今夜、あなたに、抱かれる。

 生娘のような感傷だ、と笑いながら差し出すための準備をした。
 6日も間が開けばその間に準備の手際も良くなるわけで。後孔に自らの指をほんの少し差し入れて解すことにも慣れてしまった。まだ、これで気持ち良くはなれないけど。
 準備をして、リビングのつけっぱなしだった暖房と電気を消して寝室へ戻る。裸のままハーデスの家の中を歩き回るのが恥ずかしい。
 ドアの前で深呼吸をして、そっとドアを開けて滑り込む。後ろ手にドアを閉めて視線を上げれば、フットランプとサイドテーブルのライトでほんのりと照らされたハーデスの逞しい裸体がベッドの上にゆったりと横たわっていた。僕とは違う、男らしい体つきの肉体が緩く揺れて声が訪れる。

「光」

 名を呼ばれて視線を交わらせれば、優しく微笑むハーデスが手招きをしている。大きな指をくいくいと動かして呼ばれるそれに、ふらふらと近寄ってしまう。捕食者と餌の関係とはこうなのだろうか、そんなことをぼんやりと考えてしまう。
 ちらりと視界に入ったサイドテーブルの上にペットボトルと共に、見慣れない箱とボトルを見て目を逸らした。見慣れないだけで、それが何かは知っている。
 ベッド脇でどうするべきか思案していれば、とんとんとハーデスがベッドの縁を叩いた。導かれるようにそこへ腰掛ける。シーツの上に投げ出した手を、ハーデスは掬い取って指の腹でそっと撫でた。
 何か言うべきなのか、何も言わずにいるべきなのか、それすらよくわからない。おろおろと視線を彷徨わせているとゆっくりと上半身を起こしたハーデスが、僕の頬に手を伸ばしてきた。
 指先で確認するように触れてから手のひらで包み込むように頬を撫でられ僕は目を閉じる。

「震えてる」

 低い声で言われてはじめて自分の震えを知る。瞳を開けば困ったように眉を寄せるハーデスが僕を見ていた。

「…大丈夫、です」

 ハーデスの手が、僕を導くように引き上げる。逆らわずにいれば、2人、ベッドの上へ倒れ込むことになる。ハーデスの上に半分乗り上げる形になってしまったのが恥ずかしくて体を動かそうにも、彼の手ががっちりと僕を掴んでいて動けそうにない。広い胸板に押し付けた耳にどくりどくりと彼の生きてる音が響いた。

「…怖い?」
「怖く、ないです」

 その胸に擦り寄るとハーデスは優しく頭を撫でてくれた。大きな手で包むように撫でられる、それだけで蕩けてしまいそうになる。
 大きな手が髪を梳き、首を降りて背中に触れる。
 鼓動がうるさい。早鐘を打つこの音が彼に聞こえてしまうのではないかと見上げれば、彼はじっとこちらを見ていた。とろりと溶ける金糸雀色の瞳が、僕を見ている。

「…っあ…」

 恥ずかしくなって視線を逸らすと、くすくすと笑い声が降りてくる。まるで生娘のような自分の反応に顔が赤くなる。

「光」

 背中を撫でる手が背骨の上をするりとなぞって、びくりと体が跳ねた。思わずちらりと様子を伺うとハーデスの瞳が溶けるように弧を描く。

「おいで」

 低い声でそう言われたら、もう逆らえない。胸元に擦り寄っていた顔を持ち上げて彼と視線が交わるように動けば、彼の指がとんとんと僕の唇を叩いた。

(あぁ、キス、したい)

 合図となったそれに逆らわずにハーデスの唇に自分の唇を重ねた。ハーデスの手が褒めるように頭を撫でる。
 口付けたまま、ハーデスは僕を抱えてくるりと体勢を逆にした。枕の柔らかさを後頭部で感じながら、何度も確かめるように降りてくるハーデスの唇を受け入れる。
 重ねて、離れて、もっと深く。
 薄く開いた唇から口内へ舌が入ってくる。歯列をそっとなぞられるだけでびくりと体が跳ねてしまう。口内の隅から隅までゆっくりと舐めながら、行き場をなくした舌を絡めて吸われた。

「んっ、ふ、ひゅ」

 すりすりと擦り寄る舌に翻弄されて、あられもない声が出そうになる。とろりとした気持ち良さに思考も蕩けていく。
 絡める舌を口内から引き出すように吸い上げられ、そのままゆっくりと唇が離れていく。堪えきれず、口の端からどちらのものともつかない唾液がこぼれた。
 薄く瞳を開いて彼を見やれば弧を描く金糸雀色の瞳がうっとりと僕を眺めていた。
 ハーデスの手が僕の頬を撫でてから、僕の顔の横にそっと置かれる。それだけでびくりと震えてしまう。

