※注意※
記憶の欠片/彼方の記憶 最終話です。
今回のお話はかなり強めの捏造が入っております。
途中で無理だな、と思ったらどうぞブラウザバックして次元の狭間へ記憶を消去してください。
また、現実の性交渉においてはありえない行為や現象を一部取り扱っております。
「これは、フィクションで、ファンタジーで、彼らは魔法が使えます」
これを念頭にお読みいただけると幸いです。
酷く曖昧な自分を理解している
壊れかけなんだ、世界も、私も
「っやめるんだ!」
部屋に叫び声がこだまする。
アルフィノはベッドの上で短剣を手に取った英雄その人の体を力任せに押さえつけた。
「……っ…?」
虚ろな瞳のまま、彼らの英雄は首を傾げている。その手は短剣を握り締めたまま離さない。
「どうし…っ!」
音を聞きつけて入室したサンクレッドが事態を察してアルフィノに加勢した。
ややあってその手の中から短剣を落とさせると、サンクレッドはそれを遠くに蹴飛ばした。虚ろな瞳は転がっていくそれをただ追いかけている。
「おとなしく、しろっ」
サンクレッドがその両腕を押さえつけると、動けないと悟ったのかようやくその体から抵抗が消えていく。
ただ何も映さないガラス玉の瞳がぼんやりと遠くを見ていた。
「助かったよ、ありがとうサンクレッド」
「はぁ……何度目だ」
大人しくなったその体にそっと毛布をかけてやりながら、サンクレッドはアルフィノに尋ねた。
「今日だけなら、5回目」
すまなそうに目を伏せる弟分の肩をポンと叩いてサンクレッドは立ち上がる。
「治癒魔法の一つでも使えりゃよかったんだが…すまないな」
「いや…私にはこんなことしかできないから…」
アルフィノは今の騒動で少なからず自身を切りつけていた英雄に癒しの魔法と睡眠の魔法をかけた。
白い病衣に身を包んだその体には痛々しいほどの包帯が巻かれている。
その全てが自身で負わせた傷だった。
コルシア島…グルグ火山での死闘ののち、エメトセルクは水晶公を拉致して去り、英雄は光に飲まれかけ倒れた。
クリスタリウムへ連れ帰り、リーンの光の巫女の力でなんとか現状維持できる程度まで光を抑え込んだが、そのまま3日眠り続けた。
目覚めた英雄は、虚ろな瞳でどこも見ぬまま自身を傷つけ始めた。止めれば一時的に大人しくなり眠りにつくが、魘されて目覚め狂気に陥りまた自身を傷つける。それだけを繰り返していた。
「…皆は」
「ウリエンジェはリーンと共に、ヤ・シュトラはアリゼーと共に手立てがないかと探しに出ている」
「そうか…」
英雄の顔を見れば、またうとうとと瞳を閉じかけている。その姿は英雄と呼ぶにはあまりに幼く見えた。
「…大丈夫か」
サンクレッドはアルフィノに声をかける。ここ数日1番彼女を間近で見ていたのは彼だ。自身が追いかけていた者の変わりように心を痛めてやしないか、と気にしての声かけだった。
「正直言うと…少しだけ、辛いものがあるね」
その瞳が閉じたのを確認してアルフィノは小さく息を吐いた。
「…すこし、息抜きしてこい。飯食ってないだろ」
しばらくは起きないはずだ、サンクレッドはそう言いながらアルフィノの背を叩いた。
気遣いに微笑んだアルフィノは今一度静かに眠る横顔を見遣ってから、サンクレッドに頷いて部屋を後にする。サンクレッドもそれに続いた。
ぱたりと部屋の扉が閉まれば、小さな寝息だけが部屋に響く。
動く音のない部屋の空気が揺れて、闇の渦が現れる。そこから姿を現したのは些か不機嫌な顔をしたエメトセルクだった。
「まったく…ようやくいなくなったか」
小さく吐き出すように呟いて、エメトセルクは真っ直ぐにベッドで眠る英雄の元へと近づいた。そのやつれた顔を眺めため息を吐く。
「…迎えに、きたぞ」
少しだけ手をかざして距離を測る。ぱちり、と相反する属性が火花を散らすのを気にしながらゆっくりと小さな体に触れた。
ぴり、と一瞬だけ痺れたそれは、エメトセルクの細心の注意を払ったエーテル操作でようやく触れられるというほどの有様だった。
毛布を剥いで小さな体を抱き上げる。以前よりも軽くなった体が、そのまま少女の不調を表していた。
腕の内に強く抱きとめると、エメトセルクはそのまま開いた窓から飛び立った。
+++
小さな体を、その魂を抱き潰してしまわないように大事に大事に抱えたまま、エメトセルクはコルシア島の沖合いから、飛沫を上げずにその海の中へ潜っていった。
複雑な潮の流れに身を任せ、時折エーテル操作で道をこじ開ければ、エメトセルクの眼前に懐かしい街並みが現れた。
アーモロート、滅びの前日をただ繰り返す街。
ゆらりと揺れるようにその街の広場に降り立つ。腕の中で眠るその顔を見てほっと息を吐く。
「…おかえり」
誰が聞くわけでもない言葉を小さく呟いてから、エメトセルクは真っ直ぐに目的地に歩いていく。
黒いローブを着たどこかゆらりとした影がそこかしこで蠢いている。あれは泡だ。エメトセルクが創り上げた滅びの前日を演じる泡。それを横目に一際大きな建物へ入ると長い廊下を抜け階段を降りて登ってようやく目的の扉の前に辿り着く。
エーテル操作で扉を開きその中へ滑り込んだ。
外と違い空気で包まれたその部屋の中で、エメトセルクは腕の中に小さな体を抱えたまま指を鳴らした。
2人の体から水気が払われ潮の香りが消えていく。
大きな歩幅で部屋を横切り、その最奥、衝立の裏に置いてあった簡素ながらも清潔感のある大きなベッドへ腕の中の宝物を下ろした。ぱさりと解かれたままの髪がシーツの上に広がる。
エメトセルクが目を凝らすまでもなく、その小さな体はどこもかしこも光で溢れている。どうしてまだ人としての体裁が保てるのか、それすらも不思議なほどに。
その頬を、撫でる。小さな輪郭を確認するように、そこにいると確認するように。
簡素な睡眠魔法をほぐすようにエーテルへと還して、その小さな顔を見下ろした。
その睫毛がふるりと震える。少し眉根を寄せてぼんやりと瞳を開いた英雄は、どこも見ない瞳のままゆっくりと腕を上げ自身の首を強く締め上げた。
「…っち!」
その両手を首から引き剥がす。力任せに剥いでシーツへ縫い付けると、余計なことをしでかす前にと乱暴に唇を重ねその肺へ酸素を送り込んだ。
無理矢理に取らされた呼吸にくぐもった声が上がるのを喉の奥へ飲み込んで、エメトセルクはその虚ろな瞳と視線を交わらせた。
どこも見ようとしなかったガラス玉が、きょろりと動いて瞬く。
彷徨って、交わって、もう一度彷徨ってから、エメトセルクをしっかりと見据えた。
ゆっくりと唇を離せば虚ろだった瞳は驚きで見開かれていた。
エメトセルクがほっと息をつこうとした瞬間に、バネのようなしなやかさでその腕から抜け出した小さな体は、ベッドの端まで後ずさると呼吸を荒くした。
「…おい…」
小さく発したエメトセルクの問いかけに、大きくその体が跳ねる。カタカタと音が鳴るほどに体を震わせて、小さな両手が自身の病衣の胸元をキツく掴んだ。
ベッドの上に乗り上げたエメトセルクがその腕を伸ばすと、その喉からひっと引きつる音がした。
小さく小刻みに震える体と、なにかを拒絶するように横に振られた首がエメトセルクの目の前にあった。
「…大丈夫だ」
出来る限り低い声で落ち着かせるように吐き出したエメトセルクの言葉は、小さな体をさらに震えさせた。
その唇が小さく動く。何かを告げようとしているのか、とエメトセルクは耳を澄ました。
ガラス玉の瞳からぽろぽろと涙が溢れその小さな滴の落ちる音の合間に、呻くような吐き出すような音が聞こえた。
「……ごめんなさ……いや……こわ、こわすか、ら……おねがい……ごめん、なさい……」
繰り返される音はその小さな唇から発せられていた。瞳を閉じることも逸らすこともできないまま、怯え震え何度も謝罪を繰り返している。
「……い、いらない、から……ごめんなさ……こ、こわす……おねがい……」
小さな単語を拾い上げて、エメトセルクは先日のエーテル交感を思い出す。
「《私は、私を殺してしまうよ》」
ぎり、と奥歯を噛み締めるその間に、胸元をキツく握りしめていた両手がまた首へ伸びようとしているのに気づく。
伸ばしかけていた腕をそのままぐっと伸ばして、その腕を掴んで小さな体を自身の胸元に抱き寄せた。
「っひ…!!」
腕の中で強張るその体を強く強く抱き締めた。
体はあからさまに震え、その歯の根がガチガチと音を立てていた。
「ここにいる、落ち着け」
その頭を、背を撫でて頬をすり寄せるも、エメトセルクの声は届いていないかのようにその震えは止まらない。
「……おねがい……い、いらない……捨てるから……こわ、こわすから……」
淀んでいくその瞳を、閉ざしていくその心を、止まらない震えを止めたくて、エメトセルクは強く抱き締める。
「それを…誰が望んだ」
耳元で低く囁けば、音が届いたのか強張った体から少しだけ力が抜けた。
「ここにいる」
もう一度囁けばカチリと音がして歯の根の合わさる音が止んだ。
「……っふ……?」
小さく吐き出した息に紛れた疑問符を掬い上げるように優しく髪を撫でた。
「聞こえるか」
問いかけに、小さな体の震えが止まっていく。
「……エメ、ト、セル、ク…?」
「あぁ、そうだ」
少しだけ体を離してその頬を撫でながら瞳を覗き込む。ぽろぽろと涙を零したまま、見開かれた瞳にエメトセルクが映り込んだ。
「…いるだろう、ここに」
「……い、る」
確認するように呟いて、その瞳にまた涙がたまる。胸元に抱き寄せれば、声を上げずに小さな体は震え泣いた。
+++
ひくりひくりと喉を引きつらせながら、泣いていたその小さな宝物を腕の中に抱き締めながら、エメトセルクは苦しげな表情でそれを見つめていた。
(これは、予想外だ)
エメトセルクの思惑では、ここまで自力で辿り着かせ檻に閉じ込める……大人しく閉じこもるかはさておき……つもりだった。
イノセンスの光を受け入れた衝撃で3日、その後の事後処理などで2日、移動で1日、都合6日ほどでここへたどり着くだろうと計算していたのだ。
だが、6日経ってもこの見知ったエーテルはクリスタリウムから動かなかったのだ。動かないどころではない。ほとんど微動だにしていなかったのだ。
流石にこれはおかしいと様子を伺えば、ほぼ軟禁状態の英雄がいたのだ。眠り、起きて、自身を傷つけ、その度に仲間に止められ魔法で眠らされる…その繰り返しだった。
どうにか連れ出そうにも、ご丁寧にもお仲間たちは昼夜なくこの小さな英雄にべったりだった。ヤキモキとしたままさらに2日待って漸く手の中に招き入れることができた。
「…大丈夫か」
とんとんと優しく背中を叩いてやれば、まだ引きつりながらもそのリズムに合わせるようにゆっくりと呼吸をし始めた。
決して擦り寄る事はしないその体を何度も何度も撫でる。
せっかく一度手の内に堕ちたその心がまた遠くに距離を置いたことを、エメトセルクは理解していた。理解はした、だがどうしてそうなったのかがわからないままだった。
あれだけ泣いたのに冷たいままの体が、空恐ろしかった。最悪の事態、その言葉が脳内を巡る。
小さく身動いだ体をそっと離して向き合えば、虚ろな瞳に不安げなエメトセルクが映った。
光が、強すぎる。
「…見えているか」
問いかけには小さな頷き。幾分か落ち着いたのかその体は疲れを隠さずくたりと弛緩し、小さな手はベッドの上にぱたりと投げ出されていた。
確かめるように何度もその頬をなぞる。ここにいるその輪郭を刻み込む。
「少し、待っていられるか」
低く問い掛ければ今一度小さな頷き。ゆっくりと体を離して、壁にその背をもたれかからせる。
ベッドから降りたエメトセルクは、そのエーテルの様子に気を配りながら衝立の向こうの机の上に置いてあったピッチャーからグラスに水を入れ、ベッドへ引き返した。
小さな体は微動だにせずそこにあった。遠目から見ればまるで人形のようにも見えて、それがなんだか怖かった。
驚かせないようにとゆっくりベッドの上へ戻り、その小さな手を取る。
「…持てるか?」
小さな手がグラスを包み込むのを確認して、グラスの中の水を飲めるように動きを補助する。こちらの動きに素直に従った体は、足りなかった水分を補充していく。
空になったグラスをサイドボードの上に置くと、エメトセルクはその小さな体に向き直った。
その視界に収まるように腕を動かして手を取る。両の手を持ち上げその指に唇を落とせばぴくりと震えた。首にも、手首にも足首にも巻かれた包帯が痛々しくて、でもそれを取り去ることもできずに眺めた。
よく、怪我をして帰ってきたあいつを思い出す。腕に、足に、首に包帯を巻かれ、時にはその四肢すら失いかけてもこの腕の中には止まらなかったあいつを。また、失うかもしれない恐怖が、エメトセルクの背後からひたひたと迫っているのを感じていた。
「……ごめん、なさい…」
小さな謝罪の言葉が、今度ははっきりとその口から発せられていた。
「なにを、謝る」
「……私、できそこない、だった、から」
裁定にクリアできなかったことを言っているなら、わかりきっていたことでもある。
エメトセルクが言葉を発する前に、ぽつぽつと小さな口が音を紡いだ。
「…なにも、できない…なにも、なれない…どこに、も、いけな……ごめんなさ……いら、いらない……わた、し……い、いらな、い……」
言葉を紡ぐごとにまた淀みに戻りかけるその体を、縋るように抱き締めた。
「いつ私がお前を拒絶した」
低くゆっくりと問いかければ、その体が身動いだ。
「お前でなければダメだと、伝えただろ」
「…でも、私、できなか、た…いら、ない、子」
「誰もそうと告げてないだろ」
叫び出したい心を必死に押しとどめた。閉ざしていく心が淀みに沈み込まないようにきつく抱き締める。
「思って、る…言えな、い、だけ…みんな、私、見ない…いらな」
「いらなくない」
その唇が言い切る前にエメトセルクはぴしゃりと言い放った。
「お前が、いいんだ」
その髪に顔を埋める。震えるその体をあやすように撫でる。
「……ダメ、私、傷、つけたく、ない」
その小さな手がエメトセルクを拒絶した。
するりと離された温もりに縋ることすらせず、〝英雄〟は〝アシエン〟を見た。
「私、エメトセルクと、は、いられ、ない」
俯いて首を振るその姿をぼんやりとエメトセルクは見ていた。
記憶と重なる。どうして、お前も、あいつも、擦り抜けていくのか。
エメトセルクは思考する。1人で沈み込む思考の先は、大抵ロクでもないのを知りながら。
「お前も、いなくなるのか」
零れ落ちた言葉に、小さな体が揺れた。
「私を、置いて」
俯いたその顔が持ち上がり、虚ろなガラス玉がエメトセルクを見やり、目を見開いた。
手を取れなかった過去を、擦り抜けていこうとする今を、その白金の瞳に浮かべて、エメトセルクは静かに涙を流していた。
口に出せば思い出になる。記憶としてとどめおくために心の内にだけ秘めておく。
ともすれば、一昨日のことを思い出すほど近くに。
エメトセルクの瞳からすっと光が消えた。次いで、燃え盛る炎がその瞳に浮かび上がった。
今と過去を重ねて、その瞳はただ小さな英雄を見ていた。
「……逃がさない」
ゆらりと、その大きな腕が動いて小さな腕を力任せに掴んだ。
「そうだ、逃がさない。最初からこうすればよかったんだ。逃がさない…逃げ出すことを、許さない」
淀みに沈んでいるのは、〝アシエン〟か〝英雄〟か。
「…エメト、セルク」
「あぁ、そうだ。最初から、お前を攫っておけばよかった。あの時、手を離したのが間違いだった。お前の言葉なぞ聞かず、閉じ込めておけばよかったんだ」
エメトセルクの瞳も、今は虚ろで。月のように静かだったその瞳には、目の前にいる人物すら映し出していない。ただ、暗い闇の気配が支配している。
ぎり、と音がするほど強く掴んだ腕は、その体を乱暴にシーツへ押し付けた。
どさりと倒れ込んだその体にエメトセルクは覆い被さる。
「甘い言葉に惑わされずに、ただ閉じ込めればよかったんだ。ここだけがお前の居場所だと、教え込めばよかったんだ」
シーツに押さえつけられたその体が震える。ひゅっと飲み込んだ息は吐き出されることなく、その瞳には恐怖の色が浮かんでいた。
「あぁ、そんな顔をして…かわいそうに、私がいるじゃないか。私だけでいい。お前の世界にはそれ以外なにもいらない」
ふるふると振られた首に、エメトセルクは極上の微笑みを返す。
「いらないだろ? もう、私だけでいいだろ?」
その瞳が暗く淀んで、もう月は見えなかった。
正しく〝悪役らしく〟エメトセルクは歪んでいく。
「…エメト、セルク」
「違うだろ? お前は私を知っている…あぁ、お前は知らないのか、だがどちらでもいい。名なぞもう、いらないものな」
その唇が喉元の包帯を解いていく。もどかし気に蠢いた後、堪えきれないと大きな手が鷲掴むように包帯を引きちぎった。
「ーーーっ、かはっ…」
不意打ちで締まった息に驚いて喉が鳴る。
「あぁ、苦しいな。私も苦しい、お前が苦しいと、私も苦しい」
慮る声色は、しかして蠱惑的に歪んだ微笑みで彩られていて。ずぶりずぶりと淀みの中から歪みきった両の腕が〝英雄〟を引きずり下ろそうと絡みつく。
エメトセルクの口が小さく白い首に噛み付いた。
「ひっ…!」
「締めたのか、この首を。ああ、白くて、甘い」
血は出ない程度にゆるりと噛み付いて歯形を残して、エメトセルクはその首に残る傷跡に舌を這わせる。締めて、掻き毟ったであろうその細い傷に何度も舌を這わせる。
その度に小さな体が震えて跳ねるのを、微笑みながら楽しむ。
「あぁ、本当にお前、小さいな。すぐ、壊れそうだ」
エメトセルクの大きな手が、細い首にかかる。
ひゅっと息を飲み込んだ小さな体の動きが、止まる。
「私にもさせておくれ、お前を、感じたい」
喉を掴んだ腕にぐっと力が篭る。正しく喉を締め上げるその指の感触に、小さな体が震えた。
「震えているな、あぁ、嬉しいな」
いびつに歪んだ思考に、その淀みに絡めとられる。
エメトセルクは〝英雄〟の瞳を見つめた。〝英雄〟は戸惑うように瞳を見開いていた。
自由になった腕が真っ直ぐエメトセルクに伸びてその頬を指先だけで撫でて、ぱたりとシーツの上に落ちた。
〝英雄〟は瞬きをするようにゆっくりと瞳を伏せ、〝小さな少女〟が瞳を開いた。
その様変わりように瞳を開いたエメトセルクに柔らかく微笑んで、〝少女〟は瞳を閉じた。
ぴくりとも動かなくなったその体に、エメトセルクの指が震える。
驚いたようにその手を首から引き剥がしたエメトセルクは、自分の手とその小さな体を交互に見た。
「……あ」
弾かれたようにその体に覆い被さり、その頬を軽く叩く。エメトセルクの口から、慟哭にも似た叫びが放たれる。意味をなさないその叫びが部屋を揺らす。
何度も叩いてようやく身動いだ小さな体は、体を折り曲げて噎せ込んだ。
体を横に倒して小さな体をさらに小さく縮こまらせて、咳き込みながら荒い呼吸を繰り返すその背を、先ほどまで首を締め上げていた手が優しく撫でていた。
肩で息をしながら、小さな体が仰向けになる。その白い喉を直視できず、エメトセルクは視線をずらした。
「エメト…セルク」
呟かれた名前に、弾かれたようにその瞳がそちらを見やった。
穏やかな、凪いだ海のように穏やかな瞳が、エメトセルクを見つめていた。
「…ダメ、だよ。ちゃんと、締めないと、死ねない」
エメトセルクが瞳を見開いて首を横に振った。
「…っ違う、私は、殺したくなんてっ…お前を、殺したくて、殺したくなくて」
せめぎ合う思考と、理性と、色濃く残る闇の色。色んなものに押しつぶされそうになりながら、エメトセルクはうわ言のように言葉を落としていく。
「ここにいろと、いてはいけないと、私が守ると、守れないと…」
小さな手がエメトセルクの頬に触れる。それに怯えるように震えるのはエメトセルクの番だった。荒い息を吐き出しながらエメトセルクは震えていた。
「エメト、セルク……私が、見える?」
問われた言葉に、その瞳が戸惑うように揺れて視線が混じり合う。
エメトセルクの呼吸がゆるく穏やかになるまで、その瞳を見つめ続けていた。
「…私が、見える?」
再度の問いかけに、どこか不安気に頷きが答えた。
ふ、と息を吐くように笑った〝少女〟は、頬を撫でていた腕をぱたりと落とした。
「私は…なんてことを」
穏やかすぎるその様子に冷えた脳が、つい先ほどしでかした行為を悔いている。
「…エメト、セルク、なら、いいよ」
「よくない、なにも、よくない」
その小さな頬を、壊れ物に触れるようにそっと大きな手が包み込んだ。
「望んでない…私は、お前を失いたくないんだ」
その命を絶って自身の中に抱き込んでしまいたいほどに、失いたくない。
二律背反するその思考を正へ向き直るように修正していく。
居なくなった者と去ろうとする者を目の前に同時に見せつけられて濁っていた視界は、微笑むその顔で現実に引き戻されていく。
「私は、いらない」
きっぱりと告げられた言葉は、死の香りを含んでいるのに華やかで鮮やかだった。
「いらないよ」
その手がぎゅうと自身の病衣を掴む。
「厭だ」
駄々をこねる子供のように、エメトセルクは穏やかな瞳をした少女の額に自身の額をこつりとあわせた。
『いずれ、殺、し合うと、しても、これを、弱み、にしな、いで』
いつか聞いた言葉が、その唇から紡がれる。
「…ね、これは、弱み、だよ」
穏やかな声があやすように言葉を繋いでいく。
「〝アシエン〟と〝英雄〟だもの、しかた、ないよ」
「諦めろとでも」
「ちょっと、違う」
花が綻ぶように笑って、少女は告げた。
「放棄、する」
+++
投げかけられた言葉を3度反芻して、エメトセルクは穏やかに微笑む瞳を睨んだ。
「…さっき、まで」
ぽつりと呟いた言葉はエメトセルクの興味を引いた。
「はやく、処分…しなきゃって、思ってた」
目を細めて笑いながら言う言葉ではない。穏やかすぎるその様子と言葉のギャップに、エメトセルクは眉を潜めた。
