に堕ちる。確信に近い予感に知らず心が躍った。
 口内を味わい尽くし唇を離す。お前の瞳が薄く開いてとろりと歪む。はふりと息をついて上向いたその目蓋にも口付けを落とす。
「エメト、セルク」
 まだ少し上がった息のまま問いかけられてぞくりとする。舌足らずなその喋り方と相まって私の欲を震わせていく。
「どうした」
 その背を、頬を、撫でながら口付けを降らせ次の言葉を待つ。
「教えて、欲しい」
 その小さな手が私の赤に手を伸ばす。するすると手触りを楽しむように動いては確かめるように掴む。
「なんだ」
 一つに纏められた髪に指を入れ込んで撫でてからその髪留めを外す。そのまま解してやれば背に降りた髪がぱさりと音を立てた。
「エメトセルク、が、見てる人、のこと」
「今はお前しか見てないのだが?」
 額に口付けを落とすとふるふると首を横に振られる。
「私の、向こうの、人」
 ぶわりと、肌が総毛立つ感触。ぴりぴりと肌に電撃のような痺れが走る。
「……い、たい…」
 無意識のうちに頬を撫でていた手でその細い腕を掴んでいたようだった。痛い、と訴える声が聞こえるのに力を抜くことができない。瞳と瞳が交わり、その色に怯えが浮かんでいく。
 怯えさせたいわけではないのに、そう混濁する意識の向こうでぼんやりとお前を思う。
「エメト、セルク…?」
 怯えたまま、それでも発せられた声はこちらを思う声色だった。
「…どうして」
 ゆっくりと吐き出した息と共に呟いた声は掠れていた。
「どうして、お前は」
 お前を見ていると、何度も伝えたのに。
「…エメトセルク……いた、ぃ…」
 小さな手が細い腕を掴んでいた私の手に重ねられた。労わるように撫でられてようやく力を抜くことを思い出す。
 私の腕で軽く掴んでねじ切れてしまうほど細い腕。力を抜いた私の手の中でどくどくと生きている音が聞こえる。
「聞いて」
「なにをだ」
 まだ肌を駆け抜けるぴりぴりとした痺れは止まない。光と闇が相反しているのがわかる。コントロールを外れた力が互いの表皮をうねるようになぞり痛みを与えていく。
「私は、背負いたい」
 じっとこちらを見たまま伝えられた言葉を胸の内に落とし込んでいく。
「私は、背負わせないと」
 そうだ、これは私が背負うべきもの。12000年に及ぶ妄執をどうしてその細い肩に背負わせることができようか。ただでさえ、お前はもう背負いすぎているのに。その荷をもう、下ろせないだろうに。
 手を汚すのは私でいい。背負うのも私でいい。
「エメト、セルク」
「くどいぞ」
「大事な、人、でしょ?」
 あぁ、そうだ。何より大事だったんだ。
 空を自由に羽ばたく鳥のような心と、なにもかもを見通そうとする澄んだ瞳と、折れず曲がらずしなやかな心を持った何よりも大切だった人。
「そうだな」
「なら…」
「……場所を変えるぞ」
 扉の向こうから近づいてくる気配に舌打ちを打つ。覗き見とは、趣味の悪い。
 きょとりとしたお前もその気配に気づいたようで。
「大丈夫、じゃ」
「ないな。時間と場所と状況を精査しろ」
 抱き締めながら立ち上がる。窓の縁に足をかけて夜の空に飛び立つ。
 背後でドアの開いた音だけがした。

+++

 エメトセルクの腕に抱かれたまま、夜のラケティカ大森林へ。
 高く太い樹木のひとつ、大きな洞へエメトセルクは降り立つと、ぱちりと指を鳴らして敷物と大量のクッションを喚び出す。もう一度ぱちりと指を鳴らすと、ゆらりと青白い魔法の灯がともり夜の空気が和らいだ。
 真っ赤なビロードのような敷物の上にそっと私を下ろすと、エメトセルクはその前にしゃがみ込んだ。
 洞の入り口は、エメトセルクの背後。逃さない、という鋼の意志を感じる。逃げる気もないのだけど。
 魔法の灯りはゆらゆらと揺れているけれど、エメトセルクの顔を的確なまでに隠していてその表情は窺えない。
「油断も隙もない」
 ここまで無言だったエメトセルクがぼそりと呟いた。先ほどの侵入者に対しての発言なのは聞かずともわかった。
「しかた、ないよ」
「お優しいことで」
 声はどことなく揶揄っているが、気配は夜の獣そのものだった。
「私には覗き見される趣味はないのでな。遮断させてもらったぞ」
「私も、ないよ…」
 ぺたりと座ったままの私に黒い影が手を伸ばしてくる。動揺か故意か、エメトセルクが出力を抑えなかった闇のエーテルが、私の無遠慮な光のエーテルと相反してぱちりぱちりと火花を散らす。
「…痛いよ」
「そうだな」
 うっすらと笑うような声が、私の言葉を拒絶していることがわかる。聞きたくないから黙っていろ、暗にそう言われているのを理解するが黙るのもなんだか落ち着かない。
「そんなに、嫌?」
「なにがだ」
「大事な人、話して、思い出、に、するの」
 問うた言葉にエメトセルクの腕が止まる。表情は見えないが、今は見てはいけない気がするので、いい。

 言葉に出してしまえば、それは思い出として昇華されてしまう。心の内で何度も思想を巡らせるのとは訳が違う。言葉とは言霊だ。今、きちんと喋れていない私でもそれはわかる。
 エメトセルクは、遠い過去からの記憶を持ち続けている。その記憶の誰かと私を重ねている。
 それでも彼が私に対して〝視る〟だけでここまで一言も語ってこなかったのは、やはりそういうことなのだろう。

 エメトセルクは、遠い過去を思い出に昇華していない。

 全て地続きの、ともすれば一昨日そんなこともあった、ぐらいの感覚で遠い過去に想いを馳せている。
 もしかしたら、エメトセルクの言う〝真なる人〟は長命ゆえにそれが普通なのかもしれない。でもそれでも、それはあまりにも。

