人の輪の中にあってなお、少女は薄い笑顔を讃えていた。
 クリスタリウム、クリスタルタワー前広場にて。
 星見の間から出てきた暁の面々はそれぞれに住人達に捕まっていた。出来上がる人の輪の真ん中で少女はいつもの調子で薄く笑顔を貼り付けて人々の話に耳を傾けていた。
 よく出来たものだ、その輪から離れ建物にもたれるように立っていたエメトセルクは腕を組んでその様子を眺めていた。
 水晶公の前、暁の面々の前、人々の前、少女は巧みに仮面を使い分けて相対する。あくまで違和感のないように対応する様にいっそ感心さえ覚える。
「ちょっと」
 不意に声をかけられて、エメトセルクはそちらに向き直る。
「…なんだ」
 建物の陰、わざと死角になるような場所を選んで黒いドレスに身を包んだヤ・シュトラはエメトセルクを睨んでいた。
「あなた…あの人になにをしたの」
 冷たい氷のような眼光でヤ・シュトラは睨み続ける。
「…なんのことだ?」
 その瞳に視力を宿していないことは知っている。銀灰の瞳は見てくれではなくその本質を見据える。
「とぼけないで頂戴……あの人のエーテルに闇が混ざりすぎなのよ」
 大罪喰いを倒し続ける少女のエーテルは、今では眩い光に覆われ少女の本質すらかき消そうとしている。そこに、エメトセルクの注ぎ込んだ闇のエーテルが絡みついている。
「…深くは尋ねないけれど…あまり振り回さないで頂戴」
 腰に手を当ててため息を吐くヤ・シュトラのエーテルをエメトセルクは見やる。光にも闇にも侵されていないエーテルに吐き気すら覚える。
「ヤ・シュトラー?」
 遠くからアリゼーが呼ぶ声がする。顎を使って呼んでいるぞ、と促す。
 渋々といった表情でヤ・シュトラはエメトセルクから離れようとする。
「…あの人は優しい人なの…悲しませるようなことはしないで頂戴」
 背中を向けたまま告げて、コツコツと音を立てながらヤ・シュトラは人の群れの中へ紛れていく。
 その後ろ姿を見ながらふと視線を動かせば、人の輪の中にいながらポツンと佇む少女と目があった。唇の端を困ったように上げて少女は薄く笑った。人の輪の中にありながらそこに溶け込むことはできない、これが私なんだよと少女はその目で訴える。
 その姿が雑踏に埋もれていくのを見ながら、エメトセルクも深い闇を開きその中に身を沈めた。

「もうすぐ戦いじゃないのか」
 少女は本の山に埋もれるようにそこにいた。彼女だけの箱庭は今日も薄暗く、椅子に座ることもなく少女は床の上にぺたりと座り込んで本を読みながら荷物をひとつひとつ眺めていた。
「うん。ちょっとだけ、帰ってきた」
 カバンの中の鉱石を床の上に等間隔に並べていく様は幼子のようにも見えた。
 エメトセルクはソファに座りその様子を眺めてることにした。
「すぐ、戻るよ」
 ひとつひとつの鉱石を手に取り、あかりに透かす。輝石が柔らかな間接照明の明かりを反射する。床の上に並べたそれを、今度は箱の中に大事そうにしまいこんでいく。
 エメトセルクは傍の本の山から一冊適当に手に取り開く。静かな部屋にことりと鉱石を置く音とぺらりとページをめくる音だけが響く。
 どれくらいの時間が流れたのか、2冊の本を読み終わったエメトセルクは少女が静かになったのに気づく。パタンと本を閉じてそちらを見れば背中を向けたままゆらゆらと揺れている姿があった。立ち上がり上から見下ろせば、瞳を閉じてこくりこくりと舟を漕ぐ姿が見えた。ずいぶん器用な体勢で眠るな、と少女を抱き上げる。
 纏う光が強くなってから少女が眠ることも苦労しているのを知っていた。昼も夜もなくなりつつある体は、その限界まで動くことができる反面制御の効きにくい状態になっているようだった。
 ソファに座りなおして少女を横抱きに抱きしめる。割と激しく動かしても起きないところを見ると、本当に電池切れらしい。頬を気まぐれに押してみるが反応がない。