「今も、いらない、って、思ってる」
真っ直ぐな瞳はエメトセルクを正しく映している。
「いらない、けど、みんな、ダメって、言う」
その指がそっと自分の首を撫でてから、両手首を撫でた。しゅるしゅると外された包帯の下から、何度も刃物で切りつけ突き刺した跡が現れた。行為の度に仲間たちが慌てて治癒魔法をかけたのだろう、一部が引き攣れている。
「こんなに、壊れそうで、壊したい、のに」
まるで他人事のように自身を顧みないその姿に、エメトセルクはなんと声をかけていいのかわからなかった。ただ、あやす様にその頬を撫でた。
「だから、私、全部、放棄する」
全てを投げ出して、捨ててしまうとその口は穏やかに告げる。
「〝英雄〟であることも、投げ捨てるのか」
「捨てられ、たら、よかった、のに」
困った様に笑うその瞳は意思すらも放棄し始めていた。
「捨てさせて、くれない」
それは呪いだ。〝ハイデリン〟に見染められてしまったその瞬間に植え付けられた、死して尚無くなることのない、呪い。
「でも、私の、ここ、捨てちゃう」
とんとんと叩いた胸を見るために、エメトセルクはのろのろと体を持ち上げた。
「ここ、は、捨てれる」
「捨てさせると、思ったか」
それは、心だ。
少女を彩るもの、あいつを守ったもの、それを捨て去るというのか。
「みんな、嫌がる、ね」
「当たり前だ」
「こわく、ないよ?」
「その判断基準は今はやめろ…」
こわいけどこわくない、に基準がすり変わる瞬間を知っている。少女はそれを誤認識したまま実行してしまうだろう。
「こわいに、きまってるだろ…あぁ、私が1番それをこわいと思っているぞ」
「…ふ?」
心底不思議そうに、少女が首を捻った。
「聞こえなかったか。〝私〟が〝こわい〟んだ」
遠くなりかけていた意思の色がその瞳に戻ってくる。それは、懇願にも似ていて。
「…エメトセルク、こわい?」
尋ねる声が少しだけ声色を変えた。
「あぁ、こわいね」
その瞳が3度瞬く。
「…そっか」
胸の内に落とし込む様に、少女が小さくエメトセルクはこわいと呟いた。意味が違うように聞こえる、と突っ込もうとして、やめた。
「エメトセルクが、こわい、なら、すてられ、ない、なぁ」
エメトセルクの言葉は、正しく少女に…〝英雄〟に〝お願い〟として届いた。
「是非とも持ち続けていてくれ」
「うぅん…が、んば、る」
頑張るところがおかしい、とは言えなかった。
少女は自身の手首をじっと眺めている。
「お前が欲しいと、何度告げれば届く?」
その手首を片手でまとめあげ口付けを落としながら尋ねれば、困った様に唸る声が聞こえてくる。
「いらない、から、あげられない」
「いらない、なら、もらっても構わんだろ」
禅問答のような言葉のやり取りに、少女は小さく笑った。
「私は、もうすぐ、壊れる、よ」
真っ直ぐにエメトセルクを見つめながら、少女は〝英雄〟の仮面をつけずにエメトセルクに告げた。
「もう、限界なの、わかる」
とん、と今一度その胸を小さな手で叩く。
「ほんとはね、見るのも、ちょっと、難しい」
現実の視界すら白に塗りつぶされていく。少女はそう告げていた。
「ここは、居たいけど、居られない、場所」
少女の小さな手が、エメトセルクの胸元をするりと撫でた。
過剰すぎる光のエーテルを保有するその体は、均衡を保つために闇のエーテルを無意識のうちに欲する。触れ合えば傷つけあうと知りながらも。
「こわれちゃう、から、いらない」
「壊させないし、私はお前を求めている」
平行線を辿る問答は終着点をなくしていく。
お互いの核があまりにも強固に頑固すぎて、妥協点すら見えなくする。
その思いは今この場においてどちらも正しかった。互いに〝前を向いていない〟事も含めて。
エメトセルクの眉が歪む。相手の主張に首を横に振って。
少女が小さく笑う。相手の未来に居ない自分を見て。
互いに折れることができぬまま、ただ視線を交わらせた。
「頑固だな」
「エメトセルク、も」
死を覚悟しながらも穏やかなままの少女の様子に、エメトセルクは訝しげにさらに眉を寄せる。
先ほどまでの狼狽えぶりが嘘のように凪いだその表情は、笑うようで、泣くようで、怯えるようで、喜ぶようで。
身動いで体を起こそうとするその手助けをしてやれば、腕の中に素直に小さな体が収まった。そのままごそごそと動いた少女は太腿と足首にそれぞれ巻かれていた包帯を外していく。
赤く、黒く、引き攣れた傷口がその白い肌を汚しているのを、エメトセルクは眉を寄せたまま眺めた。
顕著なのは足首の裏側。足首からふくらはぎにかけて、徹底的なまでにズタズタに切り裂かれている。
「ね、もう、歩け、ない」
治癒魔法で辛うじて繋がっている腱は、少しでも無茶な動きをすればすぐに切れてしまいそうで。何度も傷つけて治してを繰り返したそこは複雑にエーテルまでも絡み合っていた。
「どうして、みんな、諦め、ないん、だろ」
諦めてなるものかと地上で走り回る仲間を思ったのか、その顔がくしゃりと歪んだ。
「諦めるものか」
「…私、いらない、のに」
言い聞かせるような声色で、少女は〝いらない〟と繰り返す。
「みんな、いらない、もの、欲しがる」
〝英雄〟だから? 少女はエメトセルクに微笑みながら首を傾げる。
「大切だから、だ」
「たいせ、つ?」
「お前が、大切なんだ」
「…わから、ない」
「《私は決定的に何かが足りないから、人が抱くそういった心が本当にわからないんだ。》」
そう告げたのを思い出す。そうだ、ずっと抱いていた違和感だ。決定的に足りない〝何か〟が今目の前に落ちている。
「それは、私に、じゃ、ないよ」
徹底的なまでに自己の排除された思考、それがそのままお前に足りないものを示していた。
〝英雄〟としての魂か、〝光の使徒〟としての輝きか、他者を慮り自己を犠牲にしていくその姿は正しく歪だ。ゆがんでいることすら気づかないほどに染み付いたそれは、どこから来た?
「お前にだけ、向けているものだ」
「……?」
首を傾げるその頬を撫でる。
「今ここには2人しかいないな?」
輪郭を確認するようにゆっくりとなぞれば、少女が小さく頷く。
「私はお前を見ている」
「うん」
「お前も、見ているか?」
「…がんばて、る」
舌足らずなその喋り方が可愛らしくてさらに頬を撫でれば、くすぐったいのか首を竦めた。
「私が、お前を、大切だと言っているんだ」
他に誰もいないしいらないと告げれば、その首がきょろきょろと辺りを見回してエメトセルクを今一度見つめた。
「私?」
「そうだ」
「大切?」
「あぁ」
まだしきりに首を捻っている様子から、これは本当に結びついてないと覚悟を決める。
「触れていいか」
頬を撫でていた指で小さな唇をゆっくりと撫でる。きょとりとした後、ふわりと微笑んでいいよ、と告げられた。
その体をゆっくりとシーツに沈め直しながら覆い被さる。その膝と膝の間に体をねじ込んでから、エメトセルクはそっと小さな唇に自身の唇を触れ合わせた。触れるだけの口付けを何度も繰り返しながら、その細い足首を指先でなぞる。手袋が傷に引っかかるのを感じて、唇は触れ合わせたまま性急に外した。
ひたりと合わせた肌と肌はどちらも恐ろしいほど冷えていた。
口付けは少しずつ深くなっていく。
傷口に力を入れすぎないように注意を払って撫でてから、触れ合う二箇所からじくじくとエーテルを交わらせる。
少女の体が小さく跳ねて口付けはさらに深くなる。おずおずと互いに擦り合わせる舌同士がゆっくりと絡み合っていく。快楽を求めない睦み合いが小さな体の力を抜かせた。
交わるエーテルが時折ぱちりと弾ける。泡が弾けるときに似た音を立てながら、エーテルがぱちりと弾ける。
等しく求め等しく与えるエーテル交感を、今までよりもじっくりと時間をかけて行う。絡み合う舌の隙間から、その塞がれた唇から甘い吐息が漏れ始める。直接魂を愛撫するようにエメトセルクのエーテルが少女のうちに潜む魂の表面をさわりと撫ぜる。ひび割れながらもなんとかそこに存在しているその魂を、優しく覆っていく。ぴくりと跳ねた体がエメトセルクを受け入れた。
+++
闇はもう暗くない。
どこまでも白い闇が光に包まれたお前を隠すように抱いている。
一点の染みのように私はただ暗く闇を抱いてそこにいた。白い世界においては異質で、だがこの白い闇こそが異質なのだと、お前も気付いているのだろうか。
駆け寄ってくるひび割れたお前に目を向ければ、その魂を体現してか現実の肉体よりも傷だらけだった。
駆け寄ってきたその魂は、一歩分間を開けて私の目の前に在った。
「《…いたく、ない?》」
開口一番尋ねられたのはこちらを慮る言葉だった。剥き出しの互いのエーテルは強い攻撃性に晒されればたちどころに傷を負う。
この闇は、強く光に寄ったお前の空間だ。
「《大丈夫だ》」
ほっと息を吐くお前の方こそ、ぼろぼろではないか。
「《触れても、いいか》」
告げる私の目の前で緩く揺れたお前からぱきりと音がした。
「《いいよ》」
互いに手を伸ばして絡め合わせる。もう溶け合う事もできない互いの指を強く絡めるとまたぱきりと音がする。
「《ね、もう、歩けないでしょ》」
その頬を撫でれば擦り寄る動作でお前が笑った。軽い笑い声にぱきぱきと乾いた音が響く。
「《あたたかい》」
抱き寄せて抱き締める。大切に、大切に。壊さないように。
「《優しいね、エメトセルクは》」
「《いつだって優しくしてるだろ》」
「《…そうだね》」
お前が強く抱きついてくる。それだけでぱきりと音が大きくなる。
「《よせ》」
「《やだ》」
ぱきりぱきりと音ははっきりとお前から聴こえてくる。剥がれ落ちたエーテルが白い闇に溶けていく。きらきらと彩光を滲ませながら消えていくそれが、まさしくお前の望む終わりのようでひどく私の心を揺らした。
「《そんな綺麗には終われないけどね》」
肉の枷は惨めだ。じわりじわりと全身から力が入らなくなりまず息が止まる。それでも動き続ける脳の信号を無視して筋肉も動くことをやめる。血液が巡らなくなり、心の臓が止まる。思考だけが残るのだ。生きたいという思考だけが。
「《ソル帝の最後は、老衰だっけ》」
「《公式上はな》」
「《どうせ終わるなら、戦いの中で終わりたいなぁ》」
ゆるりと腕の力を抜いたお前の輪郭をそっと撫でる。
「《それが、エメトセルクとの戦いなら、尚いい》」
「《最悪だな》」
キッパリと切って捨てると、えぇ、と声が漏れ聞こえた。
「《そんな話をするために繋いだわけじゃないぞ》」
「《…そうだっけ》」
はぁ、とため息を吐けば腕の中でごめんと小さくお前が笑った。
「《大切だと》」
お前が認めないそれを、生きることを、伝えるためにいるんだ。
「《よくわからない》」
「《お前にもあるだろ、大切なもの》」
尋ねればうぅんと唸り始めるその体を抱き寄せてその場に座り込んだ。横抱きにしてやれば、ぽすりとその頭が私の胸元に収まった。
ぱきりと、音がする。
「《わからない》」
「《お前の仲間もかわいそうにな》」
「《それは、なんかちょっと違うんだよね》」
小さく膝を抱えて指先を弄んでるその髪を撫でる。
「《みんなは、守らなきゃいけないものだから》」
「《ほぅ?》」
「《大切よりは、大事? 私が守って、次に繋げるもの》」
ひとつひとつ言葉を選びながらゆっくりと喋る様を眺める。ともすれば光に…〝ハイデリン〟に染め上げられる思考を引き寄せている。
「《私は、繋ぐためのパイプだから》」
繋いだら役目はおしまいとでも言いたげなその様に眉を潜める。
「《大切…大切…》」
だがそれでもこちらからの問いかけにきちんと向き合おうとする様は私を満足させた。足りないと分かっているのだから、悩め。悩んで、〝人〟となれ。
「《うーん…》」
「《そんなに難しいことか》」
「《難しいよ。とても難しい。私は、戦いしか望まれなかったから》」
大切なものはともすれば弱点になる。戦うことを定められた〝英雄〟に弱点は増やせない。
「《エメトセルクは、大切なもの、あった?》」
「《…私の話を聞いてないな?》」
その頬をむにむにと感触を楽しむように揉んでやれば、言葉にならない抗議の声が聞こえてくる。
「《今まさに告げたことを何度でも告げ直すべきか?》」
「《ひゃう…ひょうひゃひゃひゅへ》」
何を言っているのかさっぱりわからん。
頬を揉んでいた指を離してその肩を抱き寄せる。
「《ソル帝の時とかさ》」
「《あると思うか?》」
「《…奥さん、とか》」
「《それこそ、〝大事〟の部類だ》」
ガレマール帝国を次の段階へ進めるための部品を次へ繋げる。それはまさしくお前の告げる〝大事〟と相違ないだろう。
「《お前しか見ておらんよ》」
お前とあいつと、それしか見てこなかったのだから。
「《…告白みたいだね》」
「《おうおう、英雄様は察しの悪さまで筋金入りか》」
「《わからないんだもん…》」
誰も教えてくれなかった、そう言っていじけるお前の頬を撫でる。教わるものでもないと思うのだが。
「《…エメトセルクが大切だって、言い切れればよかったんだろうけど》」
胸元に擦り寄るお前から、またぱきりと音がする。
「《言い切ってもいいのだぞ?》」
「《…ダメだよ》」
ここに居たいけどここには居られない、そう何度もお前は告げてきたじゃないか。それこそ大切だということだろうに。
「《ただの私のわがままだよ》」
ぱきり、ぱきり。お前が何かを諦めるたびに剥がれ落ちていく。
「《それも含めて、私はお前を大切だと言うぞ》」
「《エメトセルクも頑固だなぁ》」
頑固なのはどっちだ。石頭め。
頬を撫でた指で顎を持ち上げる。軽く唇を触れ合わせればくすくすと笑うお前がいる。
「《…ここに居たいなぁ》」
「《居ればいい》」
「《ここに篭ってたらそれこそ終わってしまうよ?》」
「《そうだな》」
白い闇は毒だ。じわりじわりとお前を蝕むもの。
抱える光は膨れ上がる。お前を食い破る日を今か今かと待ち続けている。
「《そばには居てやれる》」
「《それこそ、嫌だな》」
あなたを傷つけたくないから、そう呟くお前は瞳を閉じる。その唇に何度も口付けを降らせる。
エーテルをどれだけ交わらせても、交感しても、もう溶け合うことはできない。あの夜空は、もう見れない。
「《戻ろう》」
切り出したのはお前だった。
名残惜し気に擦り寄るお前を抱き締める。
「《ありがとう、エメトセルク》」
微笑むお前が、ばちりと音を立てて私を拒絶した。
+++
強制的なエーテル遮断は意識を曖昧なまま浮上させる。体が重い。
「…無理矢理切るやつがあるか」
エメトセルクは苦々しげに重く呟いて、少女の横に寝転がった。
言われた少女は、うっすらと瞳を開いたまま細い呼吸を繰り返している。
その体を胸の内に抱き寄せてとんとんと優しく背中を叩く。その呼吸が整うまで飽くことなくエメトセルクはその背を叩き続けた。
はふりと大きな息を吐いて少女が腕の中で蠢く。
その顎に手を添えて上向かせると、まだ苦しげに眉根を寄せる少女の顔を眺めた。
「平気か」
エメトセルクはその様子を確かめるように、体を起こして覆い被さると、仰向けになった少女の額にそっと唇を落とした。額、目蓋、耳、頬、鼻、順繰りに唇を落としながら最後に唇と唇を重ね合わせる。少女はそれを受け入れていた。
触れる、離れる、角度を変えてまた触れる、唇を舐めて、また重ねる。息を奪わぬように、長く触れ合えるように、唇を重ね合わせる。
合間に吐息が漏れる。艶のあるその音がエメトセルクの鼓膜を揺らす。
「伝わらないなら、この手の内に閉じ込めておく他ないな」
その耳へ低く囁けば、その首がふるふると横に振られた。
「…もど、らなきゃ」
「どこへ?」
問いかけに、少女の言葉が詰まった。
エメトセルクの腕の中へ自ら望んで来たわけではない。だが、仲間の元へ戻ることも憚られたからだ。
「戻る場所などありはしないだろう?」
そんなことはないと、言い切れるだけの強さをもう少女は持てなかった。自身を痛めつける姿を見せ続けた仲間たちに、なんと言葉をかければいいのかもわからない。
だが、この腕の中で微睡んでいることもできない。
「望むものを与えてやる。お前が好むものだけで満たしてやる」
蠱惑的な囁きは狂気を孕んでいて。それは彼の性質を正しく表していた。
「ここにしかもう、お前はいられないんだ」
囲い込むように抱き寄せ抱き締め、耳元で低く波のように囁く。寄せては返すように、ただ引き止めるだけでなく、ゆるりと押し戻して反動を加えるように。
淀んでいる。ただお互いにその背に抱え切れないほど荷物を抱えて淀みに沈んでいる。
「私にも、もう、お前しかいないんだ」
元より正しく〝英雄〟の敵であった〝アシエン〟に頼るべく何かがあるはずもなくて。幾星霜の時を孤独に過ごすことに慣れてしまった心は、目の前の小さな少女しかもう抱き締めることができない。
それでも、それでもエメトセルクは知っている。少女はこの手の中に止まらないということを。あいつと同じように。
少女の小さな手がそっとエメトセルクの頬を撫でた。
「エメト、セルク」
「あぁ」
その小さな手へ擦り寄れば、少女は柔らかく目を細める。
「…それは」
「いい、言わなくていい」
答えを拒むようにエメトセルクは少女の唇を塞いだ。その声のひとつも漏らすことのないように覆い被さるような口付けを交わす。
「…ただ、お前が欲しい」
瞳を伏せたまま祈るように囁いたその言葉を、少女も目蓋を閉じて胸の内に落とし込む。
「エメトセルク、私、欲しい?」
「あぁ…お前が、欲しい」
伏せた瞳が開かれる。〝アシエン〟として、敵としての感情と、〝真なる人〟としての純粋な欲求がその瞳の内で混ざり合う。
ただひとつ同じ欲求を抱いて。
+++
唇が重なる。
ゆらゆらと波の中を漂うように角度を変えて、何度も飽きることなくふたりの唇が重なる。
エメトセルクの指が足先から傷痕を追いかけて、ゆっくりと少女を撫でていく。
傷口をなぞる度に少女は震え、重ねた唇の向こうへくぐもった声が溶けていく。
足首、膝、太もも。少女の1番感じるところへは手を伸ばさずにそのまま脇腹をすり抜けて上へと動いていく。
病衣の前を閉じていた細い紐をするりと解いてしまえば、病的なまでに白い肌が唇を離したエメトセルクの視界に飛び込んだ。
その体にも、幾重にも引き攣った傷跡が走っている。
少女は病衣の前をそっと合わせた。エメトセルクの瞳を見つめてふるりと首を横に振る。
「綺麗、じゃ、ないから」
合わせた病衣をきゅっと握りしめて、少女は寂しそうに微笑んだ。
その手にエメトセルクの手が重なる。
「美しいままだ」
静かな声色が少女を包み込む。
「傷があろうと、なかろうと、お前は美しい」
その手をゆっくりと病衣から離させる。さしたる抵抗もなく持ち上がったその指先に、エメトセルクは恭しく口付けた。
恥ずかし気に顔を赤く染めた少女は、エメトセルクを見つめている。その視線を交わらせ一度口付けると再度病衣の前を開いた。
白い肌に引き攣った傷跡が走る。腹と胸元に集中するそれに、少女が本気で命を断つつもりだったのだと薄ら寒くなる。
その傷跡ひとつひとつにエメトセルクは優しく唇を落とした。触れるだけの感触は酷く柔らかく暖かくて、少女はその身を捩る。
「っふ、う……き、たな、いよ…」
びくりびくりとエメトセルクの手の内で震えるその様が嬉しくて、執拗に何度も口付ける。
すでに〝英雄〟の仮面はない。素直に与えられる感覚を拾いあげるその様は美しくて。
胸元の傷に口付けを落としながらその胸の小さな突起をも唇で触れれば、小さな体は大きく跳ねる。
「っひぁっ!?」
唇で転がして軽く食んでやれば、その腰が浮き上がる。浮き上がった腰の下へ腕を入れ体を密着させながら今度は舌先で転がす。
「っあ、あぁ、やっ…んっ…!」
ぷくりと膨れた突起を唇で押しつぶしてから反対側の突起も同じように愉しむ。上がる嬌声がエメトセルクの鼓膜を揺らしていく。
その胸元の突起がエメトセルクの唾液でてらりと光る。膨れたそれはもっと食べてとエメトセルクにその身を差し出すようでもあった。
まだぴくぴくと震えるその体をシーツの海に沈める。潤んだ瞳がエメトセルクを見つめている。
「お前が、欲しい」
繰り返すように呟けば、少女の手がエメトセルクの頭に伸びてくる。ふわりふわりと髪の間に指を入れ込んで撫でてくるその感触が心地良い。
「いい、よ」
小さく呟くように少女が告げた。
「いま、だけ…あげる」
この檻の中に今だけ自分の意思で囚われると、少女は告げて微笑んだ。
エメトセルクも、もう、永遠に閉じ込めておこうとは思っていなかった。どれだけ閉じ込めても、お前はきっとすり抜けていく。だから今だけでいい。
口付けを交わす。舌と舌を絡み合わせて互いを高め合う深い口付けを何度も繰り返す。
口付けの合間にショーツを脱がせる。愛らしく主張する胸の突起を片手で優しく挟んで転がせば、その腰がまた跳ねる。
重ねた唇を離せば、唾液の糸がてらてらと2人を繋いだ。
「っんん…むね、やらぁ…」
びくびくと快感を素直に拾い上げる様はまさに蠱惑的な女性の色香で、そのくせ朱に染まる頬は色も知らぬ少女のようで。その狭間で揺れ動く様が美しくて、エメトセルクは目を細めた。
「こんなに嬉しそうなのに?」
指先で突起を軽く潰してやれば、甘い響きがその唇から漏れる。
「っんぁ…!」
ふるふると首を振る様はそれすらもエメトセルクの雄をかき立てる。
跳ねるように浮かぶ腰を今一度片手で持ち上げ、そのまま少女の秘部が見やすいように上向けた。
「や、やぁっ!!」
さらに赤く染まるその頬に一度口付けてから、秘部をよく見るために指を添えた。
くちりと水音を立ててゆっくりと秘部を開けば、エメトセルクしか知らない秘めたる場所が今か今かと待ち望むように口を開ける。すでに湿り出したそこは愛液でてらりと濡れ蠱惑的に光る。
