ちゃぷりと木桶の中でお湯が揺れる音がする。
エメトセルクの手がその湯に浸したタオルを引き出し固く絞る。それを受け取ろうとした少女の手を取り、小さな指先から優しく拭っていく。
「…自分で」
「私がしたいからしてるんだ」
少女の言葉を言い切らせずにエメトセルクは被さるように言葉を紡ぐ。
ゆっくりと傷を確認しながら拭われていつかのあの日を思い出す。そういえばこの奇妙な関係の始まりもあの日だったな、とエメトセルクの腕の動きを見ながらぼんやりと考える。
獣の血に塗れた自分の体を見やって申し訳ない気持ちになる。彼の手を汚すのも悪いと思い今一度その手からタオルを受け取ろうとする。
「…汚れるし、自分でやるよ」
「気にするな」
どこか機嫌良くエメトセルクはきっぱりと答える。機嫌のいい時の彼は自分のやる事を曲げないのを知っている。いたたまれない気持ちを胸の隅に抱いたまま、少女は小さくため息を吐いた。
あの日も、今もそうだが、エメトセルクという男は少女たちが思っている以上に情に厚い。自分の手の内に引き入れたものが牙を剥かない限り、最大限に手を貸すタイプらしい。思い返せば、こちらから話を聞きたいと歩み寄れば彼はどこまでも誠実にそれに答えてくれた。彼の言葉を借りれば、少女たち「なりそこない」にエメトセルクが姿を現してまで歩み寄る必要はない。それでも彼はあえて姿を現し問いかけられれば答えると道を提示した。何が彼を突き動かしたのかは少女には分からないが、繋がりを結び進むべき道を横で眺めている様は情に厚いとしか言い表せなかった。
エメトセルクの手が少女の両腕を拭き終わる。そのタオルを一度湯に沈めながら彼は告げる。
「服を脱げ」
思考を分断されて少女が一瞬固まる。告げられた言葉を反芻し頬が赤く染まる。
「や、やっぱり、自分で」
幾度も肌を重ね合わせ裸も見られはしたが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「脱がないなら脱がすぞ」
湯の中でタオルを濯いだエメトセルクは、それを固く絞りながら少女に告げる。口の端はにやりと上がっているが、その目が笑っていない。さっさと脱がないと脱がされるなと予見して、少女はフード付きの上着に手をかける。黒い革の上着を脱ぎ、ブーツも脱ぎさる。邪魔になるだろうと首のチョーカーも外し、真っ赤な胸元だけ覆うタンクトップと短パンだけの姿は心許なく落ち着かなかった。
目を細めて少女の状況を確認したエメトセルクは、体を拭くのには邪魔にならないだろうと判断して作業を再開する。ブーツのおかげで傷の付いてない足先からゆっくりとタオルで肌を拭いていく。膝小僧の裏を撫でられ思わず足がぴくりと動く。
太ももには返り血と細かな引っ掻き傷が付いている。エメトセルクはそれをひとつひとつ確認し拭っていく。
短パンの縁までぐるりと拭い去って、そのままおへその周りへタオルを進める。ぐるりと拭われる感覚がくすぐったくて反射的に声が上がる。
「我慢しろ」
腰から胸下へ、胸元から鎖骨へ、順繰りと確認しながらエメトセルクはゆっくりと拭っていく。首筋を撫でる手が一度ピクリと止まった気がした。
新しい固く絞ったタオルに持ち替えてエメトセルクがそっと顔に触れてくる。その眉がしかめっ面の表情で固まる。
「…また顔に傷をつけたな」
意図的についたわけではないが強めに言われて萎縮する。きゅっと目をつむって大人しくされるがままになる。
耳の先まですっかり拭いてからエメトセルクはさらに新しいタオルを取り出す。ひとつに固く結ばれていた髪を解いて毛先側からゆっくりとほぐすように揉みながら拭っていく。顔の横を通過するその手に反応しかける体を抱きしめる。大丈夫と小さく自分に言い聞かせる。
どれだけ隠そうとしても体に染みついてしまった怯えは拭い去れない。暁の面々の前でなら強がることもできるのにこの男の前だとどうしても仮面を被りきれない。無意識よりもさらに奥から湧き出る安堵によく似た自分の知らない感覚に首をひねるしかない。
