仄暗い海底の底から愛を込めて

 本当は、誰にも告げず、ひとりで進む予定だった。
 少女は心配そうに覗き込むいくつもの顔の前で薄く微笑んだ。仮面をかぶれ。この気持ちを悟られるな。
 体は光のエーテルの暴走で常に騒がしいのに、不思議と凪いだ海のように心は静かだった。恨む気持ちも憎む気持ちも何処かに置き忘れてきたかのように、この胸の内から湧き上がることはなかった。
 テンペストへ、エメトセルクのところへ行かなければならない。
 囚われの水晶公ももちろん心配だ。たとえそれが彼の計画通りだったとしても、私のせいで銃声に倒れたのだから。
 もっと私がちゃんとやれていれば、違う道を選択できたはずなのだ。肝心なところでどうにもならない運命に歯痒さすら覚える。いっそ私が世界を拒絶できた方がどれだけマシだっただろうか…。
「…大丈夫、ですか?」
 レイクランドの湖に浮かぶ小島の上でリーンは心配そうに私に声をかけてくれる。私はそれに笑顔で手を上げて答える。光の巫女として覚醒してからまだそれほど時間が経っていない、本来なら大丈夫と声をかけて気にかけてあげるべきはこちらなのに、逆に心配されて困ったように笑うしかない。
 妖精王の呼びかけに、古き妖精が答える声がした。空を泳ぐ巨大な白鯨は私達を背に乗せて進む。コルシア島を横目にその沖の海の中へ飛び込んでいく。強い衝撃に浮かぶ体、遠くで聞こえる鳴き声にも似た妖精の祈り。叩きつけられる感覚に一瞬だけ意識を手放した。

 暗い暗い光すら届かなかった海の底に、古き妖精の加護を受け降り立つ。目の前に広がる、つい先ほどまで静かな時を刻んでいたその場所は、突然の来訪にざわめいていた。
 行きましょう、誰かの声がした。暗く静かな気配に意識を持ってかれていた私は、それが誰から発せられた声なのか認識できなかった。
 歩き出す皆に遅れぬように足を進める。全員がそれぞれに周囲を警戒しながらも、私から意識を逸らさない状況に息が詰まりそうになる。最後尾を歩きながら、私は首のチョーカーに手を触れる。その下の真新しい傷跡をさわりとなぞる。自分で自分を傷つけることしかできない事実に目を伏せる。
 オンド族は突然の事態に戸惑いながらも、こちらが誠意を持って歩み寄れば、一定の条件の元に協力してくれた。暗き場所に住まう彼らの明かりを灯す儀式を見守りながら私は考える。エメトセルクという男のことを。
 一人で来いと告げた彼の真意は分からなくもない。結果としてぞろぞろと連れ立って来ることになってしまったのは謝罪せねばならないが。
 低い祈りの声がする。目を閉じて音に身を任せていれば、皆の足音が聞こえて来る。祈りの様子を見守りながらも、こちらから意識を離されない状況を甘んじて受け入れるしかない。
 祈りを終えたオンド族に最奥への道を開いてもらう。深い深い海の底へ歩みを進める。

 その街は静かにそこに佇んでいた。
 目を奪われるとはまさにこのことだろう。初めて見るのにどこか懐かしい街を見下ろしながら、私は言葉を失った。
 アーモロート、あの時エメトセルクの告げた街の名前がリフレインする。知らないのに、知らないはずなのに、この場所を知っている気がする。皆それぞれに言葉を失ってしばらく茫然とその街を眺めていた。
 進みましょう。また、誰かの声がした。

 街を一通り見て回った私たちは入り口の洞窟まで戻ってきていた。一度休息を取ろうと決めたものの、あの街の中でキャンプを張るわけにもいかない。腰を下せそうな場所を見繕って、その中心にファイアシャードと枯れた海藻を用いて火を灯す。少し磯臭い気もするが、魔法とは違う炎の揺らめきに誰ともなく息を吐いた。
 ヤ・シュトラとアリゼーがその火を用いて温かなスープを作り、リーンとアルフィノがそれを皆に配った。微笑んでそれを受け取りながらも私は街の方から目が離せなかった。
 光のエーテルそのものとなりかけている私は、食事も休息も必要ではない。受け取ったスープに口をつけるふりをしながらぼんやりと街を眺める。背後で今後について話す声が聞こえる。私は小さく背を丸めながらちびちびとスープを舐める。本来の体なら塩気がちょうど体に馴染むのだろうが、今の私にはそれすら雑味となって口内に不快感をもたらす。必要がなくなった途端に異物として排除しようとする自身の体にため息のひとつも吐きたくなる。
 スープを飲み終えた女性陣がサンクレッドの張った簡易テントに吸い込まれていく。皆に遅れてスープをなんとか平らげた私はカップを纏めて男性陣も休みなよ、と声をかける。
 顔を見合わせて困惑する彼らに困ったように笑うことしかできない。
「あなたこそ、休まれた方が…」
 ウリエンジェが心配そうに声をかけてくれる。それに首を振って大丈夫だと告げる。
 サンクレッドがウリエンジェの肩を叩いてから私の頭をわしわしと撫でる。彼なりの気遣いなのだろう。心配そうに覗き込むアルフィノに微笑んで手を振る。
 全員が簡易テントに吸い込まれるのを見届けて、私は焚き火に向き直る。爆ぜる炎とむせ返るような磯の香りが、ここが地上とは切り離された空間なのだと教えてくれる。膝を抱えてその炎を見つめる。ぱきりと燃料にした海藻が爆ぜる音が静かな海底にこだまする。
 時間という感覚がわかりにくいこの場所でどれほどの時間が経っただろうか。ぼんやり焚き火を眺めながら火加減を調整し熾火を作って私は立ち上がる。炎の上がりにくいこの状態にまで持っていけばしばらくは放置していても問題はない。
 アーモロートを見下ろせる位置まで歩きながら纏まらない思考を掴んでは取りこぼしていく。
 黒いシルエットのように見えるその石壁をぼんやりと眺める。荘厳で壮麗。輝くエーテライトにも似た建材が彩る街はまさにそう表すのが正しいといった趣だった。
 崖の端に立ってぼんやりと見下ろす私に不意に声がかけられる。
「…美しい場所だろう?」
 振り返らなくてもわかる。私は一度目を閉じて街を瞼に焼き付ける。
「えぇ、とても美しい場所ね」
 名前を呼んだらいけない気がして、声に出せなかった。横に並び立つ自分よりも大きな影をぼんやりと眺める。
「…いい、場所ね」
 伝えたいこと、聞きたいことがたくさんあったのに、そのどれひとつも尋ねることができない。
「案内、してやろうか」
 低く問われて顔を上げる。金の瞳はどこか悲しげな色をしている。
「…したくないって顔されても困るんだけど」
 眉毛を片方上げて私の言葉をひょいとかわす。不思議なやり取りだ。
「案内は遠慮するわ。そのかわり…」
 私は手を差し出す。
「連れてってよ、今一瞬だけ」
 ほぅ、と低く声が漏れた。光に侵された輪郭をぼんやりと眺める。
「バケモノの相手は嫌だろうけど」
「…今更そこを気にするか」
 ふっと鼻で笑われる。その様子に私も苦笑する。
「レディに懇願されては断れんな」
 恭しく私の手を取ってその唇が指先に触れる。そっともう片方の手が私の腰を引き寄せる。
 背後でもぞりと動く音がする。誰かがテントから這い出てきたようだ。
「連れてって」
 私の言葉を合図に、深い闇がふたりを包む。その大きな体に抱きとめられながら、私は瞳を閉じた。

「…私は着せ替え人形じゃないんだけど」
 ぱちりぱちりと指を鳴らす音と共に、私の着ている服が入れ替わり続ける。
 机と、椅子と、ベッド。高い位置にステンドグラス。ドアのない小さな部屋に招かれた私は、その部屋の中央でエメトセルクの気まぐれに付き合っていた。