恥ずかしい、と少女が小さく呟いてしかし目が逸らせぬままエメトセルクを見つめている。
片手で秘部を開きながらもう片手で愛液を掬い取る。唇を赤く震える突起に落とせば少女の体が大きく跳ねた。
「ひあっ、あっ、あぁっ!!」
軽く触れあうように唇を落としただけで、その場所がもっとと強請るように赤みを増す。
掬い取った愛液は会陰から蕾へとゆるゆると塗り付けていく。
硬さを残す突起を解すように唇で食みながら、秘部を撫で愛液を掬い蕾まで運ぶ。
その度にエメトセルクの下で少女が震える、跳ねる、喘ぐ。
ぺろりと舌で撫でてから軽く吸い付けば、がくがくと腰が震えて小さな体が縮こまろうとした。
「ああぁぁぁぁ…」
長いため息のような声が甘く長く達したのだとエメトセルクに告げる。しゃくり上げるように息をするその体を眺めながらほくそ笑む。
「悦い、だろ」
断定的に告げてまたぺろりと突起を舐める。言葉にならなかった喘ぎ声がその喉を震わす。
「ひぁ、ああぁっ、ひゃぅ…」
こんこんと湧き出る愛液は今では蕾を覆い背中側に漏れ出すほど垂れていた。その蕾を指先でぬちぬちと弄べば少女が目を見開く。何度触れても初めてのような反応が愛らしくて執拗にその蕾の入り口を捏ねる。
「ひ、あぁっ、あっ、ひぁっ、ああぁっ!」
合間にぷくりと可愛らしく膨れ上がった突起を食めば、小さな体が快楽を受け止めきれず跳ねる。
つぷりと指先を蕾に入れ込む。ほんの先だけを出し入れしてにちにちと弄べば、恥ずかしがるその様とは裏腹にもっと奥まで欲しいと締め付けてくる。嫌悪感からではない締め付けにエメトセルクは突起に何度も口付けながら笑った。
「もっと、と言ってるようだな」
「ひゃ、あぁっ、ちがっ…んっ、あぁっ」
否定の言葉は快楽に上書きされる。決して奥まで入れ込まずにくるくるとその入り口を解しながら感触を味わう。
体を起こしたエメトセルクは開くために添えていた指を秘部へと沈め込んだ。ずぷりと抵抗なく飲み込んでいくそこがきゅうとエメトセルクの指を締めた。
「ひぅっ」
蕾もきゅうと締まり入口を楽しんでいたエメトセルクの指を飲み込む。
「ほら、足りぬと」
「ひぁっ、んっ、んんっ」
素直に快感を拾い上げて少女が身動ぐ。エメトセルクの唇が太ももの内側に吸い付き強く吸い上げる。
「あぁっ」
びくりと跳ねた小さな足先をさせるがままにしておき吸い付いて跡を残す。白い肌に落ちた鬱血痕が花弁のようだった。
もっと奥まで、そう切望する内壁の収縮に合わせるようにエメトセルクの指が少女の蕾の奥へと飲み込まれていく。
「あっ、あぁっ…っふ、やっ…」
前に入れ込んだ指と壁越しに擦り合えば、途端に小さな体が跳ねる。
「ひぁっ、や、あっ、あぁっ!!」
「あぁ、よく締まる」
きゅうきゅうとその形を覚えるように、逃さないと少女の内壁がエメトセルクの指を締める。
じゅぶじゅぶと無遠慮に淫靡な音が部屋に響く。すっかり指一本を受け入れた蕾と、前と、その場所から響く音に少女はその身を捩る。
「っあぁ、っふ、んっ…お、と、やらぁ…っ」
「お前の感じる音だものな」
言葉に、少女がまた赤くなる。
ぐちぐちと指を蠢かせながら、1本ずつ増やしていく。
まず蕾に2本目を、ついで秘部にも2本目を入れ込んで開くように広げる。
「あっ、あっ、あっ、やっ、ひんっ」
がくがくと震える腰が快楽を拾いあげてその白い喉を揺らす。
強い感覚にきゅうと締まるそこをエメトセルクは根気よく解していく。
「前も、後ろも、とろとろだな」
「ひぁっ、あぁっ、あっ」
感じやすすぎる体は、丁寧に与えられた愛撫を素直に拾い上げていく。見開いた瞳は虚ろにどこも見ることなく色に染まる。
3本目を易々と飲み込んだそこを、達してしまえと強く擦れば少女の体は飽きることなく跳ね続けた。
「あっ、あああぁぁぁっ、あああぁぁぁ…!!」
びくびくと跳ねる体から指を抜き去ると、エメトセルクは優しく少女に腕を回し抱き上げた。腕の中でひくりひくりと体を弾ませるその小さな魂を抱き寄せて撫でる。唇を何度もなぞり呼吸を促せばややあってゆっくりと吐息が漏れ出した。
壁にもたれかかり正面から抱き締めた少女をあやすように撫でれば、小さく身動いで擦り寄ってきた。
その頬をそっと撫でる。白い肌は押し上げられた快楽で赤く染まり、冷え切った体は巡り始めた血流でほのかに暖かくなっていた。
+++
少女の手がエメトセルクのコートのふかりとした部分を撫でる。するすると撫でるその手をそっと取れば大きな瞳がエメトセルクを見上げた。
漏れ出すエーテルはどこもかしこも忌々しい光に塗れているのに、その芯に決して曲がらない少女の気配を感じて、エメトセルクはその小さな唇を覆いながらエーテルの色香を感じ取った。漏れ出たエーテルごと吸い付き舐め上げ、同じだけのエーテルを少女に与える。こくりこくりと唾液ごと嚥下するその様にぞくりとエメトセルクの雄が反応する。白い喉がこくこくと上下する様にただ一方的に与え続けたくなる衝動を必死に飲み込んでおく。
光に偏りすぎた少女に闇のエーテルは麻薬そのもので、その唇を名残惜しげに離しながら頬を撫で表情を見やれば、どこかぼんやりと恍惚とした様を映し出す。
「舌を」
小さな唇からちろりと見えた赤い舌先を求めれば、おずおずとそれはエメトセルクの前に差し出された。
赤い。赤く熟れた柘榴のようなそれを舌先を絡めゆっくりと吸い上げる。その互いの舌の動きに翻弄されるように少女はくぐもった声を喉の奥に押し込んで震えた。
ひくひくと痺れるような震えをエメトセルクのコートを掴むことでやり過ごそうとしながら、少女は必死にその快感に縋り付く。
舌先を舐め唇を食んで離せば、少女がエメトセルクの胸にくたりともたれかかった。荒い息で肩を揺らしながら、潤んだ瞳が見上げている。
エメトセルクもその静かな月のような瞳で少女を見やる。交わる視線は先程までの互いの慟哭などなかったかのように穏やかだった。
望まれたら望まれただけ、〝英雄〟の仮面を外してもなおその制約の中にいる少女は強く望まれている事実に困惑する。望まれただけ返したくとも、一万二千年の長い時の中で拗れたエメトセルクの妄執と欲望は少女が返すにはあまりにも大きく、ならば返せない分はせめて共に背負えればと思うもエメトセルクはそれを良しとしない。
「ただそこに在ればいい」
少女の想いを察してか、エメトセルクは穏やかな表情で微笑んだ。柔らかく歪む月の奥底に激しいまでの狂気を宿しながら。
「だめ、それは、対等じゃ、ない」
ふるふると首を横に振りながら少女は真摯に答える。それでは与えられるだけなのだと、返したいのだと訴えるも、エメトセルクは頑として首を縦に振らない。
今だけでいい、だから返さなくていい。エメトセルクは少女の頬を優しく撫でながら囁く。それこそがまさに返せないと思い至ってしまう原因でもあるのだが。
「せめて、好きな、ように」
差し出せるものがこの身しかないのだからせめてと請うも、エメトセルクはそれすらも許しはしない。
「お前をただ蕩したい」
それは愛の囁きにも似ていて。決してそれを口に出さないエメトセルクの精一杯の表現で。
口に出せないのは互いにだ。まずもってそういった感情がわからないと告げる少女と、あまりに遠くにその感情を置いてきてしまった二人には、今の互いの関係を言い表せる言葉すらない。
「私の声が届くのなら、どうか」
どうか返そうと思ってくれるな、エメトセルクはそう呟いて祈りを捧げるようにその小さな肩に頭を押し付けた。
「お前が、欲しい」
繰り返すように何度も、届くように何度も囁く。互いの淀みから手を伸ばす。せめて沈むのでも、共にあれと。
互いに曲げられない生き方だ、折れぬまま抱き合って眠るだけでもいいか、エメトセルクがそう覚悟の方向を変えかけたその時、少女が小さく身動いだ。
ゆるりと持ち上がった小さな腕が、波間を泳ぐように動きそっとエメトセルクの後ろ頭を撫でた。刈り上げたその襟足をさわりさわりと撫で感触を楽しんだのち、ふわりと柔らかい焦げ茶色の癖毛に指を絡めた。撫でるようにあやすように髪を梳くその動きに、エメトセルクはそっと身を預けた。
小さな肩の上下する動きに揺られながら、エメトセルクはその鮮やかなエーテルに包まれる。
その小さな手が、そっとエメトセルクの頬を包み顔を上げるように促した。導かれ顔を上げたエメトセルクの視界に困ったように微笑む少女の姿が映る。小さな手はそのまま、エメトセルクの白と黒に指を絡ませ梳いた。
小さな唇がエメトセルクの額にそっと口付けを降らせる。第3の目のすぐ横にそっと落とされたそれは柔らかくエメトセルクの中に沈み込む。
「大切」
少女が小さく呟く。
「少し、わかった、かも」
まだ名前のつけきれないそれを大事そうに抱えて、少女はエメトセルクに微笑んだ。
はにかむようなその微笑みは、もうエメトセルクの脳内でひとつにならなかった。お前とあいつとどちらもだと、腕の中の魂を柔らかく抱き締める。
「エメトセルク」
真っ直ぐな声だった。月のない夜に一人歩く時のしんとした空気にも似た音だった。
大きなガラス玉のように澄んだ瞳がエメトセルクを映して揺れる。
「あげる、だから、ちょうだい」
短い語句ははっきりと、色に沈まずエメトセルクに正しく届いた。
望むのではない、与えるのでもない、求めすぎることもなく。
ただ〝あげる〟だから〝ちょうだい〟
「ふはっ」
エメトセルクは笑った。皆の前で見せる嗤う表情ではなく、ただ柔らかい等身大の彼が笑った。
「…互いに遠回りしすぎたな」
頬を擦り合わせてそう告げれば、少女も嬉しそうにそれに倣った。触れ合う肌は、もう冷たくない。
エメトセルクの手がゆるりと少女の頬を撫で、小さな唇を親指の腹でなぞった。少女はその指を軽く食む。ちろりと舌先で舐めて恥ずかしそうに頬を染めている。
エメトセルクは先程少女がしたようにその額に唇を落とした。薄い唇の感触がさわりと触れ少女はくすぐったそうにくすりと笑った。
「お前らしい」
抱き締める腕の中で少女が笑う。エメトセルクもそれにつられるように微笑んだ。
視線を交わらせた2人は互いに求め合うように唇を重ねる。互いの熱を分け与えるように、角度を変えて何度も重ねる。求め合う心がエーテルを交わらせていく。
絶え間なく続くかに思えた口付けは、少女がエメトセルクの胸元をとんとんと叩いたことで揺り戻される。名残惜しそうに互いの唇が離れる。
「脱ぐ?」
尋ねるような物言いだが、これはどちらかと言えば懇願だ。エメトセルクは肩を竦めると留め具を外し重たいコートを脱いだ。衝立に引っ掛けて少女に向き直り、ふむと口元に手を当てる。
「少し、遊ぶか」
「へ?」
エメトセルクは口元に手を当てたまま、二言三言口の中だけで呟くとおもむろに指をスナップさせた。
きょとりとした表情のまま固まった少女の服が変わる。
「エオルゼアの装束だろう?」
エメトセルクは満足そうに微笑みながら少女をそっと抱き上げベッドから立ち上がった。
「え、え?」
きょときょとと周りを見渡して、自身の姿を見て少女が固まる。
深い夜空の色をした豪奢なドレス、それをエオルゼアで見たのはいつだったか。
「こ、れ…え、え??」
久遠の絆を誓い合う誓約の儀式〝エターナルバンド〟その儀式のためのドレスを着せられていた。
「似合うぞ」
「…あ、あぅ…」
顔を真っ赤にした少女に、エメトセルクは笑って一輪の花を創り出しその髪に飾る。
「時間はある、少し付き合え」
エメトセルクは少女を縦抱きにしたまま、片手をドアにかざし小さく魔力を込めてからドアを開いた。
+++
外に出るのだろうか、そもそもここはどこなのだろうか。
少女はその胸の内に疑問を抱きながらもエメトセルクの腕の中に大人しく収まっていた。
遠くでこぽりと水の動く音がする。長い廊下は広く無機質で、点々と灯る明かりが道を照らしていた。
辿り着いた場所は広い花畑だった。高いドーム型のガラス製の屋根が青い光を届けてくる。
柵で囲われたその花畑に真っ直ぐ迷わず歩いたエメトセルクは、その中央にそっと少女を下ろした。立つことは辛いだろう、と座らせる形で。
色とりどりの花が、揺れている。
「体は、辛くないか」
頭上から降る慮る声が、少女の心を揺らす。心を傾けられることから逃げていた少女は、真っ直ぐに向けられる心に戸惑っていた。
「…エメトセルク、雰囲気」
なんだかこんなやりとりも前にした気がする、そう思いながらも沸騰する脳味噌を回転させて少女が尋ねる。
エメトセルクは少女の前にしゃがみ込んでその額を指でとんとんと突く。
「誰かさんには、遠回しに言っても気付いてもらえんことのが多くてな」
「言葉、難しい」
「馬鹿言え。そんな難しい表現使っとらんわ」
とすとすと額を突かれて、少女は穴が空いちゃう!と両手でそこを庇った。
「平気なら、少し待てるか」
「うん…?」
小首を傾げながら了承の意を告げると、エメトセルクはぽんぽんと2回少女の頭を叩いてから立ち上がり広場から出ていく。
広い場所にぽつんと1人になった少女は、どこからか吹いてくる風から身を守るように両肩を抱き締めた。
見上げたドーム屋根の向こうでゆらゆらと何かが揺れている。
そっと腕を解き、じっと自分の手を見つめる。もう人の輪郭すら光に塗れた自分の手が、少女の未来すら塗り潰していた。エメトセルクの闇のエーテルの影響か、暴走こそしないものの身の内に荒れ狂う光は健在で、それ故に、互いの属性故に弾かれたのを知っているからこそ、少女はただ俯くしかなかった。胸元を両手できゅっと掴んで、小さくごめんなさいと呟いた。
「…どうした…」
俯く少女の姿を見て、エメトセルクが小走り気味に近寄ってくる。弾かれたように顔を上げた少女は、そちらを見ながら首を横に振った。
少女の目の前にしゃがみ込んだエメトセルクは、そっと頬に触れながらひどく真剣な表情で少女の様子を観察した。
「大丈夫」
安心させるようにと声を漏らすも、エメトセルクの眉が寄っただけだった。
じっと見つめられいたたまれない気持ちになった少女がきゅっと目を瞑れば、エメトセルクの指がそっと頬から顎に移動する。くいっと上向かされ唇が触れる。3度触れるだけの口付けをした後、エメトセルクは深く触れ合うように唇を強く押しつけた。そっと流し込まれるエメトセルクのエーテルを感じて、少女の腰のあたりがじわりと熱くなる。
唇を離してぺろりと舐められたその感触に、少女は薄く瞳を開く。
どこか不安げな、それでいて何故か不遜な顔をしたエメトセルクが少女を覗き込んでいた。顎と頬をすりすりと撫でながら満足げに頷いている。
「大丈夫、考え事」
赤らむ頬を必死に押さえ込みながら、少女はエメトセルクに告げる。
ようやく納得したのか、エメトセルクはふっと息を吐き出すと頬から手を離した。
少女の斜め前、すぐ触れ合えるほど近くに座り直すと少女の頭をぽんぽんと撫でるように叩いた。
今まで拒絶してきたものを惜しみなく与えられ、恥ずかしそうに少女はされるがままだった。
つい、と少女の目の前に真っ赤な丸い果実が提示される。
「見たことはあるか」
「…ううん」
エオルゼアでこんな果実を見た記憶はない。赤い果皮の先は花のように割れめくれている。
「…東方のあたりに分布する果実だ」
エメトセルクはぱちりと指を鳴らしてナイフを取り出すと、器用にその果皮を剥いていく。
果皮の向こうから現れた鮮血よりも暗く鮮やかな赤い小粒の実が、てらりと輝いた。
「柘榴だ」
「…柘榴」
どこかで聞いた覚えがある気がする。思い出せないまま少女は口の中で音を遊ばせる。
ぷちりと寄せ集まる実をひとつむしり、少女の口元に当てる。一瞬だけ戸惑って、少女はそれをそっと口内に招き入れた。
コロコロと小さな粒を口の中で遊ばせてから噛みしめれば、爽やかな甘みがふわりと広がった。
その様子を眺めたエメトセルクは今度は粒の数をもう少し多めにむしりとり、同じように少女の口元に当てる。おずおずとそれを口内に招き入れる様を目を細めて眺めた。
ゆっくりと、急かさぬように、エメトセルクは少女へ柘榴を与えた。餌を与えられる雛鳥のように、小さく震えながら自身の手の内から果実を食む少女を満足げに眺める。
果実を与えていた指先が少女の唇に触れる。ぴくり、と震えた少女がエメトセルクを恥ずかしげに見上げている。その表情に気をよくしたエメトセルクは、口の端をあげて笑うと指の触れた部分を自身の唇に持っていき、わざとリップ音を立てた。途端に少女の頬が赤く染まる。
ふふ、と笑って少女へ果実を与える動きを再開する。おろおろと視線を彷徨わせたまま、少女は与えられる果実を食んだ。
じっくり時間をかけて実ひとつ分の果実を食べきらせると、エメトセルクは余った皮とナイフをエーテルに分解した。きらきらと解けていくエーテルの彩が少女の瞳に映り込む。
「…美味し、かった」
ややあって、少女はエメトセルクへ感謝の言葉を述べる。エメトセルクは目を細めて少女の頬を撫でた。
身の内に落とし込んだ柘榴にまつわる話を知らない少女に、ふっと微笑んで口を開く。
「今は食べることも辛いだろ…食べれたのならそれでいい」
そっと喉から腹にかけてを指先でなぞられ、びくりと体を跳ねさせる。その様が楽しくてとんとんと腹を指先で軽く突く。
エメトセルクの指が離れていく。さわりと風が駆け抜けて花を揺らす。
聞きたいことも、言いたいことも、飲み込んで、少女はぱたりと花畑の上に寝転んだ。その上にエメトセルクが覆い被さる。
エメトセルクの向こうで大きな影が泳ぐ姿が見えた気がした。
その手が頬を撫でる。顎を軽く押して小さく開いた唇にエメトセルクの舌がするりと入り込む。ちゅくりと音を立てて唇が深く触れ合う。エメトセルクの舌が小さな少女の舌を絡める。吸い上げれば小さな体が震える。飽きることなく舌を絡め、口内を貪り、唾液を交わらせる。角度を変えて触れ合う合間に、その小さな手を大きな手が覆い隠す。投げ出した形のまま花畑に縫い付けられた様を、唇を離したエメトセルクが見下ろす。
「…美しいな」
今日だけで何度口にしたのか、褒める言葉を投げかけられて少女の頬が赤く染まる。
そのドレスの開いた胸元部分へ唇を寄せて口付ければ少女がぴくりと跳ねる。かちゃりと金属飾りが鳴る。ドレスの上からそっと胸の突起へ唇を押し付ければ、今度は大きく腰が跳ねた。
「っふ、んんっ…」
その様が楽しくて、何度も落とすだけの行為を繰り返す。びくりびくりと腰が跳ね、小さな膝がすりっと擦り合わされた。
その手も解いてドレスの裾を持ち上げて爪先に触れれば困惑の声が上がる。
「やっ、エメ…ダメ…」
タイツ越しにそのふくらはぎを撫でながらエメトセルクは少女に尋ねる。
「ダメなのか?」
「だ、ダメ…汚れ、る」
「汚れなければいい、と」
「ちがっ、ひゃうっ!」
辿るように動いていた指が少女の太腿を撫でた。
「違うなら汚れても構わんな」
「そ、そうじゃな、あっ、あぁん!」
必死にスカートを掴んで秘部を守ろうとするその手を難なく乗り越えてまだ湿った秘部をゆるりと撫でる。ちゅくちゅくと音を立ててやれば、その耳まで真っ赤になった。
「や、ん、エメ…っあぁっ!」
突起をこりこりと、感触を楽しむように指先を動かせばその膝がエメトセルクの腕を挟むように合わさり浮く。
「とろとろだぞ」
事実だけを口にすればいやいやと首が振られる。
「こ、ここ、外…っ!」
「そうだな」
その唇に触れるだけの口付けを降らせながら、エメトセルクの指が秘部から愛液をたっぷりと掬い上げ、尻の蕾に塗り付けられる。
ちぷちぷとわざと音が鳴るように蕾のひだに愛液を塗り込み、指を埋め込む。入り口の感触を楽しむように抜き差しを繰り返せば、一度達して解れたそこは、すんなりとエメトセルクの指を飲み込んでいく。
「あっ、あぁっ、ひゃっ、らめぇっ…」
その言葉さえもとろりと蕩して少女は潤んだ瞳を快楽に歪めた。
2本、3本と増えた指は難なく飲み込まれその身の中で蠢く。
「ひ、あ、あぁっ、あっ、ああぁっ!!」
抜き差しするたびに上がる甘い嬌声がエメトセルクの雄を刺激する。
蠢く指を名残惜しげに抜き去れば、ぬちりと求める音が聞こえる。
ズボンから熱り勃つ己を取り出して少女に覆い被さる。ドレスを持ち上げその膝の間に体をねじ込んで蕾に先端を押しつければ、快楽に浮かされたその体が震える。
「ふ、あ、あぁっ」
触れただけで漏れる甘い声がエメトセルクの鼓膜を刺激する。
「…いいか?」
ここまできて止める気など毛頭ないのに、エメトセルクはそれでも少女に尋ねる。拒絶してくれるなよ、と願いを込めながら。
少女の小さな手がエメトセルクへ伸ばされる。体を屈めてその手を受け入れれば、そっと頬を撫でられる。
「…あげる、だから、ちょうだい」
恥ずかしそうに頬を染めながら今一度告げるその声にエメトセルクは微笑んだ。
「受け取ってくれ」
張り詰めんばかりのエメトセルクの雄が、少女の蕾を割り開くようにゆっくりとその中へ入り込む。
「っ、ひぁ、あっ、ああぁぁ…」
ゆっくりと身の内に沈んでいく熱く太い杭の感触に、少女の喉が反りため息のような長く艶のある喘ぎ声が唇を震わす。
うねり締まる内壁の感触に眉根を寄せながらエメトセルクは出来る限りゆっくりと、少女の中に馴染むように自身の雄を進めていく。
ただ入り込んでいく、それだけなのに途方もない快楽に浮かされて少女の声は止まらなくなる。
「は、あぁっ! …っん、あ、ああぁ……っ!!」
本来なら受け入れるためにはない場所で、熱く太い杭を埋め込まれ、小さな体が反り震える。
エメトセルクの動きが止まる。
快楽に浮かされる少女の顔を覗き込んで、エメトセルクは笑った。
「今、半分ほどだ」
既に一杯に開かれた場所にまだ半分しか入ってないという事実に少女がさらに顔を赤らめる。
エメトセルクのシャツを掴んで潤む瞳を投げ掛ければ、微笑んだ顔に意地悪そうな表情が重なる。