きっと気付かれている、そう思いながら薄目でエメトセルクを見るがちらりとこちらを見ただけで作業を再開される。その様子に安堵と寂しさが去来して何を期待しているのだと自分に言い聞かせる。
一通り拭き終わったエメトセルクが体を離すのがわかる。ゆっくり腕の力を抜いて瞳を開けば金の瞳が確認するようにじっくりとこちらを見つめていた。気恥ずかしさで目を背ける。
満足そうに頷いた彼は傍らにあるテーブルに小さな缶を一つ置いてそこからクリームを掬い取る。それを手のひらで伸ばしてからエメトセルクの手がゆっくり少女の毛先に触れる。その大きな手で髪の毛を優しく揉みながら髪の毛全体にクリームを伸ばしていく。ハーブの香りがふんわりと漂っていく。
一通り作業を終えてずいぶんと満足そうな顔をしたエメトセルクが立ち上がり少女を抱き上げソファに座りなおす。横抱きに少女を膝の上に座らせると少女の小さな手をその大きな手で掴み優しく包み込んだ。その指の腹で手のひらを揉むように撫でられてこそばゆさで首を竦める。
詮索をせず、気遣いもせず、ただ横に在るだけの状況に強張っていた心がほぐれていくのを感じる。どうしても気を張りがちな日常が今この瞬間遠ざかることに安堵する。
同時にこのままではいけないと語りかける声も聞こえる。たまたま一時交わっただけの相手に心を傾けてはいけないと理性が警鐘を投げかける。アシエンと光の戦士、この先待っているのは分かたれる道とお互いの命を奪い合う死闘だけだとわかっている。わかっているけれど、この男を跳ねのける言葉を持ち合わせないし受け入れる言葉も持ち合わせていない。
エメトセルクの空いた手が少女の視界に影を作る。思わず肩を竦めて縮こまる少女に構わずその手が少女の頭を撫で彼の胸板に頭を預ける様に押し付けてくる。何度か頭を撫でた手がそのまま顎の下をうりうりとし始める。
猫かなにかと勘違いしてないか、そう声をかけようと顔を上げた少女の唇が彼の唇で塞がれる。顎の下をうりうりと撫でられたまま触れるだけの口づけを何度も繰り返す。
つい、と離れた唇から荒めの呼吸が漏れる。体格差のせいで口づけだけで息を塞がれがちな少女は大きく息を吸い込んで呼吸を整える。
「…猫じゃないんだけど」
まだうりうりと顎下を撫で続けるその手を甘んじて受けながらじとりとエメトセルクを睨む。
「小動物らしいところはそっくりではないか」
ひょいと肩を竦めてそう不遜に言い放った男はそのままついっとその指で首筋をなぞった。
「…跡がついてるぞ」
そう言われてキョトンとするのは少女の番だった。首をひねる様に気づいてないのかとエメトセルクは鏡を手渡す。少し大きめの手鏡を両手で受け取った少女はそれで首を眺め小さく驚きの声を上げる。
「…なに、これ」
首に幾筋も走る引っ掻き傷に少女が固まる。チョーカーをつけっぱなしのままでいることが多いといってもこれに気付かないのは鈍感すぎやしないか、エメトセルクは少女の手から鏡を受け取りながらそう非難の声を上げる。
言われる言葉はごもっともなのだが少女に記憶がない以上納得はできるものではない。首をひねる少女の手を取ったエメトセルクはその指先を傷口にあてさせる。ちょうど指の幅にあう等間隔の感触にぞくりと背中が凍る。その手をパッと離してほれみたことか、とエメトセルクは肩を竦める。
混乱する少女は今一度自身の首をその小さな指でなぞる。ざわりとした引っ掻き傷の感触に指が震える。何度もなぞるその手をエメトセルクの手が覆うように止める。
「あまり触るな」
短く告げてそのまま首筋から手を離させる。見上げる少女の瞳が困惑で染まっているのをその瞼に唇を落とすことで瞑らせる。
「私…が?」
小さく呟いた声も震えている。無意識化の行動とはいえはっきりと傷になる形で残っている事実に自分がどこまでも追い詰められていたという現実を認識する。
くらりと現実に視界が歪みかける。まだ握られたままのエメトセルクの手の感触が少女の意識を繋ぎ止める。