 エメトセルクの伸ばしていた手のひらがぐっと握られる。あぁ、殴られるかもしれないな、そんなことをぼんやりと思う。プライドに牙を剥いたことは自覚している。
 ぐっと握り込まれた手のひらが開いて、その手の内を私に晒す。
 白い花が一輪、乗っている。
 それを目で追いかけていれば、ぱちりと指を鳴らす音がした。耳の横に花を飾られて、エメトセルクが先ほどよりも近くにいることに気づく。
 近づいたその瞳の色だけが見える。背負う夜空で輝く孤高の月の色だ。
 花を飾った指がすいっと空を泳ぐ。頬を撫で、唇に触れ、首筋から鎖骨へ。
 そこで初めて、先ほどの音で服を着替えさせられていたことに気づく。視線を巡らせれば視界の隅に綺麗に折り畳まれた作業用の着物が置いてあるのが見えた。無駄に、律儀なところがエメトセルクらしい。
 だいぶ落ち着いてはいるようで、肌を刺すような痛みは和らいでいる。鎖骨を撫でる手袋の感触も、すでに慣れてしまった。
「殴る、かと」
 素直にそう吐露すれば
「女に上げる手は持っておらん」
 嘯くように返答が返ってくる。
「いずれ、殺し合う、のに?」
「いずれであって今ではない」
 随分な屁理屈である。
 肩口の大きく開いたブライズメイドドレスは、おそらくエメトセルク好みの宵闇の色。原初世界でもついぞ着ることのなかった軽い生地のそれは、今の私には心許なかった。
「エメトセルク」
「お前も曲げんな」
「時と、場合」
 はぁ、と特大のため息が降ってくる。その手が離れて、エメトセルクは不機嫌そうにどっかりと私の前に座り込んだ。
「英雄様は私の大切な記憶を思い出にしてしまいたいのか」
 切り込まれたプライドの傷口以上に刺々しい声が、タダではすまんぞと告げている。
「そうかも」
「おうおう、強欲なことだな?」
 戯けている声すら刺に塗れている。これは、わざとだ。
「選んでも、いいよ」
「なにをだ」
 エメトセルクの顔が嫌そうに歪んだ、ように見えた。相変わらず、光を背負った表情は窺いにくい。
「話して、私を見る、か、話さず、向こうを、見るか」
 中途半端なままではいられないのだ、あなたも、私も。
「話さずお前を見るのは?」
「できない、でしょ」
 どうしたってエメトセルクは私の中に知らない誰かを追いかける。随分と〝私〟を見るようになったことは理解している。でもそれと同じくらい見た上で重ねて比較されてることは、さすがにわかるのだ。
 伊達に、そうやって重ねられていない。
 重ねるな、とは言えない。エメトセルクの過去の一端を知ってしまった以上、私にはもうそれを下ろすことはできない。だから、私はもう問うしかない。

 〝私〟を生かすか、〝私〟を殺すか、を。

+++

 随分と、ひどい英雄様もいたものだ。
 曖昧な態度のままでいたこちらの落ち度でもあるが。
 思っていた以上に聡明なその思考が私に委ねた選択肢は、お前が思っている以上に残酷で。だからこそ私は、どちらも選び取ると言う選択肢を選ぼうとしていたのだが。
 ガラス玉のような瞳が淀まずこちらを見ている。本当にもう、頑固なところばかり残っているなんて。
「お前を」
 ため息と共に漏れた声が、存外震えていて笑えてくる。
「ただ手の中に、閉じ込めておきたいだけなんだがなぁ」
「…ゼノス、みたい」
 どうしてそこで曽孫が出てくる。
 アシエンの計画に対してはとてもよく育ったできそこないの名前に、顔を顰める。
「他の男の名とは、感心せんな」
「身内」
 確かに曽孫は身内の分類だろうが、今はそういうことを言いたいのではない。
「前にも言ったろう、私は全てを取り戻したいと」
 小さな体がこちらの言葉をきちんと聞こうと姿勢を正す。きちんと向き合えるということは大事だな、と昼間の襲撃を思い出す。
「全てだ、全て」
「…なら、私は」
「早合点するな、私はなにひとつそれについて答えてないぞ」
 どうせいつもの〝わたしはいらない〟と続けるつもりだったんだろうが言わせない。
「お前たちが思う以上に私は強欲だ」
「知ってる」
「いいや、知らないね。私は、お前を手に入れた上で、全てを取り戻すんだ」
 案の定、その首が横に振られる。
「やってもいないのに無理とはいうなよ?」
 無理を通して道理にするのが英雄だろう、と続ければ自身の無理を思い出したのか言葉に詰まる。前提条件が違うという点についてはこの際見なかったことにしておく。
「だから、お前に死なれては困るし…思い出にされるのも、困るんだ」
 問われれば答える。それは私がお前たちと交わした契約。
 さぁ、私は選択したぞ。
「…できると、思って、る?」
「できないことはやらぬ主義だからな」
 そうでなければ、ガレマール帝国を興すなぞするものか。
 小さな手が胸元をきゅっと押さえた。その気配が語られなかった話への未練ではなく、ただ私を慮っているのを感じる。
「背負うな」
「無理」
 端的に伝えられた言葉は英雄の意思で。あちらを曲げぬとすればこちらも曲がらぬのは、この歪な関係を示しているようではないか。
「…エメトセルク」
 胸元を押さえていた手が私へ向けられている。それを細目で見やり次の言葉を待つ。
「話を、したい」
 おそらく今の話し方ではできないと察したのだろう。これはエーテル交感の要望。
 光に傾きすぎているから果たしてと言った気持ちもあるが、望まれたのなら答えねばなるまいか。
「痛むかもしれんぞ」
 相反する属性の交感だ、タダではすまない可能性の方が高い。
「平気」
 強い意志を宿した瞳は真っ直ぐに私を見ている。お互いに、変なところばかり頑固なのは今も昔も変わらない。
 手袋を外して、その小さな手に触れる。抱き寄せてクッションの山の上に2人で倒れ込む。小さな体を腕の中に抱き込んでその小さな手を握り込む。
「目を瞑っておけ」
 その瞳が閉じるのを確認して、お前のエーテルに目を向ける。

 あぁ、光が。お前という光だけで十分世界は明るかったのに、忌々しい光がさらに覆い被さっている。今ではその核となる魂にひびすら入って。
 魂に刻み込んだ私の闇へ向かいエーテルを流し込んでいく。小さな体が跳ねてぱちりと音がする。ぱちぱちと音を立てながら私のエーテルがお前の魂に触れる。覆い被さる光が攻撃性を増していく。宿主すら蝕もうとするその光を闇のエーテルで威嚇をして、その魂を私のエーテルで包み込む。
 ひび割れた魂は同じもので補わない限り壊れゆくだけだ。補われなければ、永遠に失われる。
 あぁ、本当に、お前をただこの手の中に閉じ込めておきたいだけなのに。
「《エメトセルク》」
 徐々に混ざり合う2人のエーテルが暗闇にぼんやりと浮かび上がっていく。どこか歪なその姿に私は目を細める。
「《話せるか》」
 問いかけに頷いたその背後で弱いエーテルが星のように瞬く。
「《私はね、不器用だから》」
 唐突に始まった話はどこか他人事めいた響きを含んでいて。
「《どうしたって、あなたの向こうを共に見ようとしてしまう》」
「《知らぬものを見るとは》」
「《そう、知らないんだ。私は、何も知らない》」
 何者でもない、そう言い続けたのはお前だったか。
「《何も知らないから、何もいらない》」
 話の終着点が見えず私は首を捻った。私よりもうんと小さなその魂が膝を抱えて小さくなったように見えた。
「《与えられるって勘違いしたら、壊れてしまう。居場所なんて欲しくない。誰の記憶に残らないでもいい》」
 明け透けな感情が吐露されていく。
「《手を伸ばされて、拒否されたら、今度こそ壊れてしまうよ》」
「《…今度こそ?》」
 一歩お前に近づく。これはきっとお前のわだかまりだ。

