避けていた。あからさまに避けていた。
 二人に散々いいようにされてから、二人の顔が見れない。
 逃げているってわかってる。迂闊だったのも、煽ったのも、悪いのもオレだ。
 それでもオレは逃げるしかない。戦うことでしかここに居られないのに、戦えなくなるのは嫌だったから。

「なんでっ、ついてっ、くるんだよっ」
 レイクランドの雑木林から、ラケティカ大森林の樹木の間を抜けて。
 それなりに高い身体能力を誇っていると自負していたオレを追いかけるように、次元の闇が漆黒の腕を伸ばしてオレを絡め取ろうとする。
 どこで見ているのかは知らないが、こんなことしてくる奴は一人しか知らない。二人以上いてたまるか。
「ああああああもう!!」
 ロンカ遺跡の巨大建造物あたりまで駆け抜けて次はどう逃げようか、思案するオレをあざ笑うかのように進行方向目の前に次元の闇が口を開ける。
「やばっ」
 慌てて方向転換しようにも勢いは止められない。
 漆黒の腕が前からも後ろからも伸びてくる。
 絡め取られ、押し込められ、俺はその次元の闇に突撃するしかなかった。

「手間を、取らせるな」
 手痛い衝撃もなく抱き留めるように床に固定されたオレの上から声が降ってくる。
「追いかけてくれとは言ってない」
「あぁ、そうだな」
 黒いつま先とコートの裾のファーが視界に入る。
「執拗に避けられるのでな」
「…猫か?」
 しゃがみこんで俺の前に指を伸ばしたその手がゆっくりと持ち上がる。それに合わせるように床に縛りつけられてた俺の体も起き上がっていく。
「猫はどちらかというとお前だろう」
 漆黒の腕はオレを離しそうにない。無駄にもがいて体力を回復するより、早くなった呼吸を整えてチャンスを窺う方がいいと判断したオレは、肩を上下させないように呼吸を切り替えた。
 エメトセルクの指が顎へ伸びてきてするりと撫でていく。ぞわりと背中が粟立つ。
「ほら、尾まで振って」
 意思とは無関係に、ぱたりぱたりと尾が揺れる。感じているとか感じていないとか、そういうのとは無関係なのだ、これは。
「オレの、意思じゃない」
「ほぅ」
 エメトセルクの手は顎から頬、頬から耳へと流れるように動いていく。くすぐるように触られて、頭を振る。その頭も、反対の手で顎を固定される。
「お前は本当に落ち着きがない」
「誰のせいだ、誰の」
 耳の先を指先で摘まんで捏ねられてぱたりと尾が揺れる。
 意識してはいけない、追いかけてはいけない、縋ってはいけない。ここに居たいと、思ってはいけない。
「よそ見とは、余裕だな?」
 意識をずらしてる間に迫った白金の瞳がオレを睨んでいる。ぞくりとする冷たい瞳に一瞬身が竦む。
「わざと意識をずらしても、お前は私を求めている」
 その顔が迫ってくるのを感じて必死に頭を振った。急に暴れ出したオレに驚いたのかその顔が離れていく。
「離せ、よ」
「逃げないならな」
 どうせ逃げる、そう告げる瞳はどこまでも冷たい。逃げない、とは言えなかった。
 ともすれば〝英雄〟も〝光の加護〟もない自分の核が求めてしまう〝手触り〟を遠ざけるために、オレはきっと逃げる。戦えない戦士に、居場所はない。
「求めてない、オレは」
 下を向く事すら許されないまま、視線だけエメトセルクから外した。
 ずるりと漆黒の腕が離れて、オレは床に投げ出された。それなりに締め上げられていたため、急に血液が流れていく感覚に熱を持つ。
「まぁ、逃げれると思うなら逃げればいいさ」