「もっと、欲しいだろ?」
悪戯を思いついた子供のような表情だ、そう思った次の瞬間、少女はぐいっと体を引っ張られ抱き起こされた。
重力に逆らわず、エメトセルクの雄が少女を穿っていく。
「あっ、ああぁっ、あぁっ、とまっ、あああぁぁぁっ!!」
ずるずると勢いを殺さぬまま奥まで入り込んだエメトセルクの雄の感触に、少女は大きく跳ねて震えた。こつりと奥の奥を叩いた感触がする。
「飲み込んだな」
口付けをその唇の際に落としながら、ぱくぱくと息を求める少女をあやす。呼吸が戻るまで、エメトセルクはその背を撫でながら何度も唇を落とす。
「いい子だ」
はふっと息をついたのを見届けてエメトセルクは繋がる場所を撫でた。
「っひぁっ、あっ、あぁっ」
「ほら、繋がっているだろ」
がくがくと震えるように首を縦に振る少女に、笑いながら口付けを落とす。
「あぁ、見てごらん」
エメトセルクがそっと少女の顎に手をかけ横をむかせる。
ふわりとドレスが花畑の上に広がっている。
「繋がっていることすら隠して、広がっているな」
告げられた言葉に、少女の内壁が締まる。
2人を隠すように広がるドレスの下で淫らに繋がっているという事実を再認識して、少女は震えた。
「立ち上がってもわからんな」
「や、だめっ、立たない、ああぁっ!!」
制止の言葉は聞かずにエメトセルクが少女の尻に手を添えて立ち上がる。衝撃でずくりと動いた身の内の感触に喉が震える。
そのシャツに必死にしがみついて少女はいやいやと首を振る。
ドレスは少女の尻を覆い隠し地面につくかつかないかの高さで風に揺れていた。
「人が通っても、これならわからんかもな」
そもそも人などいない場所である。通るはずもない。通ったとしてもそれはエメトセルクが創り出した泡でしかない。
だがそんなことなど何も知らない少女は、その言葉に震え上がる。
「やっ、やだぁっ、抜いて…おろしてっ!」
縋り付きながら身を捩り、身を離しながら咥え込み、相反する行動を繰り返しながら少女の瞳から涙が溢れる。
「あぁ、そんなに震えて」
エメトセルクの中でも相反する感情が嵐のように渦巻いていた。もっと酷くしたい、もっと蕩けさせたい、抱き潰してしまいたい、抱き締めていてやりたい。
「大丈夫だ、ここには誰も来ぬよ」
その額に何度も口付けを落としながら、エメトセルクはゆさりと腰を揺らした。
「ひぁっ、やっ、あぁっ、エメっ、ダメっ、ああぁっ…こわいっ!」
こわい、と告げられてエメトセルクはピタリと体を止める。
「あぁ、すまない。こわかった、か」
ゆっくりと膝を花畑の上に落とす。近くなった地面に、抱き締められたままの少女は少しだけ息を吐いた。
「っふ、うぅ…」
縋り付く体をあやすように抱き締める。少女の中での絶対的な判断基準を、その身のうちの激動と慟哭を知っているからこそ、エメトセルクは非情になりきれない。
きゅうきゅうと蕾は求めるように締まり内壁ももっとと絡んでくるが、すべてを一旦隅においてエメトセルクは少女を抱き締めていた。
少女の手がとんとんとエメトセルクの胸を叩く。
腕を緩めれば、潤んだ少女の瞳がエメトセルクを映していた。
「すまない」
「…っ、へい、き」
その胸に今一度擦り寄ってくる体から花の香りがする。
「エメトセルク…」
見上げてくる瞳を覗き込む。随分酷い顔してるな、と映り込む自分に苦笑する。
「こわく、なければ、いいよ」
きゅっとその手がシャツを掴み直す。エメトセルクを咥え込む蕾が少女の意思で締まる。
まだ受け入れてくれるという事実に、エメトセルクの胸が熱くなる。
「こわく、しない」
お前のような喋り方だな、そう笑いながらエメトセルクは少女の唇にあやすように口付けを降らせた。ゆるく少女の中の己を揺らせば、口付けの向こうから甘い吐息が漏れる。
エメトセルクはゆっくりと繋がる自身を上下に揺らしていく。揺れるたびににちゅりと繋がる場所から音が響く。
「っふ、あっ、んんっ…あぁ…」
ゆったりとした動きに、少女の中の快楽が今一度燃え上がる。潤んだ瞳に色が滲んでその口から甘い吐息が絶え間なく漏れる。
ゆっくりと揺らす動きは徐々に早くなる。上下に擦るような動きに少女の内壁がきゅうきゅうとエメトセルクを締める。
こりゅこりゅとエメトセルクの雄が何度も少女の性感帯に、奥の奥に触れる。
「ひぁっ、はっ、あっ、あぁ、んっ」
もうその動きは早い抽送となって少女の中を何度も往復する。擦られるたびに甘く上擦った声がその喉を揺らし、鼓膜を震わせた声がエメトセルクの腰の奥に落ちて熱となる。
「あぁ…よく、締まる」
その締め付けを受け止めながら、エメトセルクはうっとりと低い声で囁く。抽送に煽られて快楽を素直に受け入れながら少女は腰を揺らめかす。
「いい子だ…」
こつこつと奥の奥を叩く。この先に解き放ちたい、その欲だけを押し込めて快感を拾い上げる。
奥を叩かれるたびに少女の声が高くなる。感じやすい体はもっとと強請るように腰を揺らめかせる。
「ひっ、あっ、あぁっ、あっ」
とろりと歪んだ少女の瞳がエメトセルクを映して笑う。早くなる抽送が互いの限界を示していく。
ぐんっと突き入れたその瞬間、エメトセルクの雄がぬぽりと嵌まり込む感触。
「っ、あああぁぁぁっ!!」
ぎゅっと締まったその様子に慌てて体を浮かすが一歩遅く、少女の達した強い締め付けに、あえなく抜きかけたエメトセルクも少女の中に精を叩きつける。
快感に逆らえないまま今一度奥まで突き上げれば、エメトセルクの先端がぬぽりとその奥の入り口を押し広げた。
「っ、あっ、はっ、ひぁっ、ああぁっ…!」
強く達したまま与えられた快感に、少女が跳ねるように声を上げ、そのままくたりとエメトセルクの腕の中に落ちた。
「…っく…」
己の精を少女の中へ出し切ったエメトセルクは、腕の中でくたりとしている少女を上向かせ唇を塞いで息を注ぎ込む。快楽に跳ねるエーテルを落ち着かせるように、自身のエーテルを絡める。ややあって少女が自発的に息をし始めた気配を感じ、そっと顔を離す。恍惚とした表情のまま落ちたその頬を撫でる。
「…すまん」
聞く人のいない謝罪が花畑に消えていった。
+++
あたたかい。ゆれている。ここちよい。ここにいたい。
ぱしゃりと揺れる水音に誘われるように、少女はゆっくりと意識を覚醒させた。ゆらゆらと揺れるような感覚にぼんやりと瞳を揺らすと声が降りてくる。
「目覚めたか」
導かれるように顔を上げれば、安堵の息を吐くエメトセルクと目があった。
「大丈夫か?」
ぼんやりとしたままの少女の目の前で手を振って呼びかけるエメトセルクに、少女はほぅと息を吐いた。
「だい、じょうぶ」
あたりを見回して、2人で湯に浸かっているという事実に行き当たる。エメトセルクの手ががっちりと腰を掴んでいる。
「私…えぇと?」
「あぁ、すまない。やりすぎた」
素直に謝罪を述べるエメトセルクの様子に記憶を探り、思い出して少女の頬が真っ赤になった。
エメトセルクの指がそっと少女の頬を撫でる。
「…こわかったろう」
問いかけに少女は首を横に振る。
「こわく、ない」
こわさよりも、何が起きているのかわからない状態だった、と少女はエメトセルクに告げる。言い淀んだエメトセルクは、ただ、加減が出来なかった、すまないと謝罪を重ねた。
「気に、しないで」
少女の腕が持ち上がり、あやすようにエメトセルクの頬を撫でた。互いに頬を撫で合う。
こてりと少女はエメトセルクの胸元に頭を寄せた。厚い胸板は少女が寄り掛かった程度ではびくともしない。
広すぎず狭すぎない浴槽には暖かな湯が張られていて乳白色の入浴剤が入れられている。エメトセルクに横抱きに抱えられたまま、少女はお湯をくるりと揺らした。
エメトセルクは少女の頬を撫でていた手を顎に添えてそっとその顔を上向かせる。じっとその顔色を観察して、ほっと安堵の息を吐く。
少女の手もエメトセルクを撫でながら優しくその輪郭を辿る。どちらともなく重なった唇に小さく吐息が漏れる。啄むような口付けを交わして互いに柔らかく微笑む。
今だけここに囚われる、その選択をした少女が普段よりも少し積極的にエメトセルクに擦り寄ってくるのを、心地良く受け止める。まだどこかぎこちなさは残るが、それすらも心地良かった。
少女は自身の手をエメトセルクの手に重ねるとそれをじっと見つめた。ぴとりと寄り添う肌の感触がこそばゆい。
「大きい、ね」
エメトセルクの手の中にすっぽりと収まってしまう自身の手を、こんなに違う、と笑いながら重ねる。
「お前が小さすぎるんだ」
魂の色だけ同じなのに、その器が違いすぎて最初は戸惑ったことを思い出す。今ではこの小さな体こそが良いのだと言えるのだが。
「普通」
「いーや、お前ドワーフの中でも小さいだろう?」
「そう、かな」
ぴたぴたと手を合わせながら少女は首を捻った。
「…私も、ガレアン人の中では小さいほうだ」
「えっ」
きょとりと大きな瞳で見つめてくるその目蓋の横に唇を落とす。
「ゼノスに会ったろう?」
今の中身はエリディブスだったか…その言葉は口に出さずに尋ねれば小さくこくりと頷かれた。
「あれやヴァリスなどはガレアン人らしい体躯だな」
少女はあぁと呟いた。確かに見上げても届かないほどには大きかったその体を思い出す。
「まぁ、それでもお前からすれば大きいか」
少女の手をそっと握り締めながらエメトセルクは笑った。握り締めて壊してしまわないようにそっと包まれる感覚に、少女は恥ずかしげに赤くなった。
その小さな腰を掴んでいた手がさわりと腹を撫でる。するすると泳ぐように腹から太もも太ももから股の間へとその手が動く。探るように動いていた指が、少女の突起に触れる。
「っん…」
ぴくりと身を震わす様を眺めながら、指先に触れた突起を優しく撫でる。
「んっ、あんっ…やぁ…」
閉じ込めたままの少女の小さな手をそっと持ち上げ、その指を舌でべろりと舐め上げれば高い嬌声が上がる。
「ひぁっ! …んん…んぁっ!」
ぽっと灯った快楽の炎が少女の頬を赤く染めていく。
エメトセルクは少女の手を解放すると、そのまま指を股の間、蕾へと進める。触れられてびくりと跳ねた少女がエメトセルクを見上げてくる。
「…ま、た…そっち…?」
おねだりのようにも聞こえる甘い声色がエメトセルクの耳を揺らす。
「こちらを弄ると良く濡れるからな」
少女すら気付いていなかった生理現象をさらりと告げられて頬の赤みが増える。とんとんと蕾を叩かれて身を捩ればエメトセルクは楽しそうに目を細めた。
「この場で」
するりとエメトセルクの指が秘部を撫でる。その動きすら快楽に変換して少女が震える。
「こちらを味わうのは、もったいない」
髪に顔を埋めて深く深呼吸したエメトセルクはそのまま指で何度か入り口を擦るとまた蕾をやわやわと弄り始めた。
「ベッドまではこちらで我慢できるか?」
ゆらゆらと揺れるように蕾を押し広げられ、少女は思わずこくりと頷く。
「あぁ、いい子だ」
投げかけられた優しい答えに、頷くタイミングを間違えたと口を開きかけるが、エメトセルクの唇が降りてきて音にすることは叶わなかった。
エメトセルクの大きな手が少女の体をくるりと回転させ、浴槽の縁を掴ませた。自然と膝立ちのような体制になった少女に覆い被さるようにエメトセルクが背後から声をかける。
「ほら、こんなに溢れてる」
撫でられた秘部の割れ目からは愛液が染み出し、軽く触れただけのエメトセルクの指をぬらりと湿らせた。太ももと腹の境目で、少女が動くたびにちゃぷりと湯が揺れる。
エメトセルクの指が探るよう蕾を押し広げていく。一度エメトセルク自身を埋め込まれているそこは、抵抗なく指を飲み込んでいく。ゆっくりと奥を探るように擦られて、反った白い喉からとろりと喘ぎ声が漏れる。
「ああぁ…っん…ふぁぁ…」
攻め立てる動きではないどこまでも緩やかな動きは、少女の中に快楽をため込んでいく。
エメトセルクはじりじりとした快楽を少女の身のうちにため込ませながら、己の雄が飽くことなく勃つのを感じうっそりと笑った。〝真なる人〟としては恥ずべき獣のような行為に酔いしれる自分がどこか誇らしかった。
抱き締めたい、抱き潰したい、組み伏したい、包まれたい、見つめたい、見つめられたい、閉じ込めたい、羽ばたかせたい。
それらはエメトセルクの中に押し込んでいた欲望。どこまでも自由であったあの人に抱いて、いままさに目の前の小さな存在にも抱いた浅ましくも美しい願望。
2本、3本と指を増やしながら、この手の中で逃げずに快楽に踊る少女を見ながら、自分の内から起こる欲望の発露にエメトセルクは震えた。
表裏一体の欲望をその胸の内に焦がしながら、震えるその背を撫でた。
「すっかり、柔らかくなったな」
「ひぁっ、うぅ…言、わないで…」
いやいやと首を振る少女のその髪が揺れるのをぼんやりと眺める。
「言わねば伝わらぬだろう?」
「っひぅ! んやぁっ、今…だ、めぇ…」
こりこりと奥を擦ればその膝ががくがくと震える。突き出された白い尻は快感に震え、止めどなく溢れる愛液がぱたぱたと湯の中に溶けていく。
エメトセルクの腕がその腰をそっと掴む。体を寄せながら指を引き抜き少女の蕾に己の狙いを定める。
ちゃぷりと湯の温かい感触と共に熱い楔でぐりぐりと蕾の入り口を刺激される。
「いいか?」
だめと言わないのを知っていて、何度も少女に問いかける。もうぐずぐずに蕩かされた少女の思考すらも快楽を求める。
「っふぅ……っちょう、だい」
音が届くと同時にゆっくりとその小さな身を自身の体に寄せていく。みちりと肉を割り開く感触の後、エメトセルクの先端は柔らかな肉に包まれた。
「っあ、ああぁっ、んんっ、あぁっ!」
じわりじわりと時間をかけて2人の境界線を解していく。狭いその場所はエメトセルクを歓喜して受け入れ、そうするのが当然であるかのように絡みついてくる。
少女の自重で沈みながら、しかし湯の抵抗でゆったりとした進行となったそれは燃え上がる2人をじりじりと焦がしていく。
「あぁ……悦い」
短く少女の耳の後ろに落とされた声が、少女の全身を駆け巡りぶわりと花開かせる。
「あぁっ、ああぁっ、エメっ、あぁっ」
掴むところのなくなった少女の両の手が、縋り付くように腰を支えるエメトセルクの腕にぴとりと添わされた。
こつりと奥の奥に当たる感触に肌がぶわりと立つ。その奥に先ほど入り込まれた感触を思い出したのか少女の体が少しだけ固まる。
「このままで」
すりっと後頭部に擦り寄ったままエメトセルクは低く呟く。身の内に熱い杭を穿たれながら少女はふぅふぅと息を吐いた。
すっぽりと腕の中に収まった小さな体を抱き直しながら、エメトセルクは大きく息を吸い込んだ。鼻の奥に少女のふくよかな香りが充満して、それだけで満たされる気持ちになった。
「…あまり、締めるな」
「っふ、ぅ?」
少女がエメトセルクを見上げながら首を傾げる。無意識のうちにきゅうと締まる内壁の感触に欲望を押し付けたい気持ちを堪える。
蕩かせたいのだ。ただこの腕の中でどろどろに快楽に溶けて踊る少女を見たいのだ。その反面、ただ欲望を押し付けてひたすらに犯し尽くして貪りたいという思いもあるのだ。
ままならぬ、エメトセルクはそう苦笑しながら少女の額に口付けを降らせる。
今だけ、そう、今だけなのだ。この小さな体がここにあるのも、この魂と触れ合えるのも今だけなのだ。いずれこの手を離れて、我らは対立する。曲げられぬ信念と願われた想いのために。別離は近い。
互いにそれを感じているのか、少女は何も言わずエメトセルクをただ受け入れた。望まれて、願われて、居場所をくれたから、と。
「いい子だ」
いろんな思いをひっくるめて短い言葉にして放つ。告げられた少女はそれをそのまま受け止めて溶かし込む。
ちゃぷりと湯が揺れる。乳白色の湯の中で淫らに繋がる2人をも揺らす。
「熱くはないか」
不意の問いかけに少女の顔がみるみる赤くなる。変なことを尋ねただろうか、と思案してからエメトセルクは笑った。
「ふはっ…違う違う、湯温のことだ…くくっ…」
「だ、だって…もぅ、エメっ、あんっ」
抗議の声を上げかける少女の中の己を揺らせば、途端に艶かしい声が漏れ出る。
「まったく…くくっ…」
笑いながら大丈夫そうだなと尋ねれば、顔を真っ赤にしたまま少女は小さく頷いた。
「こちらは、熱いか?」
ぐりっと奥をするように蠢かせれば、その背が反った。
「っふ、んんっ、熱、い…」
恥ずかしげにそう告げる少女に目を細める。その頬をするすると撫でればまた小さく震えた。
湯の揺らぎに合わせるように揺らせば、少女はふるふると震えながら丁寧に快楽を拾い上げていく。
「っん…あっ、あぅ…っふ…」
じりじりと揺れるだけの動きに快楽を拾う、その姿を見るだけで胸が震え己の雄が熱くなる。その小さな体を余すところなく開かせてエメトセルクの与える快楽をひとつもこぼさず拾い上げようとする姿に、雄の欲望が震える。満たされることのない飢えた欲望が、もっと感じさせたいと蠢く。
ちゃぷちゃぷと揺れる湯が激しくなる。上下する動きではない、腰を強く押すその動きに少女が一度慄く。その奥底を割り開かれたのは記憶に新すぎた。
「この奥」
ぐりっとそこを刺激されて喉が跳ねる。はくりと動いた口が細い息を吐き出す。
「悦かったか?」
尋ねられて少女はわからないと答える。何が起きたのかすらよくわからないまま強い感覚にさらされて気をやってしまったのだ。気持ちが良かったのかもしれないが、それを快感として知るには少女の経験は足りなさすぎた。
「悦くなるまで、しようか?」
笑うようなその声に、少女はふるふると首を横に振った。くつくつと笑うその動きが背中から伝わってくる。
「私は、したい」
正しく歪んでいるエメトセルクの欲望が、少女の急所に鎌をもたげている。彼の心持ちひとつで、快楽に浮かされるも墜とされるも思いのままなのだという事実に、その身が固くなる。
「快感に喘ぐお前を見たい」
ぐりぐりと押し付けられるそれが今か今かとそこを割り開こうとしている。くぷくぷとした言いようのない感触が身の内から響いて、体を捩ることすらできない。
「蕩して、墜としたい」
少女を支える両の手がゆらゆらと腰を撫でる。
「繋がって、犯し尽くして、浮かせて、墜としたい」
正しく歪んだ欲望が、その口からようやく音となって少女の前に解き放たれる。その熱に少女の中がきゅうと締まる。
激しさも優しさも彼の中では常に混在してその身を焦がしているのだという事実に、その熱が全て自身に向けられている事実にふるりと震える。
「エメ、トセルク……っ!!」
名を呼べばどうした? といつもの声色でぐりぐりと奥を擦られ背が粟立つ。
止まらないのを知っている。止まる気がないのも、知っている。
「私……っ欲し、い?」
だから問いかける。欲しいのは本当に私なのか、と。今この時しか差し出せない私でいいのか、と。
「お前がいい…お前じゃないなら、いらない」
甘えるように後ろ頭に擦り寄るエメトセルクの熱い呼吸を感じる。少女を支える大きな手を小さな手が掴んだ。
「…優しく、して?」
耳まで赤くしながら水音に紛れてしまうほど小さく呟いたその言葉を、エメトセルクは聞き逃さなかった。
「あぁ、あぁもちろんだ」
きっと優しくはできない、それを知りながらも少女は懇願する。あなたなりの優しさでいい、ちょうだい、と。
エメトセルクはそっと少女の腰を支えるように掴んだ。その手に少女の小さな手が重なる。
期待と不安で震えるその首元にゆるく口付けを落として、ゆっくりと体を揺する。
「っん…あぅ…」
ちゃぷりちゃぷりと湯が揺れて、体も不自然にゆらゆら揺れる。押し入るでもなく快楽を重ねようと動くその動きに、少女は喉を震わせる。
ゆらりと揺れるたびにずるずると擦られて声が止められない。
「はっ、あぁ…っん…あぅっ」
揺れるだけの動きは徐々に浅い抽送に変わる。奥には触れぬように気を配りながらも性感帯を何度も擦られて切ない声が上がる。
「ひあぁっ、や、あぁっ!」
こりこりと押し付けられれば喉も背も反り跳ねる。きゅうと締め付ける内壁の圧と、小さな指がエメトセルクを絡めていく。
「…本当にお前は、感じやすいな」
うっとりとした声で耳の後ろに言葉を落とされれば、少女の内壁がさらにきゅうと締まる。びくりびくりと跳ねる体に合わせるように、ふるふると横に振られる首に合わせて、エメトセルクの胸元を少女の髪がさわりさわりと撫でていく。
「いい子だ、よく…締まる」
ぐいぐいと押し上げられれば迎え入れるように少女の中が締まる。
エメトセルクの片手が少女の脇を通り肩を掴む。びくりと震える少女の耳に唇を落として、低く囁く。
「受け入れておくれ」
強く押し付けられて、息が詰まる。最奥をぐいぐいと押される感覚にはくはくと唇を動かす。
ぬぽぬぽとそこに割り入ろうとする感覚に肌が粟立つ。
「ひぁっ、あっ、あぁっ、っふ」
その跳ねる喘ぎ声の間、ふっと息を吐いた瞬間を狙うように、エメトセルクの雄が少女の奥にぬぽりと入り込む。
「あっ、あああぁぁぁっ!!」
ぐっと締まるその圧に耐えるようにエメトセルクは息を吐く。幹はグンと締まるのに入り込んだそこはぬるま湯に浸るように柔らかく暖かった。
「ああぁっ、あっ、ああぁっ!!」
かぶりすら振れずに、ただきゅうと体すら折り曲げて強すぎる快感に耐えるその体が、びくりと跳ねる。
「っぐ」
さらに締まりうねる感覚に、エメトセルクはぐっと腰を引いて精を吐き出す。少女の中を自身の精で満たしながら、前のめりに崩れ落ちそうになる小さな体を抱き寄せた。くたりと弛緩するその顔を上向かせ顎を開かせる。小さな唇を何度かなぞり開いた口からそっと指を浅く入れて舌を押せば少女の喉が勢いよく息を吸い込む。
「ひゅ、うぁ…」
指を離して頬を撫でればびくりと体が震える。
「大丈夫か?」
髪に顔を埋めるように囁いても震える。
(……おや?)