「《いつだって、死は私の隣にいる》」

 距離が近いのに距離を置こうとする理由が、見えてきた。お前は捨てられるのが怖いのか。
「《違うよ、最終的に捨てさせたのは私だ。私が英雄じゃなかったら、散らなくて済んだ命がたくさんある》」
「《それは背負いすぎだ》」
「《そうかもしれない。でも私にはそれを捨てる事はできない。全部…全部、背追い込むしかない》」
 泣いているのかもしれない。
「《あなたがいらなくなったものを、私はすぐに消してしまうよ》」
 拒絶されれば死ぬ、と端的に言われている。お前それはまるで。
「《よくわからない。私は決定的に何かが足りないから、人が抱くそういった心が本当にわからないんだ。判断基準はいつだって、〝こわい〟か〝こわくない〟か。〝いる〟か〝いらない〟かしかないんだ》」
 瞬くエーテルが揺れて星になる。ほんの少し強いお前のエーテルすら離れてしまえばその中の一部になってしまう。
「《わたしはまだ、〝いる〟らしいからここにいるだけ》」
「《いらないと、いつ言った》」
「《あなたは、まだ言ってないね》」
 泣きながら笑っているような響きだった。
「《疎ましく思われるのには…慣れたと思ったけど、エメトセルク、あなたに言われたら…》」
 エーテルがふわりと花開いた。小さな魂を震わせて。

「《私は、私を殺してしまうよ》」

 笑うお前をエーテルごと抱きしめた。

+++

 本当は言うつもりはなかった。こんなの、ただの私の弱みだ。
 抱き寄せられたエーテルは、それでもあの時のように混じり合う事はなくて。
「《閉じ込めて、欲しいのか》」
「《それはちょっと困る、かな》」
 まだやりたいこともやってないこともあるから。あなたの裁定すら終わっていない。
「《私はこわいんだ》」
「《今更何を怖がることがある》」
「《こわいよ……あなたが見る向こう側と私が〝決定的に違う〟ものだったら、あなたは私を拒絶する》」
 ないとは言い切れないのを私は人の輪の中でずっと見てきた。期待に添えないと、人は簡単に人を拒絶する。
「《閉じ込められた上で、そうなったら、私は》」
「《ならない、と言っても納得はしないのだろう》」
 触れ合うだけの互いのエーテルの揺らぎが心地良かった。ここにいたい、ここにいたくない、私はずっとせめぎ合ってる。
「《ここにいろ》」
「《無理だよ》」
「《無理なもんか》」
 きつく、抱きしめられて。エメトセルクのエーテルにすっぽりと覆われて。

「《お前の帰る場所に、してしまえ》」

 告げた言葉に私は目を開いた。
「《帰る、場所》」
「《頑なすぎるんだお前は。ずっとそこにいる、を前提にするな。好きなように羽ばたいて疲れたら戻る枝にしろ》」
「《そんな、でも、それは》」
「《拠り所にしろ、と言った方が伝わるか?》」
 いずれ殺し合うとわかっているのに、拠り所にしろというのか。
「《私を殺すな。死ぬ気もないしお前を殺す気もないぞ》」
 それとも死にたいし殺したいのか、そう問われて首を横に振る。
「《違う道を探したいと、伝えただろ》」
 そういえば言っていた。
 それでも、私は私の中のこの光を無視できない。制御すらできてない強い光がいずれあなたも私も殺してしまう。
「《私を誰だと思っている? その程度どうとでもなる》」
 そう言い切れる強さは、私にはない。傷つけるぐらいなら、いっそ私が死んでしまうほうがいいと今でも思っている。
「《別にそれはそのままでも構わんさ。とかくお前は頑なすぎるんだ》」
 頬を優しく撫でられた。私が知る、あなたの癖。私を確かめるために、あなたが行う癖。
「《疲れた時に休む場所はお前のそばがいい》」
 私でいいのだろうか。こんな、不完全で歪な私で。
「《〝人〟は誰しも不完全で歪だろ。完璧な人など、この世界にいやしない》」
 真なる人なのに?
「《我々だって〝人〟だ。悩むし、悲しむし、慈しむ》」
 頬を撫でていた指が私の顎を掴んで上向かせる。
「《お前は、慈しみたい》」
 唇が触れる。溶けていく。指先から、触れ合う場所から、ふたつだったものがひとつに。
 あなたが、わたしが、星空を見下ろしている。その世界の端から迫りくる光を見ている。
 溶けて、溶けて、混ざっていく。視界も、思考も、なにもかも。

+++

 浮上する意識とともに倦怠感が体を支配していく。長いようでほんの瞬きの間の交感は心地良い疲労を伴ってきた。
 腕の中でくたりとしているお前に視線をやれば、どこかぼんやりとした瞳が私を見ていた。
 エーテルに浮かされたその頬がうっすらと赤く染まっている。
「エメト、セルク」
 過ぎ去ってしまえばその胸の内に思いだけを残していて。言葉すら途切れ途切れになる。
腕の中に抱きとめたまま、その髪に顔を埋める。エーテルの香りに酔いしれる。
 とんとんと優しく胸元をノックされる。
「…なんだ、まだ何か言いたいことがあるのか」
 掴んだままの手のひらを指の腹で弄びながら尋ねれば、顔を上げたその瞳がこちらを見ていた。
「あり、がとう」
 どこまでも相手を思いやるお前の言葉にふっと小さく息を吐きだす。返答の代わりに優しく頭を撫でてやれば迷ったように擦り寄ってくる体温が心地良かった。
 額に口付けを落としてやれば、その身がふるりと震えた。そのまま瞼、鼻、頬、唇と口付けを落としていけば小さな手が再度とんとんと胸元をノックした。
「…私、まだ、返事して、ない」
「いらん」
 聞く気もない。告げたということはそうするという意思の表れだ。お前がどうするか、じゃない。私がどうするか、だ。
 その口がまだ何か言いたげだったので唇を重ねることで塞いだ。喋るために開いていた口の中に舌を差し入れればむぅ、と唸ったきりなされるがままになった。
 お前ごとごろりと体勢を変えて上から覆い被さる形になれば、白い喉がくっと反らされ露わになる。火照る唇を離してその喉元に吸いつけばびくびくと体が跳ねた。
 そのまま唇を下げて鎖骨を舌でなぞれば、普段とは違う聞きなれない嬌声が上がる。
「どうした」
「…服、恥ずかしい…」
「今更か」
 そもそも普段もっとひどい格好してる時もあるだろうに今更過ぎる。キタンナの宝箱からごそごそと取り出したキャスター装備を私も見ているんだぞ。あっちのが酷かったじゃないか。主に露出度が。
「だって、ドレスとか、着ない」
「おうおう、いい事聞いたな。これから毎度着せ替えてやるから覚悟しろ」
 錦糸に銀糸、色とりどりの宝玉、肌触りの良いものだけでしつらえてお前を飾るのも悪くない。
「似合わ、ないよ」
 鎖骨に唇を這わせれば小さな体が震える。
「似合うものしか着せぬ」
 小さな体を彩るのはさてどんなものがいいのか、私はほくそ笑みながら着飾るお前を想像する。
「…なんか、エメトセルク、雰囲気」
「隠し立てするのをやめたからな」
 この口でもエーテル交感でも、散々お前を手に入れると告げたのだ。私は隠し事はしても嘘は吐かない。
「私は記憶を思い出にはしない」
 そのガラス玉のような瞳を見つめる。キラキラと光るそれはあの頃と変わらなくて。
「こればかりは譲れん」
「…いい、よ」
 きっとお前が悲しむだろうと知っている。それでも私は思い出にしない。
「譲れない、もの、私も、ある。だから、いい」
 歩いてきた道が、譲れないほどの荷物が、互いの肩にのしかかり足を重くさせている。泥濘のようなそれに足を取られても必死に伸ばした腕で、掴み取りたいのだ。