 あどけないながらもどこかやつれた顔を見つめる。目の下にクマができかけているのを見て薄く笑う。そっとそこを指でなぞってから少女が寝やすいように体を少し倒してやる。
 薄がけの毛布を一枚喚びだしてかけてやりながら、さてまたしばらく本でも読むかと本棚へ視線を巡らす。
 ふと、一冊の革表紙の小さな本が目に止まる。手に取れば硬かったであろう表紙はずいぶんと柔らかくしなやかに手に馴染んだ。
 ぺらりとめくって飛び込んできた手書きの文字に得心がいった。これは少女の日記だ。いや、日記と呼ぶのもおかしいのかもしれない。その記述はあまりにもバラバラ。時系列もなく思ったままを書き連ねるメモ帳のようなものだった。
 だがその記述の幅広さに心惹かれた。各国の主要経済から美味しいランチの店といった雑学が書かれたその隣に召喚師の術式の解説、その真下に装備に使われている装飾の意味、その端に冒険先で見かけた花のスケッチ…多種多様なまるでこの部屋のような少女の歩んだ情景がページを捲るごとに織り成されていた。
 誰に読ませるつもりもなかったであろうものを読んでいる罪悪感はあったが、それよりも記述の踊る様に心惹かれる方が強かった。
(…これはもう、イデアと呼んでも遜色のない)
 ページをめくり続けてふと手が止まる。華やかな花火のスケッチの隅に小さく書かれた文字が目に飛び込んでくる。
ーーーどうして私だったのかなーーー
 脈絡なく書かれたその言葉に引っかかる。ページを捲ればあちこちに少女の不安が増えているのがわかる。時系列がないとはいえページが進むほど現在に近づいてるであろうことは事実である、そのページが進むほど小さなつぶやきが増えているのだ。
 記述の最後はおそらく第一世界に召喚される直前。この辺りになると楽しそうに踊っていた文字は冷たく無機質になり、せいぜい今日の薄いスープの中身程度しか書かれなくなっていた。それでも必死に書き続けることで自身を保っていたのだろうか、戦況報告と賢人たちが倒れていく様の間に挟まれる草花のスケッチが震えている。
 最後のページの隅に書かれた文字に目が止まる。
ーーーまた一人になるのかなーーー
 パタンと本を閉じて本棚へ戻す。未だ眠りの住人のままの少女の顔を見つめる。
 結果として、少女は第一世界において暁の面々と合流を果たしたが、今度はその少女自身が光の制御ができず一人にならざるを得ない状況だ。一人にはならなかったが一人にならざるを得ないというのもなんという皮肉か。
 その小さな手を取り指の腹でやわやわと弄ぶ。押し潰されそうなほど光をたたえた少女に、自身が注いだ闇のエーテルがゆるりと絡みついている。このエーテルもいずれ光にかき消される。ひび割れた魂にどれだけ闇を注ぎ込んでも欠けた場所を満たすことはない。
 その光が制御できなければ新たな大罪喰いが誕生する。薄々ではあるが少女自身もそれを感じ取ってはいるようだ。元々暁の面々とは一定の距離を保ってはいたが最近ではその距離も顕著に離していくようになっていた。
ー…あの人は優しい人なの。
 ヤ・シュトラが告げた言葉がリフレインする。全くその通りだ、とエメトセルクは納得する。優しくて愚かで孤独を恐れながら、現状から人を拒絶するしか無くなっている憐れな少女なのだ。
ーーーどうして私だったのかなーーー
 思い出してエメトセルクは少女に覆い被さるように顔を近づける。
「ー…どうして、お前だったのだろうな」
 低く呟くように小さな声で問いかけても、眠りに囚われたままの少女は答えない。
 顔を離して弄んでいた少女の手をその腹の上にそっと乗せてやる。そのままその手で少女の耳をこりこりと捏ねる。感覚に少女が小さく身動いだがそれだけだった。