そっと太ももの上に少女の手を降ろして、エメトセルクの手が頬にできた新しい傷に触れる。
「消してやろうか、何もかも」
蠱惑的な甘い囁きに心を委ねてしまいたくなる。全て預けて彼の世界に閉じこもれればどれだけ楽になれるだろうか。
けれど、それはできない。英雄と呼ばれた自分を、たとえそれが偽りであったとしても、それを自ら捨てることはできない。
ふるふると首を横に振る。その返答に機嫌を悪くするかと見上げるが、エメトセルクの瞳は思っていたよりも穏やかだった。
「それでいい」
ふっと笑って告げる声が優しい。何度もその頬に、瞼に、唇に口づけを落としながらエメトセルクの手が優しく少女の輪郭を撫でる。少女は瞳を閉じてそれを受け入れる。ぬるりと少女の口内に侵入した彼の舌が易々と少女の小さな舌を絡めとる。奥歯の奥、舌の根元から先まで舐め上げれば少女の体が怯えとは違うぞくりとした感覚で震えあがる。たっぷり時間をかけて堪能したそこからゆっくりと唇が離れる。糸引く唾液が灯りを受けててらてらと輝く。
「簡単に堕ちぬお前だから、私は気に入ったのだよ」
大きく息を吸う少女の額に唇を落としながらエメトセルクは満足そうな声で呟く。
「…過大評価しすぎじゃない?」
本質は弱い人間だと自負するからこそついそう答えてしまう。
返事を聞かず、エメトセルクは今一度少女の唇を塞ぐ。腕の中で無防備に投げ出された太ももをついっと撫でれば少女の体が跳ねる。さわりさわりと感触を楽しむように撫で続ければ塞いだ唇の奥からくぐもった声が上がってくるのがわかる。
唇を離して少女の様子を見やる。上気した頬が、潤む瞳が、だらしなく開いた口から漏れ出す舌と唾液がぬらりと揺れエメトセルクの芯を刺激する。
少女を抱き上げエメトセルクと向かい合うように自身の膝の間に膝立ちさせる。顎を上向かせ唇を深く重ねる。その背に手を回してなぞればびくびくと腰が跳ねる。
行き場のなくなった両手でエメトセルクの上着のふかふかした部分を掴む。さわりと触れる毛足だけでびくりと跳ね上がる自分がいる。
少女は普段よりも感じている自分に驚く。憎まれ口のひとつでも叩いて余裕があるように見せる様すらできない。隠していた心の奥底で求められている事実に歓喜の声を上げる自分を感じる。嬉しいと声を上げる自分と、それを律しようとする自分の間で心が揺れる。光の戦士として、闇の戦士として、英雄として、行為そのものを律する自分と、1人の小さな少女としてその行為を受け入れようとする自分の間で揺れ動く。その間にもエメトセルクの指は少女の背を、腰を、尻を弄り快感を与えようとしてくる。塞いだ唇の奥、舌の根元をざらりと撫でられまた背が跳ねる。
息が上がりかけるギリギリで唇を離され少女は大きく息を吸い込む。そのタイミングを狙うようにエメトセルクの唇が少女の耳に吸い付く。
「っあ、ああぁぁぁっ!!」
舐められ吸い上げられガクガクと膝が笑う。目の前が真っ白になり快感以外何も感じられなくなる。
エメトセルクの両腕が引き寄せるように強く少女の腰を抱き寄せる。腰と頭をがっちりと抱えられただその場で跳ねることしかできなくなる。
「あぁっ、ああぁぁぁっ、っぁぁあぁぁっ!!」
止められない声にいつしか笑い声のような吐息が混ざる。快感がキャパシティを超えて少女を襲う。ちゅくちゅくと音がすればそれすら快楽に変換する自身がいる。
「あはっ…! ぁぁあっ…っ!」
快楽の波で前が見えない、跳ねる体が抑えられない。
エメトセルクが唇を離し少女を見つめる。金の瞳が嬉しそうに歪む。
その腕の中で涙を流し半開きの口からたらりとよだれを垂らした少女がびくりと跳ねる。
「っぁ……ぁあーーー…」
その頬に口づけながらエメトセルクの腕が少女の短パンを脱がそうとする。もう片方の手で腰を支え頬から首筋へエメトセルクの唇が降りてくる。傷口をその唇でなぞられびくりと体が跳ねる。
何度も執拗に傷口をなぞりながらエメトセルクは少女の短パンを下着ごと膝まで引きおろす。露わになった小さな尻を大きな手が包み込みやわやわと揉み込む。首筋から唇を離したエメトセルクが少女の肩口に顔を埋める。