 その鎖骨を今一度唇で食めば小さな体は震える。控えめな嬌声が、抵抗すべきか否か迷っている。
 柔らかな手触りのドレスをなぞりながら、裾をふわりと持ち上げる。細い足首をゆるく掴んで、その形のまま膝に向かってゆっくりと動かす。
 鎖骨から唇を離して、薄く開いたその唇に重ねる。重ねながら、膝まで到達した指を太腿へと滑らせその小さな体の真ん中へと蠢かせていく。塞いだ唇の向こうから吐き出せなかった艶声が私の喉の奥へ吸い込まれていった。
 ショーツの上から秘部をなぞればその体がさらに跳ねる。まだ濡れていないそこも珍しくて、少し乱暴にショーツを剥いだ。
 はじめてから感じやすかった体は少し弄れば甘い甘露を滴らせるだろう。その前の、乾いた体をも貪りたくてその両膝を押し上げる。まだ力のうまく入らないであろう体が、私の望むままに開かれていく。
「っやぁぅ…恥ず、かしい…」
 秘部を晒すように膝ごと腰を持ち上げ体を起こしてそこを見やる。白い肌が朱に染まるのが嬉しかった。
 せめて膝を閉じようと捻る体を、その腹に手を添えて留めおく。これはもう、抵抗ではない。
「美しいな」
 ぽそりと呟いた言葉にお前が一瞬きょとりとして、赤くなる。
「っふ、ぇ??」
 なんだその間抜けな声は。
「なんだ、聞こえなかったのか? 何度でも言ってやろうか」
「い、いい、です」
 ふるふると首を振る姿を見下ろしてほくそ笑む。記憶は重なって私の中でふたつになる。大切なものが、増えていく。
 秘部を指で軽く開けば、息を呑むような音とともに体がきゅうと縮こまろうとしている。意に介さず、秘部に顔を寄せその割れ目に舌を這わせればびくりと大きく体が跳ねた。
「っま、エメ…だめ…っ!」
 その小さな手をいっぱいに伸ばして私を押し退けようとしてくるのを、その手を取ることで制する。
「ダメじゃないな」
 舌先で花弁を突けば跳ねる体が素直に快楽を拾いあげていく。まだ乾いたそこに潤いを与えるように唇で食んで唾液を分け与えればその唇から嬌声があがる。初めての感覚に震える声が鼓膜を揺らすたびに満たされていくのを感じる。
 食んで、舐めて、撫でるたびに漏れ出る嬌声が私の雄を刺激する。
「や、あ、あぁ……ひぅっ、やぁぅ…っ!」
 ぴちゃりぴちゃりとわざと音を立てて舐めるたびに、じわりと染み出す愛液を舌で絡めとる。
「なめ、なっ、舐め、ないっ、で、あ、あぁっ」
 わざと舌を大きく広げ花弁をゆるりと舐めてから顔を上げる。恥辱に潤んだ瞳が私を見ている。
「なんだ、おねだりか?」
「ひゅっ、ぅ…ち、がうぅ…」
 ふるふると首を振る様はもっととねだるようでもあり。
 あまり虐めるのもかわいそうか、と顔を起こす。腰が地面に着くと落ち着くように小さく息を吐いた。
 体を持ち上げ、お前の横に寝転ぶ。手に取ったままの小さな手のひらを口元に寄せ何度も口付ける。
 もう片方の手が伸びてきて私の頬をおそるおそる撫でる。その小さな指をぱくりと咥えれば驚きの声が上がる。
「んん…食べちゃ、ダメ…」
「どこもかしこも甘くて美味いのに?」
「美味しく、ない」
 頬を赤く染めながら膨らませるそこへ唇を落とす。
 空いてる手で秘部を撫でる。腰を捩らせて逃げようとしているが、それは逆効果だ。
 ぬるりとした感触が指先に伝わる。ほんの少し花弁を擦るだけでその愛液はさらに量を増やしていく。
 秘部の入り口をわざと水音を立てて擦れば恥ずかしいと首を振った。
「今日は恥ずかしがってばかりだな」
 その耳に口付けながら囁けば鼻に抜けるような甘い声が漏れる。
「恥ず、かし、こと、するか、ら」
「あまりにもお前が素直に反応するのでな」
「うぅ…」
 その額に、頬に口付けを落とす。
 ふと、聞いてみたくなった。
「もう、抵抗はしないのか」
 きょとりと瞳を瞬かせてお前が私を見つめる。この反応は、予想外だ。
「わす、れてた」
「それは僥倖」
 喉の奥で笑いながら唇を重ね合う。なされるがままなのは、忘れていたからではないだろう?