「光」

 思っていたよりも近くで名前を呼ばれて体が跳ねる。顔の横に置かれた手を追って横向いた耳にハーデスの唇がそっと落ちてくる。

「光」

 低くて甘い声で呼ばれて、肩を竦めた。駆け抜けた痺れが腰の奥で停滞する。

「っは…ぁ…」

 漏らす吐息が熱い。どこまで熱くなるのだろう。

「光、気持ちいい?」

 耳に直接響く音は、快楽の電気信号を全身に走らせる。

「ひぅっ、んっ、やぁっ…そこ、しゃべっ、んんっ」

 名前を何度も呼びながらちゅくちゅくと耳朶を食まれて体が跳ねてしまう。シーツを掴んで耐えようにも耐えきれず、開いた唇からあられもない声がこぼれ落ちる。

「っふ、あぅ、あっ、や、あぁ…!」

 はしたない声だ。止めたいのに、それすらできない。ちゅくりと音を立ててハーデスの唇が離れていく。
 ほっと息をつく間も無く、その唇が首元に吸い付いた。

「ひぁぅっ」

 ぺろりと舐められた箇所を強く吸われてがくがくと体が震える。

「あっ、あぁ、ああぁっ」

 ちぅ、と音を立てて離れた唇が確かめるように何度もそこに落とされる。

「っふ、う…?」
「綺麗についた」

 言われた言葉を脳内に落とし込む前に、ハーデスの唇が鎖骨に吸い付く。

「っあ、んっ、ひぁ、あぁっ」

 鎖骨、肩、胸元、ハーデスは吸い付いてはちぅと音を立てて離れ確かめるように唇を落とすのを繰り返す。ぞくぞくと痺れが体中を走って、何も考えたくなくなる。
 ぺろりと吸い付いた場所を舐めたハーデスが僕を見下ろしてくる。

「はーです、さん…?」

 あられもない声を上げ続ける舌が、うまく動いてくれない。

「綺麗」

 簡潔に落とされた言葉が部屋に低く響いてぞくりと背中に痺れを起こす。なぞるように動く指を追いかけて眺めれば、胸元に赤い跡がついているのがわかった。

「っあ…」

 つけられた跡に恥ずかしさが増して顔が赤くなるのがわかる。シーツを掴む手を外して顔を覆えば、くつくつと笑う声が降りてくる。

「光、顔、見せて」
「…やぁ、はずか、しい…」

 いやいやとかぶりを振っても許してはもらえなくて。顔を覆う手に何度も口付けを落とされておそるおそる手を外す。
 優しく微笑んだハーデスがちゅっちゅと音を立てながら唇を重ねてくる。

「っは、あぅ、んっ、あぁ…」

 触れて離れる口付けの合間に、ハーデスの指が胸の突起を弾いた。

「っひん!」

 びくりと跳ねた体が落ち着くより早く、もう一度ぴんと弾いてから指の腹で優しく押し潰された。

「っひぁ、ふ、んんっ、あぁ」

 撫でて、潰して、捏ねて、弾いて。その度に体がびくびくと跳ねる。腰の奥に集まる熱が、僕の雄を持ち上げていく。
 ハーデスの唇が反対側の突起に吸い付いて、僕は胸を反らして悶える。