 その声に顔を上げて…自分とエメトセルクが何もない暗闇の中にいることを思い知る。
「…どこだ、ここ」
「お前にもわかりやすく説明するなら、〝次元の狭間私の空間〟だな」
 なにもない、闇だけの広がる空間でエメトセルクは足を組んで座る体制をした。何かに座っているのか、座っていないのか、それすらわからない。
「え、オレ大丈夫なのかそれ」
「私がいるからな」
 いなければお前なぞ一瞬でぺちゃんこになる世界だ、そう言われ背筋にぞわりと悪寒が走る。
「というか、お前が飛び込んでくるとは思わなんだ」
「あんだけ絡め取っておいて言うか!?」
 酷いものを見るような目でこちらを見ないで欲しい。悪いのはそっちだろうに。
「立て」
「は?」
「移動する」
 腕を掴まれ無理矢理立ち上がらされる。よたよたと体重をうまく捌ききれないまま、目の前に開いた〝扉〟に投げるように押し込まれた。

「いてっ」
 見事に受け身もとれぬまま硬い床の上に投げ出される。ばっと顔を上げて見回すが見知らぬ場所であるということしかわからない。
 床はつるりとした素材ながら継ぎ目なく、ドアも窓もない四角い部屋のような場所にいる。
 後ろからかつりと音がして、エメトセルクが迫っていることだけが分かった。
 振り返って見上げたエメトセルクのそのはるか上空、天井と思しき場所にはまったステンドグラスが深海のような色を届けていた。
「どこだよ、ここ」
「どこでもない場所、だ」
「は?」
 じりじりと迫るそれから逃げるように後ずされば、幾ばくも行かずに壁に当たる。
「あぁ、寝具は必要か」
「何を言って…」
 エメトセルクが指を鳴らせば彼の背後に大きなベッドが現れる。
「他はいらんよな」
「なん…なんなんだよ、ほんと」
 壁に押し付けるように顎を掴まれ頭を固定される。まずい。これは、まずい。
「褒美を、取らせてなかっただろう?」
「は?」
「ラケティカの大罪喰いを倒したら、触れさせてやる、と」
 記憶を総動員で呼び起こす。確かにそんな話をした記憶もある。でもそれは、〝英雄〟でいられた時の話だ。
「…今は、いい」
「お前に選ぶ権利があると思ったか?」
 エメトセルクの顔が迫ってくる。
「やめ、ほんと…!」
 武器を出そう、そう思っても出すことすらできない。近すぎる距離と、オレの奥底が求める〝手触り〟が思いとは裏腹に拒絶する。
 唇が触れ合いそうなほど近くにエメトセルクの顔が迫る。少し傾ければ触れあってしまう。
「頑なに拒むよな、お前は」
「…なに、を」
 エメトセルクの瞳が一度だけこちらを睨んでから、不意に優しい目線になった。
「あれだけ唇に固執しておきながら、口付けを拒むさまに気付かないと思ったか?」
 言葉に、目の前が真っ暗になった気がした。迫ってくる唇を、もう拒めない。
 軽く触れ合った唇がすぐさま全てを奪う様に被さってくる。固定された顎は動かせず、瞳を閉じることもできずただ目の前で歪む金色を眺めていた。
「口付けの仕方も知らんのか」
 大きな舌で唇を舐め上げられて、震えることしかできない。
「瞳を閉じろ、鼻で息をしろ、私を拒むな」
 矢継ぎ早に言葉を告げた唇が今一度重なる。
 顎を抑えられたまま指の腹で頬を撫でられ瞳を閉じる。息苦しさに耐えかねて鼻で息をする。閉じたままの歯列にエメトセルクの舌が触れ、導かれるように口を開ける。
 容易く口内に侵入した大きな舌が、お構いなしに蹂躙していく。薄く開いたままの唇からどちらの物ともつかない唾液が溢れて伝っていく。