 少女の耳がだいぶ弱いのはかなり前からわかっていた。その弱い部分に触れられてなお起きないという事実に、不安と安堵と加虐心が訪れ綯い交ぜになる。
 気を許しすぎではないか、そう心の中で苦笑しながら頬をなぞる。仮にもアシエンの前であるのに戻ってこれないほどの眠りの底に落ちてしまうとは、以前の少女なら考えられなかった。
 そっと抱き起こしてエメトセルクの胸に少女の頭をもたれかからせる。重力にそって落ちかける少女の手を今一度腹の上に乗せ直し、その肩を抱き寄せる。すぅすぅと規則的な少女の寝息が部屋に広がり消えていく。
 起きない少女にエメトセルクの加虐心が大きくなっていく。
 パチリと指を鳴らして少女の服を着替えさせる。宵闇色を差し色に添えたスプリングドレスは少女の白い肌に良く似合っていた。
 手袋を外し薄がけの毛布をそっとめくる。軽く曲げられた膝を外気に触れさせ、その足先からゆっくりと手を這わせる。
 起きてくれという気持ちとこのまま起きるなという気持ちでエメトセルクは揺れる。
 膝を指の腹で数度撫で、太ももへ手を進める。さわりと内側をなぞればもぞりと足が動く。膝を擦り合わせまた力が抜けていく。
 太ももをなぞりながら肩を抱いていた手で耳を弄ぶ。その先端を捏ねるように動かせば足の力がさらに抜けていく。
 太ももから少女の秘部へゆっくりと手を進める。下着越しにするりとなぞれば、布の感触に湿り気を感じる。
 布越しに少女の突起を優しく撫でる。ぴくりと体が跳ねる。ちらりと顔を見ればその頬がほんのり赤く染まっている。
 さらに突起をなぞる。腰がもぞりと動くが眠りから覚める様子はない。
 少女の下着を剥ぎ取り指で直接突起に触れる。やわやわと優しく刺激を与えれば少女の体が小さく跳ねる。寝息に甘い吐息が混ざり始めたのを感じて自然と口角が上がる。
 その耳に顔を近づけ低く囁く。
「淫乱だな」
 音として反応したのか声として反応したのか…少女が跳ねその小さな唇が開かれる。
 秘部の入り口をなぞりたっぷりと愛液を指で掬い取る。塗り込むように突起を撫でればまた愛液が溢れてくる。
「足の力を抜け」
 声として届いたのか跳ねて強張った足からゆるりと力が抜けていく。
 愛液を今一度掬い取り尻の蕾へ塗りたくる。ひたひたと何度か叩いてからゆっくりと指先で蕾を割り開いていく。
「……っん……」
 抵抗少なくゆるりと入り込んだ指を進めながら少女の耳に息を吹きかける。びくりと跳ねた体がエメトセルクの指をきゅっと締め付ける。ゆっくりと抜き差しをすれば少女の口から寝息とは違うくぐもった喘ぎ声が上がり始める。
「……っふ……っあ……」
 もっとと欲しがる蕾から指を引き抜く。ズボンの中から自身の猛りを取り出し、少女を抱え上げその秘部の入り口にぴとりと添える。
「…起きぬか」
 確認するように声に出してから、ゆっくりと少女を下ろしていく。入り口を割り開いてエメトセルクのオスが少女に侵入する。
「……っふ…」
 何度も重ねた体は抵抗なくエメトセルクを飲み込んでいく。奥までしっかり入れ込んで少女の顔を上向かせる。閉じたままの瞼から頬、その唇へ順繰りに口づけを落とす。触れるだけの口づけをして顔を離す。
 少女の内壁がゆるゆるとエメトセルクのオスを締めながら蠢く。その感覚にほくそ笑みながら少女の耳に唇を落とす。びくりと少女が大きく震える。
 足をいっぱいに割り開いてエメトセルクに穿たれたまま耳を舐られ跳ねる様はどこまでも扇情的だった。
 跳ねる腰を抑えこみ耳の先をこりこりと指先で弄ぶ。反対側の耳を強く吸い上げ舐る。
「……っあ……ふ……んぅ……?」
 跳ねる声に疑問符が混ざる。ちゅっと音を立てて唇を離せば少女の体が大きく跳ねる。