「ひぁっ、あっ、や、ああぁぁっ!!」

 吸い上げて舐められるたびに抑えられない声が部屋を震わせていく。ぴんと張った体が弛緩する間も無く次々に快楽を植え付けられてかぶりを振ってそれを散らそうとした。

「あぁ、あっ、やぁ、ああぁっ」

 両の突起を同時に弄られて、頭の中が真っ白になっていく。何も、考えたくない。ぺろりと舐めて離れていく唇から覗く真っ赤な舌を、潤んだ瞳で見つめることしかできない。

「光、気持ちいい?」

 問われた言葉に答えたくても、質問の意図すら理解することを脳が拒否していく。

「っふ、んっ、あぅ…も、っと…」
「…っ、いい子」

 何かを飲み込んでいい子と告げるハーデスの手が、胸の突起から腹へと滑っていく。へその窪みをすりすりと撫でられて、腰が揺らめく。

「あ、ん…くすぐ、たい…」

 くすくすと笑う声と共に指はするりと下を目指す。下生えをやわやわと触られてびくりと腰が跳ねる。

「ね、光、見て」
「っふ…?」

 告げられて視線を下げて、目が止まる。ハーデスの指の先で、触れてないのに固く勃ちあがる自身を認めてしまい顔が赤くなる。

「っあ、やぁっ!」

 思わず目を背けようとすると、きゅっと握り込まれた。

「ひぁっ!」
「胸だけで、こんなに?」
「っふ、うぅ、わか、ん、な…」

 握った手が数度上下に掻くだけで、勃ちあがった先端からとろりと蜜が滴った。

「可愛いな」

 思ったより下から聞こえた声に視線を戻せば、ハーデスの顔が随分と下にあった。腰の下に手を入れて持ち上げられると、ぬるりとした感触が性器の先端を覆った。

「っひ、や、ハーデス、さ、きたな、いっ!」

 彼の口がぱくりと僕を咥え込んでいる。ぬるりとした湿り気とざらりとした絡む舌触りに、枕の端をぎゅうっと掴んでかぶりを振る。

「や、あ、あっ、ああぁっ!」

 ぢぅ、と吸われて腰ががくがくと痙攣する。真っ白になった視界は何も映せず、ただ腰に響く痺れだけが世界の全てのように思えた。

「は、んっ、ああぁっ、すわ、すわな、いっ」

 ずるずると吸いながら口を動かされて、そこから溶けてしまいそうだった。彼の口内で怒張する僕自身がどんどん熱を集めていく。

「やぁ、あっ、離し、でちゃ、でちゃうっ…!!」

 かぶりを振って懇願しても、離してはもらえない。口内に僕を含んだままくつりと笑われて、それすらも腰に響く。
 気持ちいい、気持ちいいしか考えられない、考えたくない。

「や、あ、あ、あぁ」

 がくがくとした震えが声まで伝わる。目を開いているのか閉じているのか、それすらわからない。吸われて動かされて思考すら真っ白になる。
 だめ、彼を汚してしまう、出したい、気持ちいい、だめ。

「光、出して」

 僕を口に含んだままもごりとそう呟く声が聞こえた気がした。響きはそのまま性器に響いて脳がスパークする。

「あっ、あっ、ああぁぁぁっ!!」

 びゅくりと吐き出す開放感と、ずるずると吸われ続ける快楽が腰を何度も跳ねさせる。ぴんと張った体は力の抜き方すらわからない。射精の開放感とハーデスの口に出したという罪悪感でぽろぽろと涙がこぼれた。

「ひぅっ、あ、あぁ、う、っふぅ…」

 じゅるりと卑猥な音を立てて性器が解放されたのがわかる。ゴクリと飲み込む大きな音ではっと目を開いてそちらを見れば、大きな手の甲で口元を拭うハーデスと目があった。ぎらりとひかる双眸は燃え盛る熱を宿している。

「っひ、う、飲ん…っ」
「流石に喉に絡む」

 サイドテーブルのペットボトルに手を伸ばしたハーデスは、軽く捻って蓋を開くとミネラルウォーターを喉奥に流し込んだ。
 まだ荒い息を整えることも忘れて、その姿を見ていることしかできない。
 引き締まった筋肉に包まれたその体が動くたびにどくりどくりと胸が高鳴った。
 ハーデスの瞳がこちらを見てにやりと歪んだ。サイドテーブルにペットボトルを置いて僕に向き直った彼は何も言わず唇の端を持ち上げる。
 覆い被さるように唇を重ねたハーデスの舌が僕の口をこじ開けて生温い液体が流し込まれる。

「っん、ふ…」

 口に含んでいたミネラルウォーターを流し込まれている、と気付くまでに随分時間がかかってしまった。つかえないように必死に嚥下すればハーデスの舌が褒めるように僕の舌を撫でた。

「っひ、あふ…」

 唇の端から、飲み込みきれなかった水が流れて枕を濡らした。
 離れていく唇を眺めながら肩で息をすれば、くつりと笑われる。

「本当に、光は愛らしい」

 頬を撫でながらうっとりとそう告げられて、瞬時に顔が赤くなる。

「や、う、うぅ」

 意味をなさない呻き声しか出てこない。もっと何か言えればいいのに。
 僕を見つめたまま、ハーデスの手がするすると下へ下へ降りていく。
 吐き出して少し硬さを失った性器をやわりと撫でてから陰嚢の奥へと指は進んでいく。
 びくりと体が跳ねる。後孔には触れずその周りをほぐすようにハーデスの指はさわさわと動く。

「んん、ふっ…」

 自分で触れてもなんとも思わないのに、ハーデスに触れられると途端に熱を持つ自分の体が制御できない。触れた箇所が熱い。熱くて、気持ちよくて、蕩けてしまいそうだ。
 ハーデスの手がサイドテーブルに伸びる。ボトルと小さな箱が枕の横に置かれる。どくり、と心臓が跳ねたのがわかった。

「…傷はつけたくないから」

 じっとその手元を見つめる僕にハーデスは少し小さな声でそう告げた。
 見上げれば、金糸雀色の瞳が少し眉を寄せてこちらを見ている。

「…ハーデス、さん…」
「酷いことは、したくないんだ」

 告げる声が迷いを含んでいる。この先へ進んでもいいのかと言外に問うている。
 ハーデスは優しい。こんな時でも僕のことを考えてくれている。酷くしてもいいのに、したくないと理性を必死に保とうとしている。