 散々人に色んな服を着せては、これじゃない違う色が合わない材質が良くない、と文句を言い続けている。
「やはりこれが良いか」
 ぱちりと鳴らされて着せられたのは、黒に近い青を差し色にしたスプリングドレスだった。
「気に入ったの?」
「気に入らんか?」
 疑問に疑問で返されて肩を竦める。
「嫌いじゃないわ」
 ふわりとドレスを翻してその場でターンする。見た目よりも軽い生地は柔らかく弧を描いて広がる。向き直ってどう? と首を傾げれば、エメトセルクは満足そうに目を細めた。
「おいで」
 差し伸べられた手に、ずいぶん小さい自分の手をそっと触れ合わせる。ゆっくりと手繰り寄せるように体を導かれる。ベッドに座っていても私より大きなその体を見上げる。金の瞳がゆらゆらと揺れている。小首を傾げて次の動きを待つ。
 その大きな両の手が少女の顔を横切る。ぴくりと反応し閉じかける瞳を必死に見開く。今でも大きな手は怖い。他の誰でもない彼の前では仮面をつけきれない自分が縮こまってしまうのを必死にこらえる。その手が顔を通りすぎ結んでいた髪の毛を器用に外し、そのまま首元に回されチョーカーを外される。露わになった新しい傷跡に金の瞳が曇るのがわかる。
 くるりと体を反転させるように抱えられベッドの上に押さえつけられる。その大きな体で私を覆い隠しながら彼の片手が私の首に回される。その指にくっと力が入り私の首を締め上げていくのがわかる。きりきりと息が詰まる。冷たい金の瞳が揺れているのを見て私はそれに手を伸ばす。その頬に触れる事ができない絶妙な距離を感じぱたりと手を落として私は瞳を閉じた。
 苦しい。息が詰まる。吸い込むことも吐き出すこともできないのは、息も心も同じだ。指が触れている場所の脈がどくどくと耳にうるさい。触れる箇所の熱が心地良い。懐かしさすら覚えて瞳の端に涙が浮かぶのを感じる。
 ふっと触れていた指から力が抜かれる。ひゅっと音を立てて送り込まれる空気にむせ込む。エメトセルクの空いた手があやすように私の髪を梳く。首に回したままの大きな指がゆるゆると傷口を撫でる。その指の動きに合わせる様に息を整えようとする。
 大きく息を吸い込もうと喉を反らせ開いた唇にエメトセルクが自身の唇を重ねてくる。今一度息を封じられてくぐもった音が喉に響く。ちゅくりとわざと淫靡な音をたてながらエメトセルクの舌が口内を舐っていく。奥歯の奥までゆったりと添わされ背筋が粟立ち、びくりと跳ねる腰を抑えきれない。舌を絡め吸い上げたっぷりと時間をかけて唇が離れていく。
「……ふ、ぅっ……」
 中断されていた呼吸を跳ねる体を抑えスカートの端をきゅっと掴んで必死に行う。つい、と首から離れた指と交代にエメトセルクの唇が傷口に触れる。ゆるりと唇と舌を這わされて今一度体が跳ねる。理性ごと一飲みにされそうになるのを必死にこらえる。
 首から唇が離され、スカートを掴んでいた手をそっと掴まれる。抗わずにいれば私の両手を頭の上に片手で縫い付けた。
 ゆっくり薄く瞳を開けば、少し体を離してこちらを眺めるエメトセルクの瞳と視線が交わった。こんなに瞳で感情を表現していただろうか、そう疑問に思うほどその瞳が揺れていた。
「…泣きそうね」
 かける言葉を見失って小さく呟く。
 納得がいかない、そんな表情でエメトセルクの指が私の目尻を撫でる。
「泣いてるのはお前の方ではないか」
 はらはらと落ちる涙を泣くなと呟きながらエメトセルクは指と舌でぬぐい取る。その感覚がくすぐったくて肩を竦める。
 エメトセルクの唇が頬を伝い耳に口づけを降らす。びくりと震える体に気を良くしたのか何度も繰り返し落とされる。
「……はっ……」
 吐きだす息が熱い。体の芯に火が灯りだすのがわかる。肩越しに見上げた高い天井にステンドグラスから漏れ込んだ光が揺らめく。降り注ぐ灯りに照らされて小さな世界が青く揺らめく。
 口づけは深くなっていく。強く吸い上げる動きに腰が跳ねる。
「っひぅ…!」
 漏れ出す声を抑えることができない。ぺろりと舐め上げられびくびくと震える体を止めることができない。
「ぅああぁ…っあぁぅ…」
 最後の一押しをされないまま何度も耳を嬲られ跳ねる喉から水分が失われていく。その手の内で跳ねることしかできない体から抵抗するだけの体力が奪われていく。ちゅっと音を立てて唇が離れる。くたりと力を失った体を隅々まで視姦される。その視線すら熱く感じてしまう。
 恥ずかしさで力の入らない膝を擦り合わせる。瞳を伏せて視線から逃げようとも縫い止められた腕は動かず弛緩した体は投げ出されたままエメトセルクの前に差し出すように投げ出されたままだった。
「本当に、耳が弱いな」
 耳元で低く囁かれながらふぅと息を吹きかけられ震える。その声が楽しそうな声色なのを感じて少し嬉しくなった。
 エメトセルクの指が、髪を梳き頬を伝い首筋を撫でる。さわりさわりと触れる手袋の感触がくすぐったい。鎖骨をなぞり胸の真ん中を通ってまっすぐ擦りあわされた太ももの間に向かうのを感じおもわず目を見開く。飛び込んできた金の瞳が嬉しそうに歪んで気恥ずかしさで顔が赤くなる。ゆるりと太ももの合わさった部分を撫でられ元々さしたる抵抗もできなかった体はいとも簡単にエメトセルクの前に差し出される。下着越し、さらに手袋越しに敏感な花弁を撫でられて腰が跳ねる。
「っああぅっ…! ふ、うぅ…っ!」
 あくまでも優しいその触れ方にじわりじわりと心ごと追い込まれていくのを感じる。
 エメトセルクの唇が今一度耳の側に近づいてくる。その吐息だけでぞわりと肌が総毛立つ。
「もっと、欲しいのか?」
 問いかけへの答えを聞かず、エメトセルクの舌が私の耳を舐める。同時に花弁をいじられ意識が混濁する。
「っは…ぁああぁっ!! や、あっ、ああぁぁぁっ!!」
 足を閉じようともがいてもその太い腕に太ももを力なく擦り付けることしかできない。ぴちゃぴちゃとした淫らな水音がどこからするのか判別できない。
 舐められ強く吸われる耳に、執拗に撫でられる花弁に、理性が追いやられていく。
「やあっ…!! ああぁぁぁっ!! ら、めぇっ…!!」
 かぶりを振って快楽を逃がすこともできず視界が潤む。喘いでいるのか叫んでいるのかさえ判別できない。
「や、あっ……メト……ク…っ!!」
 途切れがちな思考をなんとか繋ぎ止めて名前を呼ぶ。強めの音を立ててエメトセルクが顔を上げこちらを見やる。
 どうした? と首を軽く倒すことで問いかけてくる。花弁を撫でる手は止めることなく。
「…っう……手……」
「…手?」
 首を捻ってから頭上の縫い付けられていた手が解かれる。離れていく彼の手を追いかけてそっと掴む。また首を捻っている彼にまとまらない思考と痺れる舌で必死に言葉を紡ぐ。
「…こ、れ…やぁ…っ!」
 くいくいと手袋を引っ張って得心がいったのか一度私の頬をぐるりと撫でてからエメトセルクは両の手袋を投げ捨てた。ひやりとした指が今一度花弁を撫でる。先程よりも強くその指を感じて腰が跳ねる。
「っあぁぅっ…!! ふ、あ、ああぁぁぁっ!!」
 その手に縋り付くように腕を伸ばす。快楽に負けて自然と膝が持ち上がる。その膝と膝の間に体をねじ込んでエメトセルクは私の腰をさらに持ち上げる。
「ひゃっ…や、やら…っ! みな、ぃで…」
 恥ずかしくなってスカートで隠そうとするより早く、強く花弁を弾かれてスカートと一緒にシーツを握りしめて跳ねる。エメトセルクの手に縋り付いたままの指をきゅっと力を入れて握りしめる。瞳の端から零れ落ちる涙を止められない。