 伏せられていた瞳がゆるりと薄く開く。彷徨うようにその瞳が揺れる。その額に口づけを落としてエメトセルクは薄く笑う。
「……あ、れ…? わた、し……っつ!?」
 もぞりと体を動かそうとして少女が跳ねる。穿たれた自身を認識して目を見開いてエメトセルクを見つめる。
 零れ落ちそうだな、そう思いながらその唇を塞いでいく。突っぱねようと出された手を優しく包み込んで拘束する。口内を舐め回し小さな舌を搦めとる。十分な時間舐った唇を離す。糸を引く唾液がぬらりと揺れる。
「……っう……ふぅ……」
 漏れる吐息が艶めかしい。穿たれた体を意識してか少女が蠢く。小さな手を離しその頬を撫でる。柔らかく締め付けてくる内壁が心地良い。
「…寝てる間は、感心しない、な…」
 絞り出した強がりを甘んじて受ける。
「あまりにも無防備すぎたのでつい、な」
 その頬に口づけを降らしながら嘯く。少女の手がそっとエメトセルクの上着を掴む。
「…止まらないんでしょ?」
「よくお分かりで」
 ぐちりと揺らせば甘い声が上がる。奥を穿たれる感覚が欲しいと少女の腰も揺らめく。
 その小さな背中と尻にエメトセルクは手を添える。ぴくりと少女の体が期待で跳ねる。
 ゆっくりと少女を揺らし始める。浅く上下に動かすだけでその唇から吐息が漏れだす。
「……っあぁ……っん……!」
 焦らされる動きに少女がかぶりを振る。もっととねだるその唇に唇を重ねて口内を攻め立てる。ゆるゆるとした繋がったその場所への刺激はそのままに、口内を激しく攻め立てられ息がつまる。
 息が上がる直前に唇を離してくたりとする体を支える。少女の内壁がびくりびくりと震え、深い口づけだけで感じているとエメトセルクのオスに伝えてくる。
「気持ちいいのか?」
 耳を啄みながら低く囁けばその刺激でまた内壁が締まる。小さくうなづく少女に満足げに微笑みながら耳を何度も啄む。
 エメトセルクは少女を抱えて立ち上がる。本棚に少女の背を押し付けその小さな体に覆い被さる。
「伝えてごらん」
 少女の言葉で教えておくれと囁く。執拗に耳を舐れば漏れる吐息に言葉が混ざり始める。
「っふ…! …耳…だめ…っぅ…!」
「あぁ、そうだな」
 聞いてるようで聞いてない返しをしながら、強くその耳を吸う。
「っぅああぁぁぁっ! ら、め、っぁああぁ!!」
 びくびくと跳ねる体を押さえつける。きゅうきゅうと締め付けてくる内壁がダメと告げる言葉とは裏腹にもっとと蠢く。
 ぺろりと舐めながら唇を離せば少女の全身がびくびくと痙攣する。
「っあぅ……ぅあぁ……」
 瞳の端の涙を唇で掬い上げる。だらしなく開き荒い息を続けるその唇に啄む口づけを落とす。
 落ち着くのを待たずにエメトセルクは腰を動かし始める。引き抜いて強く押し込み奥の奥を穿つ。
「っああぁぁぁっ!!」
 与えられた刺激に耐えきれず嬌声が漏れる。ぐいぐいと奥を押され残った息を吐き出す。
「奥が好きだものな」
 強く奥を穿ち、引き抜き、挿入する。少女の手がエメトセルクの上着を強く握りしめる。その太ももにきゅっと力が入りエメトセルクを締め付ける。
「…っふ、ぅ……っ!」
 浅い呼吸の間にこくこくと頷く少女に、そうじゃないだろうと挿入を緩める。かぶりを振る少女の髪に顔を埋める。
「…っぅ……お、く……っすき…」
 あっさりと快楽に気をやりながら少女は懇願するように呟く。その体をあやすように抽送を再開する。十分に濡れた繋がった場所から淫らな水音が響く。
「っあぁ……な、かっ……っこすれ……」
「あぁ」
 もっと聞かせろと少女を追い込む。その度にぐちゅりと接合部から水音が響きその音で少女が追い上げられていく。
「っうぁ…っ、お、と……はず、かしっ…!」
 耳まで赤くして震える少女に聞こえるように奥に擦り付けるように腰を揺らめかせる。ぐちぐちと音が響き少女の腰が跳ねる。