やわやわと少女の尻の柔らかさを堪能していた手がするりとその尻の割れ目をなぞる。びくりと少女が跳ねる。
大きく何度か息をしたエメトセルクが顔を上げ少女を見ている。金の瞳を見つめ返そうと少女が顔を上げれば、尻を弄る手がさらに敏感なところを触ろうと指を進めてくる。その動きに少女の喉が跳ね嬌声が飛び出す。
「ひぁうっ!! …っふぅ……んぁぅ……」
ゆるゆると蕾を避けながら尻を弄られ、少女の体が無意識のうちにもっとと腰を蠢かせる。
「もっと刺激が欲しいのか?」
低く耳元で問いかけられびくびくと跳ねながら少女が小さく頷く。その声の心地よさに抗えない。
「…いい子だ、だが」
声と共にエメトセルクの手が少女の尻から離れる。燃え上がり始めた体がふるりと震える。
「…今日は、罰を受けてもらうぞ」
告げられた言葉に心が跳ねる。羞恥と恐怖と期待で綯い交ぜになった瞳がエメトセルクを見つめる。
「……罰」
確認するように小さく呟いて、少女が恥ずかしそうにふるりと震える。
「そうだな……まずは口でしてもらおうか」
エメトセルクの指がついっと少女の唇をなぞる。確認するように口で、と呟いて少女の顔が真っ赤に染まる。
そっとエメトセルクの手が少女から離れる。ソファにどっかりともたれかかったその男はどこまでも不遜な態度で少女を見やる。
見つめられた少女は肩を抱いてふるりと震える。ソファから降りながら膝まで下げられていた短パンと下着を脱ぎ去る。
エメトセルクがひとつ指を鳴らす。少女の足元に座布団が召喚される。そこに膝をつきながら少女は思案する。
エメトセルクを見やれば先ほど指を鳴らした時についでに脱いだのか、重々しいコートはなくなっていた。少女は瞳を伏せながらその股の間の膨らみにそっと指を伸ばす。ぎちりと音が聞こえそうなほど張ったそこを指でなぞる。熱と硬さが布ごしなのに強く伝わってきて狼狽する。
そのズボンの中から彼自身を導き出せば、目の前に幾度も少女を絶頂へ導いたそれが現れる。その予想以上の大きさに、膝立ちだった少女はぺたりと尻をついて釘付けになる。
エメトセルクの手がゆっくり少女の視界の隅に現れる。びくりとその影に震えながらも少女は彼自身から目が離せない。そっと頭を撫でられて少女はエメトセルクを見上げる。少し泣きそうな瞳が怯えと困惑で揺れている。
「…ちゃんと、したこと、ないから」
気持ちよくさせられるかわからない、少女はおどおどと告げる。エメトセルクは優しく頭を撫で続けながら少女に応える。
「構わんさ」
したいようにしてごらん、と促され少女はゆっくり腰を浮かす。おずおずと両の腕が伸ばされ触れる。確かな熱と硬さが指先から伝わりそれだけで少女は赤くなる。
そっと体を寄せて、その先端に口づけを落とす。小さな唇が先端に触れるその柔らかい感触にエメトセルクは目を細める。やんわりと頭を撫でその髪を気まぐれに梳いてやる。
添えていた指を絡めてゆっくり上下に掻く。少女の小さな舌が先端の割れ目をちろりと舐める。そのまま雁首にそって舌を這わされエメトセルク自身がピクリと揺れる。時間をかけてぐるりと舐め上げてからその舌が筋をなぞるように舐めていく。舐め、唇で食みそのまま下へ下へその硬さを唇に刻み付けるように動かす。
止まりがちな指でそっと先端を撫でる。にゅるりとした感触を指先に感じて少女が震える。先端に溢れる雫を指先で広げながら先端にゆるゆるとした刺激を与える。
下から上へなぞりながら戻ってきた舌が今一度先端を舐めとる。震える唇をいっぱいに開いてその先端を口内へ招き入れる。びくりと口内で震える彼自身を愛おしく感じる。
先端を咥え込むだけで口内がいっぱいになる。一度口を離し、先端の半分だけ咥えてぺとりと舌を這わせる。その段差になった部分を丹念に口内に招き入れては舌を這わせる。