「っぅあぅ…っ!! ふぁ、ああぁぁぅ…っ!!」
 緩急つけて撫でられ、声が止められない。思考がまとまらない。何も考えたくない。
 かぶりを振る私の額に口づけを落として、エメトセルクの唇がそのまま耳を食んで強く吸い上げてくる。
「っあ、ああぁぁぁっ!! や、あっ、あああぁっ!!」
 強い波が私を襲う。目を開けているのか閉じているのか、もうわからない。
「ああぁぁぁっ、や、らっ、きちゃ、うっ…っ!!」
 感じたことのないほどの強い快感が体の奥底から湧いてくる。知らない、これを私は知らない。こわい。おねがい、こわいの。
 強く縋り付くことしかできないまま、私はエメトセルクの腕の中で大きく跳ねる。
「ぅ、あああぁっ!!」
 両手で強く彼の手に縋りながら私は体中を駆け巡る快楽の痺れに体を縮こまらせ震え痙攣した。
「っう……ふ、ぅ……」
 体の力の抜き方がわからない。痙攣したままの私をエメトセルクは抱き上げ横抱きにした。包み込むように抱き締め背中を撫でて落ち着かせようとしてくれる。その手の動きですら快感に変えていく自分の体が跳ねる。
「ゆっくり息をしろ」
 低く囁く声にびくりと体揺れる。その言葉を声として認識してるのか音として認識しているのかすらわからない。短い呼吸を繰り返す。
「……っぅ……ぁぅ……」
 徐々に強張っていた体から力が抜けていくのがわかる。堰を切ったようにがくりと体から力が抜けて倒れこみそうになるのをエメトセルクの腕が支えてくれた。まだチカチカする瞳を何度か瞬かせる。
 強い快楽の波が動かない体を余韻として残して去っていったのがわかる。まだうまく力が入らない体を必死に起こそうと試みるがどうにもうまくいかない。
 エメトセルクの指がそっと私の頬を撫で顎にかかり顔を上向かせる。まだ呼吸を探してる私の唇に彼の唇が重なる。触れるだけの口づけを繰り返して離れていく。
「大丈夫か」
 呟かれた言葉を今度は声としてきちんと認識する。私は瞳を伏せたままぽつりと返答を返す。
「……こわ、い」
 エメトセルクの唇が額に降りてくる。優しく頬を撫でられて腰の奥がぞくりとする。
 何度もエメトセルクと体を重ねた。そのどれもが優しく心地良かった。
 でも、今のは違う。あの快楽の波を私は知らない。心地良さ以上の何かを伴ってやってきたそれがなんなのか私は知らない。
 薄く目を開ければ、エメトセルクの金の瞳が困ったように揺れていた。ごめんなさい、あなたを困らせたいわけじゃないの。そう口にしたいのに、言葉がうまく出てこない。
 元々、伝えるのは上手くないのだ。伝えることよりも聞くことに特化した結果、伝え方をどんどん忘れていく。
 言葉に詰まる私を見かねて、エメトセルクがぐいっと私の顔を彼の胸元に押し付ける。そのまま頭を預けさせ優しく髪の毛を梳いてくれる。顔の前を横切る手にびくりと体が震えるが、普段よりも怖いとは感じなかった。
 震える指で、その腕を掴む。縋るように腕を絡ませればその動きに合わせるように動いてくれる。髪から動いた手のひらにすりっと頬を寄せる。何度かすりすりと頬を寄せれば気を良くしたエメトセルクの指がそのまま指の腹で頬を撫で返してくる。
 落ち着いてきた呼吸に胸をなでおろす。去っていった快楽の波をあれはなんだったのだろうと思い出しかけて体が熱くなる。恥ずかしくなって今一度膝を擦り合わせスカートで覆い隠そうとしてみる。
 エメトセルクが私の動きに気がついてそっと私の手を掴む。ぱさりとスカートが落ち膝が露わになるのが恥ずかしかった。
「隠すこともあるまい」
「…はず、かしいって、ば」
 呼吸は何とか戻ったが、まだ快楽を伴った体の痺れは続いている。握られた手が熱い。もじもじと膝を擦り合わせて隠そうとするが、逆にスカートが離れていっている気がする。
 するりと背中から手が離され私の手を掴む。交代に空いた手が足先をさわさわとくすぐる。
「…っん……ふっ……」
 くすぐったさに足先をぱたぱたと動かす。掴む手にきゅっと力が入る。
「…くすぐった……ふふっ…」
 自然と笑みが漏れる。恐怖は薄れていた。
 足首とくるぶしをくるくると撫でられくすくすと声が漏れてしまう。
 その指がふくらはぎを通り膝頭をさわりと撫でる。膝をこすり合せると動きに合わせてスカートがさらに広がる。
 そのまま太ももをするりと撫でられびくんと足が跳ねる。スカートを直そうと手を離そうとするが思ったよりもがっちり掴まれて動かすことができない。先程までの激しさとは違う、やわやわとした感覚に身を捩る。
「……っう……ぁぅ……」
 気恥ずかしさとくすぐったさと気持ち良さで声が漏れる。太ももをするすると撫でる指がすいっとスカートの短い部分を持ち上げる。それを口元に押し当てられ思わず咥える。
「離すなよ」
 楽しそうな声が降りてくる。自らスカートを咥え見えるようにする姿が恥ずかしくて顔が赤くなるのがわかる。
 するするとエメトセルクの指が私の下着を下ろしていく。露わになる秘部が恥ずかしくて膝を擦り合わせる。
 伏せがちになる瞳に、見ていろと声がかかる。目を開けば白い自分の膝が視界に飛び込んでくる。その膝頭からゆっくりとエメトセルクの指が太ももの合わせ目をなぞる。足の付け根の合わせ目をくすぐるように撫でられ足の力が抜けていく。
 エメトセルクの指が秘部の割れ目を撫でていく。一度絶頂に達しているそこはぬらりと湿り気を帯びていた。触れるたびにびくりと腰が跳ねる。
 エメトセルクの手が私の尻を掴んで体をずらす。彼の膝を枕に背中をベッドにつける形にさせられ自分の体の小ささを再確認する。くいっと膝を曲げられたと思った次の瞬間には、彼の指が割れ目を撫でることを再開し始める。
「……んぅっ……」
 スカートを咥えたままではくぐもった声しか出ない。ぴちゃりぴちゃりとわざと水音をたてながらエメトセルクの指が割れ目を撫で秘部の入り口を捏ねる。ゆったりとした快感に足が震え腰が跳ねる。
 その指にたっぷりと蜜を纏わせエメトセルクの指が尻の蕾をなぞる。蕾をとんとんと叩かれるたびに痺れるような快感が体を駆け巡る。ぐるりと縁を描くように蕾のヒダに愛液を塗りつけ、エメトセルクの指が蕾を割り開く。さしたる抵抗もなくぬるりとその指先が差し入れられその感覚に思わず目を瞑る。一度抜き取りまた秘部からたっぷりの愛液をすくい取った指が蕾から一気に奥まで割進んでいく。
「…っあ、あああぁっ!!」
 思わず漏れた嬌声、開かれた唇からぱさりとスカートが落ちる。私の手を離したエメトセルクの指があやすように頬を撫でる。その間にも埋め込まれた指が胎内を蠢く。
 行き場のなくなった手で口元を覆いかけると、声を聞かせろと埋め込まれた指が動かされる。伸ばしかけた指で胸元をきゅっと掴んだ。
「ほら、目を開けろ」
 瞼を指でなぞられながら声をかけられ、おそるおそる目を開く。楽しそうな金の瞳が私を見つめている。
「…っう……あぁっ!」
 何かを言いかけた唇は、指の抜き差しによって喘ぎ声を漏らす。抜いて差し込まれるぞくりとした快感に背筋が粟立つ。にちにちとわざと音を立てるように攻められ恥ずかしさで目を伏せたくなるのを堪える。
 その指先がある一点を撫でた時、ぞわりとした感覚が起こる。びくりと跳ねた腰の動きが普段と違う。
「っ、う……? っふ、あぁっ……?」
 エメトセルクも気づいたのかその一点をゆるりと撫でる。腰の奥が痺れる。力が抜ける。