肩に置いた手を退けただけでびくびくと震える様はまるでまだ絶頂の渦にいるかのようで。
「ひぁっ、まっ、エメ、うごかなっ」
「開きすぎたか」
「ひぅっ」
強い快感にさらされすぎて、一時的に全身どこもかしこも性感帯のようになっている様はあまりにも美しくて。
瞳からはぱたぱたと涙がこぼれ、口元はだらしなく開いたままになっている。そのエーテルを見やれば乱れに乱れている。
「すまんが少しだけ我慢しろ」
エメトセルクは跳ねるその体を抑えるように抱き寄せる。
「あっ、あぁっ、ひっ、んんっ!!」
乱れたエーテルを解すようにエメトセルクのエーテルを添わせれば、がくがくとさらに震える。それすらも抑え込むように丁寧にエーテルを解していく。ゆっくりとエーテルの揺らぎに沿うように解していけば、自然と体の震えも治まっていく。
「ふ、ふぁ…っん…」
ようやく開いたままの口が閉じる頃には乱れたエーテルは穏やかになっていた。あやすように頬を撫でても、跳ねるようには震えない。
「っん…こわ、か、た」
震える手で口元を押さえながら少女はふるりとかぶりを振った。
「大丈夫か」
問いかけを再度。少女が仰ぎ見るようにエメトセルクを見つめる。
「へい、き…びっくり、した」
「すまん…」
互いに顔を見合わせてふっと笑う。その動きで自然と力の入った体がぴくりと跳ねる。
「……っ、ん」
まだ少女の中に居たエメトセルクが、ゆるりと起立する気配を感じてちらりと上目遣いで視線を交わらせた。
「ん? どうした?」
「んっ…まだ、入って…」
「そうだな」
少女の耳の後ろに口付けしながら囁けばその身が揺れる。ちゃぷりとした水音と共にその動きに合わせるようにエメトセルクの雄もむくりと立ち上がる。
「げん、き…?」
「っふ、はは…そうだな」
可愛らしい物言いに自然とエメトセルクから笑い声が漏れる。
まだ少し肩で息をしながら、少女は体を硬らせる。その様子にくいっと腰を揺らせば、一度盛大に燃え上がった体はいとも容易く再燃し、その唇から甘い吐息を漏らす。
「あぅっ…ま、だ…する、の…?」
甘い声でそう言われては、しないとは言い切れない。エメトセルクの腕がするすると少女の胸元を弄る。
「こんなものでは止まらんぞ?」
なんと言っても一万飛んで二千年分の熱情だ、自覚してしまった今、遠慮をすることもないとエメトセルクは開き直る。
「こわれ、ちゃ…やんっ」
言い切る前に奥を揺らされ途端に鼻から声が抜けていく。ゆらゆら揺れるだけなのに、体が期待で震える。
「壊れてしまえばいい」
耳を甘噛みされながら低く囁かれ少女が跳ねる。
「快楽に溺れ、蕩け、壊れてしまえばいい」
エメトセルクの指が少女の胸の突起を撫でる。その動きに合わせて少女は跳ね、内壁がきゅうと締まる。
「っふ、あぅ……っだめ、だよ…」
「だめなもんか」
ぐんっと奥を押されて喉が反る。くぽりとした感触が身の内から湧き上がりぞくぞくと肌に痺れが走る。
「奥の奥まで蕩して、私を受け入れて、壊れてしまえばいい」
エメトセルクの低い声に少女ははくはくと口を動かす。リップ音を響かせながら耳の後ろに口付けを落とされてまた腰が跳ねる。
すっかり蕩けた少女の最奥は突くだけで甘く震える。吸い付くようにエメトセルクの先を捉えてもっとと蠢く。
「ふあぁ…あっ、あぁっ、やぁっ…!」
「ほら、欲しがってる」
「んんんっ、ふぅっ、ちが…んぁぁっ!」
快楽を逃そうとゆるく振られる頭が、快楽を拾い上げてびくりと止まる。何度も押し当てられる先端が入り込んできそうな感覚に腰が揺れる。きゅっと胸の突起を摘めばびくりと跳ねた体が浮く。浮いて、戻り、ぴとりと奥と先が合わさる。
「私で満たされておくれ」
低く甘い囁きと共に、エメトセルクの先端が少女の最奥に穿たれた。2度開き受け入れる準備だけ整っていたそこは、しかし3度目といえど強い快楽であることには変わりなく、少女は体を大きく反らした。
「ああああぁぁぁっ、あっ、ああぁぁっ!!」
入り込んだその先端はそれ以上押すことも引くこともなく、その包まれる感触を感じていた。
幹を食い千切らんばかりに締め付ける内壁と、先端を柔らかく包み込んで律動する温もりに、エメトセルクの秘めていた加虐心がずるりと顔を出す。
深く長いため息がエメトセルクの口から漏れ出し少女の鼓膜を揺らした。
「わかるな?」
「ひぁっ、あぁっ、あっ、っああぁぁっ!!」
「ははっ…あぁ、お前は本当に」
それ以上何も言わず、エメトセルクは少女を強く抱き締めた。きゅうきゅうと締まる幹への圧と、ゆるゆると柔らかい刺激を先端へ与える蠢きに、エメトセルクの雄は満たされていく。ただ押し付けているだけなのに、強い射精感がエメトセルクの身の内を焦がしていく。
「あぁ……出してしまいたい」
低く落とされた呟きに少女が震え首を横に振る。
「っひ、あっ、だめ、それ、は、っ!!」
全てを言い切る前に、今一度胸の突起を擦られ腰が跳ねる。
「悦い、だろ」
「あっ、やっ、だめっ、んっ、あぁっ!」
短いスタッカートで声を漏らせば、そのリズムに合わせてきゅっきゅっとエメトセルクの幹が締まる。ダメと告げたその声に逆らうように少女の腰が蠢いた。
「欲しいって、体が」
低く囁かれる度に少女がびくびくと震える。その音すら快楽に変えて身を焦がしていく。
「そんなに締めたら、出てしまう」
口調こそ丁寧だが低く甘く囁く言葉に少女は息を吸い込んだ。
「っひ、はっ、あっ、あぁっ、ああぁっ!」
ぱたぱたと落ちる涙はもう止められなくて、少女は小さく頭を振った。エメトセルクが止まらないことを悟って、少女は自身の胸の突起に伸びたままのエメトセルクの腕にきゅうと抱きついた。
その仕草が決定打になる。
揺らすような動きだけで、エメトセルクは浅い抽送をする。嵌まり込んだその感触を楽しむように浅く抜いては差し込む。くぽくぽとその入り口を通り抜ける先端の感触に自然と笑みが漏れる。
「あぁっ、あっ、あっ、ひぁっ、ああぁっ!!」
跳ねる声を、体を、止められない。ぞわぞわと背中を走り抜ける快感の痺れが、少女の視界を白く染めていく。ちかちかと明滅する視界が少女に限界を伝えてくる。
「あっ、あっ、やっ、も、あぁっ、らめっ!!」
かたかたと震えてエメトセルクに縋り付く少女に、エメトセルクはほくそ笑む。その髪に口付けを落としながらため息のような声を漏らす。
「飲んで」
短く告げられたそれに反応するように背が反る。ぎゅうと強い締め付けと奥の奥に差し込まれる感覚。
腰の奥に放たれる熱い奔流に、少女は強すぎる快感をその身に受けて意識を手放した。
+++
やりすぎた、というしかない。
腕の中で規則的な寝息をたてる少女を抱き締めながら、エメトセルクは何度目かの深いため息を吐いた。
自身の奥底に眠らせておいた、少女の前では出すまいとしていた獣じみた独占欲と加虐心が、少女を襲うのを止められなかった。
酷くするつもりなど毛頭なかったのに、止められなかった。
自身を殺してしまおうとするほどの強い激情を身の内に秘めた少女に、生きることを拒絶しかけた少女に拒絶されなかったという事実に、ただ胸が熱くなって止められなかった。
(…それすら言い訳だが)
ただこの腕の中に在ればいい、だなんてよくいえたものだ。それだけで止まれないほどの熱情を抱えていることを理解していただろうに。
真っ直ぐ正しく歪んだ自分を理解しているだろうに。
静かに瞳を閉じるその頬をなぞる。輪郭を辿ってその手を取る。白い肌に付けられた傷が痛々しくて、そこにそっと口付ける。
ふるりと睫毛が震える。その口が小さく開いてもごりと蠢く。うっすらと瞳を開いた少女はぼんやりと視線を彷徨わせた。
「……エメトセルク…?」
「なんだ」
小さく首を振った少女は何度も目を瞬かせる。一度強く瞑り、開いてようやくエメトセルクと視線が交わる。
「…寝て、た?」
誤魔化すような物言いだな、そう心の中でだけ呟きながら、あぁと軽い返事を返す。
『ほんとはね、見るのも、ちょっと、難しい』
意識していないと視界すら光で覆われてしまう。何も、見えなくなってしまう。
それでも少女はそれを悟られないように隠そうとする。心配などかけさせたくないと気丈に振る舞う。
「ごめん…なさい…」
「何を謝る。気をやるほど悦くしたのは私だ」
言われた言葉に、一拍おいて少女が真っ赤になる。浴室での情事を思い出したのか視線がおろおろと彷徨う。
自身の腕の中にすっぽりと収まってしまう小さな体を抱きすくめる。腰を強く抱き寄せながらさわりとなぞれば、びくりと体が跳ねた。
「なんだ、足りなかったか」
「っひぅ、ちが、ぅ」
くつくつと笑いながら正面から抱き締めてやれば、エメトセルクの肩口に少女の頭がぽすりと収まった。
1人がけのソファの上、ふたつの影が重なる。
「本当に、お前は感じやすい」
「そ、そんなこと」
「ないとは言わせんぞ」
今一度腰をなぞれば甘い嬌声がその喉を揺らす。吐き出す吐息すら甘くエメトセルクの耳を揺らす。
「そうだよな、初めての時から素直に善がっていたものな」
「っふ、ちがうぅ…」
「違わないなぁ」
びくびくと腕の中で跳ねる様が愉しくて、何度も腰を撫でて尻に触れる。まろやかなその双丘の間に指を添えてぐいっと尻を掴む。
「ひゃんっ」
「あぁ、いい声だ」
両手で尻を掴み割れ目を開けば、くちりと湿った音が微かにする。その音ににやりと口角が上がる。
少女が縋るようにエメトセルクのはだけたシャツを掴んだ。
エメトセルクの指がするすると、少女の膝上丈のスカートのフリルをたくし上げる。さわりと肌の上を滑る手触りのいい布の感触に知らず膝が震える。
たくし上げたスカートを気にせぬまま、エメトセルクの大きな手が覆うように少女の尻を掴んで揉む。もう片手は気まぐれに太ももへ伸びてするするとそこを撫でた。
「っん、あぅ…くすぐ、た」
艶びく声がエメトセルクの耳の横で熱い吐息を漏らす。もっと酷くして堕とし尽くしたい、そんな心を必死に押しとどめる。
「これで感じやすくないというのか」
はぁ、とわざとらしくため息をついてやれば、それすら快感へと変換して喉がびくりと跳ねた。
「っふ、ちが、うもん…」
「ほぉ?」
ふるふると首を振るたびにその髪が頬にさわりと当たって、心地良さにエメトセルクは目を細める。
「エメトセルク、に、だけ、だもん」
エメトセルクの腕がピタリと止まる。少女が訝しむより早く、エメトセルクの盛大なため息が背中に降りてくる。
「ほんっとうに…お前ってやつは…」
苦々しげに吐き出した言葉の意味を問う前に、抱き上げられる。衝立の向こう、大きな寝台の柔らかなシーツの上に下ろされて、少女はきょとりとエメトセルクを見上げた。
「そんな風に誘われたら、答えねばならんな?」
「へ……っ!! さ、さそって、ない!!」
ぶんぶんと真っ赤になって首を振りながら壁際へと後退る少女を、太い両手で檻のように囲って見下ろす。
「だ、だめ、だよ…?」
胸の前できゅっと手を組みながら潤んだ瞳で見上げてくるその顔にずいっと自身の顔を近づける。
夜空にひとり浮かぶ月の様な静かな輝きの双眸の奥に渦巻く熱を感じて、少女が震える。目を離せなくなったその瞳を見つめながら、エメトセルクは喉の奥で笑った。
「ダメ、か?」
その囲いを少しずつ狭めながら、うっとりと笑う声が少女の中に響く。ふわふわとどこか現実感のない泡の様な感覚が浮かんでは消えていく。
「からだ、まだ、重い」
胸の前で組まれた手は自然と守る様に膝と膝の間へ落ちる。
穿った蕾の最奥は魔法で清めた。あまりこの身に魔法を使いたくはなかったが、残したままにもできない。ただ己の欲をエーテルへと変換し消し去るだけの魔法であったが、それでも。
本当はその身に刻まれた傷も全て消してしまいたかった。全て消して、自分を刻み込んでしまいたかった。だが、光の溢れかけたこの体に、闇のエーテルに特化した自身の魔法を入れ込んだら、どうなるかわからない。エーテル交感とは訳が違う。
魔法とは、ルールだ。
魔力とは力で、エーテルは弛まなく流れる命の水だ。自身の魔力とエーテルを用いて事象を起こすためのルール、それが魔法だ。わずか統合しようとも分かたれた身に、原初の強いルールを与えることで不都合が起きないとも言い切れなかった。
故にエメトセルクは、今まで少女自身に魔法はおろか長距離の時空移動すらしてこなかったのだ。衣服を作り着せるのですら、少女自身に触れない様に作り上げてから着させるという高等技術を用いていたのだ。
「派手に気をやったからな」
くつくつと笑えばまたその顔が赤くなる。
「求められたのに拒まれる、と言うのも生殺しだなぁ」
触れるか触れないかの距離まで檻を狭めて、エメトセルクは笑った。
「触れても、いいか?」
真っ赤になった少女は視線を彷徨わせてから、返答代わりにそっとエメトセルクの頬に触れた。おずおずと触れてくる感触が心地良くてうっとりと目を細めた。
「きれ、い」
不意に呟かれた言葉に、エメトセルクは少女を見つめる。
「おつきさま、一緒」
その小さな指がエメトセルクの目の下をそっとなぞって、瞳の色を指しているのだと気づいた。エメトセルクの指もそっと少女の目の下を親指の腹でなぞる。少しだけ肩を竦めた少女はされるがままにエメトセルクを見上げた。
「ならば、お前は星だな。一等輝く、眩い星だ」
自然と顔と顔が近くなる。相手以外見えない状態で互いに口付けを交わす。重ねるだけの口付けを繰り返すたびに、少女がぴくりと跳ねる。その両の手がそっとエメトセルクの首に絡み付いた。口付けは徐々に深くなっていく。うっすらと開いた口の中へエメトセルクの舌が入り込み歯列をなぞる。震える舌を絡めあげて吸えば、小さな体が歓喜で震える。縋る様に首に回された腕がぴくりと強張る度に、大丈夫だとあやす様に唇を深く重ねる。
角度を変える合間に互い漏れ出す息が熱い。光と闇の影響で冷え切っていた体はもうどこもかしこも熱を持っている。息を継ぐために唇を離してその頬へと口付けを落とせば、はふりと熱い吐息がエメトセルクの耳朶を揺らした。
「っふ…だめ、だよ…」
これ以上はダメと告げる少女に、今はこれだけでいいとエメトセルクは答える。檻のように壁についていた手を少女の背中に回して抱き寄せる。そのままエメトセルクはその背をベッドへと倒し少女を自分の体の上に乗せ頬を撫でる。
首元に小さく縋り付いていた少女はエメトセルクの望みを理解したのか、すりすりと擦り寄りながら体を持ち上げ、エメトセルクの頬を小さな両手で包むと、その唇に優しく自身の唇を重ねた。
先程までの互いを貪るような口付けではない、軽いリップ音を響かせる啄むような逢瀬は、エメトセルクの心に暖かな温もりを与えていく。
ちゅっちゅっと軽い音がエメトセルクの鼓膜を揺らし、頬に添えられた手がゆるゆると撫でるさまを享受する。その体が軽すぎることだけが、エメトセルクの心の柔らかいところをちくちくと刺激した。
「随分と、可愛らしい口付けだな」
ふっと息を吐くために唇を離されてそう呟けば、少しぷくりと膨れ上がって。
「エメトセルク、激しすぎる」
その物言いにエメトセルクがくつくつと笑う。
「そうか、あれは激しいのか」
「息、できない」
「ふはっ」
その理由すら可愛らしくてまた笑みが溢れる。
息が出来ないのは何も深い口付けをしているからではない。そもそもの種族差による身体能力の差故のものでもあるのだ。エメトセルクにとっては普通の口付けでも小さい少女はそれを全身で受け止めねばならない。角度を間違えれば鼻も塞がれるし、精一杯息を吸い込んで口付けても吸い込める量の差で少女の方が早く息が上がるのだ。もちろん、それら全て分かった上でやっているのがエメトセルクなのだが。
「激しいのは厭か?」
「……いや、じゃない、けど」
問いかけには律儀に答えるが、少し膨れた様子とは裏腹にその頬は赤く染まっている。
「厭ではないのか」
反復すればそれ以上言わないで、と小さな手で口を塞がれる。その指先をぱくりと食めば可愛らしい声でさらに抗議が上がる。
「食べちゃ、ダメ」
「ダメばかりだな」
そう言って笑えば恥ずかしげに視線が泳ぐ。少女なりに思うところはあるようだが、やはりまだ心が未成熟ゆえかついてきていない。
「なら、なにが悦い?」
「意味、違う、でしょ」
追いついてない、と思えば生来の感の良さが顔を覗かせる。
くるくると変わるその表情に、出会った当初に抱いていた〝ぼんやりしている〟と言う印象は消し飛んでいた。これは〝ぼんやりしている〟わけではない。知らなかっただけなのだ。本来の人として必要であろうことを排除され、ただ〝英雄〟としての振る舞いだけを求められていた、それだけなのだ。
「どちらも変わらぬさ」
その腰に手を回してあやす様に撫でればぴくりと震えて擦り寄ってくる。
「これはダメか?」
「……ダメじゃ、ない」
ゆるりと瞳を細めて少女が告げる。満足そうな表情にエメトセルクの頬も緩む。
「…これは?」
つっ、とエメトセルクの指が腰から尻へ辿るように降りていく。ぴくりと跳ねた少女はエメトセルクの首元に擦り寄った。花の香りがする。
「…ダメ、じゃない」
擦り寄る熱が心地良くて、辿る動きを繰り返す。漏れる吐息が熱く上ずる。
エメトセルクの指がするするとスカートを持ち上げていく。露わになる尻が外気に晒されふるりと震えた。
白い尻をそっと指先で撫でてから、そろそろとその双丘の狭間へと指を滑らす。さてどこまで進めたらダメと言うか…そう思い顔をそっと覗き見るがぎゅっと目を瞑り真っ赤になって震えるだけで声に出して抵抗しそうな気配すらない。ゆっくりと探るようにその尻の間を何度もなぞればびくりと震えるがやはり拒絶はない。
そろりそろりと指を蕾まで進めてようやく、少女の両手が弱くエメトセルクの胸元を叩いた。
「だ、ダメ…」
小さく絞り出すような声にその顔を見やれば、耳まで赤くした少女がちらちらと、エメトセルクを窺うように見つめてくる。
「これは厭か」
「つっ…!」
ぱっとさらに花開いた少女がエメトセルクから視線を逸せてもごもごと口の中だけで呟く。
「聞こえんぞ」
その顔を上向かせるように手を添えれば、潤んだ瞳がエメトセルクを見つめてきた。
首を傾げて言葉をまてば、風のそよめきよりも小さな声でぽそぽそと言葉が返ってくる。
「…いや、じゃ、ないけど、ダメ…」
おおよそ期待通りの返答に、エメトセルクの口元が歪む。
「厭ではないのか」
くつくつと笑えばその胸の動きに合わせて少女も揺れる。
機嫌よく歪むエメトセルクの口元を少女の細い指がすっとなぞる。
今一度顔を上げた少女が、その唇を塞ぐように口付けを落とす。エメトセルクの行うそれより随分と控えめな口付けは塞ぎ切ることすらできない。
エメトセルクはそれを受け入れたまま少女の尻に再度指を這わす。びくりと大きく震えた体はそのまま小さな震えを伴って、けれどもエメトセルクの指の動きを拒絶せず受け入れていた。
するすると蕾に触れない位置まで指が降り、ゆっくりとその狭間をなぞるように戻ってくる。もう片方の手は逃げそうになる腰を掴んだまま気まぐれに指の腹で腰や背を擦る。
「厭ではないのだろう?」
確認するように囁かれて、口元に添えるだけになっていた唇をエメトセルクの大きな舌がぺろりと舐める。反射的に跳ねた体を大きな手が抑止する。
もう一度ぺろりと舐められて、おずおずと少女の唇がエメトセルクの唇に重なる。軽いリップ音が部屋に響いて少女が震える。
エメトセルクはうっすらと瞳を開いて少女の表情を見やる。瞳をきゅっと強く瞑ったまま耳の先まで真っ赤に染めてエメトセルクの唇を啄むように何度も唇を重ねる。するすると滑る指の感触にぴくぴくと肩が跳ねて揺れる。
尻を堪能した手をそっと少女の頭に乗せる。そっと撫でてやれば強張った体が少しだけ弛緩する。弛緩した体はほんの少しだけ大胆に唇を強く重ねる。合間に舌を差し出せば、それに軽く吸い付いてくる様をエメトセルクは満ち足りた気持ちで眺める。