エメトセルクはその少女の様子を満足そうに眺めながら優しく頭を撫で続ける。必死にエメトセルクに快感を与えようと蠢く少女の様が愛おしい。ゆるゆるとした刺激はエメトセルクを追い込むことはないが、目の前の情景が満ち足りた心地良さを与えてくるのを甘んじて受け入れる。
そっとエメトセルクの手が少女の顎を撫で上向かせる。導かれるように顔を上げた少女の瞳は潤み困ったような表情で金の瞳を見つめてくる。
「おいで」
導けば少女はゆっくりと立ち上がりエメトセルクの肩口に顔を埋める。その頭を優しく撫で腰を引き寄せる。ソファに深く座り直して少女の体をぴたりと寄せる。その閉じた太ももにピタリと添わされたエメトセルクの猛りに少女が一度身じろいでそっと柔らかく太ももで挟み込んだ。両側から優しい圧をかけられて一層熱と硬さを増していく。少女の触れる肌の熱が心地良い。
もぞりと少女の足が動く。ゆるゆると太ももの力を入り抜きしながら膝が小さく動く。にちゅりとした感覚を先端に感じて、少女もきちんと感じていたんだなとエメトセルクは嬉しくなる。
一方太ももの間で硬さを増していく彼自身を感じながら、少女はどうすればいいのかと思案する。体格差故に仕方ないとは言え、自身の体では満足させきることが出来ないという事実に申し訳なさが先に立つ。ならばせめてと太ももの間に挟んだ彼自身を少女の秘部の入口へと導いていく。
居場所をくれた彼に、ここにいろと言ってくれた彼に、少女はいったい何を差し出せるだろうかと考える。少女自身が持つものなどあまりにも少ない。ただ英雄と呼ばれ続けるこの体しか持ち得るものがない。この貧相な体を差し出したところで対価として釣り合うとは思っていない。それでも。
「……んっ…」
エメトセルクの肩口に顔を埋めたまま少女がくぐもった声を漏らす。彼の先端を自身の入り口とくちくちと触れあわせて、その度に脳の真ん中から痺れる感覚を抑えきれず吐き出す。
全部あげると熱に浮かされて告げたのはいつだったか。痺れる脳の隅でぼんやりと考える。あの時も今も、お互いにお互いの傷を舐めあっているだけなんだと理解している。居場所を探し続ける少女と、手放した何かを少女の向こうに探している彼と、一時道が交わったので肩を寄せ合っているだけなのだ。それでも、エメトセルクは少女のために最大限の譲歩をして迎え入れてくれた。たとえこの場所が一時の雨宿りの場所だとしても、あなたが今悲しみの雨に濡れることがないようにこの体であなたを包み込みたい。それが少女にただひとつできることだとしがみつく。
少女がエメトセルクの先端をぴとりと自身の入り口に添える。肩口から顔を上げて瞳を伏せたまま体の軸がブレないように彼の前に向き直る。
エメトセルクは何も言わず、そっと少女の頬に手を添えた。少女は伏せた目を上げて震える声で告げる。
「…全部、あげるね」
熱に浮かされてない状態で告げるのはこんなにも恥ずかしく嬉しいのかと体の芯が震える。エメトセルクの瞳が間接照明を受けてキラキラと輝いている。その表情はどこまでも穏やかだった。
ゆっくりとまだ解していないそこへエメトセルクのオスを受け入れようと腰を下ろしていく。みちりと肉を割る感覚に体が跳ねる。何度受け入れても大きなそれは少女の内壁をかき分けながら穿っていく。
「……っふ…ぅ…っ」
穿たれたそれに押されて息が漏れる。喉の奥で必死に嬌声を抑え込む。すぐに快楽に気をやってしまいそうになるのを彼のシャツを強く掴むことで耐える。
感じたいのだ、穿っていく彼の熱を。彼という存在を。
先端をねじ込んで少女は大きく息を吐き出す。瞳の端に歓喜と快楽の涙を浮かべながら少女はエメトセルクを見やる。頬に添えた手はそのままに、彼も笑っているように見えてそれが嬉しい。
一つ息を吐き出して少女はゆっくりと腰を落としていく。奥へ奥へ、求めるように穿つそのオスを迎え入れた内壁が強く締め上げる。彼の形を覚えるようにどこまでもゆっくりと時間をかけて飲み込んでいく。足をいっぱいに割り開いて奥の奥でエメトセルクを迎え入れる。体の真ん中を穿たれる快感に目の前がチカチカする。
「…っくぅ……っんっ……」