「…っう?? あ、あぁぅ……っ!」
 強く撫でられびくりと体が跳ねる。かぶりを振る私に、ここがいいのかと執拗に撫でながらエメトセルクが声をかけてくる。
「あ、ああぁぁぁっ、な、やっ…! っぁああぁ!!」
 跳ねる腰を、上がる嬌声を止められない。ゆるりとした快感とは違うびりびりとしたそれに思考が分断される。
「や、あ、あああぁっ!! な、に、っぁああぁ!!」
 見開いた瞳からぱたぱたと涙が溢れる。頭の中が真っ白になっていく。また、知らないあの感覚がやってくるのを感じる。
「や、あ、ああぁぁっ!! …エ、メ…っやあぁぁっ!!」
 快楽と恐怖で伸ばした手をエメトセルクの手が包み込む。
「や、らっ……っ!! やらぁっ……!!」
 駆け上がってくる快感が強すぎてどうしていいのかわからない。縋り付いた腕に爪を立てるように強くしがみつく。
 エメトセルクの指が少し強めにぐりっと胎内を撫でる。
「や、あ、あああぁっ!!」
 私はその感覚に二度目の絶頂をする。きゅうと締まる内壁がエメトセルクの指の形をまざまざと脳裏に届けてくる。
「っぁ、あ、あ……」
 体をくの字に小さく折り曲げて強すぎる快感をやり過ごそうとする。痙攣するように跳ねる体からエメトセルクの指が引き抜かれ今一度大きく体が跳ねた。真っ白に塗りつぶされた視界に少しずつ色が戻ってくる。
 私のすがりつく指を絡めたまま、エメトセルクの手があやすように頭を撫でる。膝頭をそっと押されて私の足がベッドの上に着地する。そのままずるりと力が抜け足が伸び指の力が緩む。
 目を何度か瞬いてエメトセルクを見上げれば、その腕に爪の食い込んだあとが見えた。震える指を動かしてそこを撫でればエメトセルクが愉快そうに笑った。
「まだ怖いか」
 私の体を今一度横抱きに起こしながらエメトセルクが声をかけてくる。その胸に頭を預けながら私は小さく、少しと答える。
 大きく何度も深呼吸して呼吸を整える。その動きに合わせるようにエメトセルクの手が私の頭を撫でる。
 呼吸が整ってきたのを見て、エメトセルクの手が頭から頬をなぞり唇に触れる。ぷにぷにと唇を押されていたずら心でその指先を食む。食んで舌先でぺろりと舐めれば気を良くした指がさらに唇を押して遊ぶ。
 何度か同じ動きをしてから、エメトセルクに向き直って彼の顔を見上げる。どうした、と首をかしげる彼に唾を1つ飲み込んで口を開く。
「……口で、して、いい?」
 自分で言った言葉に恥ずかしくなって目をそらす。エメトセルクの両の手が私の頬をふわりと包む。
「情熱的な誘いだな」
「…私だけ、が、嫌なだけ」
 ぷいっと顔を背けようとするがその手に阻まれてできない。うりうりと頬を押され気恥ずかしさが増す。
「……いい?」
 小さく見上げて尋ねれば了承を示す口づけが降りてくる。何度か触れ合って体を離す。
 ベッドから一度降りてエメトセルクに向き直る。状況を察したのか彼もベッドの端に腰掛け直す。その太ももの間に膝をつく。頭上から降りてくる手にびくりと震える。
「…まだ怖いか」
 先ほどとは意味が違う尋ねる声に私は小さくごめんなさいと答える。この怯えは、多分永遠になくならない。
「責めるな」
 優しく頭を撫でられて泣きそうになるのをこらえる。大丈夫と小さく呟いて私はそっと彼のコートに手を伸ばす。
「……脱いで」
 ぷくりと口を膨らませて見上げれば肩を竦めたエメトセルクが指を鳴らしてコートを脱ぎさる。
 そのズボンに改めて手を伸ばす。布越しに張り詰めた股間をなぞる。ぎちりと音を立てそうなほどそこは大きくなっていた。
 そっとズボンから開放すれば、大きな彼自身が姿をあらわす。何度見てもその大きさに圧倒される。
 指を絡めて彼自身をそっと包む。自分の方へ少し倒してその先に恭しく口づける。ぴくりと動く彼自身に私の中もじわりと揺れる。口づけの間に舌を差し出しぺとりと這わせる。先端の割れ目をなぞりそのまま段差を舐めとる。ちゅくっと音をさせて舐めればどくりと彼自身が震え熱くなる。固さを増していく彼自身を舐める自分の芯がまた燃え上がる。
 その先端を舐めながら絡めた指に少しだけ力を入れ上下に掻く。ゆるゆると動かしながら体を寄せる。一度口を離して大きく息を吸い込む。呼吸を安定させてから、口を大きく開いて口内に彼を招き入れる。サイズオーバーなそれは先端と少しを含んだだけで口内を満たす。喉の奥の奥まで招き入れようとする私の頭を少し震えた彼の手が撫でていく。
 咥えたまま頭ごと上下に動かして刺激を与える。固さを増す彼自身が口内でまた大きくなる。どくどくと脈打つその感触に私の胸も早鐘を打つ。
 私の動きだけで達することはないのは知っている。ともすればゆるゆるとした刺激は生殺しでさえあるだろう。それでも感じて欲しいと思う心は止められないし体も止まらない。
 口内から一度彼を引き抜き先端に舌を這わせる。そのまま唇で食みつつ舌を添わせながら真っ直ぐ下ろしていく。どくどくと脈打つ筋張った場所を優しく舐めればどくりと大きく跳ねる。指先で先端をくるくると撫でれば溢れてきた汁を感じる。指先に絡めて広げればにゅるりとした感覚で指が滑る。下ろした唇を同じルートで先端まで戻して、溢れる汁を舌先で舐めとる。
「……っん……」
 ぬるりとした痺れるような感覚に思わず口を離す。エメトセルクの指が私の耳の先端を捏ねる。指先で彼の根元を押さえたままもう一度舌を這わす。痺れるような感覚は舌ではなく自身の脳に走っていると気づく。痺れが脳から全身を巡り腰の奥でじんわりと熱を伴って停滞する。
 はらりと散らばった前髪をエメトセルクの指がするすると梳きながら整えていく。その指先の動きにぴくりと反応しながら私は彼から口を離す。すりっと彼自身に頬を寄せて見上げる。
「…きもち、いい?」
 ぴたりと私を撫でていた手が止まる。陰になり伺えなくなった顔色を見ようとのぞき込もうとして頬に手を添えられる。触れる指先がじわりと熱い。こんなに熱を持つような人だっただろうかとその熱に体が震える。
 その指がするすると私の唇を撫でる。ふにふにと柔らかさを確かめた後、ゆっくりと口内に指が侵入してくる。前歯をなぞられてぞわりと背筋が粟立つ。
「んあっ……ふっ……」
 二本の指で口内を隅々までなぞられて嗚咽にも似た声が漏れる。閉じることのできない唇から唾液が漏れる。撫でられるたびに腰が跳ねぞくりとした快感がからだ中を駆け巡る。舌の上を少し強めに押すように撫でられ彼自身を掴んでいた手に力が入る。手の中でどくりと脈打つそれに意識を持っていかれそうになると、彼の指が私の口内を撫で揺り戻す。
 口内から指が引き抜かれる頃には視界すら歪んでいた。漏れ出た唾液をその指が拭う。
「…ひゅ……ぅ……」
 体から力が抜けているのがわかる。荒くなった呼吸を整える私の頬をエメトセルクの両の手が包む。ぴとりと彼自身を唇にあてられて察する。早鐘が耳にうるさくこだまする。
 ひとつ唾を飲み込んで、私は口を開く。頬に添えていた手がそっと私の頭を支える。開いた唇に彼自身が入り込んでくる。歯を立てないようにだけ気を付けながら口内へ招き入れる。
 頭に添えられていた手に力が入る。掴んで前後にゆすられる。徐々に早くなるその動きにくぐもった音が喉から出る。体を支えるために彼自身から手を離し床に両手をつく。ひやりとした床の無機質な質感が指の熱を奪っていく。目を閉じて彼を口内で感じる。脈打つ彼の固さと熱が増すたびに動かされる頭も早くなる。飲み込めないギリギリまで何度でも穿たれ涙が自然と溢れる。淫靡な音とエメトセルクの荒い息が部屋に溶けて消えていく。