 たっぷりと口内を蹂躙した舌が離れてまた唇を舐められる。
「呪いだな」
 呟かれた言葉に薄く瞳を開く。
「〝光の加護〟か〝英雄〟としての素質か、お前はこれを拒めない」
 顔の前で広げられた手がそっと頬を撫でてから頭を撫でた。
「戦うために求めて、求め過ぎれば戦えず」
 言葉の合間に何度も確かめるように唇を重ね合わされる。触れ合うたびに、視界がゆがんでいく。戦い挑むときの、〝光の加護〟に塗りつぶされていくときの不鮮明になっていく自分を感じる。

 これは、オレじゃない。(これは、僕じゃない)

「ほら、もう境界も曖昧だ」
 エメトセルクの声だけが、脳裏に焼き付いていく。もう、なにも、考えたくなかった。

+++

 最後の砦を崩した瞬間、英雄の瞳から光が消えた。
 ぼんやりとどこも見ないまま、ただ私の〝手触り〟に縋ってくる様は哀れでもあり。
 口付けは呪いだ。重ね合わさる熱はその体に刻み込まれもう拒むこともできない。
 きっとこの瞬間すら、どちらの〝英雄〟も理解はしていて。
 戦うための〝英雄〟を守るための〝英雄〟、それはいわゆる多重人格にも似たなにか。〝光の加護〟に見出されてしまったその瞬間に、咄嗟に自己を守るために呪いをかけたのだろう。
 ー…どうしてわかるかって?
 私だって似たようなものだからだ。
 ゾディアークとハイデリン。共に最古の蛮神と言えるその存在に近しい我々は自己を守るために互いに同じ呪いを自身にかけた、それだけだ。
 もっとも、その後14に分かたれたせいで呪いが変質したようではあるが。
 貪るように味わっていた唇を離して背後のベッドを示せば、英雄はのろのろと壁に手をついて立ち上がる。その手を取って導けばその体は素直にベッドの上へと乗った。
 自己を守るための呪いが、自己を追い詰めていく。温もりを拒むその手が温もりを欲する。
「脱ぎたまえ」
 問いかける必要はない。もう契約は完了している。最後の砦を崩した私に、彼はもう逆らえない。
 鎧を外してはベッドの下へ。衣擦れの音をさせながらそのしなやかな体躯が露わになる。
 ぱたりぱたり、その尾だけが上機嫌にシーツを撫でている。
 生まれたままの姿でベッドの上にぼんやりと座りこちらを見る姿は〝英雄〟の面影も〝光の加護〟の揺らぎも見えない。彼が必死に隠してきた偽らざる彼自身がそこに在った。
 彼の目の前に手を差し出せば、その瞳がゆっくりと動いて私の手を見つめる。指先に縋るように顎を乗せる様を見つめ口を開く。
「…覚えておけ、お前を縛るものを」
 その髪を撫でる。
 大人しくされるがままだった彼の手が動く。手袋に自身の指を入れ込んで外してくる。
 脱がせたいのか、そう悟りされるがままにしておく。その身に沁みついてしまった性交渉に対する慣れが彼の体を揺り動かす。
 はじめての時よりは迷いなく、彼の手が私の強固な鎧を脱がしていく。
 分厚い服は心の鎧だ。物理的な鎧を必要としない私が着こむ理由などその程度でしかない。傅くようにその手で脱がせていくのを眺めながら戯れに頭を撫で耳をくすぐる。ぱたりぱたりと揺れる尾が行為を喜ぶかのように左右する。
 スラックスを脱ぎ、シャツのボタンをすべて外させたところで手で制する。彼の両の手が重力に従い落ちていく。
 〝英雄〟であれば絶対に見せない、見せられない縋る瞳に色が灯る。
「さぁ、お前は誰だ?」
 問いかけに答える声はない。
 見限れなかった過去の残滓でもなく、今世の英雄でもない、見知らぬ雄を私は見下ろす。