「は、です、さん」

 尻に添えられているほうの腕を撫でる。どちらの熱がわからないほど、共に熱い。
 止まれるはずがない。ハーデスも、僕も。

「僕、僕が、します」

 体を起こしてそっとその肩に触れる。瞳を伏せたままその肩に口付ける。

「…平気か?」
「大丈夫、です」

 大きな手がくしゃりと僕の髪を混ぜるように撫でる。そっと耳元に唇を寄せて低い声でどうすればいいと呟かれ思わず跳ねてしまう。

「…寝っ転がってて、もらえれ、ば」

 ぺろりと舐められた耳を押さえながら告げれば、くつくつと笑ったハーデスが端に避けてあった大きなクッションを背中の下に入れ込みながら、ごろんとベッドの真ん中に横たわった。
 震える手でボトルを手に取ると、ハーデスの手が僕の手を掴んだ。

「光、おいで」

 とんとんと叩かれた先は彼の腰の上だった。

「う、あぅ…」

 視線を彷徨わせているとまたとんとんと叩く音。条件反射のようにのろのろと彼の上に跨って視線を逸らした。ハーデスの固くなった性器が、尻の狭間に当たっている。
 ハーデスの顔を見ることができずに視線を彷徨わせながらボトルを捻って手のひらにローションを取り出した。ヒヤリとした感触にぞくりと背に寒気が走る。ハーデスの手が僕の手からボトルを取って枕元に置いた。

「あまり、見ないで…」

 多分聞いてもらえないお願いを口にしながら、そっと腰を持ち上げる。ずるりとハーデスの性器が尻の狭間を滑ってその感覚に身を震わせた。
 手のひらに出したローションを指にまぶしてから少し掬い取って自分の後孔に運ぶ。ぐるりと後孔全体を湿らせてからそっと押してみる。

「っん、ん…」

 ローションの助けを借りてぬるりと自分の指が入り込む感覚に肌を粟立たせた。
 ゆっくりと入り口を揉むように動かして解していく。見られている、それだけで恥ずかしいのに気持ちよくなってしまいそうになる。

(見られるだけで気持ちいいだなんて)

 2度3度、手のひらからローションを掬い後孔に運んでは入れ込んでいく。にちゅりくぷりと自分から発する音が淫らで、耳まで赤くなるのがわかった。
 指を奥まで入れてグイッと押すように解していく。どこまで解せばいいのか、なんてわからない。ただ、自分より相当大きい彼のを受け入れるには、中途半端ではダメだろうなということだけはわかった。
 入れ込んで解して抜いて、何度か繰り返してから指を2本に増やしてみる。

「ん、あっ、っふぅ…」

 入れ込む瞬間の異物間に眉を寄せれば、ハーデスの手が僕の太ももに触れた。心配そうな顔でこちらを見るハーデスにぎこちなく笑って応える。
 指と指を広げ奥まで入れてグニグニと押して解す。ただまざまざと自身の指の動きだけ感じる。
 引き抜いて3本入れ込むと圧迫感が酷かった。

「ふ、あ、っんん」

 ハーデスの手が僕の太ももを優しく撫でてくれる。

「あ、う、うぅ、ん」

 ハーデスのはもっと太い。こんなものでは。
 そう思って指を蠢かしていると、中途半端な高さで浮いたままだった僕のもう片方の手のひらをふわりと包まれた。ハーデスの手がぴたりと僕の手のひらと手のひらを合わせる。まだ、手の上にはローションが残っていた。
 拭うように動いたハーデスの手がそのまま半勃ちの僕の性器を掴んだ。