「…っ、出す、ぞ」
 喉の奥へ叩きつける様に頭を押し付けられ、どくりと口の中に性が発射される。その勢いに思わず目を見開く。涙がぱたりと落ちていく。すぐに口内から溢れそうになる性を必死に嚥下する。ぴりぴりと脳が痺れる。腹の中へ落ちていく性を感じてか腰の奥がじわりと熱くなる。飲み切れなかった性が唇の端からこぼれ落ちる。そっと両の手でそれを受け止める。
 ゆっくりと口から引き抜かれた彼自身にそっと口づけを降らす。口内に残った性をこくりと飲み干すとエメトセルクの手が優しく私の頭を撫でた。
「飲み干したのか」
 大きな指が優しく私の口元を拭う。見上げれば優しく揺れる金の瞳が私を見ていた。私の手の上に溢れた性が乗っているのを見てエメトセルクはそっとハンカチを取り出した。絹の手触りがさわさわと手のひらの上を滑っていく。
「少し水を飲め」
 口元も綺麗に拭って、机の上の水差しからグラスへ水を注ぎ手渡してくれる。震える手でそれを受け取ってゆっくりと喉の奥へ流し込む。火照っていた体が冷たい水分で幾分か落ち着く。グラスの中身を飲み切ったのを確認してエメトセルクが私の手からグラスを取り上げる。
 見上げる私の顔の前にエメトセルクが大きく手を広げる。反射的に目を閉じて震えてしまう。どこまでも優しく頭を撫で髪を梳くその手を震えたまま受け入れる。
「立てるか」
 尋ねられて瞳を開く。差し出された手とエメトセルクの顔を交互に見てからそっとその手の先に自分の指を添わせる。くいっと立つように促され素直に立ち上がる。ゆっくりと引き寄せられるままベッドの縁に膝を乗せ、彼の肩口に顔を埋めその首に手を回す。ゆったりとした動きで頭を撫でられぱたぱたと浮いた足を動かす。ふわりと香るオーデコロンの香りが鼻腔を満たしていく。
 背中を撫でていたエメトセルクの手がするりと腰へ降りてくる。腰の真ん中のこそばゆいところをなぞられてぴくりと震える。反応を楽しむようにするするとなぞられてびくびくと腰が跳ねる。
 何度も撫でて満足したのか、スカートの脇からするりと手が差し入れられる。さわりと尻を撫でられてきゅっと足を閉じる。感触を確かめるようにさわりさわりと撫でられてびくびくと跳ねる。
 その指がそっと後ろから秘部の割れ目に触れる。にゅるりとした感触を感じ顔が赤くなるのを感じる。その肩にさらに顔を押し付ける。その動きに気を良くしたのかエメトセルクの指が何度も割れ目を往復する。にちにちとした淫靡な水音が部屋にこだましていく。
「……っんぅ……っあぅ……」
 ゆるゆるとした刺激に喉の奥からくぐもった喘ぎ声が漏れてくる。止められない声と快感にかぶりを振る。蕾にも花弁にも触れないただなぞられるだけの動きなのに愛液が溢れて止まらない。
 エメトセルクがそっと私を抱き上げてベッドの上に下ろす。覆い被さる影に期待と不安で震える。ぎしりと2人分の重さでベッドが軋む。
 腰を掴まれ熱と固さを取り戻したエメトセルク自身を腹の上にぴとりと添わされる。その先端が当たる部分をとんとんと叩かれる。
「…ここまで、入るぞ」
 告げられてぞくりと背中に緩い電流が走る。
「……っふ……う、ん」
 とんとんと叩くその指のリズムを眺めながら私はこくこくと頷くことしかできない。これから穿たれ蹂躙されるという事実を突きつけられて、その想像だけでびくりと震えてしまう。口元を覆い隠そうとした手を止められる。
「隠すな」
 行き場のなくなった手で胸元をきゅっと掴む。どくどくと心臓が早鐘のように鼓動を鳴らす。
 添わされていた彼自身がずるりと動く。合わせるように腰を持ち上げられて恥ずかしくて顔が赤くなる。割れ目に添わされゆるゆると前後に動かされる。その先端が時折私の花弁を叩いてびくりと震える。
 ぴとりと入り口に彼の先端があてがわれる。びくりと震えて見上げれば金の瞳と視線が交わる。
「…優しくはできんぞ」
 色んな言葉を飲み込んで、エメトセルクは短く告げる。私はそっと彼に手を伸ばす。その頬を指の先端でさわりと撫でる。
「…いい、よ」
 ぱたりとベッドの上に手を落とす。
 ぬちゅりと淫靡な水音を立てながら、エメトセルク自身がゆっくりと私の中へ侵入してくる。割開かれる肉の感覚に腰の奥がぞわぞわと粟立つ。シーツを強く握りしめる。感触を確かめるようにじわりじわりと打ち込まれていく熱い杭に、押し出されるように息を吐き出す。
「……っふ、ぁ……」
 たっぷり時間をかけて私の中、奥の奥まで彼自身を入れ込んで、今一度とんとんと腹を指で叩かれる。握りしめていたシーツから手を離して腹の上に添える。エメトセルクの形に歪んだ自身の腹をそっと撫でる。その形をありありと感じて体が震える。
「入ったな」
 問いかけにこくこくと頷いて答える。奥の奥で熱を放ち固さを増していく彼自身を感じて嬉しくなる。エメトセルクの瞳が私を見つめて優しく歪む。
「……お、く」
「あぁ」
 その瞳が伝えてと告げている気がして、震える声を絞り出す。楽しそうな声で相槌が返ってくる。
「……っふ……いっぱい…」
 ゆるりと撫でれば腹の中で彼自身がどくりと脈打つ。穿たれた場所が熱い。
「……うれ、しい」
「そうか」
 大きな手がそっと私の頬を撫でる。その手が頬の横に置かれる。
「…動くぞ」
 告げられた言葉に一度こくりと頷いて、腹の上をなぞっていた手で今一度シーツを掴む。ずるりと入り口まで抜かれた彼自身が一呼吸置いて私の中へ戻ってくる。それを合図に抽送が開始される。
「っふ…っ! ぁ、ぁああぁぁぁっ…!!」
 ぞわりとした感覚に声が上がる。打ち付けられる腰のリズムにびくりびくりと跳ねる。引き抜かれては戻っていく彼自身が熱い。
「っあ、あぁっ…ぅああぁっ…!!」
 強すぎる快感に何度も瞳を瞬かせる。瞳の端に溜まった涙がその動きに合わせてぱたりぱたりと落ちていく。ぱちゅりぱちゅりと水音が耳に届いてその音だけで震える。
 徐々に深くなるグラインドに喉を反らせる。穿たれる彼自身が私の中でどくどくと熱く脈打つのがわかる。ぞわりぞわりと腰の奥から快感がやってくるのがわかる。
「ああぁぁぁ…やぁっ……っう……あああぁっ!!」
 かぶりを振って快楽を逃がそうとしても次々に与えられて跳ねることしかできない。とんとんと奥の奥を何度もノックされびりびりと電流にも似た快感の痺れが私を襲う。
「うあぁぁ…やらぁ……っお、く……っ!!」
「奥が好きだものな」
「うあぁっ……っふ……うん、うん…っ!」
 とんとんと叩くリズムに合わせて私は首を縦に振る。荒くなっていくお互いの息に限界が近いことを悟る。
「あ、ああぁっ……エ、メ……っやぁっ…!!」
 早くなるグラインドに、奥の奥まで穿たれる快感に、頭が真っ白になる。何も、見えない。
「…っ…受け取れ」
 短く告げたエメトセルクの声を合図に、奥の奥へ差し込まれた彼自身から熱い欲望が叩き込まれる。びくりと内壁が大きく跳ねて痙攣しながらそれを飲み込んでいく。反った喉から音にならなかった嬌声が喉を震わせた。
 ずるっと彼自身が入り口まで引き抜かれる。栓をするようにその場所で留められ私はびくびくと跳ねる。何度も目を瞬かせ潤む視界に楽しそうな金の瞳が歪むのが見えた。
「ほら、見てごらん」
 優しく声をかけられて視界を動かす。エメトセルクの欲望で膨れ歪む自分の腹が見える。恥ずかしくなって目を逸らそうとすると、ちゃんと見ろと愉悦の滲む声がする。