 私がひとつ覚悟を決めたから、お前もそれに返答したのだろう。
 手に入れるという覚悟を、抵抗をやめて答えとしたのだ。
 絡め合う舌がほんの少し積極的なのも、伸びてきた手が私のシャツを素直に掴むのも、全て、お前が答えとして提示したものだ。
 恥ずかしいと震えながらも体を差し出してくるその魂ごと抱きしめる。お前と、あいつと、お前の世界も、全て。

 唇を何度も角度を変えて重ね合う。漏れる吐息は熱く、縋りついた手は離したくないとシャツを掴む。
 口付けの合間にその秘部へ指を滑らせる。1本、2本と埋め込んでいけば体が跳ねる。揉み込むように優しく指を蠢かせれば、内壁が柔らかく締め付けてくる。
 3本目を埋め込む前に、お前が小さく私を呼んだ。
「どうした」
 小さく首を振る姿にこの後に及んで厭というなよと釘を刺す。止めたくないし、止まる気もない。
「…上着、脱いで?」
 小首をかしげて告げる姿は、もうわざとだろ?
「脱がせてくれるか?」
 指を抜いて体を起こしながら告げれば、恥ずかし気に視線を逸らしながら小さく頷いた。

 その背に手を添えて抱き起こす。小さな体は片手で軽く引けば大きく揺れて私の胸の内に収まる。
「…どう、なってるの」
 胸元に手を添えてうんうん唸る姿を唇の端に笑みを浮かべて見つめる。見慣れない帝国様式の、しかも上流階級の者しか着ないコートだ。脱がせ方がわからなくとも無理はない。
 あっちかな、それともこっち、くるくると変わる表情を眺めながらいたずらにその腰を指先でなぞれば嬌声が上がる。
「んぅっ…邪魔、しなぃ…っ」
「あまりにも揺れるものでな」
 クッションに背を預けなされるがままでいるよりは、時折からかって笑う程度でいい。
 ようやく糸口を見つけたその手が留め具を外していく。ベルトを外して上着とコートを一気に脱がせようとしているのはわかった。
「むず、か、しい」
「体格差があるからな」
 流石に腕から引き抜くのはこの体格差だと無理があるか、とそこは大人しくこちらの手で行う。どさりと音を立てて重たいコートを脇にやれば、ぱちぱちと私をみていた大きな瞳が瞬いた。
「どうした」
 今日は尋ねてばかりだな、と笑いながら声をかければなぜか少し頬を赤らめて首を振られた。
 その反応は、知っている。
「見惚れたか」
「…っ、うん…」
 一瞬息を飲んだお前が存外素直に頷いて、私は目を細めた。
 シャツの首元をゆるめ袖口のボタンを外しながら、まだこちらをぼうっと見ているその顔に顔を寄せる。
「それで、まだ脱がせるか?」
 問いかけに、今度は真っ赤になって首を振った。どうやらこれ以上は恥ずかしいらしい。
「では、それはまた今度な」
 次の約束をすることでお前を次へ繋げていく。
「…男の、人、なんだなって」
「…女に見えてたら医者を探してくるところだったぞ」
 女性のエメトセルクを想像したのか、くっと腹を抱えて静かにお前が笑った。笑う顔はいいが、笑った理由は複雑だ。
「ごめん……あんまり、そういうの、気に、してなかった」
 そういうの、とは男女という性に対してだろう。根無草の冒険者、明日は死に行くかも知れぬ身となればそういうものなのかもしれない。ましてお前はレインコートにミニスカートを合わせてしまうほど性に無頓着なのだから。
「意識したか?」
「…意識、よりは、認識」
 性差を意識したのではなく、性差がある事実を認識したというお前は、今ようやく1人の〝人〟になりかけているのかもしれない。光の戦士でも、闇の戦士でも、英雄でもない、〝人〟に。
 その頬を、その輪郭をなぞれば少しくすぐったそうになされるがままでいるお前がいる。
「ならば、あまり他所の奴に無防備な姿を晒してくれるな」
 その頬に口付けながら低く囁く。
「殺したくなる」
 びくりと震えたその体が離れぬように柔らかく抱きとめる。
「お前が思う以上に、私は強欲だ。目的のためなら非道な手段も取れるほどにこの手は染まっている」
 大きなガラス玉に怯えの色が少しだけ。
「だから、お前が制御しろ」
 私に手を染めさせぬというのなら、そう告げると怯えの色はゆっくりと消えていった。

 私の胸に体を預けたお前の温もりを感じている。とくとくと生きている音が私に響いてくる。少しだけ体を起こすようにクッションを背に込め直してお前を膝の上に抱え上げる。
 その背から尻に向かってゆるりとなぞれば、体が跳ねた。尾てい骨のあたりを指先で弄べばその口から嬌声が上がる。
「っふ、ぅ……んんっ…」
 恥ずかし気に揺れる腰はこちらを誘うようで。導かれるように蕾の周りをやわりと撫でればその背がぴんと張った。
「この間はこちらで気持ちよくなったものな」
 耳元で囁けば大きく首が振られる。
「おや、忘れたのか……思い出させてやろうか?」
 すいっと秘部へ手を伸ばし湧き出す愛液を救い上げ蕾に塗り込んでいく。
 喘ぎ声の間にふるふると首を振られるが、口で言わぬ限り良しと捉えるぞ。
 ぬぷぬぷと感触を楽しむように浅く出し入れをすれば、艶のある嬌声が尾を引くようにその口から漏れ出す。
「ひぁっ、ああぁ…、あぅっ、ぅあぁ…」
 とめどなく溢れる愛液を掬っては蕾に塗り付ける。差し込む指を深くするほどに嬌声は甘く伸びやかになっていく。
 増やした指を異物への拒否感のみで飲み込みながら、潤むその瞳を見つめる。
「ほら、飲み込んでいく」
「あっ、ああぁぁ…、っんぅ…あぁぁ…」
 縋り付くその体を抱き寄せその耳に口付けを落とす。
「…いい子だ」
 びくりと震えた体が快楽を拾っていく。いい子、と言われてしまえばその体が素直に花開くのを知っている。私が教えたのだから。
「この、浅いところも、深いところも、好きだものな」
「ひゃ、ぅあぁっ、あぁっ、んぅっ…」
 返答が返答になっていないことに苦笑しながら口付けを降らせる。その唇を塞いで喉の奥へ嬌声を飲み込めば、小さな舌が私の舌を求めて蠢く。ゆるく絡ませれば懸命に吸い付いてくるその姿にくらくらする。