「っひ、あぁ、あっ」

 ローションで滑りの良くなったハーデスの手がちゅこちゅこと音を立てて僕の性器を揺らす。

「や、あ、あ、あぁ!」

 思わずきゅうと締まった後孔が指を咥え込んでびくりと跳ねる。

「や、あ、あぁ、ハーデス、さ、とまっ、ひんっ」

 先端を指先でぐりぐりと弄られて喉が反った。後孔から指を抜こうと動かした瞬間に上下に掻かれ思わず指がぐっと入り込んでしまう。

「っあ、ああぁっ」

 ぐりっとなにかを押した感覚に大きく体が跳ねた。腰から全身に強めの電流が走って熱が篭る。

「光、気持ちいい?」

 ちゅこちゅこと音を立てて手を動かしたまま、ハーデスは楽しそうに笑った。

「ひぅ、あ、あぁ、あ」

 指を抜かないといけないのに動かしたらまたあの痺れがくるかもと思うと動かせない。固まったままあられもない声を上げる僕に体を起こしたハーデスが口付けを落とした。

「気持ちいい?」

 後孔に入れ込んだままの手にハーデスの手が触れる。目を見開くと同時にハーデスの手が僕の手をぐっと押した。

「っあああぁぁ!!」

 ぐにっと何かを押している感触に体が跳ねるのを止められない。ハーデスの手が押して引いてを繰り返すたびに体が跳ねて声が溢れる。

「やぁ、あっ、とま、て、とまっ、て…!」

 必死にかぶりを振って告げればようやくハーデスの手が止まる。にゅるりとした僕の後孔に入れたままの指を引っ張って抜いたら、彼の指がやわやわとそこを撫で始めた。

「や、ふ、あぁ…っ!」

 入り口の感触を楽しんだ太い指がずぶりと入り込んでくる。ローションでぬるぬるになったそこは容易くその指を飲み込んでいく。奥の奥まで入れ込まれた指が擦るように蠢く。

「ああぁっ、あっ、はーです、さ、あぁっ」

 ほぐす動きではない明確に快楽を与えようと蠢くそれに抗えない。握ったままだった性器を先ほどよりは随分ゆっくりした動きで動かしながら、ハーデスが胸の突起に吸い付いた。

「ひっ、あっ、ああぁ、あ、あああぁぁぁ」

 三箇所から与えられる快楽の波に翻弄されてただ跳ねることしかできない。

「かわいい」

 口に突起を含んだまま喋らないでほしい。振動がびりびりと体を揺らして甘い疼きになる。

「ほら、飲み込んだ」

 ハーデスの指がいつの間にか2本に増えている。圧迫感にかぶりを振れば入れ込んだ指がこりこりとしこりのようなものを探し当てて撫でる。

「っひ、あ、なに、や、あああぁぁぁっ!!」

 擦られて押されるたびに体が跳ねる。

「ここだな」

 2本の指で挟むようにきゅっと摘まれて、強い電流のようなら快楽に目の前が真っ白になる。

「は、あぁ、や、あああぁぁぁっ、だめ、そこ、だめ、あああぁぁぁっ!!」

 何度も何度も確かめるように押されて撫でられて摘まれて、追い上げられた体が大きく跳ねる。視界は白く染まり瞬きを何度しても前が見えない。
 射精したときのような強い快感が脳の回路を焼き切っていく。ただ腰の奥から強い快感が湧き上がって全身を駆け巡っていく。
 気持ちいい、気持ちいい、こんなのはじめてで。
 ぱちりぱちりと脳の片隅から焼き切れていく回路の音を聞く。気持ちいいしか考えられない。

「光、見て」

 呼びかけられてはじめて強く目を瞑っていたことを知った。ゆっくりと瞳を開いてぱちぱちと瞬きを繰り返す。ハーデスを見下ろすと、彼はそっと体を反らせた。

「ほら、出てない」

 言われた言葉を理解することができない。脳は理解しないのに視覚情報だけは鮮明で。
 彼の手の中でびくびくと跳ねる僕の性器はまだ固さと熱さを保っている。先走りは滲んでいるけれど射精した様子がない。

「…っひぅ、う、うそ…」

 やっと脳が理解を示して、最初に出た言葉はそれだった。

「ここだけで気持ちよくなれたんだな」

 まだ埋まったままの指をぐりっと動かされて、喉から鼻へと掠れる声が抜けていく。

「うそ…うそ…」

 かぶりを振る僕の胸元にハーデスが口付ける。

「光」

 名を呼ばれてびくりと震える。後ろだけでイッてしまうだなんて。嫌われてしまう。

「っふ、う、ごめ、なさ…」
「ああ、泣くな。いいんだ、それでいいんだ」

 あやすように唇を胸元に何度も落とされてびくびくと震える。
 埋まったままの指がやわりやわりと蠢いて快楽の炎をまた燃やしていく。

「ひぅ、あ、あぁ」
「いい子だな」

 性器を包み込んでいた手が離れて、背中を撫でた。その動きですら快楽に変換して体が震える。

「やぅ、あ、あぁ、ふぁ」

 後孔の奥を探る指がやわりやわりと僕を解していく。一度達したそこは快楽を拾い上げるために柔らかく解れていく。
 ハーデスの指が僕の中から抜かれていく。ゆったりとしたその動きからも快感を拾い上げようとするこの体が浅ましい。ちぷ、と音を立てながら抜き取られた指を背筋を震わせて感じた。
 腰を落とそうとする僕をハーデスの手が止める。

「まって、光」
「…?」

 ぼんやりとハーデスを見ると彼は枕の横に放り投げていた箱を手に取ってパッケージを開いている。ぺたり、と彼の腰の上に座り込んでその動きをぼんやりと見ている。
 小さな包みは知っている。一度も使った事はないけれど。

「傷つけたくはない」

 そんなに怪訝そうな顔で見ていたのだろうか。言い聞かせるように落とされた言葉にぼんやりと視線を彷徨わせる。

「き、ず」

 は、と息を吐き出しながら言えた言葉はそれだけだった。ハーデスの手が頬を撫でてから僕を通り越していく。僕の肩に顎を乗せてふ、吐息を落としたハーデスの手が背後でごそりと動いている。