 エメトセルクの手がシーツを握りしめた私の手を掴んで腹の上に落とす。一度出した直後なのにどれだけの量が出たというのか…考えて頭がくらくらしてくる。歪む腹をそっと撫でてまた恥ずかしくなる。ぞくりと体が震えてまだ入り口にいる彼自身をきゅっと締め付ける。
 エメトセルクの手が私の体を浮かし、繋がったままくるりと体を反転させられる。うつ伏せにベッドの上に降ろされる。腰は高く持ち上がり、つま先だけがさわりとシーツに触れた。顔周りのシーツを手繰り寄せ、顔を押し付けるように恥ずかしさから逃げようとする。
 ずちゅりと彼自身が私の中に埋め込まれる。押されて溢れた性がパタパタとシーツへ落ちる音がする。その感覚に内壁がきゅうと締まりどくどくと脈打つエメトセルク自身の熱を伝えてくる。奥の奥で固さと太さを取り戻していくのを感じて振り返ろうとする。
「っう、ふ……?」
「どうした」
 ゆるりと内側で蠢かれ腰がぞわりとする。
「……っあ……ま、た…おおき、く…」
 びくりびくりと内壁が締まればそれに答えるように熱が返ってくる。ゆっくりと抽送が再開され喘ぎ声をあげる。
「っあぁ……ま、って……わたし、まだ…っ!」
「待たない」
 短く告げたエメトセルクが強く奥の奥を突く。喉が震え高い音の嬌声が部屋に響く。
「……待てない」
 がつがつと音がしそうなほど強い抜き差しに目の前がちかちかする。絶頂の頂きから降りてこれないままさらに上へと追い詰められていく。
「あああぁ!! や、ああぁっ!! ら、めっ!! はやいぃっ!!」
 先程よりも早いテンポの抽送に跳ねる腰が止められない。押し出される2人の愛液がシーツに染みを作っていく。腰を掴まれ一方的に与えられる快感に瞳の端からとめどなく涙が溢れる。
「あああぁ!! …や、らぁっ!! っうあああぁっ!!」
 コントロールを失った快楽が脳をびりびりと痺れさせる。もっとと蠢く体ともうダメと訴える心のアンバランスさにくらくらする。どちらが本当なのかもうわからない。
 ずちゅりずちゅりと淫靡な水音が、たんたんと打ち付けるリズムが、2人の荒い吐息の音ですら快楽の信号に変えていく。
 ぐいっと腰を一段高く持ち上げられる。さらに奥まで入りたいと押し付けられる彼自身に背筋がびくびくと跳ねる。
「あぁっ…ああぁぁぁっ!! やぁっ…ふかいぃ…っ!!」
 奥の奥をノックする音がどんどんと強くなる。ぐりぐりと押し付けられるその場所に強い快感が走る。
「やあぁぁっ!! やらぁっ……エメ、ト……ぁあああぁぁぁっ!!」
 真っ白になっていく視界と思考に、強い快感が覆い被さってくる。3度目の強いあの感覚を感じて目を見開く。
 怖い気持ちとは裏腹に、体はどこまでも愚直に彼の性を求める。その欲望を奥の奥で迎え入れるために内壁がきゅうきゅうと締まる。熱と固さを私に伝えてくる。
「やらぁっ…また、きちゃ…っ!!! や、あ、ああぁっ!!」
 きゅうと締める私に合わせるように、エメトセルクの欲望が膨れ上がり注ぎ込まれる。びくびくと跳ねながら私の体はそれを嬉しそうに受け止める。こぷりと接合部から音がして受け止めきれなかった性がこぼれていく。
 痙攣を繰り返す内壁を擦るようにゆるりとエメトセルク自身が動く。その刺激すら強すぎて体が跳ねる。ぐちぐちと淫らな水音が部屋に響く。
 振り返りながらエメトセルクへ手を伸ばす。その手を掴まれてふるふると首を横に振る。
「優しくできんと言っただろ」
 どこにそんな体力を隠していたのか、ぐいっと奥をひと突きされて喉が跳ねる。
「…ひぅ…っこ、われ…る…っ!」
 こつこつと奥を叩く感覚に背筋が反る。いやいやと首を振る私を楽しそうに金の瞳を歪めてエメトセルクが見下ろしている。ゆっくりとけれど確実にエメトセルクの腰が動き私の中を蹂躙していく。ぞわりぞわりと這い上がってくる快感に追い込まれる。
「壊れてしまえ」
 放たれた言葉にぞくりと背筋が凍る。冷たく響いた声とは裏腹にその表情はどこまでも優しい。
 ずるりと引き抜かれた彼自身が間髪入れずに尻の蕾に添えられる。ぞくりとした感覚に目を見開いて悶える。逃げようにも抑えられた腰と手はがちりと掴まれ動けない。
 いやだ、と声を上げる間も無く蕾を割って怒張した彼が入り込んでくる。みしりと割り開かれる感覚に強く目を閉じて耐えようとする。奥へ奥へ歩みを進めるその感覚を否応なしに感じてくぐもった声が漏れる。最奥を一突きして彼のすべてが埋め込まれたと私に知らせてくる。
「うっ……っあぁぅ…」
 いっぱいに開かれた蕾のじくじくとした感覚に、奥の奥でどくどくと脈打つ彼の感覚に、脳の処理が追いつかない。熱い。熱くて痺れる。打ち込まれた杭に反らされた体に電流にも似た快感が何度も流れる。
「こちらを見ろ」
 思ったより近くで響いた声にうっすらと瞳を開けば、すぐそばに迫った金の瞳と視線が交わる。視線を逸らせないままずるりと引き抜かれた彼自身が勢いよく穿たれる。
「っあああぁぁぁっ!!」
 その強すぎる快感に喉がひきつる。緩急をつけて差し込まれるその快感に瞳の端に涙が浮かんでは落ちていく。先程よりはゆっくりと、けれども差し込まれる熱量は先程よりも上回っているその抽送に心だけでなく体すら追いつけなくなる。
「ひあっ……ぁああぁぁっ……っふぁ……あぁぁっ!!」
 喉を震わす嬌声ですらもう制御できない。ただ獣のように叫ぶことしかできない私の耳をエメトセルクの唇が食む。ちゅくりと音を立てて舐められ不規則に腰が跳ねる。
 早くなる抽送に、大きく強くなる脈動にエメトセルクが4度目の性を放出しようとしているのがわかる。追い上げられ常に震え跳ねる体が意思とは無関係に一番奥でそれを飲み込もうと反応する。その様子を感じてかエメトセルクの動きがさらに早くなる。
「飲み込め…っ!!」
 突き刺すように差し込まれたエメトセルクから注ぎ込まれる性を奥の奥で飲み込んでいく。注ぎ込まれる感覚にぞわぞわと肌が粟立つ。その感覚すら快感に変えていく。掴まれていた腕を離されて重力に逆らわずぱたりとシーツの上に落とす。ずるりと引き抜かれるエメトセルク自身を追いかけて飲み込み切れなかった性が股の間を濡らしていく。
 力の入らない四肢をベッドの上に投げ出す。汗と体液でべとべとになった体の上にエメトセルクが覆い被さる。額に貼り付いた前髪をその指で避け口づけを降らしてくる。それを受け止めることしかできない。力なく落ちる腕をそっと掴まれて引っ張られる。
「……うぅ……」
 うめき声を上げながら抱き起こされる。壁に寄り掛かったエメトセルクは横抱きにした私を抱きとめる。立てた膝に背を預けるが支えのきかない体はぐらりと倒れそうになる。両の手で支えられてようやく揺れていた体を落ち着ける。
 早鐘を打つ心臓とは逆に呼吸はすんなりと落ち着いていく。もたれかかったエメトセルクの胸元から響く少し早い心音に耳を澄ます。少し早くて熱を持ったそのリズムに私の心音が重なる。
 ただ抱きしめるだけだったエメトセルクの腕がゆるりと動いて私の頬をつつく。ゆるりと頬を撫でながらゆっくりと私の顔を上向かせる。ぼんやりと見つめる金の瞳がゆらゆら揺れている。
「……泣き、そうね」
 うまく回らない舌でぽつりと漏らす。視点が定まらないせいで、2人の視線は交わっては離れていく。
「…泣いてるのはお前だ」
 目元を拭われてはじめて涙を流していたことに気付く。ぱたぱたと落ちる涙をエメトセルクの唇が受け止める。