 本棚がぎしりと軋む。押し付けるように抽送を繰り返す。
「……っぁああぁ…! …エ、メ…っ!」
 追い上げられる少女の内壁が何度も締め付けてくる。名前を最後まで呼ばせずにグラインドで思考ごと遮っていく。
 気をやってしまえとがつがつと貪るような抽送の間に口づけを降らす。少女の内壁からぬるま湯のような優しい快感を与えられ、エメトセルク自身も限界が近かった。
「ぁああぁっ…! や、らっ……っき、ちゃう…!」
 小さく長い嬌声と共に少女の中がきゅうと強く締め付けてくる。それを合図にエメトセルクは自身の性を少女の奥の奥に解き放っていく。狭い胎内を満たしてなお余りあるそれは結合部からぱたぱたと零れ落ちていく。
 きつく上着を握りしめた小さな手が白くなっている。何度繋がり穿ち放っても変わらないその様子に心が安堵する。強くエメトセルクを感じているという事実にホッとため息をつく自分を感じる。
 痙攣するように震える少女を抱え、その中から自身を抜いていく。溢れたふたりの愛液が少女の太ももを濡らしていく。
 その震える体を横抱きにしてソファに座りなおす。もぞりと動いた少女が恥ずかしそうにスプリングドレスをつまんで膝を覆い隠す。
「今更恥ずかしがるのか」
「…いつも、恥ずかしいんです…」
 顔を真っ赤に染めて体を小さく縮こめる少女を抱きしめる。初々しさを失わないその仕草に心が解れる。
「そんなものか」
「女の子、ですから」
 ぷくりと頬を膨らませる様を愉快げに眺める。その頭を撫で機嫌を直せと囁く。
ーーーどうして私だったのかなーーー
 少女の小さな文字が脳裏に浮かぶ。
 それは誰しも心に抱く疑問。どうして自分が選ばれて決断を下さねばならぬのか。他に適任がいるのではないか、自分ではない誰かがすべきことではないのか。どれだけ時間を重ねてもその答えは一向に出る気配がない。
 エメトセルクは少女の小さな手を取りゆっくりと指の腹で撫でる。自身の手の中にすっぽりと収まってしまう小さなその手を愛おしそうに撫で続ける。少女も何も言わずにその行為を甘んじて受け入れる。
 お互いに別離の予感を感じている。きっと、もうすぐ、別れは来る。その時にその手を取ろうとするのか突き放そうとするのかわからない。
 少女は自身の姿に目を凝らす。もう今では自身の体も随分と光に纏われ輪郭すらぼやける。そんな少女の光を暗い闇が包み込んでいる。
 ゾディアークの召喚者であるエメトセルクは闇のエーテルに振り切った状態だ。本来なら光を纏う少女の事は振り払いたいほど不快なはず。それなのにただ側にいて、飲まれかける少女に手を差し伸べ繋ぎ止めていてくれる。
 逆説的にとれば少女もまた相反する闇は嫌悪の対象になり得るはずなのに、その闇を受け入れている。おそらくハイデリンの守護のせいでギリギリまで纏った光の力で魂が壊れることはないだろうが、それは少女が理性を保ったまま大罪喰いになりかねないという事実を表している。
 奇妙な関係だ、とエメトセルクは唇の端で笑う。それに気づいた少女がエメトセルクの頬に手を伸ばす。スカートから手が離されパサリと落ちる。その白い膝が露わになる。
 伸ばされた手がエメトセルクの頬を何度か撫でる。その手のひらに口づければくすぐったそうに肩を竦める。
 他愛もない行為の積み重ねだ、と分かっている。それでもこの緩い温もりの中で微睡むように絡み合っていたくなる。
 エメトセルクは少女の唇に口づける。少女もそれを受け入れる。
 静寂だけが二人の世界を満たしていく。

 放たれた銃声と冷たい声が、別れを告げるのはこのすぐ後のことだった。

――――――――――
2019.09.04.初出

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