 どこにでも行けて、どこにも行けない、狭い世界のお前。懸命に、小さな世界の中で私を求めるお前。私以外知らず、知る必要もない。

 奥の1番いいところを擦りあげれば電撃が走ったかのようにその体が跳ねる。
「ここが、いいのだな」
「っあ、あぁっ!っひ、あっ、ああぁっ!」
 強いスタッカートはお前が快楽に溺れていく様を表していて。あぁ、もう少しで。
「いい子だ、一度達してしまえ」
 強く挟み込むように擦りあげれば、小さな体が大きく跳ねて固まる。背も、喉も反り強い快楽に抗えなかった涙がぱたりと落ちる。
 快楽に弱すぎるのも考えものだな、そう思いながら指をゆっくり引き抜きその唇に口付ける。
「息を、しろ」
 根気よく唇を落としながら囁けば、ややあってその口がひゅっと息を吸い込む。細く荒い呼吸を支えるようにその頬を撫でる。小さな手は過ぎ去る快感に耐えるように私のシャツを強く掴んでいた。
「いい子だ」
 囁けば、その身が震える。はふ、と吐いた吐息が肩口から私の耳をさわりとくすぐる。
 素直に快楽に揺れたお前を見ていることで煽られた私の雄が、ズボンの中でぎちりと音を立てている。その頬を撫でながらズボンの中から己を取り出す。その膝を少し落とさせて秘部へ先端をあてがえば、まだ整わない息を乱してお前が私を見る。
「選んでもいいぞ」
「…っ!」
 選べないだろうな、そう思いながら囁き投げかける。
「どちらで私を受け止める?」
 口に出して示せば、かぁっと染まったその顔が困惑に染まる。潤んだ瞳は視線を彷徨わせ、その顔が私の肩口にぽすりと落ちてくる。
 流石にいじめすぎたか、とその頭を撫でてやれば肩口で小さく蠢いている。
 おや、と眺めていればそっと顔を上げたお前が私の耳元に唇を寄せる。
「……後ろは、いや…」
 囁くよりも小さな、吐息のような声で震えながら懇願が紡がれる。
 恥ずかしいと肩口に再度顔を埋めたお前の頭を強く抱きしめて撫でる。あぁ、この生き物をなんて名づけよう。
「そうか」
 心が躍って、それ以上言葉を紡げなかった。