ふ、と少女が唇を離して息を吐く。息を弾ませながら擦り寄る少女の頬を優しく撫でる。その体を支えるように抱え上半身を起こす。背中に大きめのクッションをいくつも喚んでもたれかかりながら、少女の額に口付けを落とす。
「っふ、ぅ…」
大きく息を吐いて体を預けてくる少女のの頬を撫でながらエメトセルクは気遣いの言葉を投げかける。
「…大丈夫か?」
その顔色の赤みが強く体調に影響しないかを気遣う声色だった。
「へ、いき」
その頬を労わるように撫でてから、エメトセルクは少女をクッションの海の中に背を埋めさせた。きょとりとしたその輪郭を指の背で撫でてから立ち上がる。
衝立の向こうへ消えた背中を眺めれば、遠くで微かに聞こえていたこぽりと言う泡の音に被さるように液体を注ぐ音が聞こえる。
戻ってきたエメトセルクの手には二つのグラスが握られていた。
「持てるか」
グラスを差し出されて、少女は体を起こしながらそれを受け取る。グラスに注がれた液体が揺れる。
ベッドの端に腰掛けて液体を飲みながらエメトセルクがじっと少女の様子を伺う。見られている感覚にきょときょとと視線を揺らしながら、少女もグラスに口をつける。鼻に抜けていく柑橘の香りが生きるために胃に物を入れることを拒絶する体に染み渡る。こくりこくりとゆっくり飲み干していく様をエメトセルクはじっと見つめていた。
全て飲み干した少女の頬を優しく撫でその手からグラスを受け取る。
「少し、声が枯れてるな」
衝立の向こうへグラスを置いて戻りながらエメトセルクは少女に告げる。ベッドの上に乗り上げ、まだ体を起こしている少女を軽く押して今一度クッションの中へ埋める。大人しくクッションの中に沈んだ少女の膝の上にエメトセルクは頭を下ろし目を閉じた。少女の小さな手が控えめにエメトセルクの前髪をさらさらと撫でる。
「よく、分かったね」
撫でる手指の優しい感覚に身を委ねながら、エメトセルクは低く笑った。
「わかるさ」
お前のことだから、そう告げられて少女の手が止まる。片目を開けて様子を窺えば、顔がまた赤くなっている。
〝英雄〟の仮面さえ外してしまえばこんなにも表情豊かな〝少女〟がいる。この姿を知るのはエメトセルクただ1人だと言う事実に優越感が胸を満たす。
いずれ手離さなければならないという事実から目を背ける。花開いた〝少女〟を殺させる者達に憤っても届かない。
ふわりと少女の指がエメトセルクの鼻筋を辿る。その感触にそちらを見やれば、ぼんやりと目線を彷徨わせながら指先で輪郭を辿る少女の姿があった。頬を辿る両の手にエメトセルクの手が重なる。ぴくりと震えた少女が3度瞬きしてエメトセルクの視線と交わる。
どうしたの? と首を傾げる少女の手をそっと離して続きを促す。瞳を閉じればややあってするすると指が動く。
遠くで波の揺れる音がする。暗くて深い海の底に動く気配はふたつしかない。白と黒、光と闇がそっと寄り添うだけ。穏やかだった。穏やかすぎた。
+++
「エメトセルク…?」
呼びかけに応える声はない。少女はそっとその顔を覗き込んだ。少し落ち窪んだ目の下の隈をそっと指でなぞる。長い睫毛が陰を落としてただ眠るその顔を彩っていた。
少女はゆっくりとエメトセルクの下から足を抜き代わりに枕を添えると、そっとその前髪を払った。
眠る顔を見るのは初めてだった。いつでもエメトセルクは少女より長く起きてその目覚めの前に目を覚ましていたから。いつ寝ているのだろう、眠りはいいと自称するその姿とは裏腹に眠りの気配を感じさせない人だった。
少女はベッドの上をそろそろと動いて、エメトセルクの足元側へ移動した。そのベッドの隅に小さく体育座りをして壁にコツンと頭をもたげた。エメトセルクの胸元が緩く上下する様をぼんやりと眺める。
なにができるのだろう、少女は思考の海へと落ちていく。与えられるばかりだ、と自信を省みる。だれもかれもが〝英雄〟に甘い。ただ、たまたまその仮面を被ることになった少女に、甘い。〝英雄〟でいるなら、皆が居場所をくれる。
少女は強く自身の膝を抱えた。
じゃあ、〝英雄〟じゃなくなったら…? 皆が少女をいらないと言ったのなら、そう考えて瞳を閉じる。
あぁ、そう言われたのなら、いなくならないと。少女は何の迷いもなく自身が去ることを選ぶ。脳裏に酷い姿を見せてしまった仲間達の姿が浮かぶ。きっと今頃探し回ってる。〝英雄〟の姿を、探している。
ひび割れたこの姿を見て、まだ〝英雄〟であれと言うのだろうか。それとも、もう要らないと唾棄されるのだろうか。
沈んでいく思考に暗い闇が覆い被さる。この闇は知っている。少女に刻み込まれた、エメトセルクの闇。最初こそ売り言葉に買い言葉で酷い有様だったが、エメトセルクはそれでも寄り添ってくれた。〝英雄〟を見ている、そう嘯きながら少女の向こうをじっと視ていた。今も、時折少女の向こうを視ていることは気づいている。でも、知ってしまった。
エメトセルクが少女に誰を重ねているのかはわからない。思い出すはずもない、そう言われても思い出せるものもない。空っぽすぎるのだ、この体は。だから、重ねられてもいいや、と思っていた。思い出すら重ねておけない空の体を慰めてくれるなら、それでいいと。
そんな少女の〝英雄〟の仮面を外したのもエメトセルクだった。嬉しかった。嬉しくて、ここにはいられないと思った。誰にもなれないことを知っているから、いつか、エメトセルクの重ねる面影とズレた時に、要らないと言われる日が来るのを理解していたから。エメトセルクに惹かれる自分を理解しながら、そこから去る支度だけしていた。
それでもいい、と闇が笑った。いずれここから去ってもいい、だからここにいろと闇が笑ったのだ。誰かの面影を追いかけながら、その分だけ少女を記憶していくエメトセルクを知ってしまった。記録ではなく、記憶。思い出にしない、積み重ねる行為。エメトセルクはそれはそれは丁寧に、記憶している。今も、過去も、全て。
なにが、できるのだろう。エメトセルク、あなたに、なにが。
ぎしりとベッドの揺れる音に意識を思考の海から浮上させる。浮かびきるより早く、ふわりと暖かな気配に包まれた。
「…大丈夫か?」
慮る低く優しい声にそっと顔を上げれば、まだ少し眠そうな顔でエメトセルクが少女を覗き込んでいた。
「…なぜ泣く」
目の下をなぞられて、涙を流していた事実に気づく。瞬きのたびに落ちる涙をエメトセルクの指が拭っていく。
手を伸ばして拭おうとするのを、その唇が降りてきて阻害される。エメトセルクの唇が少女の溢れる涙を掬っていく。触れる唇の感触がくすぐったい。
「泣くな」
大きな手が少女を抱き上げてその胸元へと抱き寄せる。あやすように撫でるその手を少女は受け止める。
どのくらいそうしていたのだろうか。涙の止まった少女の顔を上向かせじっと見つめるエメトセルクに少女はぽつりと口を開いた。
「…抱いて」
エメトセルクはじっと見つめたまま低く言葉を返す。
「いいのか」
視線が交わる。
いつまでもここにはいられない。決断をしなければいけない。
終わりの時を、引き寄せなければいけない。
「…エメトセルク、だから、いい」
少女の精一杯の言葉を、エメトセルクは受け止めた。
「そうか」
互いの唇が重なる。どこかで泡の弾ける音がした。
+++
エメトセルクの長い指がそっと少女をなぞる。輪郭を刻むようにゆっくりと動くそれに、少女はふるりと震えた。
「…見えるか」
エメトセルクは低く問いかける。
「…見てるよ」
少女はそれに応える。
どちらからともなく飽きることなく何度も唇が重なる。互いの輪郭を混じり合わせるように深く深く口付けが交わされる。
全裸に剥かれた少女は、もうどこもかしこも蕩けていて、エメトセルクはその様に愉快そうに目を細める。
「すぐにでも気をやってしまいそうだな」
「っふ…あぁっ、んっ…へい、きっ…」
その手が触れるたびにぐずぐすに蕩けていく思考を必死に手繰り寄せて、少女は喘いだ。
すでに指を3本飲み込んだ少女の秘所が声に反応してとろりと蜜を垂らす。
「どこもかしこも…あぁ、甘い…」
少女の首元に顔を埋めたエメトセルクは、その舌先で少女の汗を舐めとって笑った。
にちゅにちゅと淫らな音を響かせていた秘所から指が抜かれ、エメトセルクの雄が添わされる。
びくりと震えたのは恐怖からではない。
「…いいか?」
エメトセルクは何度でも尋ねる。拒絶しないでくれと祈りながら。
「…あげる、だから、ちょうだい」
3度目のそれを胸の奥に落とし込みながら、エメトセルクは猛る雄で少女を一気に貫いた。
「ーーーっ!!! …っあぁ、あああぁぁぁっ!!」
貫かれた衝撃で少女の体が跳ねる。きゅうと強い締め付けにエメトセルクが歯を食いしばる。
「っ…入れた、だけでかっ」
誘い込むように強く締め付けるその感触に、入れただけで達した少女は強くシーツを握りしめたまま固まった。エメトセルクの唇がそっと少女の唇へと重なり息を送り込まれる。ややあって呼吸を取り戻した少女へ、にやりと笑う。
「この程度で…終わると、思うなよ?」
「っふ、あっ、エメ、ト…っあぁっ!!」
少女の手がシーツから離れ縋るようにエメトセルクの腕を掴んだ。その手を少女の腰の脇に縫い付けるように腰ごと押さえ込みながら、エメトセルクは腰を揺らし始めた。押さえつけられたまま前後に動くエメトセルクに一方的に揺さぶられて、少女は悲鳴にも似た嬌声を上げる。
「っひ、ああぁっ、やぁっ、あっ、あぁっ!!」
ずちりぬちりと隠微な音が2人の繋がる場所から絶え間なく響く。少女が蠢くことを許さないようにがっちりとその大きな手で固定したまま、エメトセルクは自身の腰を打ち付ける。まるで物のように扱われているというのに、少女は歓喜の涙を浮かべながら何度もエメトセルクを呼び続ける。
「あっ、あぁっ、エメっ、ひあぁっ、あっ」
縋るような声に何だと答えれば、快楽の間から必死に声をかけられる。
「ひっ、あぁっ、エメっ、んっ…きもち、いいっ…?」
自身の置かれている環境よりも、相手を気遣う言葉が先に出てくる少女にそっと口付けを落とす。
「あぁ、いいぞ…そら、お前もいいのだろ?」
ぐんっと一際強く突かれて、少女の奥の奥にエメトセルクの先端がぐいっと口付ける。
「ひあぁっ、ああぁっ、う、あああぁぁぁっ!」
押し付けられた快感で、少女はまた達する。エメトセルクはそれを意に介さず、最奥をさらにこつこつとノックする。体格差ゆえに何度も触れていたそこは硬さをなくしていく。
「まず受け取れ」
どこか冷めた声が降りてきて、えっと目を開いた瞬間にエメトセルクの精が少女の中で弾けた。その圧にきゅうと締まる内壁が少女をまた高みへと引き上げる。
「ああぁっ、あああぁぁぁっ、やぁっ、いて、る、いて、るから…っ!!」
辿々しく告げるその声をもっと聞かせろと、エメトセルクは爆ぜた精を塗り込むように腰を擦らせる。動くたびに溢れた精がこぷこぷと繋がる狭間から押し出される。
熱を取り戻していくエメトセルクを自身の内に感じながら、少女はぜいぜいと息を吐く。
押さえつけていた手を離しながら、エメトセルクはそっと少女の胸元を指で辿る。
「この、澱を」
胸の真ん中をくっと押されて少女が怪訝そうにエメトセルクを見た。
「暴いてしまいたい」
押された場所に唇を落とされて息が詰まる。
正しく歪んだエメトセルクは真っ直ぐに少女を見つめる。
「お前の全てが見たい」
綺麗なものも、汚いものも…全て。
エメトセルクはその唇を優しく少女の唇と重ねる。少女はふっとゆるく息を吐き出してそれを受け入れる。
「…見せて、る」
「足りない」
貪欲なエメトセルクの欲が少女の中で蠢く。ずるっと引き抜かれかけたそれに声が漏れる。
「全部だ」
強く早く奥まで穿たれて白い喉が反る。
「っあぁっ!!」
「もっとだ…もっと!」
大きく引き抜いて強く打ち込むその動きを呪いの言葉のようにもっと、と吐き出しながらエメトセルクは飽きることなく続ける。
「こんなもの…っこんなもの、じゃ、ないだろっ!」
少女の手が強くシーツを掴んで白くなる。どこまでも剥きだしのエメトセルクの欲が、身の内も外も焦がしていく。
「あああぁっ! っく、あああぁぁぁ…!!」
抜いて、穿たれる。その強い動きに少女が何度も体を反らせる。その瞳からはぱたぱたと涙がこぼれ落ち赤く熟れた唇がエメトセルクの欲をさらに刺激する。
乱暴なはずの行為は、それでも少女を気遣う優しさであふれている。
「エメっ、あああぁぁぁっ、あっ、あああぁぁぁっ!!!」
びくりびくりとその腰が波打つように跳ねる。搾り取るような内壁の蠢きにエメトセルクは息を詰めて耐える。ぎちぎちと張り詰めた雄にまだだとブレーキをかける。
「あぁ、いいぞ。気持ちいいんだな?」
締め付けを蕩かすようにずるりと内側で蠢かれ、少女が熱い吐息を漏らす。ぐずぐすになりかける思考を必死に繋ぎ止める様を微笑んで見つめる。
「もっと、もっと堕ちてしまえ…ぐずぐずに溶けて、私の中に沈んでしまえ」
ずるり、ずるりと擦るような揺らめきにくぐもった喘ぎ声が漏れる。長い尾を引くようなその声をエメトセルクはことさら嬉しそうに引き出していく。
「いい子だ…良い声で啼く…」
ずちゅ、繋がる場所から音がする。
「う、あぁぁ…っんぐ…ふ…あぁ…」
緩急の差でどろりとした思考が少女を泥のように覆っていく。
ずるずると蠢く自身の内側に、穿たれた熱い杭に、少女は縋るように手を伸ばす。その手をエメトセルクが掴んで口付けた。
「ほら」
そっと歪に膨らむ腹の上にその手が下される。
「私しか、ないだろ」
少女の小さな手ごとその腹を撫でてエメトセルクは笑った。
「全部私で満たして、身篭るがいい」
そんなことはない、わかっている。反発するエーテルは解き放たれた精をすぐさま殺していくし、そもそもが〝光の加護〟のせいで孕むことすら許されない。ただ、女の身であるという事実しかない。
「み、ごも、る」
その腹を愛おしそうに撫でながら、少女はうっとりと呟いた。ありえない、互いにそれはわかっているのに。
「うれ、しい」
求められているという事実に、少女はつっと透明な涙を流した。
「そうか」
エメトセルクはそっとその涙を唇で受け止めた。
ずるりとまた少女の中でエメトセルクが蠢く。快楽を途切れさせぬように蠢きながら、燃え上がることはさせないゆるゆるとした動きだった。
エメトセルクの指がそっと首筋に触れる。傷跡をゆるゆると撫でてうっとりとそこを見つめている。
「〝英雄〟を、殺して」
ぽつりと紡がれた言葉は弾ける泡のようだった。
「小さな、お前だけ」
その指がくっと喉を絞めた。絞めては緩まるその動きは愛撫にも似ていて。
応えるように少女の内壁が律動する。それに気を良くしたエメトセルクの雄もずるりと蠢く。
仮面を外す程度では足りないと蠢くそれを、少女はゆるりと受け止める。
できない、とわかっているからこその戯れだ。〝英雄〟の死は〝少女〟の死であるし、〝少女〟の死は〝あいつ〟の死だ。自覚した今、その喪失に耐えられるはずもない。
脈略なく紡がれるエメトセルクの言葉を、少女もひとつひとつ記憶していく。その情熱も、平静も、激動も、慟哭も、全て。
決して燃え上がらない快楽を身の内に溜め込みながら、少女はエメトセルクを見つめていた。
「綺麗だな」
その頬を優しく撫でながらうっとりとエメトセルクは呟いた。身の内の雄がこつりと奥を叩く。その瞳を見つめ何度も啄むように口付けを落とす。
「エメトセルク、も、綺麗」
口付けの合間に返事を返せば、その月が弧を描く。
「そうか、そう見えるか」
互いに身の内のどろどろとした淀みを知っている。そこに嵌って抜け出せなくなっている様すらわかっている。それでも思うのだ、足掻く姿すら美しい、と。
ずりっと少女の中でエメトセルクが蠢く。柔らかいところを刺激するようにさわりさわりと撫でていく。
「ふっ…あぁっ…」
ゆったりとした動きなのに、まるで身の内から貪られているかのようで。内側から快楽に食い破られそうな気配に肌が粟立つ。
ひたりと腰を掴んだ手が尻を浮かせる。繋がったまま持ち上げられてあわい声が出る。
エメトセルクの太ももの間に小さな尻が嵌まり込む。エメトセルクが揺らめくたびにひたりひたりと尻を打つ感触にびくりと腰が跳ねる。
太ももに引っ張られて開かれた尻の狭間にエメトセルクの指が這う。
「んっ…そ、っち…?」
執拗に蕾を狙う指にくすりと少女から笑みが零れる。
「厭か?」
「物好き、だね?」
くすくすと笑う声を蕾につぽつぽと指を出し入れすることで黙らせる。
「お前のことだからな」
言葉は最後まで口に出さない。互いが互いを認め切ってしまえば戻れないことを知っているから。互いの埋めきれない隙間を埋めるように口付けだけは深くなっていく。口付けの合間に蕾へ指を埋め込めば応えるように内壁がきゅうと締まる。
「よく、締める」
蕾の奥で蠢く指に翻弄されて、少女の腰が揺らめく。もっとと強請るように内壁が律動する。
「っふ、んんっ、あぁぁ…」
堪えきれないと揺らめく腰をエメトセルクの指が撫でる。
「そうか、物足りないか」
ぐんと奥を突かれて息が詰まる。エメトセルクの雄はこつこつと奥をノックする。
「後ろも奥まで味わった」
少女はその言葉に自身の口元を手の甲で隠した。あられもない声が出てしまいそうだった。
「こちらも…どうかな」
ぐりっと押されて背中が跳ねる。
「っはい、らな…」
「さて、どうかな。どうやらお前は感じやすい上に少々特殊なようだし」
ぐいぐいと押されて目の前がチカチカする。
「まぁ、普通は無理だ」
その言葉に少女はほっと息を吐く。エメトセルクは少女の怖がることはしない。怖がることは。
「だが」
ぐりっと奥を擦られて、ひっ、と声が詰まる。
「この辺りは、悦い場所…だろ?」
ずりずりと明確に奥の奥を擦られて腰が跳ねる。堪えきれなかった声が嗚咽のように長い尾を引く。
「っああぁぁぁ…!」
じりじりとした快楽が身の内から湧き起こる。忘れるなとばかりに蕾の奥へも刺激が再開されて少女は目を見開いた。
「っああぁぁ、あああぁぁぁ、ああぁぁぁっ!!」
火のついた快感は止められない。
ずるずると擦られているだけなのに、跳ねる腰が止まらない。
「ははっ、よく締まる…っいいぞ、啼けっ、もっとだっ!!」
蕾の指が増えていく。3本飲み込んでバラバラに蠢かせれば少女が大きくかぶりを振る。
「あああぁぁぁっ、らめっ、やっ、ああぁぁっ!!」
脳の奥がびりびりする。駆け上がる心拍が心臓を破ってしまいそうだ。明滅は強くて、目を閉じているのか開けているのすらわからない。
「いいぞ、イけ…っ!!」
強く、強く擦られた。何がその身に起きているのかすらわからない。
「ーーーっ!!! っあああぁぁぁぁっ!!!」
大きく息を吸い込んで、部屋を揺さぶるほどの声がその喉から響いて、体からすとんと力が抜けた。
ひくりと跳ねた体を見下ろしながらエメトセルクは蕾から指を抜き去った。まだ猛るままの己はそのままに少女を抱き上げる。
びくりと跳ねた体はしかし力なくその腕の中でくたりと弛緩している。その顔を上向けて唇を塞ぐように口付けする。息を送り込んで呼吸を促す。ぴくりと喉が動いたのを見て唇を離し頬を撫でた。
まだ力の入らない体を支えながら、エメトセルクはクッションの海に背を沈める。繋がったままの秘部がくちゅりと水音をたてる。
体を起こしたことで少女の奥に触れるがままになったエメトセルクの雄に、少しずつ意識を浮上させた少女が呻き声を上げる。
「エ、メ…すこ、し…く、るし…」
まだ自分で体を支えられない少女を慮って、エメトセルクがそっと体勢を変えて少女の膝下に高さが出るようにとクッションに入れ込む。
〝冒険者〟故か〝英雄〟故か、もう暫くすれば少女はその身を動かすことができる程度には回復する。ならばその間にこそ、この弛緩しきった体を楽しもうとエメトセルクはその少し汗ばんだ背を撫でた。
「っん…ぁふ……」