何度受け入れても自身の中は狭く、彼は固く大きい。体格差ゆえに彼の形に歪む腹を見下ろしそっと撫でる。幾度もここに受け入れ撫でるその感触が、いつも新しい嬉しさを連れてくる。
「…全部…はいった、よ」
その輪郭を撫でながら少女はエメトセルクを見上げる。両手で頬を覆われそのまま抱きしめられる。その胸に顔を埋めればふわりとオーデコロンの香りがした。
あやすように背中と頭を撫でられてくすぐったいような気持ちになる。穿ったままのそこはどくどくと熱を持ち今も変わらずそこにあるのに、抱きしめられた腕はどこまでも優しかった。
少女が小さく身動ぐ。ゆるくなった腕の中で顔を上げた少女とエメトセルクの視線が交わる。降りてくる唇を瞳を閉じて受け入れる。軽く触れお互いの熱を確認し、深い口づけを交わす。口内を舌で蹂躙され繋がった場所がきゅうっと締まる。
口づけながら少女はゆるゆると腰を蠢かせる。くちくちと淫靡な音が繋がった場所から聞こえる。もっと感じて欲しいと蠢く少女の様子に唇を離したエメトセルクがにやりと笑う。
「感じたいのか? 感じさせたいのか?」
あえて口に出して尋ねれば少女の頬が薔薇色に染まる。恥ずかしそうに震えながら、どっちも、と小さく呟く。
その頬に耳に口づけてエメトセルクが低く呟く。
「魅力的だが…私が動いてもいいかね?」
同意を求められ少女は小さく頷く。
エメトセルクの指から軽いスナップ音が響く。少女の背中と尻に手を添え勢いよく立ち上がる。勢いのまま奥の奥を突かれ少女の喉が跳ねる。
喚びだした机の上に少女の背中を預け尻を浮かす。エメトセルクの腰より少し低い机は少女を深く穿つのにちょうどいい高さをしていた。
抱えるように足を持ち上げられ恥ずかしさで少女が顔を覆う。その指先に口づけを落としながらエメトセルクは囁く。
「ほら、まだ罰は終わってないぞ…ちゃんと見ておけ」
びくりと震えて少女の顔からおそるおそるその手が外される。所在なさげに彷徨う手を掴んでいろとエメトセルクのシャツを握らせる。
ずい、と奥を突かれて喉が今一度跳ねる。ゆっくりと緩慢な動きで彼の腰が動き始める。決して追い上げないその動きに少女の背中が粟立つ。
「ひとつ…講義といこうか」
「……っう、ん?」
ぞわぞわとした感覚が全身を襲う中、どこか楽しげにエメトセルクは語り出す。
「人の体にはエーテルが流れている。我々が命と呼ぶその根本の一部だな」
浅い部分をゆるゆると刺激されて少女はかぶりを振る。抜ける寸前のあたりでゆらりゆらりと彼の腰が揺らめく。
「こいつは水のようなものだ。染み出し、混ざり合いやすく、しかしうねりとなり押し流すことも行う、まさに命の水と呼ぶにふさわしいものだろう」
エメトセルクの発言の意図が読めず少女はその柔らかい刺激の間に首をかしげる。
「我々はこのエーテルを無意識の間に様々なことに利用している」
ずずっと勢いよく奥まで侵入したオスの刺激に少女の唇から喘ぎ声が漏れる。
「その利用方法は多岐にわたる。…さて、ここでひとつ面白い実験だ」
実験と言われ嫌な予感が脳裏を駆け巡る。ろくなことにならないー…そんな予感に思わず身をよじる。
「魔法、は様々なエーテル利用方法の最たるものだ。破壊の魔法も癒しの魔法もエーテルがなければ成り立たない」
こつこつと奥を突かれ背筋が持ち上がる。より深く欲しいと意識よりも先に体が反応している。
「本来は相手のエーテルに合わせて無意識的に調整を行ってから魔法を行使するのだが…この調整を行わずに叩き込まれたら…さて、どうなるかな?」
腰の奥をこつこつと突かれた感覚とは違う、内側から叩き込むような感触に少女が呻き声をあげる。涼しい顔でゆっくりと抽送を繰り返しながら、エメトセルクはその動きに合わせて少女の奥底にエーテルを注ぎ込んで行く。
「…っああぁぁっ…!! っうぁ…っあぁぁぅ…!!」
緩やかな実体を持った快感に、形のない叩きつけるようなエーテルの波が覆い被さる。
「気をやるなよ、まだまだ注ぐぞ」