 今、お前が私の覚悟を完璧に受け止めた。
 この手の中に自ら堕りてきたお前を抱き寄せることしかできない。

 腰を揺らめかせて秘部の入り口を先端で叩けば、肩口に顔を埋めたままくぐもった喘ぎ声が聞こえた。
 その体を支えて正面から顔を見据える。まだ恥ずかし気に頬を染めたまま、それでも大きな瞳は私を見ようと視線を合わせてきた。
 後ろはいや、とは酷い殺し文句だ。これを無意識で言ってのけるのだから侮れない。
 逆説的に、〝前がいい〟と告げるだなんて。そこで受け止める意味を知らないはずでもないだろうに。
「後ろは、厭か」
 だから、あえてもう一度尋ねる。お前の意思を確認するように。
「……うん」
 視線を彷徨わせながらもそう頷くお前に口付けを降らす。
 ぐちゅりと淫靡な水音が触れ合う場所から聞こえてくる。とろりと滴るお前の蜜が私の雄に絡みつく。
「なら、受け止めておくれ」
 口付けを落としながら、ゆっくりとお前の腰を下ろしていく。先端が入り口を割り開いて、吸いついてくる。
「…っん…あぁ、あぁぁ…っ!」
 ゆっくりと飲み込んでいくその動きに合わせて唇から声が溢れる。びくりびくりと震える体を抱きしめ撫でながらさらに腰を落とさせる。絡みつく内壁が温かく心地良い。
 半分ほど埋め込んで一度歩みを止めさせる。荒い息を繰り返すその唇に唇を重ねて舌を絡める。
 いびつに歪む腹を撫で、まだ入るぞと告げれば開いた瞳が伏せられる。
「もっと奥まで」
「…奥、まで…」
 ふるりと震えるまつ毛がガラス球の瞳を彩る。その色を見つめ焼き付ける。
 その腰から手を離してその頬を両手で包む。火照る頬の熱が少し冷えた私の手のひらに吸い込まれていく。
「進めるか」
 問いかけに、顔がさらに赤くなる。もじもじと体を捻るだけで中が擦れるというのに恥ずかしさからかその動きは止まらない。
「ゆっくりでいい」
 その耳に口付けを落としながら囁けば、逡巡したのち小さくその首が縦に揺れる。
 私の肩に両手を置いて、支えとする。その背と頭を撫でるようにゆるく支えてやれば、安心したように息を吐いた。
「が、んば、る」
 頑張るようなものなのか、という問いかけは無粋なのでやめておく。なされるがままだったお前が、こちらの問いかけからでも自ら動くことを選択したのだ。
「……んっ……」
 柔らかく律動するそこは、ほんの少し好きに進む力を加えるだけでずるりと私を飲み込んでいく。
「ひあっ、あ、あぅ、あっ」
 ずるりずるりと飲み込まれていく雄の感触に耐え切れないように短い嬌声が止めどなく上がる。太くて熱い杭を埋め込まれたそこはいっぱいに広げられている。
「ま、って、はや、はや、いっ」
「私は動いとらんぞ」
 困惑で瞳が開かれる。実際私はお前を支えるだけで動いていないのだ。そして、進む速度もそこまで速いわけでもない。
「お前が、好きな速度なんだろ」
 囁けば違うと力なく首が振られるが、説得力はないな。
 がくがくと震える腰と膝が、速度を落とそうと踏ん張るたびに腰が少し浮き上がり、また下がる。
「なんだ、もう我慢ならんのか」
「ちがっ、ちがう、っん、あぁっ、ちが、うのっ…!」
 その動きはもう浅い抽送だ。奥まで飲み込み切る前に動き始めてしまうほど…
「そうか、そんなに悦いのか」
 その背を支えていた手で腰を撫でる。そのまま尻を揉みあげれば腰がさらに浮き上がる。
「ほら、下ろすんだ」
「っん、ふぁぁ…っあ、あぁっ、っうぁぅ…っ!」
 お前の腰が下がるたびに、お前のいいところを撫でて腰を浮かせる。徐々に膝に力が入らなくなっているのを感じながら繰り返す。
「っあぁ、エメ、やめっ…っああぅ…」
 浮かぶ、下ろす、浮かぶ、下ろす。繰り返すゆったりとした抽送は、交わるそこから隠微な水音を響かせ互いの体液を交じり合わせていく。
 するりと、まだひくつく蕾を撫でる。途端に膝の力が抜け、小さな体は重力に逆らわず一気に奥まで私の雄を飲み込んだ。
「ーーーっ!!!!」
 声にすることの叶わなかった嬌声が喉を震わせ、その背が反った。びくびくと震え見開かれた瞳は、快楽に達してしまったと伝えてくる。きゅうきゅうと強く私を締め付ける内壁がそれを裏打ちする。
 その尻の蕾をにちにちと撫でながら、唇を重ねる。息を何度か送り込めば、思い出した呼吸を始める。
「っは、あぁ……」
 くたりと私の胸元に顔を埋めて、下を向いてしまったお前の髪に顔を埋める。
 肩口をきゅうと掴んでいた手が離され、いびつに歪んだ腹を撫でた。隙間ひとつなく私を飲み込んだそこは甘い律動で私を刺激し続ける。
「ひど、い」
 少し拗ねた声すら甘く揺れている。
「あまりにも可愛くてな」
 すまんな、と髪に顔を埋めながら言えば、腕の中で身動ぐ気配がした。
「ゆっくり、て、言った、のに」
「そこは私のせいではないのだがなぁ」
 腰を浮かせるように邪魔はしたが、下ろす方は邪魔していないのだ。見上げてくる瞳が少し拗ねながらも色を帯びている。
「悦かったのだろう?」
 その目蓋に唇を落としながら尋ねれば、恥ずかし気に目を伏せてから小さく頷く。素直なのは、美徳である。
「いい子だ」
 私の呼びかけに内壁がきゅうと締まって応える。甘い締め付けが心地良い。
 逃げるように腰を捻るのをどうしたとわざと尋ねる。まだ私の指は尻の蕾を撫でている。
「…そっち、は…」
「厭か?」
 ぬぷりと指を埋めれば、可愛らしく甘い声が上がる。私を飲み込んだそこが、もっとと求めるように蠢く。前も、後ろもだ。
「はは、よく締める」
「あぁっ、ああぁっ、エメっ、ぬい、ぬい、てっ…!」
 がくがくと体を揺らす様は達したばかりの体に強い快楽を与えられたせい。
「飲み込んでいくのはお前だぞ」
 焦点の合わない熱に浮かされた潤んだ瞳がぽろぽろと涙を流しながら私に訴えてくる。その涙を口づけで受け止めてほんの少しだけ指を引き抜けば、いやだと駄々をこねるようにお前の内壁が内へ内へ飲み込んでいく。
「ひぁっ、あぁぁっ、なん、なんれ、っふ、あぁぁっ!!」
 仮面を外してほんの少しだけ寄り添う決意をしただけで、お前の体が最大限に震え跳ねる。締め付けは強く甘く離さないと伝えてくるし、素直に快楽を拾い上げるその声が艶を含んでもっとと訴えてくる。
「あぁ、本当に、お前は可愛らしいな」
 この声もきちんと届いているのか疑わしいほど快楽に落ちているお前を抱きすくめる。その耳に唇を落として息を吹き込めば腰が浮かび上がる。支えず重力に従って落とさせればにちゅりと水音が響く。
「ひぅっ、あっ、あぁっ、エメ、ひぁっ」
 絶え間なく漏れる声と涙を拾い上げ舐めとる。それだけで体が震えるのだからどれだけ快楽に弱いというのか。
「動くか、動かされるか、どちらがいい?」
「ひぁっ、うっ、あぁっ、ひぅっ……うぅ…?」
 その腰が動かないように抑え込んで尋ねる。本当は今すぐにでも奥の奥まで穿って抱きつぶしてしまいたいのに、お前に選択をさせるだけの余裕があるように振舞っている自分に苦笑する。
 その頬に唇を落とし、耳元で囁き、瞳をのぞき込む。色に浮かされた瞳が私を見て、彷徨って、私を見る。
「ひ、うぁ…」
「選んでいいぞ? 私は強欲だが寛大だからな」
 ともすればじわりと捩ろうとするその体を片手で留め置く。じわりと律動だけで奥まで飲み込もうとする尻の蕾の指もそれ以上奥に行かぬように制御すれば困ったようにその眉根が寄せられる。
 快楽はいまだ胸の内に渦巻いていてその身を焦がしていく。その身がもっとと強請るのを知っていて強く抑える。
「選べ」
 ひゅっとその喉が鳴る。色を含んだ瞳が私に訴えかけてくるのを選択肢は提示したぞと投げ返す。
 小さな手が私の胸元をきゅっと掴んで見上げてくる。その瞼に口付けを落として言ってごらんと催促をする。
「…っう、ごく…」
「そうか、いい子だ」
 ゆっくりと尻の蕾に飲み込んだ指をゆるゆると蠢かしながら抜いてやればその背が震えた。
 優しくその頭を撫で髪を梳く。ふと思いついてドレスの端を摘まみ上げその小さな口に咥えさせる。ちょうど、私からは結合部が良く見えるように。
 その毛先をゆるゆると撫でながら体を少し離す。
「さぁ、どうぞ?」
 戸惑うように開いた瞳が伏せられ、離れた体から所在なさげに空を漂っていた片手が私の腹の上に、もう片手が余ったスカートを寄せるように抱きすくめる。
「んんっ…」
 くぐもった声を上げながら、ゆっくりと腰が持ち上がる。限界まで持ち上げれば、お前を穿つ赤黒い杭がぬらりと2人の間で艶めく。煽情的なその光景に目を細める。自身の萎えぬ妄執と独占欲にほくそ笑みながらお前を見やる。
 ちらりとこちらを見たお前は瞳を伏せると、私の雄を一気にその身の内に飲み込んだ。穿たれた杭に違わずその身が強くしなり快感を全身で感じ取ったその体が震える。きゅうきゅうと締め付けてくる内壁がその動きだけで甘く達したことを告げてくる。
「いい子だ」
 続けておくれと頬を撫でれば瞳は閉じたまま、同じ動きを緩慢に繰り返し始める。緩慢とはいったが、その身は快楽を素直に拾い上げ更なる快楽を欲している。徐々に早くなる動き、鼓動、角度を変えて深さを変えて穿つそれがお前を何度も達しさせる。締め付けはきゅうきゅうと強くしかし決定的な強さではないため、はちきれんばかりの己の雄をお前の中に埋め込みながらただよがり狂うお前を視覚で堪能する。
 いつの間にか口に咥えていたドレスは落ち、そのドレスを抱き寄せる手もふるふると震えている。
「ひっ、あっ、あぁぁ、あぁぅっ、エメっ…!」
「どうした」
 がくりがくりと体を揺らしながら必死に名を呼ぼうとするお前の手を取る。上半身を起こしてお前を抱き寄せながらゆっくりでいいと額に口付けを落とす。
「ひぅっ…うぅっ……」
 止まりそうにないこともわかっていたので腕の中に抱き留めれば、ようやく腰の動きが緩くなる。肩で必死に息をするその額に口付けながら頭を撫でる。
「感じやすすぎるのも問題かもしれんな」
 ぼそりと呟いた言葉がお前に届いたかはわからない。まだ緩く蠢く腰が快楽を拾おうとしているのだけはわかった。
「おうおう、気をやるのもいいが呼んだからにはなにか言ってくれ」
 その頬をちょいちょいと突いてやれば、しゃくりあげるように息をしたあとまつ毛が震え瞳が開く。真っ直ぐに私を見つめる瞳には炎のような色が浮かんでいる。
「ちゃんと息をしろ……呼吸をおろそかにし過ぎだお前は」
 そうさせる要因の一端が自分にあることはこの際棚に上げておく。
「ひゅっ…ふっ……エメ、ト、セルク……」
「ここにいるぞ…どうした」
 顔を寄せて頬を擦り合わせればほぅと安堵のため息が漏れる。すぐそばにある温もりにお前も擦り寄ってくるのが心地良い。
「んっ…んぅっ……エメ…は、きもち、いい…?」
 脳がくらくらとする甘い響きに、思わず唇を重ね合わせ緩く漏れだすエーテルごと吸い込んだ。びくりびくりと跳ねる体に返答するようにエーテルをゆっくり流し込む。
「んっ…はっ…あ、あぁ…!」
 流れ込むエーテルに合わせるようにその瞳からまた涙が流れる。交感ではない、交換。交わらせるのではなく与えるだけのそれに互いの背を甘い疼きが駆け巡る。
「ふっ、んぅ……」
 逸る胸を抑えるようにドレスごと抱きしめてお前がうっとりと表情に艶を纏っていく。
「伝わったか?」
 問いかければ小さくこくりと頷いた後私の胸に擦り寄ってくる。その頭を撫でて髪を梳きながら弄べば、腰を揺らめかせて誘ってくる。
「なんだ、足りんのか」
 問いかけには首を横に振る。なんだ、体は正直に動いてるじゃないか。
「んぅ……もっと、気持ちよく……なって?」
 あぁ本当におまえってやつは。
「止まれなくなるぞ」
「いい、よ…」
 両の腕が私の首元へ伸びてきて、ドレスがぱさりと落ちる。小さな手が懸命に私の首にしがみつこうとするのがいじらしい。
 その膝の下から腕を入れ尻と背中を支える。大きな瞳と視線を交わらせる。
「ならば、全てよこせ」
 その体をきつく抱きしめながら強くその奥へ腰を穿った。
「っあ、あぁぁっ、ああぁっ!!」
 すでによくよく解れ愛液を滴らせたそこは、早く強い抽送から素直に快楽を拾い上げ喉を震わせる。引き抜いて押し込むその動きだけを繰り返して互いを高め合っていく。
「っく…よく、締め付ける」
「ひうっ…あっ、あぁっ…!!」
 奥の奥をこつこつと叩けば瞳が見開ききゅうきゅうと内壁が締まる。もっと奥へと誘う動きが私の雄を刺激する。
「やぁ、らめっ…エメっ、あぁっ、おくぅ…!!」
「好きだものな」
 何度も奥を叩けばびくりびくりと体が跳ねて喉が反る。早くなる呼吸が、締め付ける内壁が限界を伝えてくる。もう今日は何度も達している体だ。
「やっ、やあっ、あんっ、あぁぁ……も、だめ…っ!!」
「…あぁ、飲み込めっ!」
 奥の奥に叩きつけるように私の欲望を流し込めば大きく跳ねた体がきゅうと小さく縮こまる。締め付けは最高潮で、奥の奥へと私の精を運んでいく。なじませるように腰を揺らめかせながらその小さな体を横たえらせ、徐々に己の雄を引き抜いていく。抜き去らず栓をするようにとどめ置けば、いびつに膨らむ腹が私の精を蓄えているのがわかる。その腹をなぞるように撫でればとくとくと命の音が聞こえてくる気がした。
 指先を、体をきゅうと縮こまらせたまま動けなくなったお前の頬を撫でる。止めた呼吸を再開させるようにその唇を何度も指の腹でなぞる。はふり、と息をついたお前の体からゆっくり力が抜けて弛緩していくのをじっと見守った。
 ゆるりと力の抜けたその手をそっと持ち上げて口付けを落としてからお前の腹の上に下ろす。びくりと震えた指がそのままそっと腹を撫でるのを満ち足りた気分で眺める。
 その腹を撫でるのに満足したのか、潤んだ瞳が私を見つめている。その瞳と視線を交わらせながらゆっくりとお前の中から自身を引き抜く。追いかけるようにとろりと漏れ出した互いの精がその股の間を通りビロードの絨毯を汚していく。
 互いに精を吐き出しきった高揚感と喪失感で言葉を交わすこともなく唇を重ね合わせる。汗で張り付いた前髪を互いに震える指でかき分ける。重ねるだけの口付けは徐々に深く絡まり合ってゆく。
 覆い被さるこちらもそれなりに限界で。唇を離して隣に倒れ込めば大きな瞳が労わるような視線を投げかけてくる。
「大丈夫だ…お前の方こそ疲れたろう」
 その頬をやんわりと撫でれば、大人しく擦り寄ってくる様が可愛らしい。
「へい、き…」
 少し掠れた声が鼓膜を揺らす。その頬を撫でながら腕の中に抱き寄せる。
 ぱちりと指を鳴らして肌触りのいいタオルケットを創り出しかけてやれば、ふふ、と小さく笑った。
「やさしい、ね」
 呟いた声がぽやぽやと宙に浮いていく。眠気が勝ったのかその瞳が閉じようとしている。
「眠れ。私ももう眠い」
 その髪に口づけを降らせながら片手を揺らし魔法の灯りの光量を下げれば、洞の中は仄暗い水底のようにゆらゆら揺れた。
 安心しきった小動物のように縋りついたまま瞳を閉じたその呼吸がすぅすぅと一定のリズムを刻むのを聞きながら私も瞳を閉じた。