身を捩ろうと踠いているその体は、しかし蠢いただけで動いたとは言い難いものだった。背をなぞり、腰と腹を撫で両の太ももを腕で包み込めばだらりと落ちていた腕が持ち上がる。今日は回復が遅い。当然と言えば当然だが。
その小さな腕がそっとエメトセルクのはだけたシャツの胸元を掴んだ。掴んで、ずるりと落ちていく。
太ももから腰、腰から背中へ、辿るように戻る指先をその頬に添える。汗で冷えた互いの体は、互いの熱を奪い合う。
吐き出す息は、熱い。
「…う、っふ……」
体を動かそうと踠くその手を取って口付ける。そのままシャツへと導けば今度は滑り落ちることなく掴んだ。
きつく閉じていた瞳がゆっくりと開かれていく。
「…エ、メ……いる…?」
その目はこちらを見ながらこちらを映さない。
「ここに」
頬を撫でて額に口付けを落とすとようやくほっと安心した様子で息が漏れた。強すぎる光が視界を塞いでいるのだろう。瞬きが繰り返される。そっと頬から手を動かしその目を覆ってやる。
「ゆっくりでいい」
声に安心したのか、小さく喉の奥で答えて覆った向こうの瞳がゆっくりと瞬きした。手のひらに触れる睫毛がさわりとくすぐったい。
「…びっくり、した…」
「そうか」
ゆっくりと手を離せば、少女の瞳は眩しそうに細められた後エメトセルクを映した。
「…エメトセルク」
「なんだ」
動けるようになってきた体を徐々にずらして、少女はエメトセルクをきちんと視界に捉えようと体を浮かせた。
「きもち…いい?」
小首を傾げて尋ねるその姿に、埋め込んだままの雄が反応する。
「なるほど、煽るのか」
「ちがっ……っん…」
くねりと腰が揺れるのをそっと手で支えて眺める。
「中に入れたままだと、忘れてたわけではないだろう?」
「っふぁ……だって、出して、ない…」
「我慢してるんだ馬鹿者め」
ぐちゅりと湿り気のある音が部屋に響いて消えていく。
「が、まん…っいる?」
「おうおう、こちとら残弾数は決まっているのでな」
もっとも魔法で持続するように細工すればいいだけなのだが。
エメトセルクが少女を押し倒すようにシーツの波間に沈める。覆い被さる大きな影が至極真剣な声色を落としてくる。
「お前を孕ます」
あまりにもあんまりな直接的な表現に、さすがの少女も狼狽る。
「っふ、う?」
「身籠らせる」
言い換えても言っていることは一緒である。少女がぱくぱくと忙しなく口を開け閉めしている。
「覚悟しろよ?」
「ま、エメ、えっ、えぇ…?」
頬を撫でるエメトセルクの指がそっと歪んだ腹を撫でた。
「ここで、全て受け止めろ」
ぴくりと跳ねた腰をゆるゆると蠢かせて快楽を上積みする。
「何を孕むのかまでは知らんがな」
「む、せきにっ……あぁっ!」
腹を撫でた指が敏感な突起に触れてびくりと少女が跳ねた。
「どうせ本当の子などできん。なら、孕むまでやって産んでみても悪くはないだろ」
ずるずるとエメトセルクの熱が少女の内壁を擦る。子を成すことができないと分かっていながら孕んで産み落とせとはどういう矛盾か。
「責任…っ!」
「全てもらい受けると言ったろう」
それ以上も欲しがるか、そう言われて言葉に詰まる。
「…全て、だ」
伏せた瞳の奥の月が悲しげに滲んだ気がして、少女はその頬にそっと手を伸ばした。目の下の隈をなぞられてエメトセルクが口角を上げる。
「こんな私は厭か?」
身の内の獣を制御せずに、その首を晒す様を人は何と呼ぶのだろうか。
「いやじゃ、ない」
少女はその首をそっと撫でた。撫でて、獣を受け入れた。名前のまだない関係性を、その心に落ちた思いをただ両手に抱えながら。
「ひとつ、だけ」
多くを望まない少女から、エメトセルクへ。
「なんだ」
「離さ、ないで、いて…?」
落ちた言葉を拾い上げるように、エメトセルクの手が少女の両手をそっと包んだ。
+++
「ほら、まだイけるだろ」
「ひぁっ、はっ、はっ、っあ、ああっ!!」
何度絶頂させられたのかもうわからない。繋がったままひたすらに注ぎ込まれる精は、入りきるはずもなくどろどろと下肢を汚していく。すでにシーツはシーツとしての役目を放棄している。騎乗位から正常位へ、正常位から後背位へ。抜いてもらえぬまま体位だけ変えて貫かれ続ける。引いて押し込むだけで淫らな水音が響き、腰の奥に甘い疼きが蓄積されていく。
「受け止めるのが上手くなったな」
ほぼほぼ絶頂しっぱなしの体は、息を止める暇もない。
「いい子だ…そら、飲めっ」
「あっ、あああぁぁぁっ!!」
きつく掴んだ枕もすでに汗とよだれと涙と体液でぐちゃぐちゃだ。体中の毛穴という毛穴からいろんな液が染み出してる気がする。
注ぎ込まれた精がその隙間を埋めるようにごぽりと音を立てる。擦り付けるように、奥へ送るように、エメトセルクの腰は揺らめく。
お前を孕ます、正しくその言葉の通りに抱き潰されている。
「っあ、あぁ…あぁぁ…」
余韻のような長い尾を引きながら、少女の内壁がひくひくと律動する。奥へ送り込むその本能の動きにエメトセルクは笑う。
「っふ…あぁ、美しい…」
その背に口付けを落としてエメトセルクは腰をゆらめかす。どんな魔法を使ったのか……使ってないのか……エメトセルクの雄は何度欲望を出してもすぐさま熱を取り戻していく。
その熱に浮かされて降りることすらできない。
全身に痛いほどの快楽を与えられて詰まる息を、ずるずると中を擦る感触で止められる。
「止めるな、吐き出せ」
息も、何もかも吐き出せとエメトセルクは少女を攻め立てる。
「ふっ、はっ、ふっ」
肩ではなく腹から息をするその音をくつくつと笑いながらエメトセルクは見下ろした。
エメトセルクの指がいろんな液でベタついた少女の髪を梳く。もたりもたりとしたその髪を解して口付けを落とす。
「まだイけるな?」
「ひぅっ」
ぐんと突かれて少女の背が反射で反る。その瞳に疲労を色濃く映して少女がエメトセルクを振り返る。
「…そんな顔をしても、すぐに復活するのは分かってるんだぞ」
少女の特性ににやりと意地の悪い笑みを浮かべれば、少女が震え上がる。
「やっ、あ…あぅ…」
復活はするが、快感に弱すぎてその倍の速度で消耗してるだろうことは見ないでおく。
伏せるその手を掴み、腹の下に手を添えてぐいっと自身の方へ引っ張り上げる。ずるりと動く体の奥を穿つ熱に少女が跳ねる。
「ひっ、あっ」
ずくずくと奥の奥へゆっくりと落ちてくる熱い杭を飲み込んで、エメトセルクの膝の上で少女が震える。腹を支えるエメトセルクの大きな手が、歪に膨らむ腹を撫でる。撫でるたびにこぷりと、繋がる場所から溢れ出る精が2人を濡らしていく。
「ふ、ぅ……」
漏れ出る感覚に背を粟立てる様を眺めながら、その髪に顔を埋める。
「実になりそこないらしい形でいいじゃないか、私も、お前も」
獣のように交わる様をそう揶揄してエメトセルクは笑った。笑いながら揺れる雄の気配に、少女の内壁はきゅうと締まる。
「ほら、体は正直だな?」
「ふっ、うぁぁ…あぁ…」
ぐらぐらと揺れながら、少女は身の内に潜むエメトセルクの雄から与えられる刺激に翻弄される。
「ほら、少しは自分で支えろ」
もう戻ってきてるだろ、エメトセルクはそう呟きながらも少女の腹と肩を支えている。
「ひっ、ふぁ、んっ…あぅ…」
「おうおう…ほら、口を閉じろ。いろいろ漏れてるぞ」
肩を掴んでいた手で少女の顔を上向かせ、その口の端からこぼれ落ちる唾液を親指の腹でぐいっと拭いそれを唇へ塗りつける。てらりと艶めくその唇を後ろから噛み付くように奪う。
「っふ、ん…」
奪うような口付けを受け入れて、少女が蠢く。唇を離せば潤んだ瞳が熱を孕んでエメトセルクを見つめていた。濃い花の香りが充満する。
「エ、メ…」
縋り付くような口付けの合間に名前を呼ばれその額に口付けして続きを促す。
「…の、ど…」
「あぁ」
エメトセルクは空中を指差し一度ぐるりと指を回してからぱちんと指を弾いた。弾いた指を開くとそのその指の先にふわりと水の泡が浮いた。
「…上を向け」
水泡を口元へ寄せながら少女の顔を上向かせ固定する。指先で唇をなぞればするりと少しずつ水泡がその口の中へと導かれていく。
「焦るな、むせるぞ」
こくりこくりと嚥下する喉の動きにあわせるように水泡を流し込む。あらかた飲ませて一息ついたところで、エメトセルクは残りの水泡を自身の口の中へ導いた。
少女の口の端から垂れる水滴を拭って、その唇をぺろりと舐める。
喉の渇きが癒えたのか、ふぅ、と小さく息を吐いた少女は揺れる体を繋ぎ止めようと、腰に回されたエメトセルクの腕にぴとりと自身の手を重ねた。支えのない状況で頼れるのはそれだけだった。
エメトセルクは奥の奥を擦るように腰をゆらめかせる。
「っひぁぁ…ああぁ…ああぁっ!」
抽送ですらない動きに少女の体が跳ねる。快感をどんどん上積みされて吐き出す先を探している。
「まったく、よく締める…っ」
何度達してもきゅうと締まる内壁の圧にエメトセルクは笑う。よく通るその声が少女の耳朶を揺らすたびにさらに圧が強くなる。
「いい子だ」
もう暗示などいらないのに、エメトセルクは何度も少女に声をかける。低く呼びかけるその声が心地良くて少女は小さく震えた。
エメトセルクの手が縋るように添えられていた少女の手を引き剥がす。その手を少女の太ももを支えさせるように誘導する。
「ほら、一緒に持っててやる」
大きな手が小さな手に重なって、少女は膝が胸につくほどにぐっと足を広げさせられる。
「やっ、あぅ…やぁ…はずか、し…っ」
かぶりを振る少女にエメトセルクはそっと唇を寄せて囁く。
「そうだな、恥ずかしいところが全部見えてしまうな」
告げられた事実に少女の内壁が答えるようにきゅっと締まる。
「奥の奥まで飲み込んで、どろどろのぐちゃぐちゃになって…あぁ、淫らだ」
ぐちり、エメトセルクがわざと抜き差しをする。繋がる場所からこぷっと2人分の精が混ざり合い流れ出る。
「っひ、あっ、あぁっ」
広い胸板に頭を押し付けるように少女はかぶりを振る。恥ずかしい、と小さな震える声でエメトセルクに訴えかける。体はどこまでも従順で淫らなのに、その心はいつまでも清らかな少女のままだった。
エメトセルクは少女を持ち上げて、下ろす。
「はっ、ああぁっ!!」
大きく跳ねてふるりと震える様を見下ろしながら、持ち上げて、下ろして、様子を伺う。
「ああぁぁ……っひぁぁぁっ!!」
持ち上げる時の余韻のような嬌声と、下ろした時の少しキーの高い弾む声を、その音を楽しんでいる。
「あぁぁぁ……ああぁっ!! …っふ…」
倒れ込むこともできず少女は与えられる快楽に跳ねて震える。かぶりを振るその様を見下ろしてエメトセルクは何度も笑った。
「いい子だ、よく啼く…もっと聞かせろ」
「あああぁぁぁっ!!」
合図はそれだけで十分だった。
少女の体を持ち上げて下ろすその動きを早くしてやれば、呆気ない程すぐに少女は達してしまう。
「ほら、私はまだだぞ」
それでもエメトセルクの手は止まらない。達したまま何度も貫かれて、跳ねることすらできない。
「ああぁっ、あっ、あああぁぁっ!!」
きゅうきゅうと締め上げる感覚にエメトセルクの雄が素直に精を解き放てば、少女は大きく震えた。こぽこぽと音を立てて繋がる隙間から精が漏れ出す。エメトセルクはその膝ごと抱え込むように少女を抱き締めた。
「ああぁぁぁ」
強く押し付けられて少女の中でエメトセルクが揺れる。変わる角度にこぽっと音がして精の垂れる気配が部屋を揺らす。
「いい子だ」
虚ろな瞳のままエメトセルクを見つめる少女に声をかけてその抱えた体を揺する。また熱く大きくなる雄を感じながら、少女はため息にも似た声を漏らす。
あらかた熱を取り戻した己の雄を確認して、エメトセルクは繋がったまま小さな体をくるりと回転させた。その頭を抱え込むように抱きとめて一度抜き差しして様子を探る。少女の両手がエメトセルクのシャツの裾に縋り付いた。
「上に乗るの好きだものなぁ」
くつくつと笑えば腕の中の少女がふるふると首を振る。クッションの海に背を沈めながら少女を抱き締めなおす。
「そうか、厭か?」
抱き締める手を緩めれば、縋り付くように少女が擦り寄ってくる。
「…っいや、じゃ…な、い…っ」
途切れ途切れに告げられる言葉を拾い上げてエメトセルクはその髪に口付けする。
「そうか、そうだな」
ふぅ、と息を吐いた少女は、すり寄ったその体勢のまま腰を揺らめかせた。自身の中に抱えたエメトセルクをあやすように。
体を支えるために、小さな手がエメトセルクのシャツから離れ大きな胸板に触れた。
少女の体を少し起こして、その腹を撫でる。優しく撫でるその動きに、少女はうっとりと目を細める。
「……っいっぱい……」
「そうだな」
入りきらず溢れた精は今もこぽりと水音を漏らす。小さな腹は歪にぽこりと膨らんで、産み落とす時を待つかのようだった。
引き攣れた傷跡が痛むはずなのに、何も感じない。
少女の手がエメトセルクの手に重なる。
「何を、孕んだだろうな」
子を為せぬ行為なれど、何かをその身の内に宿せたのだろうか。空っぽだった少女の中に宿ったものを、少女は知らない。
エメトセルクの雄が少女の奥の奥を擦る。少女は震えてそれを受け入れる。
「…っ、ふ…」
体を支えるためにエメトセルクの胸元に腕をついた少女は、そのまま倒れ込むようにその胸に顔を埋めその胸に優しく口付けを落とした。
顔を上げた少女は、ゆっくりと上下に動き始める。
「ふぁ、んっ、あぁっ、っあ、ああぁっ!」
上げて、下ろして、良いところを擦る。きゅうと締まる内壁がエメトセルクを包み込む。その圧にエメトセルクは目を細める。
身の内に重ねる快楽は、ほんの少しの刺激でぽんと弾けて花の香りを散らす。エメトセルクだけが知る、開いた女の色香を胸いっぱいに吸い込む。
「悦いか?」
「っは、あっ、うぁ、っう、うん、うんっ…!」
こくこくと何度も頷いて少女はうっとりと笑った。その瞳がエメトセルクを映して滲む。
溜め込まれた快楽が少女を食い破ろうとする気配を感じて、エメトセルクは少女の腰をそっと掴んだ。
ひたりと忍び寄った強い波の気配に少女はエメトセルクを見つめる。
「悦くして、いいか」
気をやるほどに、その言葉は吐き出さずにエメトセルクはクッションの海から背中を起こす。
少女はエメトセルクの胸元に顔を寄せてそのシャツを握り締めた。見下ろす綺麗な月を見上げる。
「…いっぱい、ちょうだい」
甘えるような仕草はエメトセルクの雄を刺激する。口付けを交わして、少女を抱えるように抱き締めて叩きつけるように腰を振るった。
少女の喉が反って背がぴんと伸びる。
「あっ、ああぁっ、あぁ、あっ、ああぁぁぁっ!!」
必死にしがみつきながら強く甘く淫らな嬌声がその喉を震わせていく。淫靡な水音は止むことなく暴力的なまでに部屋を震わせる。
「っひ、あっ、やぁっ、っんぁぁっ!!」
穿つたびに、叩きつけるたびに、小さな体は跳ねて震えて快感の波にさらされる。縋り付くその指が震えて離れかけまた強く捕まる。
目を開けているのか、閉じているのかその瞳には光も闇もなくただエメトセルクの姿だけが映り込んでいた。
「あぁ、悦い…悦いぞっ」
エメトセルクもまた少女の内側を存分に堪能していた。擦り上げるたびに強く締め付けてくるその場所が、すっかりエメトセルクの形を覚えていることにほくそ笑む。きゅうと締め付けてはゆるく絡みつくそれはエメトセルクを存分に楽しませる。
たとえ手を離しても、ここにしか戻る場所はないのだと確信できる暖かさを互いに感じている。たとえどちらかが失われたとて、戻る場所をもう定めてしまった。ここ以外にはもう、戻れない。
互いを追い上げる快楽は、理性という名の獣を締め上げる。ただ快楽に酔えばいいと噛みつくような口付けを互いに交わして獣を抑え込む。理性の獣を押さえ込む我々は、一体どんな獣だというのか。
答えの出ないまま、快楽だけが上積みされていく。叩きつけるピストンは止まることを知らないし、締め上げる少女の内側はもっとと強請ってくる。
「ひぁっ、あっ、あぁっ、エメっ、もう、ああぁっ!!」
少女の手が強くエメトセルクのシャツを掴んだ。途切れないように必死に意識を繋ぎとめてエメトセルクを受け入れようとしている。
「っあぁ、いいぞ…イってしまえ!!」
その最奥に、エメトセルクだけが知る秘所に押し入った雄が欲望を解き放つ。どくどくと自身の底から湧き上がる精の奔流を、一雫も漏らすなと奥へと送り込む動きで擦り付ける。少女の内壁もその動きに応えるように、びくびくと跳ねるように律動して飲み込んでいく。強すぎる快感に、少女の口から呻き声が一度上がった。
奥の奥へと押し付けたまま、エメトセルクは少女と唇を重ねた。啄んで、重ねて、舌を絡める。そのまま息と共にエーテルを流し込む。こくり、と嚥下する喉の動きを感じてぞくりと背筋が粟立つ。
唇を離せば細いながらも呼吸を始めた少女が震えていた。エメトセルクは繋がったままその体をずっと抱き締めていた。
+++
ゆらゆら揺れる感覚に少女は意識を浮上させる。ちゃぷりと響いた水音に、本日2度目の入浴が行われているのだな、とぼんやりと思い至る。
目を開ければ、目の前には逞しい胸板があった。ぼんやりと眺めながらぺたりと手を当てれば大きな手が頬を撫でた。
透明な、入浴剤の入っていない湯の色がぼんやりと2人の色に染まっている。
「目覚めたかね」
優しい声色に、胸板にすり寄って返事とする。それを良しとしたのか、エメトセルクはそれ以上何も言わずただ少女の頬と頭を交互に撫で続けた。
体は重かったが、心は随分と軽くなっている。
「…エメトセルク」
控えめに声に出した名前はゆらゆらと湯気と共に狭い浴室に広がっていく。
エメトセルクは指の腹で少女の頬を撫でながら続きを促した。
「私、戻る、ね」
ぴくりとエメトセルクの指が一瞬だけ止まって、また撫でる動きを再開する。
「…そうか」
短く吐き出した言葉がことりと落ちていく。
「でも、ね」
少女はエメトセルクの胸板の上に指を滑らせる。どこか熱を帯びたその指の動きに、エメトセルクは怪訝そうに呻くような声を漏らす。
「もう、ひとつ、してないこと、ある」
「…なんだ?」
思い当たる節がないのか、エメトセルクから出た疑問は普段の芝居がかった声ではなく素の彼の声色だった。
「……っ、ん」
「おい、さすがにそれだけじゃわからんぞ」
恥ずかしそうに体を震わす少女に、今度こそ怪訝そうな声でエメトセルクが尋ねてくる。
「…笑わ、ない?」
「なにを今更」
少女は真っ赤になった顔をそっとエメトセルクの耳へと寄せた。耳に触れる吐息も熱い。
「…飲み込み、たい、エメトセルクを」
小さな呟きにエメトセルクは一瞬目を見開く。恥ずかしい、と肩口に顔を埋めるその顔を見ようと引き剥がす。少女は視線を逸らしたまま真っ赤になって俯いた。
自然と2人の視線が下へと落ちる。少女の手がそっと自身の腹を撫でた。
「…飲み込みたい、か」
反芻するように呟かれた言葉に、少女は小さく震えた。
「っふ、はは」
エメトセルクは自身の腕の中へ大事そうに少女を抱き込んだ。
「……ダメ?」
見上げることすらできないまま、小さな声が甘くねだる。
「…お願いするときは、ちゃんと相手の目を見るんだな?」
エメトセルクの揶揄する声に、少女はさらに赤くなってちらちらと視線を戻しはじめる。
抱き込んだその体を少しだけ離して、エメトセルクは少女自身の意思でその瞳がきちんと見つめるのを待った。
ややあって、ようやくエメトセルクを真っ直ぐ捉えた瞳は、きらきらと輝きながら熱を宿していた。
「……エメトセルク」
「うん?」
それ以上なにも言わずに先を促す。彷徨って、戻って、彷徨って、戻った視線と意を決したようにこくりと飲み込まれた唾が、少女の緊張を物語っていた。
「全部、飲み込み、たい」
どう告げればいいのかわからないまま、それでも紡ぎ出された言葉に、エメトセルクは緩く微笑んだ。
その大きな指が少女の小さな唇を撫でる。
「それは、ここでということかな」