 その身に数多の呪いを刻み込んで、なお残る小さな魂を揺り動かすために頬に触れる。与えられた温もりに縋るその唇を指でなぞる。
 覆い被さるように口付けを交わし、エーテルを注ぎ込む。形を潜める光の奥へ手を伸ばす。
 その身が小さく跳ねる。構わずに捕らえるようにヒビの入った魂にエーテルを絡みつかせる。ぴりぴりと触れ合う場所が痛むが構わなかった。
 これは、私のものだ。ハイデリンでも、水晶公でも、なりそこないどもでもない。ただ私のためにあるべきものだ。
「英雄様、見ているのだろう?」
 縋る瞳が揺り動く。
「お前の本質はどこまでも〝英雄〟だ」
 〝光の加護〟に覆い尽くされてなお、お前は魂を失わない、失えない。
「ただこの手の中に落ちてくるならそれでも良し…だが」
 その肩を力任せに掴む。されるがままの瞳が揺れる。
「そう易々と、堕ちておけると思ったか?」
 曖昧な境界の合わせ目を乱暴になぞるように、唇に舌を這わす。
「さぁ、お前は、誰だ」
 問いかけに瞳が揺れる。ぱたりと尾も揺れる。
 逃がさない、その全てが私のものなのだから、逃すはずがない。堕ちぬのも、堕ちたままなのも、許さない。
 視線を合わせるようにベッドの上に乗り上げ、座る。勃ちあがりかける彼の雄に指を這わせる。決して握り込まずに指先だけでなぞればぴくりと揺れて硬さを増す。
「……っふ…」
 どちらのお前であろうとも、体は正直だ。
「惚けている暇なぞないぞ」
 指先で弾いてから手を離す。捨ておかれる熱を自身で高めぬようにその指に指を絡ませる。
「ふっ、あっ」
 擦り合わせようとした膝の間に膝を突き入れてしまえば縋る瞳が私を見る。
 私は問いを出した。答えを待つだけだ。
「…っぁ、僕、は……っオレ…」
 かぶりを振るその首に唇を寄せ、熱が冷め切らぬように吸い上げる。びくびくと震える肌に赤い花を咲かせ唇を離す。
 視線が彷徨って意思を持ち始める。
「っあ、あぁ…」
 意思を振り払うようにかぶりを振る様を唇の端を持ち上げて眺める。
「ーーーー」
 かくり、逸らすように落ちた頭から音にならぬ声がする。両の手をまとめあげ片手で制してからその顔を持ち上げる。
 見つめる瞳には、意思が宿る。
「…オレ、は、オレ…だ」
 褒美のように唇を重ねれば、強請るように舌が追い縋る。絡めて吸い上げれば体が歓喜で震える。
「〝英雄〟を捨てることも、〝光の加護〟に隠れることも、許さぬ」
 その身で受け入れるその瞬間に意識を失っているなどもってのほかだ。
「私を見ろ、覚えろ、受け入れろ」
 その曖昧な境界に刻み込んでどちらのお前でも忘れぬように。
 今一度彼の雄に指を這わせれば、びくりと跳ね上がる体。裏筋をなぞるように撫でて先端の鈴口をぐりっとこじる。
「っひ…あぁっ…!」
 跳ねる体を抑える事もせず、喉を反らせて喘いだ。直接的な刺激に、その双眸から涙がぱたぱたと零れる。
「っは、あぁ…あっ…」
 ぐりりと捻るように指先を動かしてから、優しく幹を指先でたどる。柔らかな袋を指先でなぞってからそっと持ち上げるように揉み上げれば、長い溜息のような声が漏れる。やわりやわりと急所を揉みあげれば背中が反りぐらりと体が揺れる。
「おっと」
 纏めあげていた両手を離してその腰を掴んでベッドの上にゆるりと倒す。逆らわずシーツの海に沈み込むその肢体を眺めてながら、今一度彼の雄に指を這わせた。
 自由になった彼の手が私のシャツの裾を摘まむ。するりと太ももを撫でるその手に熱を感じる。
「…オレも、する」