「つけて、いいのに…」
「私が厭なんだ」

 ハーデスがぽんぽんと僕の背中をあやすように撫でる。
 体を離したハーデスが僕の唇に唇を重ねる。繰り返される熱の受け渡しにくらくらと脳の奥が揺れていく。もっと、もっと欲しい、全部。

「ふ、んっ…あ、ふ…」

 角度を変えて何度も重なる唇から溶け合ってしまえたらよかったのに。そんな事を脳の片隅で考える。
 そっと唇を離して視線を交わらせる。ハーデスがだらりと下がったままの僕の手をそっと取って指先に口付けを落とした。

「ハーデス、さん」

 その瞳の奥に消えない炎を見る。燃え上がったそれは全て焼き尽くすまで消えやしない。
 繋ぐ指をほどいて腰を浮かせれば、ハーデスの目がすこし開かれた。

「光」

 名前を呼ばれるだけで心に火が灯る。灯った火が心だけじゃなく体も燃やしていく。

「僕が、します」

 尻のあわいに擦りつけるように彼の雄を感じれば、ハーデスの視線が少し歪む。はぁ、と吐き出されたため息に少しだけ怯えれば、彼の手が頬を撫でた。

「…だから、自分の発言の破壊力を考えろ、と…」

 小さく呟かれた言葉の意味を考えるより先にハーデスの熱い手が僕の腰を掴んだ。

「してくれるか」

 熱い視線を投げかけられて、熱に浮かされたまま頷く事しかできない。
 背を倒したハーデスの両の手があやすように腰と太ももをするすると撫でる。
 後孔に彼の先端をぴとりとつけるだけでぞくりとした震えが背中を駆け巡る。こんな風に誰かを求める日が来るなんて。早く、欲しいと思う日が来るなんて。
 ごくりと生唾を一つ飲み込んで、ゆっくり息を吐き出しながら腰を沈めるように下ろしていく。つぷりと肉を割って押し込まれていくハーデスの性器の形が体に刻まれていく。

「んぅ、んっ、いっ…ふ…」

 どれだけ解れたといっても受け入れるためにある場所ではない。肉を割る感触は痛みと共に脳を焼いていく。痛み以上の感覚も引き連れて。
 大きい。大きくて、硬くて、張り裂けそうなほど熱い。身の内に埋め込まれる熱で溶けてしまいそうだ。

「っあ、ふ…んっ」

 ずる、と先端を飲み込んだ感覚に目を瞬かせる。太ももを撫でていたハーデスの手が抑えるように腰を掴んだ。

「動くな…まだ解れていない」
「ふっ…んん…んぅ…」

 早鐘のように鳴り続ける心臓の鼓動がうるさい。まだ先しかいれていないのに溺れてしまいそうな感情の波に翻弄される。全部入れ込んだら壊れてしまうのではないか。

「ふ、ぅ…」

 息を吐いて息を吸う、それすらももどかしい。もっと、もっと奥まで欲しい。

「まだだ」

 動く気配を感じてハーデスの手が強く腰を掴む。ぎらりと輝く炎を宿した瞳は優しく弧を描いた。
 入れ込んだ先端をじわりじわりを解れ始めた内壁が包み始める。自分の意思で動かしてないそれが彼の形を刻み込むようにゆるりと動いているのを感じる。

「は…ぅ、ふ…」

 熱い。穿たれた場所も、吐き出す吐息も、何もかもが熱い。熱を感じた瞬間に背筋にぞくりとした痺れを感じた。

「ふ、う…うぁ…」

 ぞくりぞくりと這いあがってくる感覚に声が溢れる。ハーデスの手がゆるりと腰を撫で始める。

「ゆっくり、な」

 こくこくと頷いて返事を返してゆっくりと腰を落とし込む。ずる、と壁の擦られる感覚に腰の奥から甘い疼きが全身に広がっていく。

「あ、あ、あぁ、あ」

 ずっずっと擦りながら入り込んでくる熱い感覚に喉を反らせる。は、は、と短い呼吸しかできない。

「光、ゆっくり」

 ハーデスが片眉を歪めて腰を何度も撫でてくれる。その指の動きすら快感に変わっていく。
 もっと、もっと奥へ。穿って欲しい。あなたで。
 ぐっと腰を落として、飲み込めば先程気持ちよさを与えてきた場所をぐりっと抉ってびりびりとした刺激を体全体に走らせた。

「あ、あぁぁっ、ああぁぁぁっ!!」
「っく」

 がしりと腰を掴んだハーデスが長い溜息を吐いているのをどこか遠くで感じている。全身を走り抜ける快感はとどまることを知らない。この快楽がどこから来るのかすらもうわからない。