真っ直ぐに見つめてくるエメトセルクの瞳から逃げられぬまま、少女はそっとその指を食んだ。くぐもった声で、うん、と答えてその小さな舌先がぺろりとエメトセルクの指を舐めた。
「苦しいかもしれんぞ?」
体格差ゆえの苦痛を慮ってエメトセルクが労りの声をかける。息が詰まるのは、下を貫かれるのとは訳が違う。ともすれば呼吸を止めがちな少女を慮るのも無理はない。
「だ、大丈夫」
緊張で上ずる声を必死に押し殺しながら、少女は告げた。
「私、も、全部、欲しい」
真っ赤になりながらも告げたその言葉に、エメトセルクは口角を緩めた。
全部もらい受けると告げたのはエメトセルクだが、その逆も望まれるとは思っていなかった。そう、この後に及んでも、互いに互いの行為を押し付けでしかないと思い込もうとしていたのだ。求めすぎて求め方のわからなくなった、2人らしい勘違いでもあった。
「途中で止めれんかもしれんぞ」
懸念しかない、とエメトセルクは告げる。自身の中の欲望の獣性を知ってしまった以上、紳士的に事に及べるなどと甘い期待はできなかったからだ。
「それで、いい」
少女は縋り付くようにそう告げた。いっそ痛めつけて刻み込んで欲しいと言わんがばかりに、それがいいと呟いた。
エメトセルクはそっとその頭を掻き抱いて胸の中に閉じ込めた。
「まったく…お前はすぐ私を煽る」
「煽ってな……っ」
反論しようと出した言葉は、少女の下でむくりと起き上がった気配に妨げられた。
「無自覚すぎるのも考えものだな」
エメトセルクの大きな手が少女の濡れた髪を撫でた。清められた体を今一度汚す覚悟を秘めて。
「いいんだな?」
「…うん」
交わった視線に誘われるように、唇が重なった。
浴槽の縁に腰掛けたエメトセルクの股の間に顔を埋めて、少女はくぐもった声を上げる。
少しずつ大きくなるそれは、少女の口腔よりもはるかに大きくすべてを飲み込むことはできそうになかった。
大きく口を開いてその先端に縋り付き、鈴口を吸い上げる。幹の部分へと手を添えて上下に掻いてやれば、ちゅこちゅことした音と共により一層エメトセルクが大きくなった。
「っん……ふ……」
雁首の段差を舌先で押すように撫でれば少女の手の中でびくりと震えてまた熱くなる。自身の動きで感じてくれているという事実が嬉しかった。
時折ちらりと見上げれば、気怠そうな表情のままその瞳に凶暴な熱を宿してエメトセルクがこちらを見ていた。滴る汗と時折引き結ばれる口元が、感じているのだと告げていて、それが少女の胸を温かくした。エメトセルクの片手はあやすように、少女の髪を梳いて頭を撫でその耳先を弄んだ。
ちゅくちゅくと音を立てるように先端を咥え込んで一心不乱に指を動かす。先走りが舌先に触れて、にゅるりとした感触が少女の気持ちを浮つかせる。
ちうっと音を立てて先端を吸えば、エメトセルクの口から熱いため息が漏れ出す。
「あぁ…上手だ…」
熱に浮かされた吐息のような声色が落ちてきて、少女の腰の奥がぞくりと揺らめいた。
もっと欲しい、この腹の奥に落とし込んで、さらにその奥まで。
少女の片手がふらりとエメトセルクの幹から離れる。するりと自身の腹を撫でたその手は無意識のまま自身の股の間を目指す。
エメトセルクはそれを上から見下ろしながらにやりと笑う。煽るようにその耳の後ろを撫でれば、ぴくりと震えた少女の舌がもっと舐めたいと鈴口を弄る。
少女の指が、少女自身の突起に触れる。びくりと跳ねた体の隙を見逃さず、エメトセルクは自身の雄をほんの少し少女の口内へ潜り込ませるように突き出す。にゅるりとした感触が先端を包み込んで、驚いて吸い上げられた先端がびくびくと震えた。
少女の指がゆるゆるとエメトセルクの幹を掻いて、その動きに合わせるように自身の突起を撫でていた。
扇情的な光景だった。気分が高揚する。エメトセルクは求めるように、少女の後ろ頭をそっと撫でながら押した。
「っんん、んっ」
少し入り込んで、反動で戻る頭を片手で止めて2、3度撫でてもう一度押す。ピストンとも言い難い動きであったが、少女の突起を弄る指が2本に増えて、この行為で燃え上がりつつあるのだけが分かった。
明確に快楽に火をつけているその行為を眺めていたら、様子を窺う少女の瞳と視線が交わった。その瞳に浮かぶ色を見て、どくりとエメトセルクの雄が跳ねる。
「飲みたい、のだよな」
確認するように出した声は、なんだか硬く尖っていた。少女は口の中で熱を増していくそれに目を瞬かせた。
エメトセルクの両の手が、少女の後ろ頭を掴む。びくりと震えた少女がエメトセルクを見上げる。潤んだ瞳はそれだけでエメトセルクの加虐心を駆り立てていく。
「力を抜いていろ」
ぐっと上向かせた少女の頭を掴んだまま前後に揺さぶった。
「んっ、んむっ、んーっ!!」
訴える声は、奥まで入り込もうとする太い雄に阻まれてくぐもった。咥えた唇の端からたぱたぱと唾液が滴り落ちる。
秘所とも、蕾とも違う、温かく包み込まれる感覚に頭の芯が痺れて疼く。この奥に、もっと奥に解き放つんだとエメトセルクの獣が唸り声を上げる。
上向かせた少女の喉奥まで一気に押し入ろうと、エメトセルクは上からのしかかるように腰を揺らす。揺れる腰と、前後する頭に少女自身も揺さぶられてぐらぐらと視界が揺らぐ。真っ直ぐに喉奥を目指すそれにえづきそうになる。エメトセルクの荒い息が、その獣性が狭い浴室を支配していく。一突きするたびに大きくなる雄がびくびくと震えるのがわかる。
「あぁ、出そうだ」
絞り出された声に目を見開く。見上げたエメトセルクの顔は蕩けるような笑顔で、そのくせその目だけは少女を蹂躙し尽くそうとぎらぎらと熱を帯びて輝いていた。
「奥、だな」
ピストンは、早く、深く。奥の奥を何度も突かれてこみ上げる吐き気は、快楽に変換しきれないままぐるぐると喉元を彷徨い続ける。それでも少女は歯を立てずにエメトセルクを受け入れ続ける。
「いい子だ…っ味わえ!」
突き立てるように喉の奥に入れ込んだエメトセルクの雄がぐっと膨らんで、白濁とした欲望が奥の壁を叩く。ふぅふぅと獣のような荒い息でエメトセルクは1番濃い精を吐き出すと、余韻のように出続ける精を少女の狭い口内に塗りたくった。少女はその青臭い粘つく精を必死に喉の奥へ送り込む。閉じることを許されない口の端から嚥下しきれなかった白濁がぱたりぽたりと湯船に落ちた。
ずるりとその口内から抜き取られたエメトセルクの雄を、少し咳き込んで見つめた少女はそっと口を寄せた。唇と舌先であやすようにちゅくちゅくと音を立てながら綺麗にしていく。絡み付いた白濁がなくなる頃には、エメトセルクの雄はまたゆるりと起立していた。
口を離した少女は、自分の唇を親指の腹でぐいっと拭った。その顔をエメトセルクの手が両側からそっと包み込む。
「口を開けろ」
言われるがままにぼんやりと口を開けた少女の口内を見やる。まだ少し残っていたがあらかた飲み干したという事実にエメトセルクは目を細めた。
「飲めたな」
その口を閉じさせて頬を撫でれば、赤らんだ顔が素直にこくりと頷いた。
「いい子だ」
少女を少し抱き上げ湯船の中に滑り込みながら、エメトセルクは少女の頭を撫でた。太ももをまたがる形でエメトセルクの上に下された少女は、起立し始めた雄が秘部にそっと添うのを感じていた。
その頭を胸元に押し付けて、何事もなかったかのように腰に手をかけて抱き締めれば、腕の中の少女がぴくりと跳ねた。
濡れ始めた秘部と起立し始めた雄が湯の中でちゃぷりと触れ合う。それ以上とくに何もせず、エメトセルクは少女の背にお湯をかけ続けた。
しばらく縮こまっていた少女が、ほんの少しもぞりと動いた。もぞり、もぞりと動くたびに互いの敏感なところが擦れ合う。ぴちゃりと水面が揺れる。
エメトセルクの手がそっと少女の腰を押し掴んで留めた。びくりと震えた少女が、顔を上げれぬままかたかたと震えた。
「どうした」
努めて冷静に絞り出したであろう声は、どこか熱を帯びている。
「座り心地が悪かったか?」
揶揄するような笑みを孕んだ声に少女がちらりとエメトセルクを見上げる。エメトセルクの綺麗な月が少女をひたりと見つめていた。
「それとも…1人で燃え上がるつもりだったか?」
揺らめかすように腰を押されて、喉の奥でくぐもった音が鳴った。
「っん…」
水面のさざめきは止まらない。
確かめるように、包み込むように、少女はそっと腰を揺らめかせる。ピタリと添えられたエメトセルクの雄が少しずつ猛りを取り戻しているのがわかる。
エメトセルクはそちらを見ながら空中へ差し出した指をくるりと回して指を鳴らし、水泡を作り上げる。迷わずそれを口の中へ入れ込み、少女の顔を上向かせると唇を重ねた。
「っん、んんっ…」
差し出された水分をこくりこくりと嚥下する。飲みきれなくて口の端からこぼれた水はお湯と混ざり合っていく。
口移しで渡された水分を飲みきり一息ついた次の瞬間、噛み付くような口付けをされる。互いの歯が当たりカチリと音がする。構わず大きな舌が狭い口内を蹂躙していく。
たっぷりと時間をかけて口内を味わったエメトセルクは、頭を撫でていた指でそっと胸元を撫でた。
「身の内の熱は取れたか?」
胸の突起を優しく押し潰しながら告げられて、びくりと体が跳ねる。確かめるように数度押し潰しただけで、その突起はぷくりと可愛らしく主張し始める。
その手がするすると下へと蠢き腹を撫でる。
「きちんと飲めただろう?」
確かめるようにくるくると撫でられて腰を捩れば触れ合う秘部がずくりと揺れた。
その手がさらに下へと伸びる。少女も、もう目が離せなくなっている。その指の動きを追う目が色に染まっていく。
「それとも、もっと飲みたいのかね」
突起に触れた指が優しくつねる。
「ひぁっ!」
「私のを舐めながら弄っていたろう?」
エメトセルクの言葉にびくりと震えた少女の瞳がエメトセルクの目線と交わる。真っ赤に潤んだ瞳は見られていた事実に羞恥の色を滲ませていく。
「まったく…」
きゅっきゅっと緩急をつけて突起をつねられてびくびくと少女が跳ねる。
「言ってごらん」
「ふ、ぅ」
「お前の望みなら叶えてやろう」
エメトセルクの指が敏感な突起の周りをゆるゆると撫でる。
「ほら…言ってごらん?」
耳元で低く囁かれて、止める気持ちが薄れていく。飲み込んでおしまい、そう決めていた意思はがらがらと音を立てて崩れていく。
「っ……し、ぃ…」
「聞こえんぞ」
腰を支えていた手で顎を持ち上げられる。お願いは目を見て、と甘く囁かれて少女の瞳が潤む。
「…エメ、トセルク…が、欲し、ぃ…」
辿々しく告げられた言葉は甘い疼きを伴っていて。エメトセルクは優しく微笑むと唇を重ねる。
「よく言った」
求め合う喜びを感じて、互いに貪るように唇を重ねた。
+++
これが最後だと互いに気付いてる。
もう温もりからは手を離すべき時間なのだ。
少女の手が縋るようにエメトセルクの首へ伸びる。エメトセルクはそれを受け入れ支えるように腰に手を回す。
「もう、とろとろだな」
ほんの少しの刺激だけで、少女の秘部からはとろとろと愛液が滴りエメトセルクを受け入れようと蠢いていた。エメトセルクの方も、そんな少女の様子を見るだけで張り裂けんばかりに怒張していた。
ぴとりと添わされたそれに、少女が歓喜で震える。
「…いいな」
「…いい、よ」
ぐっと突き上げられる感触に、少女は息を吐いた。もう何度も受け入れてきたはずなのに、最後だと定めてしまったからか、それは初めての時よりも大きく苦しかった。
「っは、あ…う、あぁ…っく…」
それはエメトセルクも同じだったようで。
「っく…よく、締める…っ!」
互いに貪り尽くしたはずなのに、まるで初めて繋がった時のような、互い以外に入り込む隙間のないぎちりとした圧迫感で苦しげな息を吐き出す。あの時と違うのは、互いにそれをやり過ごすためにどうすればいいか知っていることだ。
求め合う心はそのまま行動になる。互いの唇を重ね合い相手に熱を与えていく。互いの唇を感じるうちに徐々に解れたそこはくちりと音を立てる。ちゃぷりと湯が揺れる。
「っあ、はっ、エメ、トセル、ク」
「っ…どうした」
甘えた声を出す少女にエメトセルクもあやすように声をかける。
「っふ……すこし、こわ、い」
ふるりと震える様すら初めてのあの時のようで。
「こわいか」
あの時と同じ言葉を繰り返す。
「こわさごと、飲み込め」
解れたそこへ、エメトセルクは一息に己の雄を埋め込んだ。
少女の背が反り喉が跳ね、一拍おいて叫ぶような嬌声が放たれた。
「ーーーっ!!! ぁああぁぁっっ!!」
どれだけ初めてのように感じても、体はもう何度も重ねている。互いの1番いいところなど分かり切っているのだ。
エメトセルクはもう待たなかった。少女の中に押し入ったそれをがつがつと貪るように腰を振って味わう。
「ああぁっ、あっ、ひっ、あああぁぁぁ!!」
少女もその攻めを受け入れる。受け入れて、エメトセルクがもっと感じるようにとその内壁がきゅうきゅうと締まっていく。
ざぱざぱと湯船のお湯が荒く揺れる。その波間で少女の体は揺らされている。
引いて押し入れて押し付けて擦り上げて。がむしゃらに腰を打ち付けるその動きに、小さな体が必死に縋り付く。
「ひぁっ、はっ、あっ、あああぁぁっ!!」
快感で意識が上書きされる。耳元で低い唸るような吐息が耳を揺らして、少女はそれだけでエメトセルクの雄を締め付ける。
欲しい、もっと欲しい、あなただけが欲しい。
「っく…これは、もたんな…っ!」
強く絡みつく締め付けに、エメトセルクが呻く。
「っあぁっ、うん、うん、いいよっ、エメ…っ、あぁっ!」
何度も果てていた少女もすでに限界は超えていた。与えられる快楽から逃げる術はもうない。
「ちょう、だいっ!!」
伸ばした手は、エメトセルクに届いた。
「っ、受け、取れっ!」
少女の強い締め付けに、エメトセルクは一際強く腰を打ち付けてぶるりと震えた。エメトセルクの欲望が弾けるように奥の奥を満たしていく。体をきゅうと縮こまらせて強すぎる快感を全身に受けた少女の内壁がきゅうきゅうと律動する。合わせるように腰を揺らめかせ自身の欲望の果てを少女に擦り込んだエメトセルクは、少女の顔を上向かせる唇を重ねた。息を送り込んで呼吸を促せば、緩くなる締まりの代わりにひくりと喉が動いた。唇を離せば細い息が漏れる。
「…大丈夫、か」
「っひ……ぁー…」
「…気をやったか」
収まった高ぶりを少女の中から引き抜き、とろりと崩れ落ちる少女を腕の中に抱き寄せた。開きっぱなしの口からは唾液が、瞬かない瞳からは涙がそれぞれ流れている。指で拭って舌で舐めとってそのままその顔に口付けを何度も落とす。
もう一度、と唇を重ねてからとろりとしたままの少女の顔を肩口に埋め込んだ。腰を片手で支え、指をそっと秘部に伸ばす。ゆっくりと前後に擦るだけで、少女の秘部からとろりと2人分の液が漏れる。
「っあ、あぁ…ああぁ…」
反射的に漏れる声がすこし幼くて、エメトセルクは微笑んだ。
少女の秘部を指で開き、そっと一本指を入れ込みながら様子を伺う。
「っん、ふぁ…ぁー…っくふ…」
すこし笑っているようにも聞こえる弾んだ声を聞きながら、少女の中から己の放った欲望を掻き出した。掻き出された精はゆっくりお湯に溶けていく。
あらかた掻き出して指を抜き去り今一度少女を抱き締め直す。とろりとした瞳はうつらうつらとしている。
「眠れ。起きるまではそばにいる」
囁くように呟いて、その目を閉じさせる。すぅと規則正しくなっていく呼吸の音にエメトセルクはそっとその額に口付けた。
+++
白い。白い闇だ。
ぽつんと立ち尽くす私を、後ろから黒い影が見下ろしている。
私はそっと自身の腹を撫でた。そこに宿った、名前のない何かをそっと〝大切〟に。
「そこに、いるの?」
ー…いるとも。
声はどこかふわふわと現実味を帯びないまま聞こえる。
「もう、おわかれ?」
ー…お前が、言い出したことだ。
うん、そうだったね。
だって私はそこにいられないから。どこにならいられるんだって言われると、困るけど。
「離さないで、いてくれたね」
ー…望まれたから。
「うん」
そう、私が望んだんだ。
ー…だから、お前は、そちらで。
+++
「…っえ」
不意に肩を強く掴まれた。
視界がひどく揺らいでいる。
声、声がする。誰だっけこれは。
「ーーーっ、…で、どこに…!」
「…アル、フィノ?」
鮮明になる視界は、心配そうに覗き込むアルフィノを映した。背後に慌てて駆け寄ってきているサンクレッドの姿もある。
「…どうし……あれ?」
見渡して、自分が自室の部屋の扉の前にいたことを知る。
私、どうしてここに?
「急に部屋から、あなたが消えたからっ…!」
「部屋…? まって、私、ヴァウスリーと…ううん、イノセンスと…戦って…?」
「…何を、言ってる?」
サンクレッドが心配そうな声で疑問を投げてくる。
「だって、え、私、イノセンスと、戦って…光が…」
きりきりと頭が痛む。チラつく視界に赤が翻る。
「そうだ、水晶公が…いて…それで…」
エメトセルクが、水晶公を止めて、連れ去って。
「私…いつ、ここに…?」
混乱する私を見てアルフィノたちも混乱しているようだった。無理もない。私にもわからない。
「とにかく部屋へ入ろう。そんな格好でうろついてるものじゃないよ」
アルフィノの優しく諭す声でようやく自身の格好を見やる。白い丈の長い病衣に身を包んだ自分の姿を。
サンクレッドがそっと部屋のドアを開けてくれた。私はそれに従うように部屋へと潜り込んだ。
それからの記憶は随分曖昧で。
たぶん、光が私の記憶すら焼こうとしていたんだと思う。
熱を持ち続けて気怠い体と、〝英雄〟の仮面で辛うじてもたせた気力だけでアーモロートと呼ばれる街を駆け抜けて。
それから、それから…どうなった?
白い闇が邪魔で、何も見えないのに、私の上を滑るように物語は終幕へと進んでいて。
声がする。これは仲間の声だ。受け入れられない、探せるはずだ、そんな声が聞こえる。
声がする。これはエメトセルクの声だ。受け入れろ、我々の悲願だ、そんな声が聞こえる。
誰も、私の言葉を必要としていない。
私はただのパイプ。橋渡しをするためにある。
終末の再演をひた走る。終幕はすぐそこなのに私にはまだ何も見えない。
求められるのは〝英雄〟、求められざる〝私〟
戦って、戦って、声がして、戦って…
白い闇が晴れていく。
忘れるな、そう言われた。そう言われた気がした。
あぁ、私が穿ったその場所から、エメトセルク、あなたのエーテルが溢れていく。
…私が? 穿った?
どうして、なんで、そんなに泣きそうな顔をしているの。
なんで、なんで、なんで
「……や、ああぁぁぁぁぁっ!!」
光が、光が、エメトセルク、あなたを穿って。
手を伸ばす。あなたをもう一度掴むために。
手を伸ばす。届くと信じていたのに。
後ろから、強く抱き竦められて、届かない。
「やだっ、やだぁっ、エメ、あ、ああぁぁっ!!」
「ダメよ! もうあなたをどこへもやりはしないんだから!」
後ろから叫ぶようにそう言われた。柔らかいのに強くしがみつくそれは、いつか私を慮った声。
どうして、私は、そこに行きたいだけなのに。そこだけが、私が戻る場所。そこだけが、わたしの寄辺。
手を伸ばす。手を伸ばす。
目の前で微笑むエメトセルクも手を伸ばしてくれると信じて。
「それで、いい」
形のいい唇が紡いだ音を、どこか遠くで聞く。
「だから、お前は、そちらで」
白い闇の向こうで聞いた言葉がリフレインする。聞いたのは、いつだった…?
今一度笑ったエメトセルクの姿がエーテルに解けていく。
どうして笑っているの、私がそこにいないのに、どうして。
力任せに絡む腕を振り解いて駆け出す私の目の前で、エーテルは静かにその形をほつれさせて消えていく。
伸ばした手にはそのひとひらすら捕まえることができなくて。
「あ、あぁ……ぅああああああぁぁぁぁぁあっ!!」
朝焼けの廃墟に、英雄と呼ばれたモノの慟哭だけが響き渡った。
――――――――――
2019.11.15.初出