 呟くような小さな声が耳に届く。普段の英雄らしくないか細い声は色を含んで彼をも揺らす。
 ごろりと横に寝転べば、私よりは小さな手がそっとシャツ越しに私の雄に触れてきた。肘を立てて横寝のまま彼の雄に指を這わせれば、たどたどしく同じ動きをし始める。
「はじめてでもあるまい」
 水晶公と交わっていた時に彼の雄に手を伸ばしていたのを知っている。
「…素面では、したことないよ」
 こちらを見ぬように下を向き瞳前閉じたまま告げるその耳が赤い。ぐっとその幹の根元を握りこめば反射的に顔が上向く。
「っに、するん…」
「目を閉じるな」
 おそるおそる開くその眼に視線を合わせる。どうせ痛くなどないだろうに眉を顰める様は滑稽でもある。
「一度理性まで快楽に落とし込まねば出来ぬというほど初心でもあるまい」
「言ってろ」
 シャツを払いのけそっと私自身を握りこんだ英雄の手が、やんわりとした圧で上下に動く。瞳を反らさぬままに一心に掻くその様子に口の端を釣り上げ笑う。
「どうせ、オレは世間知らずだよ」
 同じように掻いてやれば、その唇から切ない吐息が漏れる。少しだけ食いしばるように声を抑えようとするその様に、唇の端をぺろりと舐めて息を乱させる。ふぅふぅと漏れる熱い息を肩口に感じる。
 鈴口に溜まる先走りを指で掬い塗りつけながら掻いてやれば、明らかに上ずった声が漏れ始める。滑りのよくなった幹がちゅこちゅこと淫靡な音を立てる。
「はっ、あっ、あっ」
 跳ねる声は私のリズムに合わせて。いつの間にか手の止まった彼に腰を押し付けるように動けば、思い出したかのように手が揺らめき、しかしすぐに快楽に溺れ手が止まる。
 心は英雄のまま、体だけ戻ってこれていない様ににやりと笑う。
「んっ、あっ、なんっ、やめっ」
「それはどちらの反応なのか」
「どちらっ、んっ、ひっ」
 ぐいぐいと少し強く握りこめば途端に腰がびくびくと跳ねる。
「あぁ、どちらでもないなら、そもそもお前が淫乱だというだけだな」
「っふ、あっ、ちがっ、あぁぁ!!」
 反論はさせない。ぐいと握り込んで根元を締める。
 体を起こしながら膝で英雄の体を押して仰向けにさせる。その上に覆い被さり唇を重ねる。舌を絡めるだけでその動きを快楽として素直に受け取るその体を堪能する。
 唇を離し幹は握りこんだまま双丘の奥へもう片方の手を滑り込ませ、後孔のひだをとんとんと叩いて魔法式を編み込む。どうせこれだけ感じやすい体だ。塗れてさえいれば多少解さずとも勝手に解れていく。
 軽く指を鳴らしてからぐっと指を入れ込めば魔法式は容易く発動し消えていく。後に残るのはぬるりとした湿り気だけだ。十分なぬめりけと共に指が送り込まれていき、きゅっと圧がかかる。
「はっ、あっ、んっ」
「解す必要もなさそうだな」
 早急に指を増やせば、解していないそこが少しの抵抗感と共にゆるりと指を飲み込んでいく。何かの侵入する場所ではないそこに抵抗があるのは致し方ない、それは自然の摂理だ。
 くぷくぷと揺するように指を動かせば、その腰が強請るように持ち上がった。
「なんだ、もう我慢できないのか」
 じらすように指を抜く合間にも嬌声は収まらない。
「っ、じら、すな…っあぁ!!」
「はっ…こらえ性のない」
 とはいえ散々痴態を見せられたこちらも入れ込みたいという気持ちは強い。非生産的な行為であろうとも肉の欲には抗えない。
 そのひだに埋め込むように十分に勃ち上がった己を押し付ける。くちりと淫靡な水音が静かな室内に響く。