+++

 白い、白い闇だ。
 きっと私はまだ眠っていて、ここは夢だ。だって、こんなに悲しい夢があるはずがない。
何も見えない。何も聞こえない。ただ目の前には白しかなく、上も下も、立っているのか落ちているのかさえ分からないなんて。
 この白は、毒だ。人を壊すものだ。私の内にとどめ置いて、決して外へ漏らしてはいけないものだ。
 …でも、とどめ置いた後は? どうすればいい? これがある限り、私は〝人〟の脅威になってしまう。〝人〟を守るために〝英雄〟に祀り上げられたのにそれすら果たせなかったら、私は…

 私は、いらない

 遠くで見知った声がした気がした。いくつかの声が私を呼んでいる。でも、そこに行ったら、私は傷つけてしまう。
 いけないよ、そこには近づいてはいけない。

 やっぱり、私は、いらない

 疎まれるぐらいなら最初からいないほうがよかったんだ。私のせいで争いは終わることを知らない。私の力を求めて争いが起きて、いらなくなったら捨てられる。

 ーー拠り所にしろと言っただろ

 すぐ後ろから声がした気がした。振り返っても何もない。白しか、ない。
 この声は知っている。暗く冷たい闇夜の向こうで輝く月の色を知っている。
 私の仮面を、外してくれた人。私の、はじめての人。

 そうだね、あなたはいつも口の端を少し持ち上げて、自信満々な声色なのに少し困ったように眉を寄せて私に言葉をくれたね。
 嬉しかった。ほんとに、嬉しかったんだよ。上手く、伝えられなくなっちゃったけど。

 でも、だから、ごめんね。私はそこを拠り所にはできないよ。
 この白があなたを苦しめるって知っているから。それを持ったままの私はあなたのそばにはいられないから。

 いらない、もう、なにも。与えないで、もう、なにも。
 壊すから、全部

 銃声、叫び声、浮かび上がる体。
 もうなにも見たくないと、私は瞳を閉じて自分の首を強く締め上げた。

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2019.11.06.初出

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