 涙の流れる理由を心のどこかで理解している。終わりの時が近いのを感じている、そのせいだ。
 震える体を起こそうとする。支えられたまま背筋を伸ばして一度大きく深呼吸する。小さく頭を振ってからエメトセルクを見上げる。首をかしげてこちらを見るその金の瞳を見つめる。
 言い出せない言葉を飲み込んで手を伸ばす。そっとその首元を掴んで抱きつこうとする。動きを察してエメトセルクの腕が支えてくれる。首に両腕を絡めてその肩口に顔を埋めれば、彼の大きな手がとんとんと背中を叩いてくれる。その手にまだ熱が籠っているのを感じる。
「…エメト、セルク」
「…なんだ」
 大きな手で私の頭をゆっくりと撫でながら次の言葉を待ってくれる。優しくできないなんて嘘じゃないか、そう言いたくなる。一度その肩口に顔を埋めてうりうりと首を振ってから、顔を上げる。
「……ちゃんと、抱いて」
 その耳に唇を寄せて小さく呟く。全身の血液が沸騰するような熱を感じる。恥ずかしい、恥ずかしくて熱い。
 今一度肩口に顔を埋めようとして、体を引きはがされる。顔をのぞき込まれて恥ずかしくて手で顔を隠す。探るようにその手に口づけを落とされる。
「……情熱的、だな」
 指先をちゅくりと食まれてびくりと震える。おそるおそるずらした手の間から金の瞳が覗き込む。交わった視線が反らせない。
 そっと両の手でエメトセルクの頬を撫でる。どちらともなく唇を重ねる。触れては離れる口づけを何度も重ねる。
 そのままとさりとベッドの上に下ろされる。両手を一杯に伸ばせば導かれるようにエメトセルクの頭が私の肩口に埋まりにくる。ぺろりと首元の傷痕を舐められて肩が竦む。
 投げ出された足をその大きな指がなぞっていく。ぴくりと反応する体が今一度熱を灯していく。
 首筋から頬を撫でた唇が、覆いかぶさるように私の唇を塞いでいく。吐息ごとその唇に覆われ吸い上げられる。ゆっくりとなぞるように口内を舌で撫でられびくびくと腰が跳ねる。舌と舌を絡ませて互いの唾液を混ざり合わせる。くちゅくちゅと口内から耳へ響く音がぞくりと肌を粟立たせる。口づけの間に優しく頬を撫でられて熱量のアンバランスさにくらくらする。
 足をゆるりとなぞっていた指がそっと秘部に向かっていく。期待と不安で思わず閉じようとする膝の間にエメトセルクの膝が差し入れられる。その太ももに膝を擦り寄せる形になってしまい恥ずかしさで震える。
「…っ…ふ…」
 ねちゅりと音を立てながらエメトセルクの唇が離れていく。2人をつなぐ唾液の糸が水面の揺らめきのようにゆらりと揺れる。
 エメトセルクの指が秘部の割れ目をゆるりと撫でる。何度も果て受け入れた体は少し擦るだけで火を灯す。喉を反らせて大きく息を吐く。
 くちゅりと音を立てて割れ目が開かれる。とろりと漏れ出す愛液はどちらのものともつかない。くちくちと湿った音が響く。行き場を失った両の手でエメトセルクのシャツを掴んだ。
「既にとろとろだな?」
 耳元で低く囁かれてびくびくと体が跳ねる。その声すら快感に変えていく。囁いたまま耳を舐められて首を竦める。
 入り口を撫でていた指がゆっくりと私の中に沈めこまれていく。内壁をゆるゆると擦られて堪えていた声が上がる。
「……っふ……あぁぁっ……」
 擦りながら奥まで差し込んで引き抜き今度は2本の指を埋め込まれる。奥の奥まで差し込まれゆっくりと開かれる。その圧迫感にひゅっと喉を鳴らす。開かれた隙間からその指を伝って残されていたエメトセルクの欲望が流れだす。その奥から新たに愛液が生み出されその指を湿らせていく。奥まで差し込まれた指がゆっくりと内壁を擦りながら挿入を繰り返す。
「……ふ、あっ……っう……」
 ゆっくりと追い上げてくる指の動きに腰が蠢く。自然と動き出す腰を抑えられない。
 エメトセルクの指がゆっくりと引き抜かれる。くちりと音をたてながら引き抜かれて腰が震える。見える様に指を広げてねとりと広がる愛液を見せつけられて顔が真っ赤になる。
 エメトセルクが私の膝を割り開いて自身の体を滑り込ませる。私の腰をゆるく持ち上げると、すっかり元気になった彼自身が私の割れ目に沿わされる。どくどくと脈打つ彼自身にほっとため息が出る。
「…なんだそのため息は」
 小さく吐息と共に漏らしたため息を問いただされ肩を縮める。
「…もう、大きくならないかな、って」
「なりそこないと一緒にするな」
 ぐちりと動かされてくぐもった喘ぎ声を飲み込む。
「…アシエンは魔法を使うからとおまえたちは侮っているのかもしれないが…私は皇帝まで登り詰めた男だぞ」
 ぐちぐちと割れ目に押し当てられる彼自身が私の愛液でぬらりと光る。先端が私の花弁を叩きその感触に腰が何度も跳ねる。
「…ましてこの体は全盛期の肉体だ。この程度造作もない」
 ずいっと顔が迫る。吐息の混じる距離で見つめられ息が詰まる。
「お望みとあらばおまえが狂うまで攻め続けてやろうか?」
 声は愉悦を含んでいるが、目が全く笑っていない。その金の瞳から目が離せないまま小さくふるふると首を振る。
「…冗談だ」
 離れていく瞳が弧を描いているのを見てほっとする。この男、言い出したら聞かないところがあるのを失念していた。
 ゆるゆると動く彼自身の動きで快感に意識を持っていかれる。
「……んっ」
「狂ってしまうおまえを見たくもあるが…」
 発言に思わず目を見開く。どこか真剣なまなざしで見つめられ目が反らせなくなる。
「今はただ、啼かせたい」
 ずるりと動いたエメトセルク自身が私の入り口にその先端を押しあてる。ぞくりと背中が総毛立つ。ちゅぷちゅぷと音をたてながら入り口に何度も押しあてられて喉の奥で喘ぎ声を飲み込む。
「良い声で啼け」
 ずくりと埋め込まれる彼自身に喉が跳ねる。ぞわりとした感覚のあとに腰の奥から快感がせりあがってくる。一気に奥まで穿たれて嬌声が漏れる。
「…っうぁぁ…ふ、ぅ…」
「もっとだ」
 声を合図に深いグラインドが私を襲う。角度をつけて抜き差しされるそれに声が止められない。
「っ、ぁあああぁぁっ!! …うぁ、あぁぁっ!!」
 ずちゅずちゅとわざとたてられた淫靡な音が鼓膜を震わせる。その音だけでも追い上げられるのに、内側を擦られる感覚にさらに快感が倍増される。
 エメトセルクの指が頬をなぞる。熱に浮かされる瞳で彼を見ればその瞳も潤んでるように見えた。シャツを握る指にさらに力が入る。
 エメトセルクの腕が腰と背中に回され抱き起される。重力に逆らえず落ちる体の真ん中を彼自身がより深くまで穿っていく。
「ああぁぁぁっ!! ……っんあぁぁ…」
 エメトセルクの胸元に頭を埋め呼吸を整えようと肩で息をする。その肩に触れた彼の手が私の顔を上向かせる。閉じかける瞳はぐりっ埋め込まれた彼自身を揺らすことで開かれる。
「ふ、うぁ…ん…っ!!」
 エメトセルクの唇が降りてくる。触れるだけの口づけを何度か繰り返して感触を確かめた後、覆い被さるように唇を塞がれる。口内を弄る舌の動きに合わせて彼の腰がゆるりと抽送を再開する。舌と舌を絡め吸われながら奥の奥をこつこつとノックされ息が詰まる。唇を離された瞬間に勢いよくグラインドされて喉が反る。
「っあああぁぁぁっ!! …あぁぁっ…!!」
 淫靡な水音が部屋に反響する。私の叫ぶような喘ぎ声が狭い部屋を満たしていく。声を抑えようとすれば、聞かせろと耳元で低く呟かれ腰の奥がじわりと快感で震える。
 早くなるグラインドが私を追い上げていく。何度も奥を穿たれるその快感で開いた瞳から涙が零れ落ちる。