「ふ、あ、ああぁ」
「光、まって…」

 がしりと腰を掴まれていて下ろすことができない。ハーデスを潤んだ瞳で見つめるとその瞳が苦し気に細くなっていた。

「…は、です、さ…」
「まって…これは、私が、止められなくなる」

 ふーっと大きく息を吐いたハーデスが腰を掴んでいた指先で頬をくすぐるように撫でる。

「気持ち、いいよ」

 落とされた言葉が胸の奥に響いて快楽の炎を燃え上がらせる。

「あ…あぁ、あ、あぁぁっ」

 腰を擦るように落とし込みながら彼の熱を感じる。肉をかき分けて奥へ奥へと入り込んでくる熱を腰の奥底で感じる。体が貪欲にその熱を欲しがっている。は、と吐き出した息に合わせてぱたりと汗が落ちる。
 こつ、と奥の壁に当たる感覚で腰を止めれば、ハーデスの手がそっと腹を撫でる。

「平気か」

 するすると撫でるその手の動きが気持ちよくて、ぼんやりと目で動きを追ってしまう。

「ん…うん…」

 ハーデスの腹の上に置いていた手で同じように腹を撫でる。彼も気持ちいいのだろうか。

「んう…う…は、ふ…」

 腰を揺らして奥の壁に当たるハーデスの先端を感じる。この奥まで彼を受け入れたい。

「…光、止まって」

 ハーデスが上半身を起こす。角度が変わって抉るように奥を擦られて背が反る。

「ひあぁ、あっ」

 ハーデスの手が僕の背中を包むように抱き留める。行き場を無くした手をどうしようかと思案していると首に回すように導かれる。

「光、気持ちいい?」

 とんとんと腰を叩かれてびくりと体が跳ねる。小さな刺激が全身に広がって続々と心まで包み込まれていく。

「…ん……きもち、いぃ…」

 ぞくりとする甘い疼きを腰の奥で感じながら、僕は小さな声で彼に応えた。
 ハーデスの手があやすように腰を撫でて、頬に添えられる。触れるだけの口付けを何度も交わして互いの熱を高めていく。

「は、ふ…はーです、さんは…?」

 口付けの間に名を呼んで小さく尋ねる。彼も、気持ちがいいと思ってくれているのだろうか。こんな僕でも、気持ちよくさせられているのだろうか。

「はーです、さんは…きもち、いぃ…?」
「…っ」

 苦し気に表情が歪む。あぁ、気持ちよくないのかな、離れたほうがいいのかな。

「だから…破壊力を…」

 ハーデスの腰がずんと動いて熱をため込んでいた僕を穿った。

「っあ、あぁぁぁっ!!」
「止められなくなると…言っただろうが!」

 熱い感情の高ぶりを叩きつけるように、ハーデスが腰を掴んで僕を穿つ。
 喉が反る。背中を甘い疼きが電流のように駆け抜けて声が止められない。ずるずると擦られる内壁にハーデスが刻み込まれていく。熱くて、硬くて、太くて、気持ちいい。
 いいところを何度も押されて擦られて涙が止まらない。

「あ、あぁ、はで、す、さ、あぁぁっ、ああぁぁぁっ!!」

 名前を呼んでしがみつけば口付けをねだられる。触れるように唇を合わせる間にも下からの突き上げは止まらない。

「は、あ、んっ、あぁぁっ、あぅっ!」

 奥を、手前を擦られて突かれて息が詰まる。荒い呼吸でやり過ごそうにも与えられる快感が強すぎてどうすることもできない。
 かぶりを振って喉を反らしてあられもなく声を上げることしかできない。内壁がもっとと強請るように締まってハーデスの形が刻まれていく。中も外もハーデスで満たされて何も考えられない。考えたくない。
 もっともっとと強請るように、腰が動く。ハーデスの動きに合わせてぬらぬらと蠢く腰がぬちぬちと卑猥な水音を部屋に響かせる。

「っは…」

 ハーデスが堪えるように吐き出す音が、腰に響く。ぞくぞくした快楽に逆らうつもりは、もうない。
 追い上げられた体はどことかしこも快楽で揺れて、ただ金糸雀色の瞳の揺れる様だけ見ている。

「っひ、ん、あ、あぁっ、うあぁ」

 多分もう何度も果てている。それなのに僕の性器は吐き出すことを忘れてびくりびくりと跳ねるだけだ。

「いい子、だ」

 ハーデスが僕を抱え上げてシーツの上に倒した。足首を彼の肩に引っ掛けて、ぐっと腰を持ち上げられてしまえばもう動くことはできない。

「あっ、あっ、や、奥、おくぅ!!」

 上から落とされるような快楽に、ベッドの上にいるのにどこまでも落ちていくような錯覚を覚える。奥の奥を何度も擦られて押し付けられた体が跳ねる。行き場をなくした手でシーツを強く掴んだ。