 まだ、英雄の根元は強く握ったままだ。
「お前は快楽に落ちやすい…」
「ひんっ、あっ、ふっ」
 頑なに名前を呼ばないのを最後の抵抗としているのを見据えたまま喉の奥で笑う。どうせすぐに、その抵抗も意味がなくなる。
「いいと言うまで、射精するなよ」
「あっ、あぁぁぁぁっ!!」
 言葉と同時にその後孔を貫けば、瞳を見開いたまま英雄が跳ねた。狭い隘路はきつくしかし求めるように蠢いて私の雄を飲み込んでいく。
「やっ、あっ、はな、せっ」
 射精したいという欲求が私の手によって堰き止められている。その手に縋るように英雄の両手が伸びてくる。
「もう出そうなのか、早くないか?」
 ぐいっと腰を突き上げれば、反る背中が快楽を逃がしきれず奥で受け止めるために腰に角度をつけさせる。私の膝の上に太ももを乗せるように開かれたその後孔が、もっと奥までと蠢く。
 触れた両の手が私の手をぐっと握りこむ。爪を立てるのかと思ったが、引きはがそうとする意志は感じるもののそれ以上力づくでどうにかしようという意思は感じられなかった。
「もう少し耐えてみせろ」
 この程度で気をやるようでは先が思いやられる。痛みには鈍感な癖に快楽には弱すぎるその体に教え込むように腰を前後させる。蠢く腰がもっとと雄を飲み込む。
 お前のいい場所はわかっている。少しだけ腰を浅くして性感帯を突くように突き入れれば、白い喉が反って悲鳴のような声が上がる。
「ひあっ、ひっ、あっ、あぁっ!!」
 短く強いスタッカートで、高らかに鳴り響く嬌声は空気を揺らしながらその鮮やかなエーテルと共に溶けていく。
「ここを突くと、悦いのだよな」
「っあ、ひっ、やっ、あっ」
「そして、こうやって擦ってやれば」
 浅い動きを繰り返した後にずるりと奥まで入れ込めば、強い締め付けが私を包んだ。
「あっ、ああぁぁぁ…!!」
 びくびくと跳ねる腰は止まらず、その締め付ける圧に彼が達したのだと悟る。
「ふっ、うっ、や、だぁ…」
「厭なものか、これは悦いだろ」
 びくびくと手の内で跳ねる彼の雄からは精液は出ていない。ただ、出させてとその小さな口をひくひくと動かしている。
「やだっ、やだぁ…も、出した、出したぃ…」
 縋り付く指が私の手を掻くように蠢く。曖昧な境界のどちらもが混ざり合って、舌足らずにぺしょぺしょと泣きながら懇願する。
 その尾が私の太ももをぺしぺしと叩くように撫でる。
「おうおう、可愛らしいおねだりだな」
 圧をかけたまま軽く手を上下すれば、それだけで喉が反る。
「ひぁっ、やっ、やっ、あぁっ」
「だが、足りんな」
 ずるりと腰を浅瀬に戻して深いそこへと勢いよく入れ込む。何度も繰り返せば混濁する意識がより甘えたな声を出させる。
「やぁっ、やっ、もっ、出したぃぃ…」
「なにをだ」
「ひんっ、んっ、いきた、いきたいぃ」
 かりかりと決して傷にはならない強さで、英雄の爪が私の肌を掻く。甘い痺れがじんわりと指から広がる。
「呼べ」
「ひぁっ、あっ、んぅ?」
「我が名を、呼べ」
 最後の抵抗を瓦解させる楔を穿つ。ぎゅうぎゅうと締め付ける後孔が何度も小さく達している様を伝えてくる。
「んっ、うっ、あっ、あぁっ」
 ふるふると首を振って耐える様は滑稽でしかない。
「呼べば、離してやるし、奥まで入れ込んでやるぞ」
 未だ最奥を突かないその様に痺れを切らし始めているのも知っていた。
 抵抗がどれだけ無意味か、私との契約がどれだけ甘美で残酷なのか、その身に教え込まねばならない。もうその血の一滴すら、お前は私のものなのだから。