「や、あ、ああぁぁぁっ!! …ら、め…っあああぁぁぁっ!!」
 やだとダメを繰り返すことしかできない。体の真ん中を何度も穿たれる快感は目の前を白く染めていく。何度も果てた体は普段よりも敏感で、ほんの少しの刺激でどこまでも追い上げられていく。
「なにがダメなんだ」
 わざと淫靡な音を立てながらエメトセルクの腰が揺らめく。その小さな動作にすら快楽を見つけ体が震える。
「あああぁぁ…らめ…っあぁ…」
 かぶりを振って快楽をやり過ごそうとしても、新たな快楽を植え付けられて逃げられない。耳に口づけを降らしながら低い声で今一度問いかけられて体が跳ねる。
「っああぁぁっ……らめ、ぇ…っこわ、い…っ!!」
 快感の波にさらわれて視界がちかちかと白く染まる。金の瞳を見つめ返したいのにそれすらできなくて彼のシャツを掴むことでそこにいることを認識する。
 快感に体も、意識も、全部持っていかれそうでこわい。4度目の波がそこまで来ているのがわかる。それに耐えられる自信が、ない。
「っぁ……ぉね、がい……こわ、い…っ!!」
 懇願する私の声に、エメトセルクの唇が瞼に降りてくる。止まらない攻めが私を追い上げていく。嬌声の間に息継ぎをすることすら難しくなっていく。
「良い声だ」
 何度も瞼に、頬に、耳に唇が落とされる。低く囁かれる声が腰の奥から新たな快楽を連れてくる。こわい、すぐそこに迫る気をやってしまいそうな強い快感の波がこわい。
「最後まで聞かせておくれ」
 呟くように言われた小さな声に快感の波がかぶさりうまく聞き取れない。聞き返そうと目を見開くけれど明滅を繰り返す視界には困ったように笑うエメトセルクの顔しか見えない。
「っあ、ああぁぁっ…エメ、ト……っあぁ!!」
 頭と腰を抱える様に支えられ、抽送が早くなる。あの感覚がやってくる、それだけがわかる。強く、強くエメトセルクにしがみつく。
「や、あ、あぁぁぁっ!!」
 溢れ落ちる涙が弾けて霧散する。淫靡な水音が早く短くなる。膨れ上がるエメトセルク自身が私の中に欲望を放とうと大きく腰を打ちつける。
「…全部もらい受けるぞ」
 呟いたその声だけがやけに鮮明に聞こえる中、私は強い快感に意識を手放した。

 黒いドレスを翻して猫のような耳をピンと立ててヤ・シュトラはアーモロートの街を走り抜ける。大切な友のエーテルの残滓を辿るように一点を目指して走る。
 静かにエーテライトの揺蕩うマカレンサス広場…そのエーテライトの前に小さく佇む人影を見つけて、ヤ・シュトラはさらに足を速めた。
 黒いコートを着た少女はエーテライトの前に佇んでいた。その横顔を柔らかい輝きが照らしている。その虚ろなどこも見ていない瞳に慌てる様にヤ・シュトラは少女の肩を掴んだ。
「ちょっと、だいじょう……」
 ぼんやりとしたその顔を見てそれ以上言葉が紡げなくなる。どこも見ていない瞳が涙を流している。
 後ろからサンクレッドたちがやってくるのがわかる。今少女を彼らの前に見せるわけにはいかないとヤ・シュトラは少女をその胸に抱きよせる。
「サンクレッド、こっちは大丈夫だから、テントの後始末をして待っていて」
 大人しく腕の中に抱かれたままの少女をさらに強く抱きしめる。
 なにかを言いかけたサンクレッドの肩を遅れてついてきていたウリエンジェが察して肩を叩く。
「…あとは任せましたよ、ヤ・シュトラ…」
 ウリエンジェの声に渋々といった感じでサンクレッドが続くのがわかった。ヤ・シュトラは抱きしめていた腕を緩めて視線を合わせるため少女の前に膝を落とした。
「……戻ってらっしゃい」
 その頬を伝う涙を細い指で何度かなぞる。そっと腕の中へ抱きしめ直してその背中を優しく撫でてあげる。
(エメトセルク…あなた…)
 少女の魂の核は相変わらず見えない。覆い被さる光のエーテルが強すぎる。けれど、その少女を覆いつくす光のエーテルに、絡みつくように交わらず共にあったエメトセルクの闇のエーテルが、消えているのだ。
 あの闇のエーテルはおそらくリーンとヤ・シュトラしか感知できていない。そしてエメトセルクと少女の間に何かしらの…おそらく男女の繋がりがあったことを視ているのはヤ・シュトラしかいない。
「……しゅと、ら?」
 ぼんやりとした声を掛けられてばっと顔を上げる。抱きしめていた少女の体を離すとまだ瞳からキラキラと涙を流したままの少女が、どこかぼんやりとしたままヤ・シュトラをみつめていた。
「…大丈夫?」
 少女の瞳はまだぼんやりと焦点を合わせない。その頬を流れる涙を指で拭えば徐々に少女がヤ・シュトラと視線を合わせてくる。
「……ヤ・シュトラ、どうしたの?」
 それはこちらのセリフよ、そう言いながら流れ落ちる涙を再度拭う。
「え……?」
 ようやく流れ落ちる涙に気付いたのか少女がその服の袖で顔を擦ろうとする。
「跡が残るわ…」
 ヤ・シュトラはハンカチを取り出し少女の目元を抑えるようにそっと拭った。まだ瞳は潤んでいるがこれ以上こぼれ落ちることはなさそうだ、とヤ・シュトラは少女の肩を撫でた。
「落ち着いたかしら?」
 静かな声をかけられた少女は小さくこくりと頷く。その瞳がエーテライトを見上げる。仄青く光るそのクリスタルの輝きはこの深い海の底にあっても変わらない輝きを讃えている。
「…私、どうして、ここに…?」
 呟く小さな声にヤ・シュトラは思案し思い至る。
「…寝てる間にここまで歩いたの?」
 くすりと笑顔で問いかければ、少女の顔が真っ赤に染まる。そんなことないはずと小さくなっていく声を笑顔でかわしながらヤ・シュトラは心の中でため息をつく。
(もっていったのね、闇の気配も、彼女の傷も、彼女の記憶も、全部)
 少女が何かに苦しんでいたのを知っている。おそらくそれをエメトセルクという存在が埋めていたであろう事実も。気づかれないようにそっとヤ・シュトラは少女の首元を観察する。居なくなる前に存在していたチョーカーの下の傷跡が綺麗に消えているのを確認して目を伏せる。
 飄々としたあの男の顔を思い出す。おそらく別れが見える前からこうするつもりだったのだろう。そう、ヤ・シュトラが声をかけるよりももっと前から。
「…なにか、何か大事なことが、あった気がする」
 少女がエーテライトを見つめたままぽつりと呟く。
「…なんだろう…なんだったんだろう…」
 揺れる青の気配に少女の呟きが溶けていく。ヤ・シュトラは掛ける言葉を見つけられず口を閉ざした。頭上から降り注ぐ光がエーテライトに反射してキラキラと少女の横顔を照らしていた。
「ごめん、変なこと言った」
 少女が忘れようと頭を振るのを止める。ヤ・シュトラは少し悲し気な微笑みを口元に浮かべて少女に向き直る。
「…忘れようとしないでいいわ。覚えてなさい。大事な何かがあったという事実だけでも…」
 いつかそれが少女を導く光になるかもしれない。そう願って、ヤ・シュトラは少女に笑いかけ立ち上がる。
「さぁ、あんまり待たせるとまた男性陣がうるさそうだし戻りましょうか」
「う、うん」
 先を歩くヤ・シュトラの後ろを遅れないように少女がついて歩く。

「ーーーーー」
 2人の姿を遠くから眺める黒い影が短く言葉を投げかけてさらに深い闇に消えていく。
 仄暗い海の底には揺らめき以外何も残らなかった。

――――――――――
2019.09.09.初出

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