「…光…っ光!」

 何度も切ない声で名前を呼ばれる。熱を増していく杭がもっと奥へと侵入しようとしている。
 理性で、それを我慢しているのがわかる。

「ハー、デス、さ、んっ…ハーデス、さんっ…!」

 名前を呼ぶ。そこにいるあなたの名前を互いに呼ぶ。手を伸ばせば指先にハーデスの流した汗が伝ってくる。

「っあ、あぁっ、ちょ、だい…っはです、さっ…ちょうだい…っ!!」

 その理性の鎖は、僕が断ち切る。
 ハーデスの瞳が鋭くなる。燃え上がった情欲の炎はもう消せやしない、消させない。
 大きく腰を引き抜いて、深くまで穿つ。くぽくぽと身の内から響く音がもっとと強請るようでその感覚すら快楽に変換していく。

「…っく……ふっ!」

 僕も、ハーデスも、もう限界だ。もっと奥の奥で感じたい、注ぎ込みたい。
 何度も深い挿入を繰り返して意識が途切れ途切れになる。
 互いの荒い息だけが部屋を揺らして闇を深くする。
 何度目かの深い挿入で、ハーデスの先がついに僕の最奥を穿つ。

「っ…ひぁ、あああぁぁぁっ!!」

 くぽりとはまり込んだその感覚に全身の毛穴が開いたかのような感覚に陥る。汗が噴き出して止まらない。見開いた瞳はチカチカと瞬いてただ金糸雀色が揺れているのだけを映す。穿たれた奥の奥はゆらりと優しく揺らめくのに、僕の内壁は引きちぎらんほどにハーデスを締め付けた。

「っく、光…っ! 力を…っ!」
「や、あ、ああぁっ!!」

 ハーデスがぐっと腰を突き刺すたびに射精感が強まる。身の内から湧き上がるそれに脳がもう追いつかない。

「ハーデス、さ…っハーデス、さん…っ!!」

 何度目かの突き上げで、にゅるりとした感覚とともに体の力が抜ける。体が素直に快楽を拾い上げていく。

「光…っ!」

 抜いて穿って入れ込んで、高まる射精感とチカチカする感覚。中も、外も、イッてしまいそうだ。

「あ、や、だめっ、ハーデス、さ、ごめ、なさっ、ああぁっ!」
「…私も…っ!」

 大きく腰を引かれて、穿たれて、それだけで十分だった。
 視界が弾ける。ぴんと張った足先がなにもない空を掻く。びくりびくりと内壁が収縮を繰り返し、膨れ上がった性器からは勢いをなくした精液がとぽとぽとあふれた。長い射精は、体の感覚を鋭敏にしていく。
 ハーデスの腰の動きがさらに早くなる。

「…受け取れ…っ!」

 奥の奥へ穿たれた彼自身が大きく膨れて、どくどくと心拍に似た音が内壁を伝って聞こえてくる気がした。
 何度もゆるく腰を揺らして、ハーデスが僕の中で果てたのがわかった。
 嬉しい。嬉しくて涙が止まらない。浅く荒い呼吸が互いの喉を震わせる。
 ゆっくりと僕の足をシーツに下ろしてから、ハーデスは僕の中からゆっくりと自身を引き抜いた。彼の形でぽかりと開いたままの後孔が少しだけ寂しい。
 覆い被さるようにハーデスが倒れてきて、どちらともなく唇を重ねた。互いを確かめ合うだけの優しい口付けはただ心に安堵を与えてくれる。

「…光」

 覗き込む金糸雀色の瞳は、いつもの優しさで揺れていた。

「体は、その、平気か?」

 先程までの痛いほどの炎はもう感じられない。労わるように頬を撫でるその手は熱を出しきった影響か少しひやりとしていた。
 その手に頬を摺り寄せる。

「…平気、です」

 まだ荒い息のままそう答えれば、嬉しそうに瞳が弧を描いた。

「ハーデス、さん…気持ち、よかった、ですか?」

 乾いた喉が少し引きつって、言葉を出すのにも苦労する。
 問われた言葉にハーデスが目を見開いてから大きくため息を落とす。

「…よく、なかった、で」
「だから何度も言ってるだろ」

 言い切る前に言葉を重ねられてびくりと震えた。

「自分の発言の破壊力を、考えろ」

 深く口付けられて目を見開くのは僕の番だった。口内を隅々まで舐られてまだ息の整ってなかった僕はそれだけで酸欠になっていく。

「んっ、あ、ひゅ…んん…」

 離れていく唇が名残惜し気にぺろりと唇を舐めていく。

「もっと酷くしたくなる」

 言われた言葉に顔が赤くなるのがわかる。
 まだ素直にあなたに《好き》ということはできないけれど。

「…いいよ、僕と、して」

 ハーデスは小さな僕の変化に気付くだろうか。恥ずかしくなって彼の唇をぺろりと舐める。
 ハーデスは嬉しそうに微笑んだ。金糸雀色の瞳が細く弧を描いて僕を見つめる。

「あぁ、一緒に、だ」

 そっと繋いで絡めた指はまた熱を持ち始めていた。

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2019.12.13.初出

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