「欲しいだろう…?」
 その唇をぺろりと舐めあげれば、体が震えた。堕ちろ、その〝英雄〟の魂のまま、〝光の加護〟に消されることなく、ここへ堕ちてこい。
 はくはくとその唇が動く。
「さぁ、お前の主人を、呼べ」
 浅瀬へと引いた愚直な雄を一気に穿って性感帯を押しつぶす。決め手はそれだけで十分だった。
「ーーーっ、あぁぁぁっ! っエメ、エメトセルク、あっ、あぁぁっ!!」
「そうだ、それがお前の主人の名だ…っ!!」
 欲しがる最奥へぐりっと穿ち彼の雄を解放する。
 ぬぽりと嵌まり込む快楽と共に、彼の雄が震えてびゅくびゅくと止めどなく静液が溢れた。
「あぁぁっ、あああぁぁぁぁ…っ!!」
 長い嬌声と共にその体が小刻みに震える。強すぎる快楽にその瞳からは涙が止まらず、その体からはぶわりと汗が噴き出ていた。むせ返るようなオスの匂いが部屋を満たしていく。
 とぷとぷと溢れ続けるその鈴口に指を添えてちゅくちゅくと刺激を与える。押し出される精液の圧で指が前後左右に蠢く。
「あぁぁ、あっ、ああぁぁぁ…」
 びゅくっと最後の一滴を吐き出した英雄の雄は、それでも硬さと熱を保ったままだった。鈴口を何度か指先で撫でてから、彼の両手で握らせる。
「いい子だ、ほらもっと出してしまえ」
 その手を上下に動かすきっかけを与えてやれば、飽くことなくその手が動き始める。
「ひぁっ、あっ、あぁっ、これっ、あっ」
「後ろをぎちぎちに締め上げたまま、前を掻くのは悦いだろう?」
 膝を抱え上げて両足を肩に乗せる。抱え込むように体を倒せば、奥の奥まで私を飲み込んでいく後孔がびくびく震えた。
「あぁぁ、ひっ、んぅ」
 ぴゅく、と音を立てて静液が腹の上に落ちる。断続的にぴゅく、ぴゅくと出る様は彼が達した証左になる。
「悦いときは悦いと言え」
「っは、あぁ、…っいい…いいっ!」
「あぁ、いい子だ」
 褒美のようにぐりぐりと奥を抉れば、とろりと歪んだ瞳が私を見た。
「エメ、エメト、セルク、いい、いいっ、から」
「から?」
 自身を刺激し続けるその手は止まらない。
 聞き返した私に夢見心地な柔らかな表情で英雄は告げた。
「っオレで、よく、なって」
 ぷちりと、私の中の抑えていた獣の鎖が切れる音がした。
 その腰を強く掴んで、深い抽送を与える。甘い小波のような抽送が、急に獣じみた事に英雄は喉を反らす。
「っあ、あぁっ、エメ、やっ、ひぁぁっ!!」
「いまのはっ、お前が、悪いっ!」
 荒い息を隠すことはもうやめた。その最奥に叩きつけるように何度も腰を入れ込む。
 何度もぬぽぬぽと奥を穿てば、英雄の雄はそれに応えるようにリズムに合わせて静液を吐き出す。
 ただ互いに快楽だけを貪る動きは、言葉を失っていく。ぐるぐると獣のように喉を鳴らして快楽を共有する。
 その喉に噛みつけば嬌声が強くなる。断続的に震える喉の振動すら快楽に変換していく。
「ひっ、あっ、あぁ、あぁぁ、いっ」
 衣擦れと、水音と、荒い呼吸。震えるような嬌声と肉と肉の打ち合う音が響く。
「あっ、あっ、エメ、やっ、やぁっ」
 首を左右に振って何かに耐えるように唇を噛み締める様を眺める。
「どうした」
 噛むな、と体を折り畳んで唇を重ねれば、奥まで入り込んだ衝撃でびくびくと震える。
「ふっ、あっ、出ちゃ、出ちゃうっ、止まって、あぁっ」
 英雄の手が押さえるように自身の雄を掴んでいる。そのくせ快感だけは得ようと先端を弄り続けているのだから、貪欲だ。
「出してしまえ」