低く楽しそうに呟いたエメトセルクに少女は目を見開きかぶりを振る。その瞳の端に浮かぶ涙を唇で掬い取りながらニヤリと笑う。
体の中だけでなく魂に直接注ぎ込まれるエーテルの波が、実体を持たない快楽が少女を襲う。
エメトセルクの腰の動きが徐々に早くなる。合わせるように注ぎ込まれるエーテルもリズムが早くなる。
「…っひあぁぁ……や、らぁ……っ!!」
逃れようのない波が一瞬にして少女の理性ごと飲み込んでいく。強く彼のシャツを握りしめる少女の指が力の入れすぎで白くなる。
エメトセルクは少女の腰をさらに上向かせ覆い被さるように奥の奥まで侵入する。ぱちゅぱちゅと淫らな水音をわざとさせてグラインドを繰り返す。乱暴に叩き込まれるエーテルはそれでもどこか心地良く少女に快楽を連れてくる。見開いた瞳から抑えきれず涙があふれる。
「…っああぁぁ! …あぁ…っ!!」
混ざり合うエーテルが、何度も奥を突かれる感覚が、少女を絶頂へと追い込んでいく。少女の内壁はエメトセルクのオスを離さないと強く締まる。
魂の奥底に、命の根本へ、エメトセルクのエーテルが刻み込まれていく。
「…ほうら、1度目だ」
早くなるグラインドと注ぎ込まれるエーテルの快感に思考が千々に乱れる。何も考えたくない。ただ快楽を貪る獣でありたい。
「あっ……っあぁ…ああぁぁぁっ!!」
長い嬌声を上げて少女が先に果てる。きゅうと締まる内壁の感覚にエメトセルクも少女の一番奥へ自身の欲望を叩きつける。
どくどくと注ぎ込まれる感覚に少女の締め付けがさらに強まる。体に、魂に、存分に注ぎ込まれ前が見えない。
少女の狭いその場所はすぐにいっぱいとなり、ぱたぱたとあふれて溢れる。
エメトセルクが少女の首筋に顔を埋める。ぺろりと舐められ違和感を覚える。まだ快感で痙攣する体を浅く早い呼吸で必死に落ち着かせながら、少女の小さな指が首筋に触れる。
ないのだ。先程までそこにあった引っ掻き傷が。それだけじゃない。体中にいくつもあった真新しい戦闘の名残すら消えているのだ。
瞳の端から涙を流しながら少女は顔を埋めたままのエメトセルクの柔らかな髪を見つめる。
乱暴に注ぎ込まれたエメトセルクのエーテルが少女のエーテルの欠けた部分を補う。それはエーテルだけではなく表面すら癒していた。
「……しろ、まほう?」
まだ痺れてうまく動かない舌を転がして、少女が疑問を投げる。エメトセルクはその声に顔を上げながら答える。
「…お前たちとしてはそうだろうな。我々にそこを明確に分ける言葉はない。癒しも破壊もすべからくエーテルのバランス調整の果てに訪れる結果でしかない」
エメトセルクの手が少女の頬を撫でる。顔の傷が綺麗に消えている様に目を細める。
エメトセルクの唇が未だ震える少女の唇を塞ぐ。舌と舌を絡めて優しく吸い上げる。その大きな舌で口の中をも舐め犯しわざと唾液の糸を引くように唇を離す。てらりと反射するその糸すら艶かしい。
ぐちりと音を立ててエメトセルクの腰が蠢く。少女の中に欲望を放ったはずのエメトセルクのオスが硬さと熱を取り戻している。
「……げん、き、だね」
「今日は何もしておらんからな」
そういうことじゃない、呟こうとした少女の言葉は奥をこつこつとノックされる快感に邪魔される。
「お前が無茶をしたら、また同じ方法で癒すからな」
ぎりぎりまで抜いて奥まで突き入れる動作をゆっくりと繰り返しながらエメトセルクは少女へ告げる。先程までの快感を思い出し少女の顔は真っ赤に染まる。
「…それともその快楽目当てで傷を負いにいくか?」
意地悪くにやりと笑われて少女はかぶりを振る。そんなことしないと抗議の声を上げようとすれば、エメトセルクの唇がそれを阻止する。唇を塞いだままゆったりとしたグラインドで今一度少女の快楽に火を灯していく。
少女の手がエメトセルクのシャツを握りなおす。
「しっかり掴まっていろ」
唇を離したエメトセルクの腰が間髪入れずに抽送を始める。先程までとは違う快楽を貪るだけの動きに少女の体が跳ねる。優しさを取り払って獣のように快感を引きずり出すその動きに声が抑えられない。