 何度も何度も、最奥に届くように腰を穿つ。すっかり解れた後孔は私の雄をいっぱいに受け入れて形を覚えていく。
「や、やらっ、あっ、あぁっ、ひっ」
「出すぞ」
 抽送を早めてスパートをかければ、震える体が跳ねて反る。押さえる片手を前後に揺すってやれば、そのまま掻き始める。
「やぁぁ、あぁっ、ひっ、エメっ、出ちゃ、あぁぁ」
「…っ飲み、込め!」
 とどめとばかりに最奥を穿ってその奥の奥に欲望をぶちまける。ぎゅうと一度強く締まった圧がゆるりと抜ける。
「ひっ、あああぁぁぁっ!!!!」
 透明な液体が英雄の雄から解き放たれて彼の全身を濡らしていく。
 糸が切れたようにずるりとその雄から手が離れてシーツの上に落ちた。
 とぷとぷと奥の奥に入れ込んだまま精液を全て吐き出して、塗り込むように腰を揺らめかせながら後孔から抜き去る。
 ぽかりと私の形に開いたままのそこからとろりと入りきらなかった精が溢れる。
 衝撃からぼんやりとこちらを見るだけだった顔に口付けを落として、抱えたままの膝を横へ倒し英雄の体を反転させる。
 うつ伏せにぺたりと寝たその双丘にまだ固さを保つ自身を擦り付ける。
「っあ、んぅ、エメト、セルク…?」
 ゆるく首を横に振る様は誘っているかのようで。
 行為の間に解けた髪の間に指を入れ込んで梳いてやる。
「終わりではないぞ」
 抉るように押し付けた私の雄を抵抗なく後孔は飲み込んでいく。
「っは、あぁぁ…!」
 奥の奥まで全部入れ込んで、その身体の上に倒れ込んだ。
「っひぅ、う、あぁぁ」
 動かさずにその圧を楽しめば、痺れを切らした体は強請るように律動を始める。
「おうおう、そんなに欲しいか」
 私とお前の股の間でぺしぺしと尾が叩くように揺れる。何度も膨らんで薙いでを繰り返した尾がまた膨らむ。
「全部、くれてやる」
 奥で揺らめかせればその体が歓喜に震える。
「私を覚えていけ」
 耳元で囁いたその声に、震える体が小さく頷いた。

+++

 小さく丸くなって眠るその姿を見下ろす。
 どちらの体も汗と体液といろんなものでベタベタになっている。すえた雄の匂いだけが部屋に広がる。
 寝顔は、幼い。
 抜け駆けする形にはなったが、元より譲る気もなかったので問題はない。これはどこまで行っても私のものだ。
 境界は崩した。〝光の加護〟さえ抗えれば、お前は〝英雄〟のまま戦える。…それを本人が望むかはともかく。
(どうせ、この終わりもそちらとこちらの命の削り合いになる)
 どこまで行っても、互いに譲れないものがある。その一点において我々が交わることはない。
 その瞬間に、お前ではないものの命を削るだなんて、真っ平御免だ。生きるにせよ、死ぬにせよ、お前でなければならない。
 頬にかかる髪を掻き分けるように梳いて、その額に口付けを落とす。
 ここを出ればまたお前は〝英雄〟にならざるを得ない。どこまでもただ1人にすべてを背負わせようとするなりそこないどもに、吐き気を覚える。
 壁の一辺を睨んで指でなぞるように形を描いてから指を鳴らす。
 現れたドアが開いて水音が聞こえて来る。
 起こさぬように眠る体を抱き上げる。ぬくもりを欲しがって擦り寄り甘えるその様に苦笑する。

 いましばらくは夢の中に、いるがいい。

 一度その額に口付けてから、私は開いたドアの向こうへと足を進めた。

――――――――――
2019.12.01.初出

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