「っああぁぁ!! …っぃああぁぁぁ…っ!!」
腰を抱え上げられ深く深く奥まで穿たれる。淫らな水音とふたりの荒い息が部屋にこだまする。
もっと欲しいと少女の腰が蠢く。それに答えるようにエメトセルクの腰も速さを増し角度を変え少女を穿つ。
がたがたと机が揺れる。背中に当たる木の感触が現実に引き戻しては快感でそこから遠ざかっていく。
エメトセルクの手が少女の背中に手を回して少女を抱え上げる。勢いよく体を起こされより深く奥で彼を感じる。
エメトセルクはそのまま体の向きを変え机の上に浅く腰掛ける。背中と尻をその大きな手で支え少女を揺らすように抽送を再開する。
「あぁっ…!! …っは……っああぁぁっ!!」
打ち付けられる腰が蠢き重力に抗えない体がより奥で彼を迎え入れる。その度に抑えきれない快楽が声となって少女の喉を震わす。
少女の小さな手が必死にエメトセルクのシャツを握り直す。もう離したくないと訴える本能に疑問がわく。いったいどこで手を離したのかー…疑問を探る前に振り払われるように強く奥の奥に打ち付けられる彼自身に意識を乱される。
「…っあぁぁっ…!っや、ぁ…!」
強く締め付けてくる少女の内壁が、少女の限界が近いことをエメトセルクに伝えてくる。
気をやってしまえ、と強く抱きしめたままエメトセルクは少女の最奥に二度目の自身の性を吐き出した。少女は大きく痙攣して自身の絶頂をもって受け入れる。声にならなかった嬌声が喉を震わせている。収まりきらない性は混じり合い繋がったままのそこからとめどなく溢れる。
エメトセルクは自身よりはるかに小さな少女を強く抱きしめる。その頭を撫で柔らかな髪の感触を手のひらで感じる。未だ震える少女は荒い息を吐きながらそれをただ受け入れていた。

「そういえば」
ソファの上に座り直し少女を横抱きに抱きしめたまま、手近の本を一冊取り何の気なしに読み進めているエメトセルクに声をかける。
ようやく落ち着いてきた体に胸を撫で下ろしながら少女は言葉を続ける。
「あなた、この部屋のこと知ってたの?」
少女の髪を優しく撫でながらエメトセルクは本からちらりと視線を外して少女を見る。
「最近だがな」
ページを捲る乾いた音が響く。
「誰にも教えてないんだけどなぁ…」
呟く少女の頬をエメトセルクの指がさわりと撫でる。
この場所は少女の隠れ家。他の冒険者に紛れるようにラベンダーベッドのアパルトメントに借りた仮住まい。住まいとは言ったがここで休息を取るつもりは毛頭ない。天井まで届く本棚に本を詰め溢れた分は床に散らばり、各地の冒険で手に入れた様々な品がその隙間を埋める。一人用のソファに文机、その床まで小瓶と各地の地図やメモが所狭しと乱雑に重なっている。
ここは少女の箱庭。自身の思いを詰め込んだ少女だけの部屋。
「時折お前が原初世界側に戻るのを知っていたからな。その時に、な」
「やだ、つけてたの?」
「人聞きの悪いことを言うな」
事実として、遠くから見ていた事には変わりがないのだが。
「家主がいない時にどうこうするつもりもないぞ」
ページを読み進める手は止めずにエメトセルクがそう告げる。何かされても困る、と少女はぷくりと膨れる。
「…面白い?」
「興味深い」
短く答えるその声が上機嫌なのを感じて、これは何を話しかけても生返事になっていくな、と覚悟を決める。
ぽすりとエメトセルクの胸に頭を預ける。とくとくと響く彼の音が少女に眠りを誘ってくる。実際戦闘をした後続けざまに体を重ねたのだ、いかに冒険者として体力はある方だと自負していても、体は否応なしに軋んでいるし腰の奥は鈍く痛みを抱えている。
「少し眠るね」
瞳を閉じながら少女は小さく告げる。答えを求めずに眠りに手を引かれ少女は意識を手放していく。
エメトセルクの手が優しく頭を撫で続け、静寂だけが部屋を満たした。

――――――――――
2019.08.31.初出

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